比翼の鳥
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「わぁ…!」
感嘆の声を漏らすのは五才くらいの男の子。
見たことない青い海原が目の前に飛び込んできて、少年は大きく感銘を受ける。
壮観な景色に大はしゃぎし、その少年が白い砂浜の上を駆け出した。
「半助、あまり遠くに行ってはいけませんよ!」
「大丈夫です、母上!あっ!」
よそ見をして走っていた少年、半助は砂浜の上に転んでしまう。
「全く、半助のやんちゃにも困ったものだな」
苦笑した半助の父が駆け寄る。
「怪我はないか?」
半助はコクリと頷き、服に付いた砂を払い、父の差し伸べた手を取った。
「もう、言ったそばから…初めての海で、はしゃぎすぎたのかしらね…」
二人に追いついた母は半助に優しく声をかけた。
優雅で美しく、慈愛の微笑みをたたえた母。
凛々しく、優しく、いつも家族を支えてくれる父。
幸せを絵に描いたような、とある家族の一場面。
三人を祝福するかのように、青い水面は硝子の破片のようにキラキラと輝いていた。
***
「……さま……天鬼さま!」
自分を呼ぶ声に、天鬼はハッと意識を取り戻す。
「大丈夫ですか?水軍の戦法についての話の途中で、急に何もしゃべらなくなって……ぼーっとされて……」
(水軍……、だからか……)
どうしてあんな昔の夢を見てしまったのか。
合点した天鬼は冷静に返事を返していく。
「大丈夫だ、問題ない」
「でも、何だか顔色が優れないような……。今日はもう無理をしない方が!」
いつになくきつい口調で空が心配する。
しかし、天鬼は本当に体調に問題は無いのだ。
「……」
天鬼は空の過剰なまでの心配に少しうんざりするも、自分の身を案じてくれるその気持ちを無下にする訳にもいかない。
この場を丸く収める方法を取ることにした。
「そこまで言うなら膝を貸せ。少し休む」
「え?」
天鬼は了承の返事を待たずに、空の膝に頭を乗せた。
(天鬼さま……)
突然の膝枕に空は頬を赤らめる。
でも、天鬼のどこか感傷的な様子に、恥じらう気持ちはすぐに消え失せた。
空は天鬼の髪をそっと撫でる。
「温かいな……」
天鬼がポツリと呟く。
空はただ優しく見つめるのみ。
その姿に、天鬼は母の面影を見た気がした。
「何でもない。少しの時間、思い出していた。遠い昔のことを……」
「……」
「父上と母上、とても仲睦まじい夫婦だった。理想的な……」
天鬼の目は今を見ていない。
視線の先にあるのは……過去。
三人で過ごしたあの日々は、半助にとって間違いなく至高の時間。
それはまた、半助の半身でもある天鬼も同様だった。
(父上と母上、思えばいつも二人は肩を寄せ、助け合いながら生きていた……)
(私も、あの二人のように生きていけるだろうか。この女と……)
しばらくの間、天鬼は虚空を見つめる。
過去の想いに浸るうちに、記憶の中のあることを思い出していた。
やがて、天鬼がゆっくりと上体を起こした。
「まだ休まれた方が!」
「心配ない」
さっきよりも力強い天鬼の声が響く。
空はひとまず安心し、それ以上追求することを控えた。
今、空の前には起き上がった天鬼の横顔がある。
ドキッ……
何度も見ているはずなのに、真剣な表情の天鬼はそれだけで空の心を熱くした。
「空、比翼の鳥を知っているか?」
「比翼の鳥……?」
「唐(中国)の伝説上の鳥で、雌雄それぞれが目と翼を一つずつもち、二羽が常に一体となって飛ぶ。協力して羽を動かさないと、空を飛べずに落ちてしまう。我が国の書物でも男女の仲が深いとき、よくたとえとして使われる」
「……」
「私はお前とそうなりたい。身体も心もひとつになって……ずっと同じ景色を共に見ていたい」
「!」
「そのくらい、お前のことが好きだ」
(天鬼さま……!)
空は興奮のあまり、何が何だかわからなくなっている。
愛の告白に、感動で心が火照る。
天にも昇る気持ち、そう感じていた。
「天鬼さまっ!」
自分の胸に飛び込んでくる空を、天鬼は驚愕の表情で受け止めた。
空が自分から抱きつくのは珍しい。
この反応でどれだけ彼女が喜んでいるか、ある程度知れた。
「私……すごく嬉しいっ!」
歓喜に満ちた表情で、空は甘えるように天鬼の唇に吸いついていく。
はにかみがちな彼女が小さな唇で懸命に唇を求める。
天鬼からすれば、それがひどく新鮮だった。
甘やかな口付けを終え互いの唇が離れると、静かに見据える天鬼が意地悪く言った。
「いつもこれくらい積極的でも構わないが」
「えっと……あの、これは!」
天鬼の言う通り、たった今自分が取った行動が空には信じられなかった。
思い返して、顔がみるみる赤くなる。
その表情と仕草を愛おしく思った天鬼は満足そうに微笑む。
天鬼は空をそっと抱いて言った。
「空……ずっと傍にいてほしい」
「はい……」
二人は熱い抱擁を交わす。
天鬼の腕の中で、空は涙を滲ませていた。
感嘆の声を漏らすのは五才くらいの男の子。
見たことない青い海原が目の前に飛び込んできて、少年は大きく感銘を受ける。
壮観な景色に大はしゃぎし、その少年が白い砂浜の上を駆け出した。
「半助、あまり遠くに行ってはいけませんよ!」
「大丈夫です、母上!あっ!」
よそ見をして走っていた少年、半助は砂浜の上に転んでしまう。
「全く、半助のやんちゃにも困ったものだな」
苦笑した半助の父が駆け寄る。
「怪我はないか?」
半助はコクリと頷き、服に付いた砂を払い、父の差し伸べた手を取った。
「もう、言ったそばから…初めての海で、はしゃぎすぎたのかしらね…」
二人に追いついた母は半助に優しく声をかけた。
優雅で美しく、慈愛の微笑みをたたえた母。
凛々しく、優しく、いつも家族を支えてくれる父。
幸せを絵に描いたような、とある家族の一場面。
三人を祝福するかのように、青い水面は硝子の破片のようにキラキラと輝いていた。
***
「……さま……天鬼さま!」
自分を呼ぶ声に、天鬼はハッと意識を取り戻す。
「大丈夫ですか?水軍の戦法についての話の途中で、急に何もしゃべらなくなって……ぼーっとされて……」
(水軍……、だからか……)
どうしてあんな昔の夢を見てしまったのか。
合点した天鬼は冷静に返事を返していく。
「大丈夫だ、問題ない」
「でも、何だか顔色が優れないような……。今日はもう無理をしない方が!」
いつになくきつい口調で空が心配する。
しかし、天鬼は本当に体調に問題は無いのだ。
「……」
天鬼は空の過剰なまでの心配に少しうんざりするも、自分の身を案じてくれるその気持ちを無下にする訳にもいかない。
この場を丸く収める方法を取ることにした。
「そこまで言うなら膝を貸せ。少し休む」
「え?」
天鬼は了承の返事を待たずに、空の膝に頭を乗せた。
(天鬼さま……)
突然の膝枕に空は頬を赤らめる。
でも、天鬼のどこか感傷的な様子に、恥じらう気持ちはすぐに消え失せた。
空は天鬼の髪をそっと撫でる。
「温かいな……」
天鬼がポツリと呟く。
空はただ優しく見つめるのみ。
その姿に、天鬼は母の面影を見た気がした。
「何でもない。少しの時間、思い出していた。遠い昔のことを……」
「……」
「父上と母上、とても仲睦まじい夫婦だった。理想的な……」
天鬼の目は今を見ていない。
視線の先にあるのは……過去。
三人で過ごしたあの日々は、半助にとって間違いなく至高の時間。
それはまた、半助の半身でもある天鬼も同様だった。
(父上と母上、思えばいつも二人は肩を寄せ、助け合いながら生きていた……)
(私も、あの二人のように生きていけるだろうか。この女と……)
しばらくの間、天鬼は虚空を見つめる。
過去の想いに浸るうちに、記憶の中のあることを思い出していた。
やがて、天鬼がゆっくりと上体を起こした。
「まだ休まれた方が!」
「心配ない」
さっきよりも力強い天鬼の声が響く。
空はひとまず安心し、それ以上追求することを控えた。
今、空の前には起き上がった天鬼の横顔がある。
ドキッ……
何度も見ているはずなのに、真剣な表情の天鬼はそれだけで空の心を熱くした。
「空、比翼の鳥を知っているか?」
「比翼の鳥……?」
「唐(中国)の伝説上の鳥で、雌雄それぞれが目と翼を一つずつもち、二羽が常に一体となって飛ぶ。協力して羽を動かさないと、空を飛べずに落ちてしまう。我が国の書物でも男女の仲が深いとき、よくたとえとして使われる」
「……」
「私はお前とそうなりたい。身体も心もひとつになって……ずっと同じ景色を共に見ていたい」
「!」
「そのくらい、お前のことが好きだ」
(天鬼さま……!)
空は興奮のあまり、何が何だかわからなくなっている。
愛の告白に、感動で心が火照る。
天にも昇る気持ち、そう感じていた。
「天鬼さまっ!」
自分の胸に飛び込んでくる空を、天鬼は驚愕の表情で受け止めた。
空が自分から抱きつくのは珍しい。
この反応でどれだけ彼女が喜んでいるか、ある程度知れた。
「私……すごく嬉しいっ!」
歓喜に満ちた表情で、空は甘えるように天鬼の唇に吸いついていく。
はにかみがちな彼女が小さな唇で懸命に唇を求める。
天鬼からすれば、それがひどく新鮮だった。
甘やかな口付けを終え互いの唇が離れると、静かに見据える天鬼が意地悪く言った。
「いつもこれくらい積極的でも構わないが」
「えっと……あの、これは!」
天鬼の言う通り、たった今自分が取った行動が空には信じられなかった。
思い返して、顔がみるみる赤くなる。
その表情と仕草を愛おしく思った天鬼は満足そうに微笑む。
天鬼は空をそっと抱いて言った。
「空……ずっと傍にいてほしい」
「はい……」
二人は熱い抱擁を交わす。
天鬼の腕の中で、空は涙を滲ませていた。