16.天井裏から来るアイツ
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(どうしよう……)
休み時間に突入した一年は組の教室にて、空は決断を迫られていた。
三日前から、乱太郎、きり丸、しんべえがある提案を猛プッシュで勧めてくるのだ。
ある提案――それは、今度の冬休みは忍術学園に残らずに、それぞれの家に一週間ずつ滞在してはどうかというものだった。
そして、その提案者たちは今、前のめり気味に空に話しかけていく。
「ねぇねぇ、空さん。ぜひ私の家に遊びに来てください。うちの父ちゃんと母ちゃん、とってもやさしいですよ!」
「ボクんちだって楽しいですよ。父もカメ子も喜びます。移動ならボクが牛車を出しますから。一人旅でも全然心配することないですよ」
「空さん、是非おれと一緒に年を越しましょう!」
「あはははは……」
三人の勢いに、空はタジタジだ。
だが、空からは今一ついい返事が返ってこない。
しばらく膠着状態に陥っていると、やがてきり丸の瞳からじわっと大粒の涙が滲みだした。
「おれ……この年末で稼がないと、もう忍術学園に居れないかもしれない」
「え!?それ、ほんと?」
「おれ一人の稼ぎじゃ授業料払えない……こんなとき、誰か手伝ってくれたら……」
そう言って、きり丸は瞼を伏せる。
よく見れば、今しがたのきり丸の涙は止まっているのだが、空は気づいていない。
逆に、きり丸の言動に迷いがなくなり、踏ん切りがついたようだ。
突き動かされたように叫んでいた。
「きり丸君、わかった。私、きり丸君のおうちに行く!それで、うんとバイト手伝うから!」
胸をポンと叩いた空が、きり丸に宣誓した。
「ホントですか!?」
「うん」
「ってことは、私たちの家にも遊びに来てくれるってことですよね?」
「うん」
「やったぁ!」
歓喜に沸く三人はそれとなく身を寄せ合い、ヒソヒソ声で言った。
「山田先生の助言通り、『哀車の術』大成功だね!」
「きり丸、名演技だったよ」
「へへっ。まぁな!」
してやったりの三人だったが、ふと空の様子がおかしいことに気づく。
さっきまでの決意を秘めた硬い表情は消え失せ、何やらもじもじとしている。
「あのね、きり丸君……。私本当にいいのかな?」
「いいって、何がですか?」
「そ、その……きり丸君は土井先生のおうちにお世話になってるんでしょ?だから、わ、私がお邪魔してもいいのかなって」
「……」
「土井先生、迷惑じゃないかなって……」
そこで空の言葉が止まってしまう。
実は空が返事を保留にしていたのは、きり丸の家、即ち半助の家に行くことを躊躇していたのだ。
女の園で長い時間を過ごした空は、男性との交遊に乏しく、一度も男性の家に遊びに行ったことがない。
そんな自分が男性の家でいきなり外泊をしようとしている。
おまけに一週間も。
空にとって、それはなかなか勇気のいることだった。
しかし、子どものきり丸はそんな空の複雑な乙女心には気づくこともなく。
いかに空が必要とされているか、その重要性を説いていく。
「何言ってるんですか?考えてもみてください!空さんが来れば、土井先生にしわ寄せが来るバイトを空さんが負担して、土井先生は大助かりなんですよ。そんな土井先生が空さんのことを迷惑だなんて思うでしょうか、いや、ない!」
反語までを使ってのきり丸の反論に、空はもう何も言えなくなる。
「じゃ、じゃあ……私から土井先生に後で話を」
「いえ、それはおれから伝えます!空さんはただ、静かに時が来るのを待っててください!」
「きり丸君……」
空はきり丸の心遣いにジーンとしている。
が、内心きり丸はこんな美味しい役を務めずにはいられるかと思ったという。
とにもかくにも、冬休みは忍術学園を出ることが決まった。
空がふと何かを思い出したのか、すがるような目つきで乱太郎の方を見た。
「あ、あとね……実は乱太郎君のお母さんにちょっとお願いがあって」
「私の母に?何でしょうか?」
空は乱太郎に今抱えている悩みを話した。
食堂の仕事をしている空は、初日に比べれば随分成長したとはいえ、今日に至るまで本格的な調理は任せてもらえなかった。
聞けば乱太郎の母は、家事のエキスパート。
この休みを機に、料理だけでなく裁縫、その他この時代特有の家事を改めて学びたいとのことだった。
「なぁんだ。そういうことなら、任せてください。きっと母ちゃんは喜んで教えてくれると思いますよ。早速文を出しておきますね」
「ありがとう、乱太郎君」
「ちょっと、ちょっと。きり丸や乱太郎ばっかり頼られてずるい!ボクには何かお願いないんですか?」
「え、えーと……そうだな。せっかくしんべヱ君の家に行くなら、何か変わった、美味しいものが食べたいな」
「了解です!早速パパに文を書いて、目新しい食べ物を用意してもらおうっと」
「おい、しんべえ。お前、この前実技のテストで塀越えできなかったろ?休み中、あんまり食べ過ぎるなよ」
「ギクゥ」
顔を引きつらせたしんべヱを見て、乱太郎ときり丸、空は爆笑する。
四人はその後も、来たる冬休みに胸を膨らませていた。
休み時間に突入した一年は組の教室にて、空は決断を迫られていた。
三日前から、乱太郎、きり丸、しんべえがある提案を猛プッシュで勧めてくるのだ。
ある提案――それは、今度の冬休みは忍術学園に残らずに、それぞれの家に一週間ずつ滞在してはどうかというものだった。
そして、その提案者たちは今、前のめり気味に空に話しかけていく。
「ねぇねぇ、空さん。ぜひ私の家に遊びに来てください。うちの父ちゃんと母ちゃん、とってもやさしいですよ!」
「ボクんちだって楽しいですよ。父もカメ子も喜びます。移動ならボクが牛車を出しますから。一人旅でも全然心配することないですよ」
「空さん、是非おれと一緒に年を越しましょう!」
「あはははは……」
三人の勢いに、空はタジタジだ。
だが、空からは今一ついい返事が返ってこない。
しばらく膠着状態に陥っていると、やがてきり丸の瞳からじわっと大粒の涙が滲みだした。
「おれ……この年末で稼がないと、もう忍術学園に居れないかもしれない」
「え!?それ、ほんと?」
「おれ一人の稼ぎじゃ授業料払えない……こんなとき、誰か手伝ってくれたら……」
そう言って、きり丸は瞼を伏せる。
よく見れば、今しがたのきり丸の涙は止まっているのだが、空は気づいていない。
逆に、きり丸の言動に迷いがなくなり、踏ん切りがついたようだ。
突き動かされたように叫んでいた。
「きり丸君、わかった。私、きり丸君のおうちに行く!それで、うんとバイト手伝うから!」
胸をポンと叩いた空が、きり丸に宣誓した。
「ホントですか!?」
「うん」
「ってことは、私たちの家にも遊びに来てくれるってことですよね?」
「うん」
「やったぁ!」
歓喜に沸く三人はそれとなく身を寄せ合い、ヒソヒソ声で言った。
「山田先生の助言通り、『哀車の術』大成功だね!」
「きり丸、名演技だったよ」
「へへっ。まぁな!」
してやったりの三人だったが、ふと空の様子がおかしいことに気づく。
さっきまでの決意を秘めた硬い表情は消え失せ、何やらもじもじとしている。
「あのね、きり丸君……。私本当にいいのかな?」
「いいって、何がですか?」
「そ、その……きり丸君は土井先生のおうちにお世話になってるんでしょ?だから、わ、私がお邪魔してもいいのかなって」
「……」
「土井先生、迷惑じゃないかなって……」
そこで空の言葉が止まってしまう。
実は空が返事を保留にしていたのは、きり丸の家、即ち半助の家に行くことを躊躇していたのだ。
女の園で長い時間を過ごした空は、男性との交遊に乏しく、一度も男性の家に遊びに行ったことがない。
そんな自分が男性の家でいきなり外泊をしようとしている。
おまけに一週間も。
空にとって、それはなかなか勇気のいることだった。
しかし、子どものきり丸はそんな空の複雑な乙女心には気づくこともなく。
いかに空が必要とされているか、その重要性を説いていく。
「何言ってるんですか?考えてもみてください!空さんが来れば、土井先生にしわ寄せが来るバイトを空さんが負担して、土井先生は大助かりなんですよ。そんな土井先生が空さんのことを迷惑だなんて思うでしょうか、いや、ない!」
反語までを使ってのきり丸の反論に、空はもう何も言えなくなる。
「じゃ、じゃあ……私から土井先生に後で話を」
「いえ、それはおれから伝えます!空さんはただ、静かに時が来るのを待っててください!」
「きり丸君……」
空はきり丸の心遣いにジーンとしている。
が、内心きり丸はこんな美味しい役を務めずにはいられるかと思ったという。
とにもかくにも、冬休みは忍術学園を出ることが決まった。
空がふと何かを思い出したのか、すがるような目つきで乱太郎の方を見た。
「あ、あとね……実は乱太郎君のお母さんにちょっとお願いがあって」
「私の母に?何でしょうか?」
空は乱太郎に今抱えている悩みを話した。
食堂の仕事をしている空は、初日に比べれば随分成長したとはいえ、今日に至るまで本格的な調理は任せてもらえなかった。
聞けば乱太郎の母は、家事のエキスパート。
この休みを機に、料理だけでなく裁縫、その他この時代特有の家事を改めて学びたいとのことだった。
「なぁんだ。そういうことなら、任せてください。きっと母ちゃんは喜んで教えてくれると思いますよ。早速文を出しておきますね」
「ありがとう、乱太郎君」
「ちょっと、ちょっと。きり丸や乱太郎ばっかり頼られてずるい!ボクには何かお願いないんですか?」
「え、えーと……そうだな。せっかくしんべヱ君の家に行くなら、何か変わった、美味しいものが食べたいな」
「了解です!早速パパに文を書いて、目新しい食べ物を用意してもらおうっと」
「おい、しんべえ。お前、この前実技のテストで塀越えできなかったろ?休み中、あんまり食べ過ぎるなよ」
「ギクゥ」
顔を引きつらせたしんべヱを見て、乱太郎ときり丸、空は爆笑する。
四人はその後も、来たる冬休みに胸を膨らませていた。