放課後の時間。
生徒たちの喧騒がなくなり、静謐（せいひつ）さを取り戻した一年は組の教室。
誰もいないかと思わしきそこに、二人の人物がいた。

二人は対照的な様子で各々の作業に従事している。
片や、今日課された宿題をたのしげに解いているのは、このクラスの学級委員長である庄左エ門。
もう一方は、眉根を寄せ、慣れない毛筆で書写を行っているのは食堂のお手伝いであり、は組に在籍中の空だ。

ふと空が隣にいる庄左エ門を見る。
庄左エ門もまた空を見た。

目が合った瞬間、二人はにこっと笑った。

「庄左エ門君はどう？」
「宿題ですか？特には……今日の宿題は基本的な問題が多いから、そこまで手こずらなさそうです。空さんは？」
「う～ん、ぼちぼちだね」

そう言って、空が微妙な表情をつくって見せた。

「ごめんね、邪魔して」
「いいえ」

二人は再び視線を机に戻した。
空の目の前には、識字の苦手な空のために特別に用意された大量のプリントがある。
これは半助が用意したものではない。
一年い組の教科担当教師である安藤夏之丞が用意したものだ。
空は沈んだ表情ではぁ……と大きく溜息をついた。

(この前、一年い組の伝七君たちと安藤先生の話に介入したせいで、こういうことになるとは……)

なぜ、今書写に取り組む羽目になったのか。
空はその契機となった事件のことを思い出していた。