34.5 小咄詰め合わせ

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忍術学園の屋外を群青色の忍装束を纏った少年たちがぞろぞろと歩いている。

「さぁて、次はろ組との合同実習かぁ」
「みんな、聞いた?今日の合同実習でヘマすると、木下先生に相当叱られるらしいよ」
「俺がするかよ、そんなヘマ」
「おほー。三郎、すごい自信!」
「ははは。三郎らしい」

そんなことを口々にしながら、五年生の尾浜勘右衛門、久々知兵助、鉢屋三郎、竹谷八左ヱ門、不破雷蔵の五人が指定された集合場所へと向かっていた。
今歩いている場所は井戸の近く。
と、ここで五人はある人物を見つける。
だ。
彼女は食堂の仕事の一環で井戸に水を汲みに来ていた。

「あ、さんだ」

三郎が何気なく言う。
雷蔵、八左ヱ門、そして兵助の三人はほんとだ……と今居る場所から見つめるのみだ。
対して、残りの一人である勘右衛門が満面の笑みでの元へと駆け出した。
その姿はご主人を見つけて、尻尾を振って喜ぶ犬のようだ。

さぁぁん!」
「ん?あれは……勘右衛門君!」

は井戸の奥底に落とした釣瓶を引き上げていた。

「こんにちは!水汲みやってるんですか?」
「うん、食堂まで運ばないといけないの。ここにある桶の分」

はそう言って、積み重ねられた桶を一瞥した。

「ええ!一人でこんなに運ぶんですか!?俺、手伝いますよ」
「そんな!いいよ、いいよ、大丈夫。いつもやっていることだし。往復すれば全部運べるから」

は遠慮する。
給料が発生している仕事に忍たまたちを手伝わせるのはどうにも気が引けるらしい。
だが、勘右衛門は引き下がらなかった。

「遠慮しないでください!この前足の怪我が治ったばかりじゃないですか!?みんなすっげー心配したんですよ!俺だって……!」

勘右衛門が大きな瞳をうるうるとさせてを見る。
その表情と口ぶりから、自分のことを本気で心配してくれているのだとは思いがけず感動してしまう。
ここは勘右衛門の思いを尊重することにした。

「じゃあ……お言葉に甘えようかな。でも、授業は大丈夫?」
「授業なんか、もう、全然、全然、ぜ~んぜん、何の問題もないです!なぁ、みんな?」

勘右衛門がそう言って、残された四人の方へと振り返る。

「……」

水を運ぶ先である食堂と実習の集合場所は反対方向だし、早く行かないと……と四人は思ったが、勘右衛門の熱気と二ヘラっと相好崩した態度になにも言えなくなってしまった。

何より、重労働でもある水汲みの仕事を目の前で女性がやっているのを見ると、手伝わずにはいられない。

結局、五年生全員は手に一つずつ水を満たした桶を持って食堂まで向かう羽目になった。
勘右衛門以外口を真一文字にした他の五年生に向かって、が申し訳なさそうに言った。

「ご、ごめんね……みんな。次の授業にちゃんと間に合うよね?」

が困ったような目を向けて、四人は即座に応えようとする。
が、勘右衛門が四人の前にしゃしゃりでてきて、彼らの代わりに返事を返してしまった。

「大丈夫ですよ!これ届けてから向かえば十分間に合うし。何てったって俺たち忍術学園の五年生ですから!な、みんな?」

そのまま勘右衛門はの隣を独占してしまう。
はマシンガンのように話しかける勘右衛門の相手をしなければいけず、もう他の四人を気にかけることができない。

「……」

勘右衛門から少し離れたところで、三郎以下四人は沈黙を保っている。
皆、その表情には少しばかり悔しさがあらわれている。
一番不機嫌そうにしている三郎が口を開いた。

「何だよ、勘右衛門のやつ……露骨すぎだろ。ったくよぉ」
さんに会えたのがよっぽど嬉しいんだろうね。部屋でもよくさんのこと話してるし」
「でも、さんと普段なかなか話せないよなぁ。俺なんてこの前生物委員会の仕事手伝ってもらったときが最後だよ」
「僕もそう。図書委員会の時が最後。食堂と事務員掛け持ちして、空いた時間も下級生の相手してるよね」

雷蔵の言葉で、三人も、そして言った雷蔵本人も少し寂しげな顔をつくった。



はくノ一でもない普通の女性である。
人当たりはよく、勤勉で、おまけに美貌にも恵まれている。
だからこそ、忍術学園での存在は目立ちに目立った。

本心では皆、もっと親しくなって年上のに甘えたかった。
が、雷蔵の言った通り、に空白の時間ができたところですぐ下級生たちに捕まってしまうのである。

特に、一年生――

あるときは、に褒めてもらおうと一年い組の忍たまたちが満点の答案を掲げての元まで駆けつけてくるし、またあるときは、お墓でかくれんぼをしようと一年ろ組の忍たまたちが強引にの手を取って連れ去ってしまう。
は組は……言わずもがな。

そういうシーンを日常的に目に入れては、自分たちも一年生に戻れたら…とついつい羨んでしまうのだ。

だから、勘右衛門のはしゃぎっぷりには、ある程度共感できていた。
表にこそ出さないが、三郎たちもに会えて胸が弾んでいたのである。
尤も、四人は照れが先行して黙っているが。

一体一で対話をするならともかく、異性であると話すにあたって級友たちの目がどうしても気になるのだ。
難しいお年頃であった。 

例外的に、勘右衛門だけはいけしゃあしゃあと話しかける。
羨ましいヤツ――
勘右衛門はその妬みの視線に全く気付くことはなかった。
四人の前を歩くが勘右衛門と話をしている。

「い組とろ組の子たちが一緒にいるってことは同じ授業なの?」
「そうなんです!次は合同実習なんです!おれ、絶っっっ対に一番の成績を収めてみせますから!」
「そっか、頑張ってね」

はそう言って、ガッツポーズをする勘右衛門にニコッと微笑んだ。

(カ、カ、カ、カワユイィィィ!)

からすれば何気ない行為でも、勘右衛門にとってはそれは何にも勝る値千金の笑顔だった。
今の勘右衛門は「もう死んでもいい!」と昇天しそうな勢いである。

「……」

そのやりとりを見ていた四人は眉をピクピク痙攣させている。
内心「次の合同実習で勘右衛門だけは絶っ対に潰す!!」と憎悪渦巻いていたという。

でも、やっぱり勘右衛門は周りの空気なんてなんのその。
普段と違い、首元までお洒落をしたを褒めちぎっていく。

「そういえば、さん。首にスカーフ巻いてるんですね。シナ先生とお揃いですか?とっても似合ってますよ!」
「えっ……?」
「赤の色もさんの白い肌に良く映えてます!」
「あ……これは……」

の顔がそのスカーフの色と同じように真っ赤に染まってしまう。

「ん?」

おかしいと思ったのは勘右衛門だけではない。
他の四人も不思議そうな顔でを見つめている。
全員の視線が集まり、それがますますを焦らせる。

(バ、バ、バ、バレてないよね……バレてないよね……?)

このスカーフの下には、半助と愛し合った証拠が残っている。
それを見透かされたような気がしたのだ。

だが、五年生たちは全然違うことを心配しはじめる。
五人の中で、一番生真面目な兵助がたまらず声をかけた。

さん、顔赤いですよ。もしかして熱出て来たんじゃ?」
「へっ!?」
「俺……心配です」

眉を八の字にする兵助と周りの五年生を見て、は安堵していた。

(よかった。バレてないみたい……。このまま逃げ切っちゃえ!)

「そ、そういえば熱っぽいような……。ここ最近疲れがたまってたから風邪引いちゃったのかも。というわけで、私医務室に行ってくる!」

は持っていた桶を勘右衛門に託すと、猛ダッシュで医務室へ目指した。

「……」

その姿に残された全員が絶句している。

「おい、熱っぽいと言いながら、すげえ速さで走ってるよな。もうあんな遠くにいるし」
「普通……熱ならあんなに走れないよね」
「明らかにさっきのさん、変だったよな」
「うん。何か動揺してる感じだった」

しかし、勘右衛門だけは違った。
のさっきの態度は勘右衛門の舞い上がりに拍車をかけてしまったのだ。

「ねぇねぇ、見た見た?さん顔を真っ赤だったよな。ちょっと褒めただけであんなに照れるなんて。もしかして、俺に気があるのかも!どうしよう……そのうち告白されたりして!ん~ん、年上の事務員さんとの恋かぁ……。いやぁ、モテる男はつらいなぁ!」
「……」

そんな勘右衛門に呆れている三郎が手を挙げながらボソッと言った。

「勘右衛門はああ言ってるけど、さんが勘右衛門なんて相手にしないと思う人……手、挙げて」
「……」

三郎の問いに、ジト目の兵助、雷蔵、八左ヱ門の三人は無言で挙手をした。
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