Pillow talk【R-15】
name change
「……明日本当に行っちゃうんですか?」
「ああ。任務だから仕方ない」
ここは忍術学園の空の自室。
一つの布団の上に、半助と空は生まれたままの姿で寝そべっている。
「任務なんか、無くなっちゃえば良いのに……」
哀しげな呟きが、シンとした夜の部屋に響いた。
下手をすれば、死と隣り合わせの忍びの仕事なんて極力してほしくない。
空はすがるように半助に抱きついた。
「寂しい?」
「……」
空は黙ったまま、半助の胸に顔を埋める。
その無言が、却って悲しみを際立たせていた。
柔らかい身体を通して、半助に温もりが伝わってくる。
こんなにも自分の身を案じ、一途に愛してくれる――
自分はなんて幸せ者なんだろう。
寂しがる空を前に、些か不謹慎だと思いながらも、半助はそう感じていた。
だが、半助には幸せ以上に葛藤もあった。
目の前の恋人と片時も離れたくない一方で、学園長から命じられた忍びの任務は全うしなければならない。
常にその二つの間で揺れ動くが、忍びとして生きる以上、仕方のないこと。
身体を預けてくる空を、半助は何も言わず、優しく抱きしめ返すのみ。
任務前日の夜、二人はいつもこうやって別れを惜しんでいた。
「せめて、半助さんの声が聞けたらいいのに……」
自分の呟きに、空はハッと何かを思い出した。
机の引き出しから自分のスマホを取り出し、電源を入れる。
「半助さんの声、スマホに録音したい!」
「は?」
「昨日、晴れてお日様出てたし……。机の上に置いてあるバッテリーで、スマホ充電しておいたんです」
「ああ、あれね。よく晴れた日に外でコソコソやってるもんな」
「留学のためにバッテリーを新調しておいて、ほんとラッキーでした……。太陽光で充電できるタイプだし。ああ、これを選んだ自分を褒めたい!ネットがないとはいえ、スマホがあるのとないのでは天と地の差……!」
「そんな大げさな……。でも向こうの世界は太陽の光さえも、動力にできるんだな。すごい技術だよ」
言い終えて、半助はちらりとスマホを見やる。
半助にとって、それはもう珍しいものではない。
そればかりか、空と過ごすうちに、自然とスマホの機能を知るようになる。
全部を把握していないが、写真や電卓など簡単な機能なら使いこなせる。
時々、一緒に居ては興味本位で弄っていた。
空は今、ボイスレコーダーのアプリを開いている。
隣にいる半助は布団の上で頬杖をついて、それを黙って眺めている。
「これをこうして……よし。半助さん、今なにか喋ってください!」
「えっ!?急に言われても」
ここで、空が録音の終了ボタンを押した。
その後すぐ、録音したデータを再生させる。
『えっ!?急に言われても』
スマホから今しがた発した自分の声がそっくりそのまま再現された。
この事実に、半助はただただ驚くばかりだ。
「うん、ちゃんと録音できてましたね」
「凄いな!新しく知るたびに驚かされるけど……一体どういうカラクリでこんなものが作れるんだ?」
「カラクリですか……これには色んな技術が集約されてますから、説明はものすごく難しいです。まぁそれはさておき。とにかく、これに半助さんの声を録音したいんです!」
半助はジト目で、息巻く空を見つめている。
「……何で?」
「だって、これがあれば、いつでも半助さんの声が聞けるから、離れてても寂しくないし!」
空がルンルンと弾ける笑顔で言うのに対し、半助は急にムスッと不機嫌になった。
「ダメだ」
「え~!どうして?」
「スマホがあると……そっちばかりに頼って、離れている私を想ってくれなくなるだろう」
「……」
「だったら、そんなもの、ない方が良い」
きっぱりと断言する半助を見て、一瞬キョトンとなる空だが、やがてクスリと笑みを漏らして言った。
「私がスマホの声ばっかり聞いて安心しちゃうのが、寂しいんですね?」
「……」
半助は軽く睨んで、プイっと顔を横に向ける。
だけど、その頬は赤い。
空の言ったことは図星だったようで、いじけているのは明らかだった。
「半助さん、可愛い」
「可愛いって……あのなぁ!」
「だって、そんな拗ねたところ、は組のよい子たちの前では絶対見せてくれないもん!」
「当たり前だ。全く」
人の気も知らないで、と半助は呆れて溜息をついた。
「じゃあ、半助さんの声を録音するのはなしですね……代わりに半助さんがこれ、持っていきますか?」
空は考えを切り替えて、再びスマホを弄りだす。
今度は自分の声を残すために、録音開始のボタンを押した。
「半助さん、お仕事頑張ってください」
言い終わった後、終了ボタンを押すと、立て続けに再生ボタンを押した。
『半助さん、お仕事頑張ってください』
無事声が録音できていたのを確認できた空は、得意気に半助の顔を覗き込んだ。
「どうでしょう?」
「うーん……でもなぁ。何だか味気ない気がして。それに、わかっているとは思うが、任務には持っていけないよ。そんなもの」
そう言って、半助は再び空の申し出を断った。
スマホという道具が便利なことくらい、半助にもわかっている。
だが、半助にはスマホを通じて声を聴くことが、非常に無機質なものに思えた。
「そっかぁ、まぁ別に強制するわけではないので……いい考えだと思ったんだけど」
乗り気でない半助の態度に少しがっかりするが、それは予想できたこと。
空は口を尖らせた後、小さい溜息をついた。
「……」
半助は空をじっと見つめているうちに、ひとつの考えが頭の中に浮かんでくる。
その考えとは空をあっと言わせるもの。
さっき拗ねたことを揶揄された半助はその仕返しをしたかった。
実行に移したら、どんな顔で驚くだろうか。
想像して表情が崩れそうになるも、咳払いをして慌てて取り繕った。
「そんなに使ってほしい?それなら、貸して」
「え?あ、はい……?」
反応が今一つだったはずなのに、スマホを貸せと言った半助の真意が読めない。
空は少し怪訝そうな顔をして、半助にスマホを渡した。
「ああ。任務だから仕方ない」
ここは忍術学園の空の自室。
一つの布団の上に、半助と空は生まれたままの姿で寝そべっている。
「任務なんか、無くなっちゃえば良いのに……」
哀しげな呟きが、シンとした夜の部屋に響いた。
下手をすれば、死と隣り合わせの忍びの仕事なんて極力してほしくない。
空はすがるように半助に抱きついた。
「寂しい?」
「……」
空は黙ったまま、半助の胸に顔を埋める。
その無言が、却って悲しみを際立たせていた。
柔らかい身体を通して、半助に温もりが伝わってくる。
こんなにも自分の身を案じ、一途に愛してくれる――
自分はなんて幸せ者なんだろう。
寂しがる空を前に、些か不謹慎だと思いながらも、半助はそう感じていた。
だが、半助には幸せ以上に葛藤もあった。
目の前の恋人と片時も離れたくない一方で、学園長から命じられた忍びの任務は全うしなければならない。
常にその二つの間で揺れ動くが、忍びとして生きる以上、仕方のないこと。
身体を預けてくる空を、半助は何も言わず、優しく抱きしめ返すのみ。
任務前日の夜、二人はいつもこうやって別れを惜しんでいた。
「せめて、半助さんの声が聞けたらいいのに……」
自分の呟きに、空はハッと何かを思い出した。
机の引き出しから自分のスマホを取り出し、電源を入れる。
「半助さんの声、スマホに録音したい!」
「は?」
「昨日、晴れてお日様出てたし……。机の上に置いてあるバッテリーで、スマホ充電しておいたんです」
「ああ、あれね。よく晴れた日に外でコソコソやってるもんな」
「留学のためにバッテリーを新調しておいて、ほんとラッキーでした……。太陽光で充電できるタイプだし。ああ、これを選んだ自分を褒めたい!ネットがないとはいえ、スマホがあるのとないのでは天と地の差……!」
「そんな大げさな……。でも向こうの世界は太陽の光さえも、動力にできるんだな。すごい技術だよ」
言い終えて、半助はちらりとスマホを見やる。
半助にとって、それはもう珍しいものではない。
そればかりか、空と過ごすうちに、自然とスマホの機能を知るようになる。
全部を把握していないが、写真や電卓など簡単な機能なら使いこなせる。
時々、一緒に居ては興味本位で弄っていた。
空は今、ボイスレコーダーのアプリを開いている。
隣にいる半助は布団の上で頬杖をついて、それを黙って眺めている。
「これをこうして……よし。半助さん、今なにか喋ってください!」
「えっ!?急に言われても」
ここで、空が録音の終了ボタンを押した。
その後すぐ、録音したデータを再生させる。
『えっ!?急に言われても』
スマホから今しがた発した自分の声がそっくりそのまま再現された。
この事実に、半助はただただ驚くばかりだ。
「うん、ちゃんと録音できてましたね」
「凄いな!新しく知るたびに驚かされるけど……一体どういうカラクリでこんなものが作れるんだ?」
「カラクリですか……これには色んな技術が集約されてますから、説明はものすごく難しいです。まぁそれはさておき。とにかく、これに半助さんの声を録音したいんです!」
半助はジト目で、息巻く空を見つめている。
「……何で?」
「だって、これがあれば、いつでも半助さんの声が聞けるから、離れてても寂しくないし!」
空がルンルンと弾ける笑顔で言うのに対し、半助は急にムスッと不機嫌になった。
「ダメだ」
「え~!どうして?」
「スマホがあると……そっちばかりに頼って、離れている私を想ってくれなくなるだろう」
「……」
「だったら、そんなもの、ない方が良い」
きっぱりと断言する半助を見て、一瞬キョトンとなる空だが、やがてクスリと笑みを漏らして言った。
「私がスマホの声ばっかり聞いて安心しちゃうのが、寂しいんですね?」
「……」
半助は軽く睨んで、プイっと顔を横に向ける。
だけど、その頬は赤い。
空の言ったことは図星だったようで、いじけているのは明らかだった。
「半助さん、可愛い」
「可愛いって……あのなぁ!」
「だって、そんな拗ねたところ、は組のよい子たちの前では絶対見せてくれないもん!」
「当たり前だ。全く」
人の気も知らないで、と半助は呆れて溜息をついた。
「じゃあ、半助さんの声を録音するのはなしですね……代わりに半助さんがこれ、持っていきますか?」
空は考えを切り替えて、再びスマホを弄りだす。
今度は自分の声を残すために、録音開始のボタンを押した。
「半助さん、お仕事頑張ってください」
言い終わった後、終了ボタンを押すと、立て続けに再生ボタンを押した。
『半助さん、お仕事頑張ってください』
無事声が録音できていたのを確認できた空は、得意気に半助の顔を覗き込んだ。
「どうでしょう?」
「うーん……でもなぁ。何だか味気ない気がして。それに、わかっているとは思うが、任務には持っていけないよ。そんなもの」
そう言って、半助は再び空の申し出を断った。
スマホという道具が便利なことくらい、半助にもわかっている。
だが、半助にはスマホを通じて声を聴くことが、非常に無機質なものに思えた。
「そっかぁ、まぁ別に強制するわけではないので……いい考えだと思ったんだけど」
乗り気でない半助の態度に少しがっかりするが、それは予想できたこと。
空は口を尖らせた後、小さい溜息をついた。
「……」
半助は空をじっと見つめているうちに、ひとつの考えが頭の中に浮かんでくる。
その考えとは空をあっと言わせるもの。
さっき拗ねたことを揶揄された半助はその仕返しをしたかった。
実行に移したら、どんな顔で驚くだろうか。
想像して表情が崩れそうになるも、咳払いをして慌てて取り繕った。
「そんなに使ってほしい?それなら、貸して」
「え?あ、はい……?」
反応が今一つだったはずなのに、スマホを貸せと言った半助の真意が読めない。
空は少し怪訝そうな顔をして、半助にスマホを渡した。