本編①~ツワブキ邸潜入編
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時は早朝、窓からは朝日が登り始めており夕闇が日差しに段々と照らされるようになりてスバメ達が元気にさえずりながら飛び始めているのが見える。
ここはツワブキ邸のダイニング・ルーム
シアはムギと一緒に朝食の準備を手伝っていた。
「旦那様は朝食後にコーヒーを飲まれますからお湯を沸かす準備を先にしていてくださいね!」
「テーブルクロスはシワがないようにピッシリ張って敷いてくださいませ!」
どこの朝も忙しい、それはお金持ちの屋敷でも変わらない。朝のムギは一段とてきぱきと業務をこなしている。
シアも置いてきぼりにならない様に必死にムギの作業について行った。3日も作業の手伝いをしていたお陰で少しは業務に慣れたが朝の忙しさの雰囲気にはどうもまだ慣れない。
(メイドのお仕事って思ってた以上に大変なんだな)
朝の業務の忙しさからシアは自分がイメージしていたメイドの業務内容と異なりギャップを感じ驚いていた。
そうこうしているうちに時間は7時近くになった。シアはムギのポケモンであるイエッサンやアママイコ達の手伝いを借りながら何とか朝食の準備を済ますことができた。
「手伝ってくれてありがとう」とイエッサンとアママイコに伝えるとイエッサンは軽くお辞儀をしアママイコはニコリと微笑んだ。
「初めは間に合うか心配でしたがやっと余裕を持って動けるようになりましたね」ムギはシアに関心の目を向けた。
「ムギさんのお陰でここまでできるようになれました。」シアはゆっくりと深呼吸しながら話す。
「さて、お食事の準備が整いましたし旦那様にお伝えに参りましょうか」
「はい、今日は私がお伝えに行ってきます」
「シアさんが行ってくださるのですね。では、よろしくお願いします。」
「ただ、旦那様にお知らせする時は書斎のドアをノックしてからお伝えする形でお願いします。」
「え、お部屋に入ってお知らせしないのですか?」
「以前はシアさんがおっしゃる通り書斎の中まで入りお伝えしていました。ですが1か月前ぐらいに旦那様から中に入らなくてもよいと言われ今はドア越しからお伝えさせて頂いております。」
「そうなんですね。承知致しました。」
シアはムギの言動から(今までは部屋に入っていたのに急にいれなくなったのは何故だろう?もしかして、見せたくない物があるとかかな?)と疑問を抱いていた。
様々な疑問を考えながらエントランスの階段を登り広い廊下を歩いているといつの間にか書斎の前へ辿り着いた。シアは書斎のドアをノックした。
「失礼します。旦那様おはようございます。朝食の準備が整いました。」
すると「お、その声はシアくんだね。おはよう。」「了解、これから行くよ。」とムクゲの声が聞こえた。
「かしこまりました。では、お待ちしております。」とシアは返事をしドアから離れようとした瞬間だった。
「シャラシャラシャラ・・・。」
背後から何かが擦れて鳴っている音が聞こえた気がした。シアは咄嗟に後ろを振り向いたが何も見られなかった。(何かの聞き間違えかな?)と気のせいだと思いダイニング・ルームへ戻って行った。
間もなくするとムクゲがダイニング・ルームへと降りてきて食卓テーブルへ着いた。シアは朝食を運びテーブルへ並べる。今日の朝のメニューは焼き魚に目玉焼き、お味噌汁にサラダそして炊きたてのご飯だ。お味噌汁からは味噌の香りがふんわりと漂っている。お金持ちの朝食と言えども内容は一般家庭とほとんど変わらないのでシアは意外に思っていた。
説明しながら料理を並べ追えると
「ありがとう、いただくよ」とムクゲは食事を始めた。シアは辺りを見渡した。大きな食卓テーブルなのに食事をとっているのはムクゲだけなのでどこか孤独さが感じられる。(随分静かな食卓だな~。)と思っていると
「寂しい食事風景だと思うかね」とムクゲが尋ねてきた。図星を突かれてシアは驚き「え、まあ。広いお部屋でおひとりでお食事をされていますので」と正直に言ってしまう。ムクゲはシアの正直な感想を言われ思わず口角が上がった。
「前まではダイゴも居て一緒に食べてたのだけどね、大きくなるとそうもいかなくなるものさ」そう話すとムクゲは食後のコーヒーを飲む。シアはムクゲの表情にどことなく陰りが出ているように見えた。
「なんでか君にはついつい話してしまうね」
ムクゲはシアにゆっくりと視線を合わせたあと壁にかかっているポッポ時計に目を向けた。
「さて、食事も住んだことだし出社の準備でもするか」
「今日はお早いんですね」
「大事な会議が合ってね。今夜は遅くなりそうなんだ」
シアはムクゲの発言を聞くとチャンスだと思った。なぜなら謎に包まれている書斎をゆっくりと調査できるからだ。3日間他の部屋は調査していたが何か目ぼしい証拠は見つからず残るは書斎だけであった。
-1時間後
「じゃあ、行ってくるよ」
そう言うとムクゲはリムジンに乗り込みツワブキ邸を後にした。シアはムクゲを見送ると真っ先にムギに書斎を調査することを伝えた。
「書斎ですか。そうですね、旦那様は最近屋敷にいらっしゃる時はほとんどを書斎で過ごされていますから調べる価値はありそうでございますね」
「しかし」ムギは何か言いかけ一瞬無言になり下を向くがすぐに視線を戻し「一筋縄ではいかないかもしれません」と腕を組んだ。
「一筋縄ではいかない?」
「でも、あなたならきっと上手く行くかもしれません。物は試しです行かれてみてはどうでしょう?」
「わかりました。書斎へ向かってみます。」そう言うとシアはエントランスの階段を登って行った。
2階の廊下は静まり返っていた。辺りに誰もいないことを確認する。侵入調査は何度も経験があるが入る前の緊張感は今でも感じておりついドキドキしてしまう。ドアノブに手をかけると心臓が高鳴り鼓動が聞こえてくる。
「・・・入るよ。」
自分に言い聞かせドアノブをゆっくりと捻った。しかし、ドアノブは回らず開かなかった。
「あれ?開かない・・・。」
「鍵がかかってるんだ!」
シアはすぐに鍵がかかっていることに気がついた。ドアノブの中心をよく見ると鍵穴がある。ツワブキ邸はセキュリティが万全であるとこを思い出し気づけなかった自分に後悔した。
「そんな、せっかく調査できると思ったのになあ」大きくため息をついたその時だった。
「ワオン!」
いきなり隣からポケモンの吠え声が聞こえた。
「わっ、何!?」
「なんだ、ムーランドじゃん。びっくりした~。」
シアは声の主がムーランドだと解ると安堵した。
「どうしたの?朝ごはんは食べたでしょ」
足元に寄ってきたムーランドを撫でる。ムーランドは目を細めて気持ちよさそうな表情を浮かべたあと急にドアノブに鼻を近ずけた。
「ドアが気になるの?」
ムーランドの様子を静かに見守る。するとムーランドは鼻先をドアノブに擦り始めた。シアは異様な光景に驚きつつもムーランドの行動を分析していた。
「もしかして私に何か伝えようとしてるの?」
時折ムーランドがシアに熱い視線を向けていたためシアは行為に何かメッセージが含まれているのではと思った。
「ひょっとして、私にドアノブを擦ってみて欲しいのかな?」一生懸命に鼻先をドアノブに擦り付けるムーラドから考察した。
「私もやってみるね!ムーランド」
シアはムーランドに代わりドアノブを軽く数回擦ってみた。すると背後から「ジャラジャラ」と音が聞こえた。
「何!?」
振り向くとそこには鍵を愉快に鳴らしながらふわふわと宙に浮いているクレッフィがいた。
「ワオン!」
ムーランドはクレッフィを見ると短く吠えた。シアはムーランドは自分にクレッフィを呼ぶための合図を知らせるために行動していたのだと解ると「ありがとうムーランド!クレッフィを呼ぶためだったんだね」と褒めた。ムーランドは得意げな顔をしながら鼻を鳴らす。
クレッフィは預けた大事な鍵は何があっても守ろうとする習性があり、その習性から金庫の鍵など大事な鍵をクレッフィに預けて管理してもらう文化もあるぐらいだ。ツワブキ邸も例外ではない。
クレッフィをよく見ると3つの鍵が引っ掛けられているのが見える。「きっとあの中に書斎の鍵があるのかもしれない!」とシアはドアノブとクレッフィとの関連性から推測した。
「クレッフィ、ここのドアの鍵を貸して欲しいんだけどお願いできる?」不思議そうに見つめてくるクレッフィに先ずは頼んでみることにした。しかし、クレッフィは特に反応もなくふわふわと浮いている。自分のトレーナーでないことが解っているため反応するはずがない。
「それもその筈だよね。貴方のトレーナーでもないしね・・・。」
ユキメノコのあやしいひかりで困惑させてから奪うのもありだが罪の無いポケモンにはならべく手荒なことをしたくない、シアはポケモンを調査する時いつも心に決めている。
「ポケモンの気持ちになって考えればわかるはず」思考をフル回転させる。
シアは冷静にクレッフィの特性を思い返してみた。(クレッフィは主に鉄分を食すらしく、手持ちの鍵や金属からイオンを吸う事もある)つまり金属に反応するということを思い出した。
(鍵に変わる金属のものがあれば、、、。)
そう思いを巡らしているとある策を思いつきニヤリと笑った。
「ひらめいた!」
シアは1度場所を離れキッチンの方へ向かった。戸棚を引くとそこには綺麗に磨かれきちんと並べられたナイフやスプーン、フォークが銀色に光り輝いていた。「ちょっと一本失礼しま~す」少しいたずらっぽい表情を浮かべながらフォークを一本手に取る。そして、モンスターボールを取り出した。
「ウォーグル出ておいで!」
コツンとモンスターボールを床にぶつけると中から光とともに巨大怪鳥と呼ばれるぐらいの大きな鳥型ポケモンが凛々しい顔つきで現れた。ウォーグルの中でもシアの個体はヒスイウォーグルと呼ばれており羽毛が長く顔上の羽飾りは紫色の炎のように揺らめいておりどこか気品が感じられる。
ウォーグルは凛々しい目つきでシアを見つめている。
「ウォーグルお願いがあるんだけどこのフォークをサイコキネシスで曲げて欲しいの。」
ご主人のいきなりのお願いにウォーグルは一緒驚いた顔を見せ身体を膨らませた。
「ごめん、多少歪な形になってもいいからさ曲げて輪っかを作ってほしいの」
「できるよね?」
ウォーグルはまるで仕方ないなあと言わんばかりの呆れた表情で頷くとサイコパワーでフォークを宙に浮かし始めた。
「そうそう上手だよ!」
シアはやる気になってくれたウォーグルを褒める。
ウォーグルは「ピャア」と短く鳴くとフォークがゆっくりと捻れ始めた。
「このまま柄の部分を曲げて丸めて!」
追加で指示を出す。たが内容が難しいのでウォーグルはどこまで理解できるかが鍵だ。
シアはウォーグルに心配の眼差しを向けたがウォーグルは涼しい顔をしながらあっさりとシアの言われた通りフォークの柄の部分を円を描くように曲げて床へ落とした。
「さすが私のウォーグル!天才!!」
フォークが期待通りに曲がるとシアは喜んでウォーグルの嘴をさする。ウォーグルは満更でもない表情で目を細めていた。
ウォーグルをボールに戻すとシアは加工したフォークを持って再び書斎の前に戻った。ドアノブを擦り再びクレッフィを呼び出す。クレッフィは先程と同じようにシアの前へ現れた。
「クレッフィ、私貴方がきっと気に入りそうな物を持ってきたの」シアはクレッフィに満面な笑みを浮かべる。そして、フォークを目の前で見せた。
「じゃじゃーん!私特性の素敵な鍵だよ。」
わざとらしく大袈裟に話しながらクレッフィに見せびらかす。するとクレッフィは目を輝かせてシアの持つフォークに興味津々な姿勢を見せた。(よかった、どうやら金属だったら興味を持ってくれてるみたい)シアは少し安堵する。
クレッフィは触手をフォークの方へ伸ばそうとしたがシアは引っ込める。
「あなたの持っている鍵を貸してくれたらこの鍵をあげてもいいけどどう?」したり顔をしながらクレッフィに交渉する。するとクレッフィは何か考えるように左右にゆらゆらと揺れた後持っていた鍵を全て地面に落とした。
「やったあ!」
シアは感極まりガッツポーズを取る。ポケモンを信じて良かったと改めて実感した瞬間だった。鍵を拾い上げた後約束通りクレッフィにフォークを渡す。フォークを受け取るとクレッフィは嬉しそうに回して遊び始めた。
シアの足元で一連を見ていたムーランドも嬉しそうに「ウォン!」と吠えた。
遊んでいるクレッフィを横目で見てシアはドアの鍵穴を観察して見た。手元には3つの鍵どれが入るのかはわからない。まずは1つ目の鍵を穴に差し込んでみた。しかし大きさが違い穴には入らなかった。2つ目も差し込んでみた。今度は鍵が小さすぎて回せない。(もしこの中に書斎の鍵でなかったらどうしよう)焦りの感情が芽生えた。ドキドキしながら最後の鍵を穴に差し込む。
すると「カチッ」と音が聞こえ差し込んだ鍵が回せるようになった。「これだ!」シアは呟くとゆっくりドアノブを回してみた。すると扉が開いた。
「よかった!最後の鍵が当たりで」
ゆっくりと深呼吸をしてからシアは書斎へ入って行った。
書斎は静まり返っていた。窓からは光が照らされ部屋の中は明るさを保っていた。普段は誰も立ち寄れない場所に内緒で侵入しているので独特な緊張感が走る。
(ならべく短時間で終わらせよう)
そう思いながら先ずは机の上を捜査しようと近づいたその時だった。
「ピリリリリ!」
Pフォンが突然なり始めた。シアはびっくりしてつい「うわあ!」と声を上げた。急いでPフォンを取り出すと(ダイゴさん)と着信画面が表示されていた。「ダイゴさん?なんで今なの?」頭の中が疑問だらけになりぐるぐるしていたがとりあえず着信ボタンを押す。
「もしもし、シアちゃんお仕事お疲れ様です。」
声の主はまさしくダイゴであった。
「ダイゴさん一体何の用ですか?」
「クレッフィ言うこと聞いてくれたんでしょ?流石だよ。」
「なんで知ってたんですか?」
なぜダイゴが自分の行動を知っていたのか不思議に思い眉をひそめる。
「フフ、実はムーランドの首輪にカメラを装着してたんだよ」
「カメラ、なんで?」
「そう、2人で実家をウロウロしてたらおやじに怪しまれるだろう?」
「それは、確かに」
小さく頷きながら話に耳を傾ける。
「それにこのカメラを試したくてね」
「試すって?」
「デボンの新製品なんだ。ポケモンカメラ 略してポケカメ!」
「ポケモンがシャッターを着ることもできるんだ。きっとシアちゃんの様な探偵さんにも役立てると思うよ。」
「今回はテストとして使わせて貰ったんだ」
「ダイゴさん、あの~製品の説明は後で聞きますから今は調査に集中させてください」ムクゲが帰って来るまで時間はまだまだあるができれば早く終わらせたくシアは少し焦る。
「ああ、ごめんカメラの説明でついつい話が弾んでしまった。今書斎を調査中だったね」
「あのクレッフィボクでも言うことを全然聞いてくれなかったからシアちゃんはすばらしいよ。」
「ただ、ムーランドは躾で書斎には入れないからボクのサポートもここまでが限界かな。後は頼んだよ!」
ダイゴは最後の言葉を話すと直ぐに電話を切った。
「ダイゴさんってずいぶん神出鬼没な人だなあ。」
「もしかしたらムーランドが今まで私に着いてきてたのもダイゴさんに頼まれてたのかな。」
シアはやれやれと呆れた表情を浮かべながらPフォンを閉まう。
ダイゴからの突然の電話で驚いたが気持ちを切り替えるようにシアは「さて、調査開始しますか!」と呟いた後意気揚々と書斎の机の方へ向かって行った。
【ポケモンの心をつかみ謎の解決へ導き出したシア。謎に包まれた書斎には一体証拠はあるのだろうか】
◀◀ To Be Continued
プチsideストーリー更新中「本編chapter6 side~ダイゴとポケモンカメラ」
ここはツワブキ邸のダイニング・ルーム
シアはムギと一緒に朝食の準備を手伝っていた。
「旦那様は朝食後にコーヒーを飲まれますからお湯を沸かす準備を先にしていてくださいね!」
「テーブルクロスはシワがないようにピッシリ張って敷いてくださいませ!」
どこの朝も忙しい、それはお金持ちの屋敷でも変わらない。朝のムギは一段とてきぱきと業務をこなしている。
シアも置いてきぼりにならない様に必死にムギの作業について行った。3日も作業の手伝いをしていたお陰で少しは業務に慣れたが朝の忙しさの雰囲気にはどうもまだ慣れない。
(メイドのお仕事って思ってた以上に大変なんだな)
朝の業務の忙しさからシアは自分がイメージしていたメイドの業務内容と異なりギャップを感じ驚いていた。
そうこうしているうちに時間は7時近くになった。シアはムギのポケモンであるイエッサンやアママイコ達の手伝いを借りながら何とか朝食の準備を済ますことができた。
「手伝ってくれてありがとう」とイエッサンとアママイコに伝えるとイエッサンは軽くお辞儀をしアママイコはニコリと微笑んだ。
「初めは間に合うか心配でしたがやっと余裕を持って動けるようになりましたね」ムギはシアに関心の目を向けた。
「ムギさんのお陰でここまでできるようになれました。」シアはゆっくりと深呼吸しながら話す。
「さて、お食事の準備が整いましたし旦那様にお伝えに参りましょうか」
「はい、今日は私がお伝えに行ってきます」
「シアさんが行ってくださるのですね。では、よろしくお願いします。」
「ただ、旦那様にお知らせする時は書斎のドアをノックしてからお伝えする形でお願いします。」
「え、お部屋に入ってお知らせしないのですか?」
「以前はシアさんがおっしゃる通り書斎の中まで入りお伝えしていました。ですが1か月前ぐらいに旦那様から中に入らなくてもよいと言われ今はドア越しからお伝えさせて頂いております。」
「そうなんですね。承知致しました。」
シアはムギの言動から(今までは部屋に入っていたのに急にいれなくなったのは何故だろう?もしかして、見せたくない物があるとかかな?)と疑問を抱いていた。
様々な疑問を考えながらエントランスの階段を登り広い廊下を歩いているといつの間にか書斎の前へ辿り着いた。シアは書斎のドアをノックした。
「失礼します。旦那様おはようございます。朝食の準備が整いました。」
すると「お、その声はシアくんだね。おはよう。」「了解、これから行くよ。」とムクゲの声が聞こえた。
「かしこまりました。では、お待ちしております。」とシアは返事をしドアから離れようとした瞬間だった。
「シャラシャラシャラ・・・。」
背後から何かが擦れて鳴っている音が聞こえた気がした。シアは咄嗟に後ろを振り向いたが何も見られなかった。(何かの聞き間違えかな?)と気のせいだと思いダイニング・ルームへ戻って行った。
間もなくするとムクゲがダイニング・ルームへと降りてきて食卓テーブルへ着いた。シアは朝食を運びテーブルへ並べる。今日の朝のメニューは焼き魚に目玉焼き、お味噌汁にサラダそして炊きたてのご飯だ。お味噌汁からは味噌の香りがふんわりと漂っている。お金持ちの朝食と言えども内容は一般家庭とほとんど変わらないのでシアは意外に思っていた。
説明しながら料理を並べ追えると
「ありがとう、いただくよ」とムクゲは食事を始めた。シアは辺りを見渡した。大きな食卓テーブルなのに食事をとっているのはムクゲだけなのでどこか孤独さが感じられる。(随分静かな食卓だな~。)と思っていると
「寂しい食事風景だと思うかね」とムクゲが尋ねてきた。図星を突かれてシアは驚き「え、まあ。広いお部屋でおひとりでお食事をされていますので」と正直に言ってしまう。ムクゲはシアの正直な感想を言われ思わず口角が上がった。
「前まではダイゴも居て一緒に食べてたのだけどね、大きくなるとそうもいかなくなるものさ」そう話すとムクゲは食後のコーヒーを飲む。シアはムクゲの表情にどことなく陰りが出ているように見えた。
「なんでか君にはついつい話してしまうね」
ムクゲはシアにゆっくりと視線を合わせたあと壁にかかっているポッポ時計に目を向けた。
「さて、食事も住んだことだし出社の準備でもするか」
「今日はお早いんですね」
「大事な会議が合ってね。今夜は遅くなりそうなんだ」
シアはムクゲの発言を聞くとチャンスだと思った。なぜなら謎に包まれている書斎をゆっくりと調査できるからだ。3日間他の部屋は調査していたが何か目ぼしい証拠は見つからず残るは書斎だけであった。
-1時間後
「じゃあ、行ってくるよ」
そう言うとムクゲはリムジンに乗り込みツワブキ邸を後にした。シアはムクゲを見送ると真っ先にムギに書斎を調査することを伝えた。
「書斎ですか。そうですね、旦那様は最近屋敷にいらっしゃる時はほとんどを書斎で過ごされていますから調べる価値はありそうでございますね」
「しかし」ムギは何か言いかけ一瞬無言になり下を向くがすぐに視線を戻し「一筋縄ではいかないかもしれません」と腕を組んだ。
「一筋縄ではいかない?」
「でも、あなたならきっと上手く行くかもしれません。物は試しです行かれてみてはどうでしょう?」
「わかりました。書斎へ向かってみます。」そう言うとシアはエントランスの階段を登って行った。
2階の廊下は静まり返っていた。辺りに誰もいないことを確認する。侵入調査は何度も経験があるが入る前の緊張感は今でも感じておりついドキドキしてしまう。ドアノブに手をかけると心臓が高鳴り鼓動が聞こえてくる。
「・・・入るよ。」
自分に言い聞かせドアノブをゆっくりと捻った。しかし、ドアノブは回らず開かなかった。
「あれ?開かない・・・。」
「鍵がかかってるんだ!」
シアはすぐに鍵がかかっていることに気がついた。ドアノブの中心をよく見ると鍵穴がある。ツワブキ邸はセキュリティが万全であるとこを思い出し気づけなかった自分に後悔した。
「そんな、せっかく調査できると思ったのになあ」大きくため息をついたその時だった。
「ワオン!」
いきなり隣からポケモンの吠え声が聞こえた。
「わっ、何!?」
「なんだ、ムーランドじゃん。びっくりした~。」
シアは声の主がムーランドだと解ると安堵した。
「どうしたの?朝ごはんは食べたでしょ」
足元に寄ってきたムーランドを撫でる。ムーランドは目を細めて気持ちよさそうな表情を浮かべたあと急にドアノブに鼻を近ずけた。
「ドアが気になるの?」
ムーランドの様子を静かに見守る。するとムーランドは鼻先をドアノブに擦り始めた。シアは異様な光景に驚きつつもムーランドの行動を分析していた。
「もしかして私に何か伝えようとしてるの?」
時折ムーランドがシアに熱い視線を向けていたためシアは行為に何かメッセージが含まれているのではと思った。
「ひょっとして、私にドアノブを擦ってみて欲しいのかな?」一生懸命に鼻先をドアノブに擦り付けるムーラドから考察した。
「私もやってみるね!ムーランド」
シアはムーランドに代わりドアノブを軽く数回擦ってみた。すると背後から「ジャラジャラ」と音が聞こえた。
「何!?」
振り向くとそこには鍵を愉快に鳴らしながらふわふわと宙に浮いているクレッフィがいた。
「ワオン!」
ムーランドはクレッフィを見ると短く吠えた。シアはムーランドは自分にクレッフィを呼ぶための合図を知らせるために行動していたのだと解ると「ありがとうムーランド!クレッフィを呼ぶためだったんだね」と褒めた。ムーランドは得意げな顔をしながら鼻を鳴らす。
クレッフィは預けた大事な鍵は何があっても守ろうとする習性があり、その習性から金庫の鍵など大事な鍵をクレッフィに預けて管理してもらう文化もあるぐらいだ。ツワブキ邸も例外ではない。
クレッフィをよく見ると3つの鍵が引っ掛けられているのが見える。「きっとあの中に書斎の鍵があるのかもしれない!」とシアはドアノブとクレッフィとの関連性から推測した。
「クレッフィ、ここのドアの鍵を貸して欲しいんだけどお願いできる?」不思議そうに見つめてくるクレッフィに先ずは頼んでみることにした。しかし、クレッフィは特に反応もなくふわふわと浮いている。自分のトレーナーでないことが解っているため反応するはずがない。
「それもその筈だよね。貴方のトレーナーでもないしね・・・。」
ユキメノコのあやしいひかりで困惑させてから奪うのもありだが罪の無いポケモンにはならべく手荒なことをしたくない、シアはポケモンを調査する時いつも心に決めている。
「ポケモンの気持ちになって考えればわかるはず」思考をフル回転させる。
シアは冷静にクレッフィの特性を思い返してみた。(クレッフィは主に鉄分を食すらしく、手持ちの鍵や金属からイオンを吸う事もある)つまり金属に反応するということを思い出した。
(鍵に変わる金属のものがあれば、、、。)
そう思いを巡らしているとある策を思いつきニヤリと笑った。
「ひらめいた!」
シアは1度場所を離れキッチンの方へ向かった。戸棚を引くとそこには綺麗に磨かれきちんと並べられたナイフやスプーン、フォークが銀色に光り輝いていた。「ちょっと一本失礼しま~す」少しいたずらっぽい表情を浮かべながらフォークを一本手に取る。そして、モンスターボールを取り出した。
「ウォーグル出ておいで!」
コツンとモンスターボールを床にぶつけると中から光とともに巨大怪鳥と呼ばれるぐらいの大きな鳥型ポケモンが凛々しい顔つきで現れた。ウォーグルの中でもシアの個体はヒスイウォーグルと呼ばれており羽毛が長く顔上の羽飾りは紫色の炎のように揺らめいておりどこか気品が感じられる。
ウォーグルは凛々しい目つきでシアを見つめている。
「ウォーグルお願いがあるんだけどこのフォークをサイコキネシスで曲げて欲しいの。」
ご主人のいきなりのお願いにウォーグルは一緒驚いた顔を見せ身体を膨らませた。
「ごめん、多少歪な形になってもいいからさ曲げて輪っかを作ってほしいの」
「できるよね?」
ウォーグルはまるで仕方ないなあと言わんばかりの呆れた表情で頷くとサイコパワーでフォークを宙に浮かし始めた。
「そうそう上手だよ!」
シアはやる気になってくれたウォーグルを褒める。
ウォーグルは「ピャア」と短く鳴くとフォークがゆっくりと捻れ始めた。
「このまま柄の部分を曲げて丸めて!」
追加で指示を出す。たが内容が難しいのでウォーグルはどこまで理解できるかが鍵だ。
シアはウォーグルに心配の眼差しを向けたがウォーグルは涼しい顔をしながらあっさりとシアの言われた通りフォークの柄の部分を円を描くように曲げて床へ落とした。
「さすが私のウォーグル!天才!!」
フォークが期待通りに曲がるとシアは喜んでウォーグルの嘴をさする。ウォーグルは満更でもない表情で目を細めていた。
ウォーグルをボールに戻すとシアは加工したフォークを持って再び書斎の前に戻った。ドアノブを擦り再びクレッフィを呼び出す。クレッフィは先程と同じようにシアの前へ現れた。
「クレッフィ、私貴方がきっと気に入りそうな物を持ってきたの」シアはクレッフィに満面な笑みを浮かべる。そして、フォークを目の前で見せた。
「じゃじゃーん!私特性の素敵な鍵だよ。」
わざとらしく大袈裟に話しながらクレッフィに見せびらかす。するとクレッフィは目を輝かせてシアの持つフォークに興味津々な姿勢を見せた。(よかった、どうやら金属だったら興味を持ってくれてるみたい)シアは少し安堵する。
クレッフィは触手をフォークの方へ伸ばそうとしたがシアは引っ込める。
「あなたの持っている鍵を貸してくれたらこの鍵をあげてもいいけどどう?」したり顔をしながらクレッフィに交渉する。するとクレッフィは何か考えるように左右にゆらゆらと揺れた後持っていた鍵を全て地面に落とした。
「やったあ!」
シアは感極まりガッツポーズを取る。ポケモンを信じて良かったと改めて実感した瞬間だった。鍵を拾い上げた後約束通りクレッフィにフォークを渡す。フォークを受け取るとクレッフィは嬉しそうに回して遊び始めた。
シアの足元で一連を見ていたムーランドも嬉しそうに「ウォン!」と吠えた。
遊んでいるクレッフィを横目で見てシアはドアの鍵穴を観察して見た。手元には3つの鍵どれが入るのかはわからない。まずは1つ目の鍵を穴に差し込んでみた。しかし大きさが違い穴には入らなかった。2つ目も差し込んでみた。今度は鍵が小さすぎて回せない。(もしこの中に書斎の鍵でなかったらどうしよう)焦りの感情が芽生えた。ドキドキしながら最後の鍵を穴に差し込む。
すると「カチッ」と音が聞こえ差し込んだ鍵が回せるようになった。「これだ!」シアは呟くとゆっくりドアノブを回してみた。すると扉が開いた。
「よかった!最後の鍵が当たりで」
ゆっくりと深呼吸をしてからシアは書斎へ入って行った。
書斎は静まり返っていた。窓からは光が照らされ部屋の中は明るさを保っていた。普段は誰も立ち寄れない場所に内緒で侵入しているので独特な緊張感が走る。
(ならべく短時間で終わらせよう)
そう思いながら先ずは机の上を捜査しようと近づいたその時だった。
「ピリリリリ!」
Pフォンが突然なり始めた。シアはびっくりしてつい「うわあ!」と声を上げた。急いでPフォンを取り出すと(ダイゴさん)と着信画面が表示されていた。「ダイゴさん?なんで今なの?」頭の中が疑問だらけになりぐるぐるしていたがとりあえず着信ボタンを押す。
「もしもし、シアちゃんお仕事お疲れ様です。」
声の主はまさしくダイゴであった。
「ダイゴさん一体何の用ですか?」
「クレッフィ言うこと聞いてくれたんでしょ?流石だよ。」
「なんで知ってたんですか?」
なぜダイゴが自分の行動を知っていたのか不思議に思い眉をひそめる。
「フフ、実はムーランドの首輪にカメラを装着してたんだよ」
「カメラ、なんで?」
「そう、2人で実家をウロウロしてたらおやじに怪しまれるだろう?」
「それは、確かに」
小さく頷きながら話に耳を傾ける。
「それにこのカメラを試したくてね」
「試すって?」
「デボンの新製品なんだ。ポケモンカメラ 略してポケカメ!」
「ポケモンがシャッターを着ることもできるんだ。きっとシアちゃんの様な探偵さんにも役立てると思うよ。」
「今回はテストとして使わせて貰ったんだ」
「ダイゴさん、あの~製品の説明は後で聞きますから今は調査に集中させてください」ムクゲが帰って来るまで時間はまだまだあるができれば早く終わらせたくシアは少し焦る。
「ああ、ごめんカメラの説明でついつい話が弾んでしまった。今書斎を調査中だったね」
「あのクレッフィボクでも言うことを全然聞いてくれなかったからシアちゃんはすばらしいよ。」
「ただ、ムーランドは躾で書斎には入れないからボクのサポートもここまでが限界かな。後は頼んだよ!」
ダイゴは最後の言葉を話すと直ぐに電話を切った。
「ダイゴさんってずいぶん神出鬼没な人だなあ。」
「もしかしたらムーランドが今まで私に着いてきてたのもダイゴさんに頼まれてたのかな。」
シアはやれやれと呆れた表情を浮かべながらPフォンを閉まう。
ダイゴからの突然の電話で驚いたが気持ちを切り替えるようにシアは「さて、調査開始しますか!」と呟いた後意気揚々と書斎の机の方へ向かって行った。
【ポケモンの心をつかみ謎の解決へ導き出したシア。謎に包まれた書斎には一体証拠はあるのだろうか】
◀◀ To Be Continued
プチsideストーリー更新中「本編chapter6 side~ダイゴとポケモンカメラ」