25.交錯する想い
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二月の半ば、厳寒の日々が続く忍術学園。
厨房にいる食堂のおばちゃんは怪訝な顔で空を見ていた。
(変ねえ……)
(風邪が治ったのはいいんだけど、少し様子がおかしいのよね……)
先日、体調を崩した空。
快復してからは、普段通り一生懸命仕事に従事している。
おばちゃんが感じた空の異変……それは仕事で何か目立ったミスがあるわけではない。
空からおばちゃんへ話しかけることが激減したのだ。
以前なら、は組の授業のことや忍たまたちとのこと、事務の仕事を始めてからは小松田とのてんてこ舞いの日々を勝手に話し出していた。
ささいな会話でも、今までずっと一人で食堂の仕事をしてきたおばちゃんにとって、それは嬉しいことだった。
おばちゃんから話しかけたら、空は普通に会話をする。
だが、その会話が終わると黙々と作業に戻ってしまう。
時折、ため息をついたり、ぶつぶつ独り言を言ったり。
(半助関係かしら……?)
半助への恋煩いで悩んでいるのかと推測した。
が、それもどうやら違う。
寧ろ、半助をそれとなく避けようとする態度が見て取れた。
(どうしても気になるのよねぇ……)
一度気になりだしたら、その興味が雪だるま式に膨れ上がるのがおばちゃんの性分らしい。
おばちゃんは何か考えがあるようで、つかつかと空のもとへと歩み寄った。
「空ちゃん、お茶淹れたから土井先生と山田先生のところへ運んでくれる?」
「え!?」
土井先生、と聞いた空は目をパチクリとさせる。
明らかに動揺していた。
「いつもやっていたでしょう。はい、これ。お願いね!」
「は、はい……」
半ば強引にお盆を手渡され、空はしょうがないと覚悟を決めた。
一方、こちらは食堂のテーブル側。
ランチを食べ終わった半助は、食堂の厨房を無意識に気にする。
(今日も奥にいるのか……)
わずかに半助が顔を曇らせる。
そんな半助を見て、伝蔵はまたか…とげんなりとした。
もう何日も同じことが続いているからだ。
伝蔵がそれとなく呟いた。
「最近、空君は忙しいみたいじゃな。いつもお茶を運んできてくれたのに……」
「えっ?」
「持ってくるのがおばちゃんに変わった途端、誰かさんは相当落胆しとるがのう?あぁ、目も当てられん!」
「や、山田先生!何を言ってるですか!?」
狼狽える半助に、伝蔵が冷ややかな目で続ける。
「土井先生……。ひょっとして、空君に何かしたんじゃないのか!?」
この質問に半助はドキリとした。
思い当たることが一つあるからだ。
それは、医務室の布団で寝ていた空に一方的に交わした口付け――
「何もしていませんよ!」
顔を真っ赤にし、ムキになって否定する半助に説得力はもちろん皆無。
伝蔵の疑念はますます深まるばかりだ。
「う~む、どうだか……?」
と、ここで問題の当事者が顔を出した。
「山田先生、土井先生……お茶をお持ちしました」
ぎこちない笑みを浮かべた空がやってきた。
伝蔵がニタニタ顔で半助を茶化す。
「なんだか久しぶりじゃな!空君がこっちに顔を出さんから、誰かさんはこの世の終わりのような顔をしとったよ」
「山田先生!余計な事を言わないでください!」
ふたりの掛け合いも、空の耳にはまるで届かない。
半助にいだくある後ろめたさから、空はひどく緊張していた。
(いつも通りにやれば大丈夫。いつも通りに……)
「土井先生、お茶をどうぞ」
「ああ…、ありがとう」
湯呑をつかんで半助のところへ置こうとしたとき、先日の利吉とのやり取りが頭によぎる。
『あなたの心に土井先生がいるのはわかっています……でも、時間をかけてでも、いつか私の方に振り向かせてみせます……』
『空さん、私はあなたが好きです』
(……!)
バシャ
空の手が震え、持っていた湯呑を落とす。
中身のお茶はすべて半助の服にかかってしまった。
「っっっつ!」
「土井先生!!ごめんなさい!私、私……!」
「だ、大丈夫だよ、これくらい……」
さらに悪いことに、気が動転した空は伝蔵のお茶が乗ったお盆ごとひっくり返してしまう。
バリィィィン!
湯呑が床に落ちて割れた。
騒々しい物音。
食堂に居合わせた人々の視線が空に集中する。
「すみません!お騒がせして……!」
半助に熱いお茶をぶちまけるわ、湯呑を割って周囲に迷惑かけるわ…そんなテンパる空に助け舟を出したのは、食堂のおばちゃんだった。
「空ちゃん、ここは私が片付けておくから。半助の服を洗ってあげなさい!」
「食堂のおばちゃん、大丈夫ですよ。これくらいすぐ乾くし……」
「何言ってんの半助、びしょ濡れじゃないの!夏ならともかく、こんな時期にその恰好でいたら風邪ひくわよ。ちゃんと着替えること!」
忍術学園最恐と言われるおばちゃんの指示に、逆らえる者は誰もいない。
半助は素直に従うことにした。
「わ、わかりました……。じゃあ、空くん部屋までついてきてくれる?着替えた後、この上着を渡したいから」
「は、はい……!」
空と半助は速やかに食堂から退席した。
「なんじゃあ、いったい……?」
この出来事に伝蔵は呆気にとられるばかり。
そのすぐそばで、食堂のおばちゃんは割れた湯呑の破片を一つ一つ拾い集めていく。
「やっぱり怪しい……」
そう呟いたおばちゃんは、ふぅっと大きい溜め息を漏らした。
厨房にいる食堂のおばちゃんは怪訝な顔で空を見ていた。
(変ねえ……)
(風邪が治ったのはいいんだけど、少し様子がおかしいのよね……)
先日、体調を崩した空。
快復してからは、普段通り一生懸命仕事に従事している。
おばちゃんが感じた空の異変……それは仕事で何か目立ったミスがあるわけではない。
空からおばちゃんへ話しかけることが激減したのだ。
以前なら、は組の授業のことや忍たまたちとのこと、事務の仕事を始めてからは小松田とのてんてこ舞いの日々を勝手に話し出していた。
ささいな会話でも、今までずっと一人で食堂の仕事をしてきたおばちゃんにとって、それは嬉しいことだった。
おばちゃんから話しかけたら、空は普通に会話をする。
だが、その会話が終わると黙々と作業に戻ってしまう。
時折、ため息をついたり、ぶつぶつ独り言を言ったり。
(半助関係かしら……?)
半助への恋煩いで悩んでいるのかと推測した。
が、それもどうやら違う。
寧ろ、半助をそれとなく避けようとする態度が見て取れた。
(どうしても気になるのよねぇ……)
一度気になりだしたら、その興味が雪だるま式に膨れ上がるのがおばちゃんの性分らしい。
おばちゃんは何か考えがあるようで、つかつかと空のもとへと歩み寄った。
「空ちゃん、お茶淹れたから土井先生と山田先生のところへ運んでくれる?」
「え!?」
土井先生、と聞いた空は目をパチクリとさせる。
明らかに動揺していた。
「いつもやっていたでしょう。はい、これ。お願いね!」
「は、はい……」
半ば強引にお盆を手渡され、空はしょうがないと覚悟を決めた。
一方、こちらは食堂のテーブル側。
ランチを食べ終わった半助は、食堂の厨房を無意識に気にする。
(今日も奥にいるのか……)
わずかに半助が顔を曇らせる。
そんな半助を見て、伝蔵はまたか…とげんなりとした。
もう何日も同じことが続いているからだ。
伝蔵がそれとなく呟いた。
「最近、空君は忙しいみたいじゃな。いつもお茶を運んできてくれたのに……」
「えっ?」
「持ってくるのがおばちゃんに変わった途端、誰かさんは相当落胆しとるがのう?あぁ、目も当てられん!」
「や、山田先生!何を言ってるですか!?」
狼狽える半助に、伝蔵が冷ややかな目で続ける。
「土井先生……。ひょっとして、空君に何かしたんじゃないのか!?」
この質問に半助はドキリとした。
思い当たることが一つあるからだ。
それは、医務室の布団で寝ていた空に一方的に交わした口付け――
「何もしていませんよ!」
顔を真っ赤にし、ムキになって否定する半助に説得力はもちろん皆無。
伝蔵の疑念はますます深まるばかりだ。
「う~む、どうだか……?」
と、ここで問題の当事者が顔を出した。
「山田先生、土井先生……お茶をお持ちしました」
ぎこちない笑みを浮かべた空がやってきた。
伝蔵がニタニタ顔で半助を茶化す。
「なんだか久しぶりじゃな!空君がこっちに顔を出さんから、誰かさんはこの世の終わりのような顔をしとったよ」
「山田先生!余計な事を言わないでください!」
ふたりの掛け合いも、空の耳にはまるで届かない。
半助にいだくある後ろめたさから、空はひどく緊張していた。
(いつも通りにやれば大丈夫。いつも通りに……)
「土井先生、お茶をどうぞ」
「ああ…、ありがとう」
湯呑をつかんで半助のところへ置こうとしたとき、先日の利吉とのやり取りが頭によぎる。
『あなたの心に土井先生がいるのはわかっています……でも、時間をかけてでも、いつか私の方に振り向かせてみせます……』
『空さん、私はあなたが好きです』
(……!)
バシャ
空の手が震え、持っていた湯呑を落とす。
中身のお茶はすべて半助の服にかかってしまった。
「っっっつ!」
「土井先生!!ごめんなさい!私、私……!」
「だ、大丈夫だよ、これくらい……」
さらに悪いことに、気が動転した空は伝蔵のお茶が乗ったお盆ごとひっくり返してしまう。
バリィィィン!
湯呑が床に落ちて割れた。
騒々しい物音。
食堂に居合わせた人々の視線が空に集中する。
「すみません!お騒がせして……!」
半助に熱いお茶をぶちまけるわ、湯呑を割って周囲に迷惑かけるわ…そんなテンパる空に助け舟を出したのは、食堂のおばちゃんだった。
「空ちゃん、ここは私が片付けておくから。半助の服を洗ってあげなさい!」
「食堂のおばちゃん、大丈夫ですよ。これくらいすぐ乾くし……」
「何言ってんの半助、びしょ濡れじゃないの!夏ならともかく、こんな時期にその恰好でいたら風邪ひくわよ。ちゃんと着替えること!」
忍術学園最恐と言われるおばちゃんの指示に、逆らえる者は誰もいない。
半助は素直に従うことにした。
「わ、わかりました……。じゃあ、空くん部屋までついてきてくれる?着替えた後、この上着を渡したいから」
「は、はい……!」
空と半助は速やかに食堂から退席した。
「なんじゃあ、いったい……?」
この出来事に伝蔵は呆気にとられるばかり。
そのすぐそばで、食堂のおばちゃんは割れた湯呑の破片を一つ一つ拾い集めていく。
「やっぱり怪しい……」
そう呟いたおばちゃんは、ふぅっと大きい溜め息を漏らした。