11.かしましくノ一

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暑すぎず、寒すぎない絶好の秋の気候を生かして、最近の忍術学園では野外実習が頻繁に行われている。
運動の秋。
本日は忍たまの三年生と四年生が合同実習で裏山へと出かけている。

従って、忍術学園にとどまっている人の数は通常より少ない。
そうなると、楽になるのは食堂の仕事。
最も混む時間帯でも、それほど忙しくなかった。

「今日は人が少ないし、空ちゃん早めのお昼をとっていいわよ」

おばちゃんにそう言われた空は、今食堂のテーブルに着いている。

(今日は人が少ないから早く食べれてラッキー!この時間だけは無になれる……)

こちらは食欲の秋が来ているようだ。
黙々とランチを食べていると、横からしっとりとした上品な声が届いてきた。

さん、ここいいかしら」
「シナ先生!」

が是非是非と歓迎すれば、シナはにっこりと微笑みで応えた。


山本シナ。
忍術学園で唯一の女の園、くノ一教室の担当教師である。
凛とした目に、彫りの深い顔立ち。
血のように赤い紅を唇にのせている。
匂い立つような色気を漂わせるシナは、の憧れの存在である。

この学園に来て、はすぐシナと親しくなった。
些細なことなら半助を頼れるが、女性特有のことはどうしても限界がある。
そのため、半助と同様シナもまたのサポート役を任されていた。
来た当時、一文無しだったにシナは使っていないお古の小袖や日用品を譲った。
そのことがにとって、どれだけありがたかったことか。

感激したはお礼としてシナに自分の持っている私物を与えたり、貸したりした。
流行を追っているシナはちょっと風変わりな、だが使い勝手の良い未来の生活雑貨に大興奮。
そういうやりとりを繰り返すうちに、二人は自然と距離を縮めていったのだ。

話してみるとわかったが、シュッとした雰囲気とは裏腹にシナは意外に気さくでチャーミングなのだ。
今もキャピキャピとした口調で話している。

「この前ね、さんに借りたお化粧品。くノ一の会合ですごく好評だったのよ!」
「ああ、アイライナーとマスカラと口紅ですね」
「うん、アイライナーとマスカラは目力がすごいって絶賛されて。口紅は持ち運びしやすくて、化粧直しが超簡単だった!」
「気に入ってもらえてよかったです。いつでも使ってください」
「ほんと!?さん、ありがと!」

シナは最高の微笑みをに向ける。
男性はおろか、女性にとっても威力抜群なそれには心を奪われてしまう。

(綺麗……)

ぽーっと見とれていると輝かしい笑顔を見せるシナ。
そんな二人の間に、別の可愛らしい声が割り込んできた。

「ちょっと、シナ先生!」
「ずるいです!私たちよりも抜け駆けしてさんとこんなに仲良くなっていたなんて!」
「それに、さんの化粧品使ったって本当でしゅか?うらやましい~!」

くノ一教室のユキ・トモミ・おシゲだ。
歳は全員、乱太郎たちより一つ上である。

ユキはこの時代には珍しくパーマがかった髪をしている。
ややつり目気味の瞳が勝気な性格を象徴しているかのようだ。
忍たまたちを手玉にとるのが趣味らしい。

ストレートの青い髪が特徴的な女の子はトモミだ。
一見やさしそうに見える。
だが、侮ることなかれ。
彼女は空手が得意なのだ。
もし、可愛い容姿に惹かれて言い寄ろうとするものならば、その男は即病院送りになるのは確実だろう。

最後はおシゲ。
三人の中で一番ちんまりとしていて、また実年齢よりも幼く見える。
だが、彼女は恐れ多いことに学園長の孫。
もし彼女を泣かせるようなことがあれば、あの学園長を敵に回すことになるのだ。
ある意味、くノ一教室の最強キャラなのかもしれない。

とまぁ、このくのたま三人組も乱太郎たちに負けず劣らず個性的であった。

さん、今日の放課後は約束どおりくノ一教室に遊びに来てくださいね!シナ先生、悪いけど今日は私たちがお借りしますから」

ユキがシナに挑発するように言う。
だが、シナは微笑みで受け流す。
そればかりか、隣にいるを横からぎゅっと抱きしめ、仲の良さを見せつけていく。

「どうぞどうぞ……さん、今度またゆっくり話しましょうね」
「ああ、ずるい!」

シナとユキたちが対立し合う中、その騒ぎから離れた一角で昼食をとっている伝蔵は呆れていた。

「まったく、女子おなごというのは。集まれば集まっただけ、騒がしいのう。ゆっくり飯も食ってられん!」
「……」

隣に座る半助は黙々と食べるのみで伝蔵の愚痴に反応しない。
くノ一たちの恐ろしさを十二分に知っている半助は、彼女たちに関する愚痴にすら関与したくないのだ。

ここで、伝蔵の思いが通じたのか、ある一人の人物が登場する。

「こら、あんたたち!なに騒いでいるの!?」

食堂のおばちゃんだ。
女たちはシーンと静まり返る。
反対に、伝蔵は期待の視線をおばちゃんに送っている。
やっと静かに飯が食える、と。

「ユキちゃんたちだけでなくシナ先生もいたのね。食堂でそんなに騒いでどうしたんですか?」
「聞いてくださいよ、食堂のおばちゃん。さんが持っているお化粧品すごく便利なの」
「あら、そうなの!?どんなものか、私も見てみたいわね」
「今持ってますよ。これなんです」
「へえ……!どうやって使うの?」
「あ、食堂のおばちゃんずるい!私たちにも教えて!」

結局、止めに入るはずのおばちゃんが、女たちに取り込まれてしまった。
一連のやりとりを見届けていた半助がこの状況を的確につく。

「ミイラ取りがミイラになっちゃいましたね」
「全く!食堂のおばちゃんとあろうものが。大体なあ、女子というものはもうちょっと慎ましやかであるべきだ」
「はぁ……」
「それに比べて私が女装したときの姿なんていったらもう……。たおやかな所作に品があり……内面だって申し分ない。あれこそが、まさに理想の女性。自分でいうのも何だが、素晴らしいの一言に尽きる……!」

伝蔵がそう言って誇らしげに髭を撫でる。
自画自賛――

「……」

女装した時はあなたもそれなりに浮ついとるがな、と伝蔵をジト目で見ていた半助だったが、口に蓋をする代わりに吸い物の汁を啜った。
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