5.知らない世界で知る労働
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忍術学園の新学期初日。
見事なまでの快晴であった。
生徒たちが登園し始め、静まり返っていた校舎は喧騒を取り戻していく――
さて、ここは空の部屋。
既に制服に着替えている。
緊張した面持ちで、手持ちの鏡に映る自分の顔をじっと見つめていた。
(みんなの前に立って、自己紹介。いやだなぁ……)
今日朝一番で全校集会が開かれる。
人前に立つのが得意でない空は憂鬱そうに手鏡を置いた。
先生たちからは自分が怪しい人間ではないとお墨付きをもらったが、忍たまたちにも同じように受け入れてもらえるだろうか――
知らない世界で新しい生活が始まる。
空の心を不安が埋め尽くす。
と、ここで部屋の前に人影が現われる。
「空君、準備できてるかい?」
半助だった。
空を迎えに来たのだ。
「はい、今行きます」
やっていくしかない。
元の世界へ帰る方法なんてわからない自分は、ここで生きていくしかないのだから。
空はスッと立ち上がり、部屋を後にした。
***
忍術学園にある校庭。
そこに続々と生徒が集まってくる。
新学期すぐの全校集会は恒例行事だ。
その全校集会の内容は大体決まっている。
学園長によるありがたいお話、たったこれだけである。
が、これが生徒たちに不評であった。
あるときは突然の思い付きで全生徒巻き込む実習へと突入したり、またあるときは彼の若い頃の大忍者としての活躍話を延々と聞かされる。
正直、早く終わってほしい。
全員がそう思っていた。
そんな中、突然あたり一帯が煙に包まれる。
煙幕が徐々に晴れてくると、むせかえりながら学園長が壇上にその姿を現した。
ま~た、始まった…、と全忍たまたちがゲンナリとする。
これもまたお約束のひとつであり、いかにかっこよく登場するかという学園長のこだわりなのだ。
学園長はシラケた空気なんてその、自信満々でポーズを決め、こう言った。
「おはよう、諸君!夏休みはどうじゃったかな?今日からまた心機一転、忍者の修行に励むように。それから……」
勿体つけるように学園長が間を置く。
普段と違う雰囲気に、生徒たちは面食らっていた。
全員が固唾を飲んで次の言葉を待っている。
学園長はその反応に手ごたえを感じ、さらに声を張り上げた。
「今日から学園で働く新しい仲間を紹介する!」
「!」
「さ、空ちゃん、こっちじゃ!」
学園長が少し離れた位置にいた空を手招きし、壇上へと誘導した。
トボトボと申し訳なさそうに空が学園長の隣に立つ。
(ひぇぇぇぇ……!)
皆の痛いほどの視線を浴びる中、空は覚悟を決めて言った。
「初めまして。舞野空と申します。突然ですが、本日から食堂でおばちゃんの補佐を務めることになりました。分からないことばかりでご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」
目立った自己主張をせず、無難に自己紹介を済ませる。
周りは「食堂のお手伝いさんか……」と納得したような表情を見せている。
空は安堵していたが、学園長も同じかと言えばそうではない。
この反応に大いに不満を持っていた。
(ああ、つまらん、つまらん!何て手ぬるい自己紹介なんじゃ!)
空がそのまま立ち去ろうとする。
が、学園長は空の首根っこを掴んで一歩も動けなくなってしまった。
「ちょ、ちょっと……学園長!?」
空に構わず、学園長は言葉を繋げた。
「実は……この空ちゃんは、何百年後の未来から来たんじゃ!」
「!?」
その衝撃発言を聞いて、全校生徒はハッと学園長を見る。
驚愕、好奇、怪訝……と複雑な感情が織り交ざった視線が一斉に集中する。
(これじゃ!ワシはこの刺激的な反応を待っておったんじゃ!)
望んでいた結果が手に入った学園長は、気分は上々、さらに興奮は最高潮。
バッと拳を振りかざし、話を続けた。
「空ちゃんは、この世界にない不思議なものを沢山持ってるし、知識も豊富じゃ。未来の話は勉強になるから皆色々と空ちゃんに聞いて見ると良い。但し、学園外の者にはこのことは一切他言無用とする!」
「……」
忍たまたちも、重大な秘密を呆気なくバラされた空も絶句するしかなかった。
だが、次第に学園長の発言を受け入れると忍たまたちは「すげえ!」「まじかよ!」と目を輝かせている。
それは主に低学年の忍たまたちの間だけだったが。
反対に高学年の忍たまたちは冷ややかな反応を見せている。
が、こうなることは学園長にとってすべて織り込み済みだ。
余裕の笑みを浮かべつつ、その高学年の忍たまたちを牽制するように言った。
「言っておくが、空ちゃんが未来から来た、この件は先生方たちと調べ上げておる。つまり、空ちゃんを疑うことはワシらを疑うことに直結する。それを肝に銘じておくように」
それを聞いた一人の忍たまがフッと笑う。
切れ長の目。秀麗な顔立ちはクールな印象を漂わせている。
彼はこの学園の最高学年であることを示す忍び服を身に纏っていた。
六年生の立花仙蔵であった。
「成程。この私が直々に調べようと思ったが。それならば出る幕はないな」
彼の周りにいる六年生たちも頷く。
それほど、忍術学園の教職員に対する信頼は絶大なものであった。
また、
「ねぇねぇ、忍術学園に女性の職員さんって珍しくない!?しかも、結構カワユイじゃん!」
群青色の制服を着た忍たまの一人が空の登場に大興奮している。
彼は五年生の尾浜勘右衛門という。
毛先が丸い、唯一無二の髪型が特徴的であった。
「勘右衛門、お前な……」
浮かれている勘右衛門を囲む同級生の忍たまたちは、冷ややかな視線を送っている。
だが、そんな彼らも、
(年上かぁ……女性の……)
と空の登場にほんのり頬を赤らめていた。
こうして、先に教職員たちによって調べ尽くされていた空は特に忍たまたちから不満も出ることなく、新生活を開始できたのだった。
見事なまでの快晴であった。
生徒たちが登園し始め、静まり返っていた校舎は喧騒を取り戻していく――
さて、ここは空の部屋。
既に制服に着替えている。
緊張した面持ちで、手持ちの鏡に映る自分の顔をじっと見つめていた。
(みんなの前に立って、自己紹介。いやだなぁ……)
今日朝一番で全校集会が開かれる。
人前に立つのが得意でない空は憂鬱そうに手鏡を置いた。
先生たちからは自分が怪しい人間ではないとお墨付きをもらったが、忍たまたちにも同じように受け入れてもらえるだろうか――
知らない世界で新しい生活が始まる。
空の心を不安が埋め尽くす。
と、ここで部屋の前に人影が現われる。
「空君、準備できてるかい?」
半助だった。
空を迎えに来たのだ。
「はい、今行きます」
やっていくしかない。
元の世界へ帰る方法なんてわからない自分は、ここで生きていくしかないのだから。
空はスッと立ち上がり、部屋を後にした。
***
忍術学園にある校庭。
そこに続々と生徒が集まってくる。
新学期すぐの全校集会は恒例行事だ。
その全校集会の内容は大体決まっている。
学園長によるありがたいお話、たったこれだけである。
が、これが生徒たちに不評であった。
あるときは突然の思い付きで全生徒巻き込む実習へと突入したり、またあるときは彼の若い頃の大忍者としての活躍話を延々と聞かされる。
正直、早く終わってほしい。
全員がそう思っていた。
そんな中、突然あたり一帯が煙に包まれる。
煙幕が徐々に晴れてくると、むせかえりながら学園長が壇上にその姿を現した。
ま~た、始まった…、と全忍たまたちがゲンナリとする。
これもまたお約束のひとつであり、いかにかっこよく登場するかという学園長のこだわりなのだ。
学園長はシラケた空気なんてその、自信満々でポーズを決め、こう言った。
「おはよう、諸君!夏休みはどうじゃったかな?今日からまた心機一転、忍者の修行に励むように。それから……」
勿体つけるように学園長が間を置く。
普段と違う雰囲気に、生徒たちは面食らっていた。
全員が固唾を飲んで次の言葉を待っている。
学園長はその反応に手ごたえを感じ、さらに声を張り上げた。
「今日から学園で働く新しい仲間を紹介する!」
「!」
「さ、空ちゃん、こっちじゃ!」
学園長が少し離れた位置にいた空を手招きし、壇上へと誘導した。
トボトボと申し訳なさそうに空が学園長の隣に立つ。
(ひぇぇぇぇ……!)
皆の痛いほどの視線を浴びる中、空は覚悟を決めて言った。
「初めまして。舞野空と申します。突然ですが、本日から食堂でおばちゃんの補佐を務めることになりました。分からないことばかりでご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」
目立った自己主張をせず、無難に自己紹介を済ませる。
周りは「食堂のお手伝いさんか……」と納得したような表情を見せている。
空は安堵していたが、学園長も同じかと言えばそうではない。
この反応に大いに不満を持っていた。
(ああ、つまらん、つまらん!何て手ぬるい自己紹介なんじゃ!)
空がそのまま立ち去ろうとする。
が、学園長は空の首根っこを掴んで一歩も動けなくなってしまった。
「ちょ、ちょっと……学園長!?」
空に構わず、学園長は言葉を繋げた。
「実は……この空ちゃんは、何百年後の未来から来たんじゃ!」
「!?」
その衝撃発言を聞いて、全校生徒はハッと学園長を見る。
驚愕、好奇、怪訝……と複雑な感情が織り交ざった視線が一斉に集中する。
(これじゃ!ワシはこの刺激的な反応を待っておったんじゃ!)
望んでいた結果が手に入った学園長は、気分は上々、さらに興奮は最高潮。
バッと拳を振りかざし、話を続けた。
「空ちゃんは、この世界にない不思議なものを沢山持ってるし、知識も豊富じゃ。未来の話は勉強になるから皆色々と空ちゃんに聞いて見ると良い。但し、学園外の者にはこのことは一切他言無用とする!」
「……」
忍たまたちも、重大な秘密を呆気なくバラされた空も絶句するしかなかった。
だが、次第に学園長の発言を受け入れると忍たまたちは「すげえ!」「まじかよ!」と目を輝かせている。
それは主に低学年の忍たまたちの間だけだったが。
反対に高学年の忍たまたちは冷ややかな反応を見せている。
が、こうなることは学園長にとってすべて織り込み済みだ。
余裕の笑みを浮かべつつ、その高学年の忍たまたちを牽制するように言った。
「言っておくが、空ちゃんが未来から来た、この件は先生方たちと調べ上げておる。つまり、空ちゃんを疑うことはワシらを疑うことに直結する。それを肝に銘じておくように」
それを聞いた一人の忍たまがフッと笑う。
切れ長の目。秀麗な顔立ちはクールな印象を漂わせている。
彼はこの学園の最高学年であることを示す忍び服を身に纏っていた。
六年生の立花仙蔵であった。
「成程。この私が直々に調べようと思ったが。それならば出る幕はないな」
彼の周りにいる六年生たちも頷く。
それほど、忍術学園の教職員に対する信頼は絶大なものであった。
また、
「ねぇねぇ、忍術学園に女性の職員さんって珍しくない!?しかも、結構カワユイじゃん!」
群青色の制服を着た忍たまの一人が空の登場に大興奮している。
彼は五年生の尾浜勘右衛門という。
毛先が丸い、唯一無二の髪型が特徴的であった。
「勘右衛門、お前な……」
浮かれている勘右衛門を囲む同級生の忍たまたちは、冷ややかな視線を送っている。
だが、そんな彼らも、
(年上かぁ……女性の……)
と空の登場にほんのり頬を赤らめていた。
こうして、先に教職員たちによって調べ尽くされていた空は特に忍たまたちから不満も出ることなく、新生活を開始できたのだった。