22.5 変わりゆく日々
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裏々山での騒動があって数日後のこと。
食堂の仕事を終わらせた空は忍術学園の庭にある一本の大木に寄りかかっていた。
何をするわけでなく、ぼーっと虚空を見つめている。
同じ庭で一年は組のみんなはサッカーをしている。
空の物寂しそうな様子が気になっていたきり丸は、コートから飛び出たボールを取りに行く途中、声をかけた。
「空さん、どうしたんですか?」
「ん、ちょっと、ね」
「……」
「向こうのこと、思い出してたの。友達のこととか、学校のこととか……」
(あ……!)
きり丸はすぐに気づいた。
空が自分の前で元居た世界への想いを語ったのは初めてだった。
きり丸はさらに空に近寄って、心配そうに顔を覗き込む。
「やっぱ、寂しいっすよね」
「うん……」
一人になった寂しさは人一倍わかる。
それは戦で家と家族を失っているきり丸だからこそだ。
空にしがみつきながら、きり丸は自分なりの励ましの言葉をかけていく。
「じゃあ、今すぐおれのバイト手伝ってください!そんな陰気臭い気分、すぐに吹き飛んじゃいますよ!ねっ!」
空はきり丸の気遣いが十分に分かった。
感傷に浸る暇を与えないほど、働いて体を動かして忘れさせる。
行動あるのみ、と。
きり丸の元気いっぱいな顔を見ているうちに、空は次第にそうした方が良いような気がしてきた。
「うん、そうだね。そうしようっかな!」
「そうこなくっちゃ!昨日、町に行って仕入れてきたチラシ入れのバイトがあるんです。じゃあ、早速部屋に……」
「おい!待てよ、きり丸っ!」
きり丸は自分を呼ぶ虎若の声にハッとして、慌てて後ろを振り向く。
サッカーの途中だったことをすっかり忘れていた。
「ボールがいつまでたっても戻ってこないと思ったら、何空さんに甘えてんだよ!」
「あ、甘えてるんじゃなくて……これは励ましてんの!」
怒りプンプンの虎若に指摘されて言い直すきり丸の頬は、少し赤みがかっている。
いつの間にか虎若の後ろには、は組のみんなが集まっていた。
「はにゃ!?空さん落ち込んでたの?だったら、僕が励ましてあげる!」
今度はきり丸を押し退けて喜三太が空に飛びついてくる。
こうなっ出しまっては最後。
我も我も、とは組のみんなの勢いが止まらない。
「ずるいぞ、喜三太!」
「僕も空さんを励ましたい!」
喜三太の後ろに続いて金吾、庄左エ門、伊助、虎若、団蔵…とすっかり列ができている。
は組のよいこたちの保育士と化している空にとっては、決まってある恒例行事のようなものだ。
「ははは……」
空としては、もう笑うしかなかった。
ジト目の兵太夫が親指を立てて、後ろに回れとしんべえに指示を飛ばす。
「しんべえは一番後ろな」
「えぇ!ねぇ、どうしていつもボクが一番最後なの!?」
心外だと騒ぐしんべえが列の最後尾である理由……それはしんべえ以外みんな知っている。
「しんべえ、胸に手を当てて考えてみてもわかんない?」
「うん」
「ありゃりゃ」
しんべえのすぐ前にいる乱太郎はそんなやりとりをして、ずっこけていた。
「はい、次は…三治郎君ね」
「は~い!」
保育士の仕事って大変だな……と思いながらも空は一人一人に応えていく。
十才とはいえ、親元を離れて生活をしているは組の面々はまだまだ甘えたい盛りなのだろう。
(おちおち感傷に浸っているヒマもないよね……)
そう思う空の顔は、どこか嬉しそうだった。
そうこうしているうちに、乱太郎を抱き締め終わった空は、ついにしんべえの順番を迎えてしまった。
この後何が起こるか容易に想像できた空の顔は引き攣っている。
何故か、思いとどまるような説得の言葉をしんべえにかけていく。
「しんべヱ君……私が抱きしめても、その……おシゲちゃんに怒られない?」
「おシゲちゃんは心がと~っても広いから、こんなことじゃ怒りませ~ん!」
自信満々に言いきるしんべえに、これ以上何を言っても無駄だと空は諦める。
溜息をつき、両手を広げてしんべえが来るのを待つ。
「わかりました……。はい、では、どうぞ」
「エッヘヘ」
しんべえが抱き着いた瞬間、空の服がしんべえの鼻の先に当たる。
ムズムズとした刺激に、鼻炎持ちのしんべえは大きなくしゃみをしてしまう。
「ふぇ、ふぇ、ふぇっくしょん!」
「……」
くしゃみによってしんべえの鼻の穴から尋常ではない量の鼻水が出る。
空は真正面からその鼻水を受けてしまった。
空の全身はもう、鼻水でべとべとになっている。
それを見て、は組の一同は空に憐みの視線を投げていた。
ご愁傷さまです、と――
「もう、冬場の洗濯ってほんとつらいんだからね!」
制服の裾をつかみながら、空が力いっぱいに叫ぶ。
は組といると、何かとオチが付いてしまう空だった。
食堂の仕事を終わらせた空は忍術学園の庭にある一本の大木に寄りかかっていた。
何をするわけでなく、ぼーっと虚空を見つめている。
同じ庭で一年は組のみんなはサッカーをしている。
空の物寂しそうな様子が気になっていたきり丸は、コートから飛び出たボールを取りに行く途中、声をかけた。
「空さん、どうしたんですか?」
「ん、ちょっと、ね」
「……」
「向こうのこと、思い出してたの。友達のこととか、学校のこととか……」
(あ……!)
きり丸はすぐに気づいた。
空が自分の前で元居た世界への想いを語ったのは初めてだった。
きり丸はさらに空に近寄って、心配そうに顔を覗き込む。
「やっぱ、寂しいっすよね」
「うん……」
一人になった寂しさは人一倍わかる。
それは戦で家と家族を失っているきり丸だからこそだ。
空にしがみつきながら、きり丸は自分なりの励ましの言葉をかけていく。
「じゃあ、今すぐおれのバイト手伝ってください!そんな陰気臭い気分、すぐに吹き飛んじゃいますよ!ねっ!」
空はきり丸の気遣いが十分に分かった。
感傷に浸る暇を与えないほど、働いて体を動かして忘れさせる。
行動あるのみ、と。
きり丸の元気いっぱいな顔を見ているうちに、空は次第にそうした方が良いような気がしてきた。
「うん、そうだね。そうしようっかな!」
「そうこなくっちゃ!昨日、町に行って仕入れてきたチラシ入れのバイトがあるんです。じゃあ、早速部屋に……」
「おい!待てよ、きり丸っ!」
きり丸は自分を呼ぶ虎若の声にハッとして、慌てて後ろを振り向く。
サッカーの途中だったことをすっかり忘れていた。
「ボールがいつまでたっても戻ってこないと思ったら、何空さんに甘えてんだよ!」
「あ、甘えてるんじゃなくて……これは励ましてんの!」
怒りプンプンの虎若に指摘されて言い直すきり丸の頬は、少し赤みがかっている。
いつの間にか虎若の後ろには、は組のみんなが集まっていた。
「はにゃ!?空さん落ち込んでたの?だったら、僕が励ましてあげる!」
今度はきり丸を押し退けて喜三太が空に飛びついてくる。
こうなっ出しまっては最後。
我も我も、とは組のみんなの勢いが止まらない。
「ずるいぞ、喜三太!」
「僕も空さんを励ましたい!」
喜三太の後ろに続いて金吾、庄左エ門、伊助、虎若、団蔵…とすっかり列ができている。
は組のよいこたちの保育士と化している空にとっては、決まってある恒例行事のようなものだ。
「ははは……」
空としては、もう笑うしかなかった。
ジト目の兵太夫が親指を立てて、後ろに回れとしんべえに指示を飛ばす。
「しんべえは一番後ろな」
「えぇ!ねぇ、どうしていつもボクが一番最後なの!?」
心外だと騒ぐしんべえが列の最後尾である理由……それはしんべえ以外みんな知っている。
「しんべえ、胸に手を当てて考えてみてもわかんない?」
「うん」
「ありゃりゃ」
しんべえのすぐ前にいる乱太郎はそんなやりとりをして、ずっこけていた。
「はい、次は…三治郎君ね」
「は~い!」
保育士の仕事って大変だな……と思いながらも空は一人一人に応えていく。
十才とはいえ、親元を離れて生活をしているは組の面々はまだまだ甘えたい盛りなのだろう。
(おちおち感傷に浸っているヒマもないよね……)
そう思う空の顔は、どこか嬉しそうだった。
そうこうしているうちに、乱太郎を抱き締め終わった空は、ついにしんべえの順番を迎えてしまった。
この後何が起こるか容易に想像できた空の顔は引き攣っている。
何故か、思いとどまるような説得の言葉をしんべえにかけていく。
「しんべヱ君……私が抱きしめても、その……おシゲちゃんに怒られない?」
「おシゲちゃんは心がと~っても広いから、こんなことじゃ怒りませ~ん!」
自信満々に言いきるしんべえに、これ以上何を言っても無駄だと空は諦める。
溜息をつき、両手を広げてしんべえが来るのを待つ。
「わかりました……。はい、では、どうぞ」
「エッヘヘ」
しんべえが抱き着いた瞬間、空の服がしんべえの鼻の先に当たる。
ムズムズとした刺激に、鼻炎持ちのしんべえは大きなくしゃみをしてしまう。
「ふぇ、ふぇ、ふぇっくしょん!」
「……」
くしゃみによってしんべえの鼻の穴から尋常ではない量の鼻水が出る。
空は真正面からその鼻水を受けてしまった。
空の全身はもう、鼻水でべとべとになっている。
それを見て、は組の一同は空に憐みの視線を投げていた。
ご愁傷さまです、と――
「もう、冬場の洗濯ってほんとつらいんだからね!」
制服の裾をつかみながら、空が力いっぱいに叫ぶ。
は組といると、何かとオチが付いてしまう空だった。