29.長い一日(中編)
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忍術学園の保健委員会の委員たちと薬草の取れる仙人山にいる空。
彼女はついに夢に出てくる不思議な女と会うことができた。
今、空と夢の女が向かい合って対峙している。
女の過去に触れた空は悲痛な表情をしていた。
女がゆっくりと語り出した。
〈あなたの見た通り。私は今から五百年以上も前に生きていた人間。ここから遥か彼方にある山間の小さい村、そこで私は静かに暮らしていた……〉
「……」
〈生まれながらに私は不思議な力を持っていた。説明のつかない力を……〉
それを証明するかのごとく、女は空が背負っている籠を手元に引き寄せた。
全く触れることなく。
空は自分の籠がふわふわと宙を移動する光景を呆然と見つめていた。
「すごい……」
〈これはほんの一部。私が最も得意としたのは予知の力。その力で一度村の危機を救ってから、私は村の人々から信奉を集めるようになった……〉
「……」
〈彼らの思いに応えるため、いつしか私は村の巫女として奉仕するようになった。命が尽きるまで彼らを守るのが私の使命。あの村で一生を終えることを覚悟していた。なのに……〉
「その力に目をつけられて、偉い人に連れ去られたのよね……」
空が言葉を続けると、女は静かに頷いた。
〈ある日、偶然朝廷の使いが村に立ち寄ったのが運の尽きだった。私の能力を知った途端、彼らは目の色を変えた。為政者たちへの最高の献上品だと……。私の予知の力を知った帝はたいそう喜んでいた……〉
「でも、あなたの能力に脅威を感じた。他の人の手にあなたが渡れば、自分の地位を剥奪される……」
〈そう。だから私は屋敷の奥……茂みに囲まれた小さい建物に幽閉された。そこで延々と命令をこなすしかなかった。断れば、村の人々たちは殺されてしまうから……〉
空の脳裏に、夢でも見た女の哀しげな顔が浮かぶ。
猛火の中、すべてをあきらめた視線を投げかけていた女の姿を。
「だから、あなたは死を選んだ……」
〈相手は時の朝廷の長。不思議な力を持ってるとはいえ、一人ではどうすることもできない。それに、村から離れた私は心も身体も衰弱しきってた。自由になるためにはもう、ああするしか……〉
「……」
空はやるせない気持ちに苛まれる。
女の一生が憐れでしょうがなかった。
女はすがるような目つきで空を見ている。
〈こんな私を憐れんでくれるのなら……あなたにお願いがあるの。幸せになれなかった、その未練を残して彷徨っているこの私の魂を鎮めてほしい……。それはあなたにしかできないし、そしてそれが、あなたがこの世界に呼ばれた理由……〉
これに、空は目がテンになった。
「へっ!?私が……?でも、どうして……?」
〈あなたは私の生まれ変わりだからよ、空〉
「えぇぇぇぇぇぇ!」
空は素っ頓狂な声を上げ、これ以上ないくらい驚いている。
突然そんなことを言われても、全く実感が湧かないのだ。
「で、でも、私あなたに全然似てないし……。前世の記憶とかそういうの全くないし、不思議な力だって持ってないし!申し訳ないくらい、普通の人間よ!」
〈生まれ変わりだからといって、容姿や自我、それに能力は前世の人間とは完全に別のものよ。記憶だってなくて当たり前……〉
茫然とする空に、あくまで女は生真面目に言う。
〈私の意識に触れることができたのは、生まれ変わりである何よりの証拠なの。今もこうやって、お互いの精神がつながった世界にいることも〉
「……!」
俄かには信じられない話だった。
しかし、この話を信じないとなれば、今この世界にいる理由。
それはどう説明がつく?
空はじっと女の目を見る。
とても嘘をついているとは思えない、真剣な目をしていた。
もう何度も夢で彼女を見て、自分と彼女の間に因縁めいたものを感じ取っている――
空は観念したかのように大きい溜息をついた。
彼女はついに夢に出てくる不思議な女と会うことができた。
今、空と夢の女が向かい合って対峙している。
女の過去に触れた空は悲痛な表情をしていた。
女がゆっくりと語り出した。
〈あなたの見た通り。私は今から五百年以上も前に生きていた人間。ここから遥か彼方にある山間の小さい村、そこで私は静かに暮らしていた……〉
「……」
〈生まれながらに私は不思議な力を持っていた。説明のつかない力を……〉
それを証明するかのごとく、女は空が背負っている籠を手元に引き寄せた。
全く触れることなく。
空は自分の籠がふわふわと宙を移動する光景を呆然と見つめていた。
「すごい……」
〈これはほんの一部。私が最も得意としたのは予知の力。その力で一度村の危機を救ってから、私は村の人々から信奉を集めるようになった……〉
「……」
〈彼らの思いに応えるため、いつしか私は村の巫女として奉仕するようになった。命が尽きるまで彼らを守るのが私の使命。あの村で一生を終えることを覚悟していた。なのに……〉
「その力に目をつけられて、偉い人に連れ去られたのよね……」
空が言葉を続けると、女は静かに頷いた。
〈ある日、偶然朝廷の使いが村に立ち寄ったのが運の尽きだった。私の能力を知った途端、彼らは目の色を変えた。為政者たちへの最高の献上品だと……。私の予知の力を知った帝はたいそう喜んでいた……〉
「でも、あなたの能力に脅威を感じた。他の人の手にあなたが渡れば、自分の地位を剥奪される……」
〈そう。だから私は屋敷の奥……茂みに囲まれた小さい建物に幽閉された。そこで延々と命令をこなすしかなかった。断れば、村の人々たちは殺されてしまうから……〉
空の脳裏に、夢でも見た女の哀しげな顔が浮かぶ。
猛火の中、すべてをあきらめた視線を投げかけていた女の姿を。
「だから、あなたは死を選んだ……」
〈相手は時の朝廷の長。不思議な力を持ってるとはいえ、一人ではどうすることもできない。それに、村から離れた私は心も身体も衰弱しきってた。自由になるためにはもう、ああするしか……〉
「……」
空はやるせない気持ちに苛まれる。
女の一生が憐れでしょうがなかった。
女はすがるような目つきで空を見ている。
〈こんな私を憐れんでくれるのなら……あなたにお願いがあるの。幸せになれなかった、その未練を残して彷徨っているこの私の魂を鎮めてほしい……。それはあなたにしかできないし、そしてそれが、あなたがこの世界に呼ばれた理由……〉
これに、空は目がテンになった。
「へっ!?私が……?でも、どうして……?」
〈あなたは私の生まれ変わりだからよ、空〉
「えぇぇぇぇぇぇ!」
空は素っ頓狂な声を上げ、これ以上ないくらい驚いている。
突然そんなことを言われても、全く実感が湧かないのだ。
「で、でも、私あなたに全然似てないし……。前世の記憶とかそういうの全くないし、不思議な力だって持ってないし!申し訳ないくらい、普通の人間よ!」
〈生まれ変わりだからといって、容姿や自我、それに能力は前世の人間とは完全に別のものよ。記憶だってなくて当たり前……〉
茫然とする空に、あくまで女は生真面目に言う。
〈私の意識に触れることができたのは、生まれ変わりである何よりの証拠なの。今もこうやって、お互いの精神がつながった世界にいることも〉
「……!」
俄かには信じられない話だった。
しかし、この話を信じないとなれば、今この世界にいる理由。
それはどう説明がつく?
空はじっと女の目を見る。
とても嘘をついているとは思えない、真剣な目をしていた。
もう何度も夢で彼女を見て、自分と彼女の間に因縁めいたものを感じ取っている――
空は観念したかのように大きい溜息をついた。