本編①~ツワブキ邸潜入編
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時間は午後の3時を過ぎていた。
ラックは机の上に並べた資料に目を通していた。
最近、事務所を訪ねてくる依頼人が増えてきたからか定期的に資料の整理を行わないと机があっという間に資料だらけになってしまう。
ファイルに入れながら内容の確認をしているとドアから「コンコン」とノックする音が聞こえた。
ノックの音を聞きラックは少し不審に思った。今日は訪ねてくる依頼人はいない。この探偵事務所は予約制だ。
「はい、どちらさまですか?」
ラックはドアの方に目を向けながら問う。
「ボクです。ダイゴ です。突然ですみません。」
ラックは声の主がダイゴだとわかると安堵する。
「ああ、ダイゴさんですか。どうぞお入りください」
ガチャリとドアが開きダイゴ が中に入る。
「お忙しい中失礼します。」
「お久しぶりですね。どうですかシアはちゃんとお役に立てていますか?」
「はい、心強い味方になってくれています。」
「それに、とても興味深い子だと思ってます。」
ダイゴは微笑みながら話し辺りを見渡す。
「ところで、シアちゃんは居ますか。」
「生憎シアは今日は休みでして。何かありましたか。」
「伝えたいことがありまして。連絡しても返信が無くて、たまたま事務所の近くに来ていたので寄ってみました。」
ラックはダイゴがわざわざ事務所まで足を運んでくれたことを申し訳なく思い
「それはそうでしたか。すみません、休日を事前に教えていなくて」と謝る。
「いや、構わないですよ。では、後日改めて連絡しようかな」
「ダイゴさん、せっかくこちらまで来ていただいたのですから下の喫茶店にでも行ってゆっくりしていかれてはどうですか」提案した後ラックは軽く頷く。
ダイゴは顎に手を当てて少し考えた後「そうですね、今日は時間があるし行ってみようかな」と微笑んだ。
事務所を後にしたダイゴ はビル一階の喫茶店の前に立った。
喫茶店は、ビルの1階に入居しており洋風レトロの外観になっている。ドアの中心部にはモンスターボールが描かれたステンドグラスが内側から光を照らされており輝いている。喫茶店のドアの横には、植木や花が植えられていてどこか柔らかい印象を受ける。ドアの上には「喫茶ペルレイ」と書かれた看板がかけらていた。
(事務所に来る時に何となくお店が入っているなとは思っていたけど喫茶店だったのか)ダイゴは喫茶店の外観を眺めた後ドアを開ける。すると「カランコロン」とドアチャイムが鳴った。
店の中に入ると木材を基調としたアンティークなデザインのイスとテーブル達や中央のカウンターからはサイフォンのフラスコで温められ沸騰した湯が気泡を上げながらコポコポ鳴っている様子が目に入った。そして、コーヒーの柔らかいスモーキーな香りが店内に広がっていた。
するとダイゴはある気配を感じた。店の中に入っていくとそこにはライトに照らされた水槽が置いてあった。
水槽は、水草が端整に植えられており水系風景を作り上げている。水草の周りには色とりどりの熱帯魚が優雅に泳ぎ回っている。手前にはケイコウオとドオーの小さな置物がモスの上に飾られていた。水草の根元をよく見ると石に根を巻き付けてあり石も水草と調和し水系風景に溶け込んでいた。
ダイゴはとても興味深そうに水槽を眺めていると「いらっしゃいませ」と声が聞こえた。水槽から目を離し声の方向に目を向けると片寄三つ編み姿で小柄の女性ウェイトレスがダイゴの前に立っていた。
「シアちゃん!」
ダイゴはウェイトレスを見るなり驚いた表情を見せた。
「あれ、ダイゴさん?」
「どうしてここへ」
シアは自分が声をかけた相手がダイゴだとわかると驚き唖然とした。
「たまにはボクもコーヒーが飲みたくてね。知り合いに勧めてもらったのさ」ダイゴは薄ら笑いをする。ラックが自分に喫茶店を勧めてきた理由が解かったからだ。
「そ、そうなんですか~」シアは中身のない空返事をした後(ラックさんめ~!)とラックを憎んだ。
シアが苦笑いしながらその場をやり過ごそうとしようとしたその時「あら、パチリスちゃんお客さん?」と声が聞こえた。
声のする方へ振り向くと長身で後ろでまとめたピンクの長髪ををした人物がカウンターから興味深そうにこちらを見ていた。赤ぶち眼鏡がライトに照らされ光っている。
「まぁ~!ホウエンチャンピオンのダイゴさんじゃな~い!!テレビやネットで見てたけどいい男ねえ。」
ピンクの長髪の人物は呆然とした表情のダイゴを見るなりいきなり高揚した様子を見せた。
「ハハ、どうも」
ダイゴは興奮に圧倒され苦笑いを浮かべる。黄色い声援には慣れている。
「ダイゴさん、こちらの方はここの喫茶店のオーナーのロタラさん。昔カロスでシェフをしてたんですって。」シアは手を差し出しながら紹介する。
「は~い!私はロタラよ~。好きな物は甘いもの!タイプのトレーナーはからておう!よろしくね~。」ロタラは両手を振りながらノリノリで話す。ダイゴは「よろしく」と微笑み返した。
「挨拶も済んだことだしダイゴさんお好きな席へどうぞ」
ダイゴは辺りを見渡した後奥の窓側の席に腰を掛けるとシアが「こちら、メニューなります。」とメニュー表を渡してきた。
「驚いたな、まさかシアちゃんが喫茶店で働いてたなんて。」
「ダブルワークですよ。探偵だけでは収入安定しないので。週に2日半日程度ここで働いてるんです。」
「最近はメイドとしても働いてるのに給料が低いってかい?」ダイゴは含み笑いを浮かべる。
「そんなこと思ってないです!」シアはダイゴに図星を突かれ慌てた表情を見せる。
「顔に書いてあるよ」
シアは返す言葉が見つからず「むぅ~」としかめっ面でしか返すことができなかった。
シアの困り顔を見てダイゴは思わず「ははは!」っと笑いだした時だった。何かがダイゴの足にまとわりついた。
「ん?」
足元が暖かくなり不思議に思いダイゴは目線を下げた。するとそこには綿のようなフワフワな羽毛を持つチルットだった。
チルットは「キュウウ~」と鳴きながらダイゴの足にしがみついている。
「ああ、このこはチルット。すごい人懐っこいの」
「へぇー。チルットか」
ダイゴはチルットの頭を撫でた。するとチルットは嬉しそうに身体を震わせた後膝の上に乗ってきた。
「チルットったら。ごめんなさい」
「構わないさ。たまにはふわふわで暖かい触感もいいね。」
「では、ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」とシアは一度席から離れようとすると「シアちゃんのオススメはなんだい?」とダイゴはメニュー表を手に取り眺めながらたずねてきた。
「そうですね、初めて入店された方なら先ずはブレンドなんていかがでしょうか?ブレンドはその店の顔とも言えますし、その店のこだわりやテイストが解るのでオススメです。」
「なるほど、お店本来の味を知るってことだね。いいチョイスだと思うよ。では、ブレンドを頂こうかな。」
「かしこまりました。ミルクと砂糖はお付けしますか?」
「ボクはブラック派だからいらないよ」
「覚えてね」
シアは(まさか通うつもりじゃあ、、、。)とダイゴの言動に少し引っかかったが「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。メニューお下げ致しますね。」と注文を受けるとカウンターの方へ戻って行く。
「ロタラさんブレンドお願いします。」
お店では主にロタラがコーヒーを淹れている。日替わりでロタラと交代でシアもコーヒーを淹れている。
「は~い!ところでパチリスちゃんチャンピオンと知り合いなの?」ロタラはコーヒー豆を挽きながら話しかける。
「まあ、仕事のお客さんですが」シアは流し目で答える。
「そうなの、じゃあチャンスね」ロタラは目を輝かせる。
「何がですか?」
「そりゃあ、ゲットよ!」ロタラはガッツポーズをする。
「はあ?」
シアは突拍子もないことを言われて唖然とする。
「ホウエンチャンピオンそれにデボンコーポレーション御曹司に出会えたんだからこれって運命じゃない?」
「ロタラさん、あのねえ。ダイゴさんは仕事のお客さんですよ!そんな目で見るわけないじゃないですか」
「え~、もったいなあい!私だったらヨクバリスみたいにガツガツいくわよ~。」
「もう、ロタラさんったら」シアは呆れた表情を浮かべながら洗い物を始めた。
注文を受けてから数分後ダイゴが座っている席に淹れたてのコーヒーを運んだ。
「お待たせ致しました。こちらブレンドになります。」
「頂くよ」
コーヒーからは香ばしくどこかナッティーな香りが漂う。ダイゴはゆっくりとコーヒーを口に含む。柔らかでしつこくない酸味と深みのある苦みが絶妙なバランスを奏でるテイストが口いっぱいに広がった。
「美味しいね」ダイゴはコーヒーを見つめ微笑む。
「よかったダイゴさんのお口に合って」シアはダイゴの笑顔を見ると嬉しくなり微笑み返した。
「ところで、水槽とても綺麗だね。」
ダイゴは奥の水槽に目を向ける。
「あ、その水槽はええっと・・・。」
話をはぐらかそうとするが言葉が見つからない。
「パチリスちゃんが管理してるんだよね~。」
モジモジしているといきなりカウンターからロタラが覗き込んできた。
「ロタラさん!」シアは少し焦る。
「え~、それくらい教えたってもいいじゃな~い。」
ロタラはわざと頬を膨らませた表情を見せる。
「その、好きなんですアクアリウム・・・。おじさん趣味みたいでしょ?」
痺れを切らしシアは顔を赤らめ更にモジモジしながボソリと呟いた。
「アクアリウム?」
ダイゴは意味が解らず聞き返した。
「水槽に水草や熱帯魚を入れて水系風景を作り上げることです。」
「私の趣味なんです。自分だけの世界を作り上げてるみたいで楽しいんです。」
「へぇ、シアちゃんの趣味なんだ。」
恥ずかしそうに伏し目がちになっているシアにダイゴは微笑みかける。
「趣味があることはいいことだよ。」
「そうですか。」シアは顔を傾げた。
「趣味は心を豊かにする。趣味が合う人との繋がりは素晴らしいよ。」
「とても素敵な趣味だと思うね。それにしても本当に美しい水槽だ。中でも溶岩石と貝堆石がアクセントになっていてとても素晴らしいよ。」
自分の趣味を小馬鹿にすることも無くまさか褒めてくれるだなんて思わなかったのでシアは驚きと喜びを感じた。
「着眼点が石だなんてダイゴさんは石がお好きなんですね。お屋敷にも石が沢山飾られていたのでそう思ってました。」
「さすがシアちゃん、よく気がついたね。」
「そうだよ、ボクは石が好きなんだ。」
「石には歴史やロマンがある。まるで人やポケモンみたいにね」ダイゴは真剣な表情でシアを真っ直ぐ見つめながら話す。
「ボクとシアちゃんの趣味はどこか似ているかもしれないね。」
趣味への理解者が現れシアはダイゴの言葉で心の中に暖かい物を感じた。
ダイゴは壁にかけてあるポッポ時計に目を向けた。時間は午後の5時を過ぎていた。
「おっと、もうこんな時間だ。」
「ここは落ち着いていて居心地がいいからボクにとってはゆっくりできそうなお店だよ。また来ようかな。」
シアは一瞬「えっ」と苦い表情を浮かべたが即座に「ダイゴさん、また来てねえ~!」とロタラの元気な声に押された。
「シアちゃんちょっといいかな?」
会計を済ませたダイゴは目線で外に出るように合図する。
「私、外まで送って来ます」
シアはダイゴと玄関を出た。当たりは既に夕日も落ち薄暗くなっていた。
辺りを見渡し誰もいないことを確認するとダイゴは話し始めた。
「最近、実家に来ていた来客が解ったんだ。」
シアはダイゴの発言にはっとする。
「夜だったからメイド達からも目撃情報が少なかったんだけど、どうやらデボンと最近取引を始めたグループの社員みたいなんだ」
「なぜわかったんですか?」
「この話は夜の戸締りを任されていたメイドからの話しなんだけど」
「3日前の夜の8時ぐらいにおやじが帰ってきた時一緒に来客として訪ねてきた人がいたらしくてね。おやじはその日はその人とリビングで話していたみたいなんだ。」
「客室ではなくてリビングで?」シアは首を傾げる。普通来客が来た時は客室で話すからだ。
「来客に気がついたメイドがお茶を持ってきたそうなんだけどリビングに訪れた時にはすでに居なかったそうなんだ」
「メイドによるとドア越しで(我々は新グループなので助かっています)など会話が聞こえたそうな」
「そして、窓を開ける様な音もどうやら聞こえたらしい」
「なるほど、もしかしたらタバコを吸うために外に出たのかもしれませんね。これは詳しく調査をしてみる必要がありますね。」シアは腕を組みながら思案するように首を傾げた。
「シアちゃんおやじの調査を引き続きよろしくね」ダイゴは頷く。
「わかりました。明日お父様の周りを重点的に調べに行きます。」
「頼んだよ。ではボクはこれで。」
「ここの喫茶店ゆっくりできて気に入ったよ。」
「それに、シアちゃんと趣味の話ができて嬉しかったよ。また話せたらいいね」
「それは、どうも。」
照れながら少し下を向く。まだ若干恥ずかしさが残ってるみたいだ。
街灯が着き明るくなった街中の方へ小さくなるダイゴの背中を眺めながらシアは「好きなことを語るダイゴさんってあんな情熱的な顔するんだ」と関心を抱き始めていた。
【ダイゴの意外な一面を知れてお互いの距離が少し縮まったシア。それは石に導かれた運命なのかもしれない】
プチsideストーリー更新中「本編chapter5 side~ダイゴとアクアリウム」
◀◀ To Be Continued
ラックは机の上に並べた資料に目を通していた。
最近、事務所を訪ねてくる依頼人が増えてきたからか定期的に資料の整理を行わないと机があっという間に資料だらけになってしまう。
ファイルに入れながら内容の確認をしているとドアから「コンコン」とノックする音が聞こえた。
ノックの音を聞きラックは少し不審に思った。今日は訪ねてくる依頼人はいない。この探偵事務所は予約制だ。
「はい、どちらさまですか?」
ラックはドアの方に目を向けながら問う。
「ボクです。ダイゴ です。突然ですみません。」
ラックは声の主がダイゴだとわかると安堵する。
「ああ、ダイゴさんですか。どうぞお入りください」
ガチャリとドアが開きダイゴ が中に入る。
「お忙しい中失礼します。」
「お久しぶりですね。どうですかシアはちゃんとお役に立てていますか?」
「はい、心強い味方になってくれています。」
「それに、とても興味深い子だと思ってます。」
ダイゴは微笑みながら話し辺りを見渡す。
「ところで、シアちゃんは居ますか。」
「生憎シアは今日は休みでして。何かありましたか。」
「伝えたいことがありまして。連絡しても返信が無くて、たまたま事務所の近くに来ていたので寄ってみました。」
ラックはダイゴがわざわざ事務所まで足を運んでくれたことを申し訳なく思い
「それはそうでしたか。すみません、休日を事前に教えていなくて」と謝る。
「いや、構わないですよ。では、後日改めて連絡しようかな」
「ダイゴさん、せっかくこちらまで来ていただいたのですから下の喫茶店にでも行ってゆっくりしていかれてはどうですか」提案した後ラックは軽く頷く。
ダイゴは顎に手を当てて少し考えた後「そうですね、今日は時間があるし行ってみようかな」と微笑んだ。
事務所を後にしたダイゴ はビル一階の喫茶店の前に立った。
喫茶店は、ビルの1階に入居しており洋風レトロの外観になっている。ドアの中心部にはモンスターボールが描かれたステンドグラスが内側から光を照らされており輝いている。喫茶店のドアの横には、植木や花が植えられていてどこか柔らかい印象を受ける。ドアの上には「喫茶ペルレイ」と書かれた看板がかけらていた。
(事務所に来る時に何となくお店が入っているなとは思っていたけど喫茶店だったのか)ダイゴは喫茶店の外観を眺めた後ドアを開ける。すると「カランコロン」とドアチャイムが鳴った。
店の中に入ると木材を基調としたアンティークなデザインのイスとテーブル達や中央のカウンターからはサイフォンのフラスコで温められ沸騰した湯が気泡を上げながらコポコポ鳴っている様子が目に入った。そして、コーヒーの柔らかいスモーキーな香りが店内に広がっていた。
するとダイゴはある気配を感じた。店の中に入っていくとそこにはライトに照らされた水槽が置いてあった。
水槽は、水草が端整に植えられており水系風景を作り上げている。水草の周りには色とりどりの熱帯魚が優雅に泳ぎ回っている。手前にはケイコウオとドオーの小さな置物がモスの上に飾られていた。水草の根元をよく見ると石に根を巻き付けてあり石も水草と調和し水系風景に溶け込んでいた。
ダイゴはとても興味深そうに水槽を眺めていると「いらっしゃいませ」と声が聞こえた。水槽から目を離し声の方向に目を向けると片寄三つ編み姿で小柄の女性ウェイトレスがダイゴの前に立っていた。
「シアちゃん!」
ダイゴはウェイトレスを見るなり驚いた表情を見せた。
「あれ、ダイゴさん?」
「どうしてここへ」
シアは自分が声をかけた相手がダイゴだとわかると驚き唖然とした。
「たまにはボクもコーヒーが飲みたくてね。知り合いに勧めてもらったのさ」ダイゴは薄ら笑いをする。ラックが自分に喫茶店を勧めてきた理由が解かったからだ。
「そ、そうなんですか~」シアは中身のない空返事をした後(ラックさんめ~!)とラックを憎んだ。
シアが苦笑いしながらその場をやり過ごそうとしようとしたその時「あら、パチリスちゃんお客さん?」と声が聞こえた。
声のする方へ振り向くと長身で後ろでまとめたピンクの長髪ををした人物がカウンターから興味深そうにこちらを見ていた。赤ぶち眼鏡がライトに照らされ光っている。
「まぁ~!ホウエンチャンピオンのダイゴさんじゃな~い!!テレビやネットで見てたけどいい男ねえ。」
ピンクの長髪の人物は呆然とした表情のダイゴを見るなりいきなり高揚した様子を見せた。
「ハハ、どうも」
ダイゴは興奮に圧倒され苦笑いを浮かべる。黄色い声援には慣れている。
「ダイゴさん、こちらの方はここの喫茶店のオーナーのロタラさん。昔カロスでシェフをしてたんですって。」シアは手を差し出しながら紹介する。
「は~い!私はロタラよ~。好きな物は甘いもの!タイプのトレーナーはからておう!よろしくね~。」ロタラは両手を振りながらノリノリで話す。ダイゴは「よろしく」と微笑み返した。
「挨拶も済んだことだしダイゴさんお好きな席へどうぞ」
ダイゴは辺りを見渡した後奥の窓側の席に腰を掛けるとシアが「こちら、メニューなります。」とメニュー表を渡してきた。
「驚いたな、まさかシアちゃんが喫茶店で働いてたなんて。」
「ダブルワークですよ。探偵だけでは収入安定しないので。週に2日半日程度ここで働いてるんです。」
「最近はメイドとしても働いてるのに給料が低いってかい?」ダイゴは含み笑いを浮かべる。
「そんなこと思ってないです!」シアはダイゴに図星を突かれ慌てた表情を見せる。
「顔に書いてあるよ」
シアは返す言葉が見つからず「むぅ~」としかめっ面でしか返すことができなかった。
シアの困り顔を見てダイゴは思わず「ははは!」っと笑いだした時だった。何かがダイゴの足にまとわりついた。
「ん?」
足元が暖かくなり不思議に思いダイゴは目線を下げた。するとそこには綿のようなフワフワな羽毛を持つチルットだった。
チルットは「キュウウ~」と鳴きながらダイゴの足にしがみついている。
「ああ、このこはチルット。すごい人懐っこいの」
「へぇー。チルットか」
ダイゴはチルットの頭を撫でた。するとチルットは嬉しそうに身体を震わせた後膝の上に乗ってきた。
「チルットったら。ごめんなさい」
「構わないさ。たまにはふわふわで暖かい触感もいいね。」
「では、ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」とシアは一度席から離れようとすると「シアちゃんのオススメはなんだい?」とダイゴはメニュー表を手に取り眺めながらたずねてきた。
「そうですね、初めて入店された方なら先ずはブレンドなんていかがでしょうか?ブレンドはその店の顔とも言えますし、その店のこだわりやテイストが解るのでオススメです。」
「なるほど、お店本来の味を知るってことだね。いいチョイスだと思うよ。では、ブレンドを頂こうかな。」
「かしこまりました。ミルクと砂糖はお付けしますか?」
「ボクはブラック派だからいらないよ」
「覚えてね」
シアは(まさか通うつもりじゃあ、、、。)とダイゴの言動に少し引っかかったが「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。メニューお下げ致しますね。」と注文を受けるとカウンターの方へ戻って行く。
「ロタラさんブレンドお願いします。」
お店では主にロタラがコーヒーを淹れている。日替わりでロタラと交代でシアもコーヒーを淹れている。
「は~い!ところでパチリスちゃんチャンピオンと知り合いなの?」ロタラはコーヒー豆を挽きながら話しかける。
「まあ、仕事のお客さんですが」シアは流し目で答える。
「そうなの、じゃあチャンスね」ロタラは目を輝かせる。
「何がですか?」
「そりゃあ、ゲットよ!」ロタラはガッツポーズをする。
「はあ?」
シアは突拍子もないことを言われて唖然とする。
「ホウエンチャンピオンそれにデボンコーポレーション御曹司に出会えたんだからこれって運命じゃない?」
「ロタラさん、あのねえ。ダイゴさんは仕事のお客さんですよ!そんな目で見るわけないじゃないですか」
「え~、もったいなあい!私だったらヨクバリスみたいにガツガツいくわよ~。」
「もう、ロタラさんったら」シアは呆れた表情を浮かべながら洗い物を始めた。
注文を受けてから数分後ダイゴが座っている席に淹れたてのコーヒーを運んだ。
「お待たせ致しました。こちらブレンドになります。」
「頂くよ」
コーヒーからは香ばしくどこかナッティーな香りが漂う。ダイゴはゆっくりとコーヒーを口に含む。柔らかでしつこくない酸味と深みのある苦みが絶妙なバランスを奏でるテイストが口いっぱいに広がった。
「美味しいね」ダイゴはコーヒーを見つめ微笑む。
「よかったダイゴさんのお口に合って」シアはダイゴの笑顔を見ると嬉しくなり微笑み返した。
「ところで、水槽とても綺麗だね。」
ダイゴは奥の水槽に目を向ける。
「あ、その水槽はええっと・・・。」
話をはぐらかそうとするが言葉が見つからない。
「パチリスちゃんが管理してるんだよね~。」
モジモジしているといきなりカウンターからロタラが覗き込んできた。
「ロタラさん!」シアは少し焦る。
「え~、それくらい教えたってもいいじゃな~い。」
ロタラはわざと頬を膨らませた表情を見せる。
「その、好きなんですアクアリウム・・・。おじさん趣味みたいでしょ?」
痺れを切らしシアは顔を赤らめ更にモジモジしながボソリと呟いた。
「アクアリウム?」
ダイゴは意味が解らず聞き返した。
「水槽に水草や熱帯魚を入れて水系風景を作り上げることです。」
「私の趣味なんです。自分だけの世界を作り上げてるみたいで楽しいんです。」
「へぇ、シアちゃんの趣味なんだ。」
恥ずかしそうに伏し目がちになっているシアにダイゴは微笑みかける。
「趣味があることはいいことだよ。」
「そうですか。」シアは顔を傾げた。
「趣味は心を豊かにする。趣味が合う人との繋がりは素晴らしいよ。」
「とても素敵な趣味だと思うね。それにしても本当に美しい水槽だ。中でも溶岩石と貝堆石がアクセントになっていてとても素晴らしいよ。」
自分の趣味を小馬鹿にすることも無くまさか褒めてくれるだなんて思わなかったのでシアは驚きと喜びを感じた。
「着眼点が石だなんてダイゴさんは石がお好きなんですね。お屋敷にも石が沢山飾られていたのでそう思ってました。」
「さすがシアちゃん、よく気がついたね。」
「そうだよ、ボクは石が好きなんだ。」
「石には歴史やロマンがある。まるで人やポケモンみたいにね」ダイゴは真剣な表情でシアを真っ直ぐ見つめながら話す。
「ボクとシアちゃんの趣味はどこか似ているかもしれないね。」
趣味への理解者が現れシアはダイゴの言葉で心の中に暖かい物を感じた。
ダイゴは壁にかけてあるポッポ時計に目を向けた。時間は午後の5時を過ぎていた。
「おっと、もうこんな時間だ。」
「ここは落ち着いていて居心地がいいからボクにとってはゆっくりできそうなお店だよ。また来ようかな。」
シアは一瞬「えっ」と苦い表情を浮かべたが即座に「ダイゴさん、また来てねえ~!」とロタラの元気な声に押された。
「シアちゃんちょっといいかな?」
会計を済ませたダイゴは目線で外に出るように合図する。
「私、外まで送って来ます」
シアはダイゴと玄関を出た。当たりは既に夕日も落ち薄暗くなっていた。
辺りを見渡し誰もいないことを確認するとダイゴは話し始めた。
「最近、実家に来ていた来客が解ったんだ。」
シアはダイゴの発言にはっとする。
「夜だったからメイド達からも目撃情報が少なかったんだけど、どうやらデボンと最近取引を始めたグループの社員みたいなんだ」
「なぜわかったんですか?」
「この話は夜の戸締りを任されていたメイドからの話しなんだけど」
「3日前の夜の8時ぐらいにおやじが帰ってきた時一緒に来客として訪ねてきた人がいたらしくてね。おやじはその日はその人とリビングで話していたみたいなんだ。」
「客室ではなくてリビングで?」シアは首を傾げる。普通来客が来た時は客室で話すからだ。
「来客に気がついたメイドがお茶を持ってきたそうなんだけどリビングに訪れた時にはすでに居なかったそうなんだ」
「メイドによるとドア越しで(我々は新グループなので助かっています)など会話が聞こえたそうな」
「そして、窓を開ける様な音もどうやら聞こえたらしい」
「なるほど、もしかしたらタバコを吸うために外に出たのかもしれませんね。これは詳しく調査をしてみる必要がありますね。」シアは腕を組みながら思案するように首を傾げた。
「シアちゃんおやじの調査を引き続きよろしくね」ダイゴは頷く。
「わかりました。明日お父様の周りを重点的に調べに行きます。」
「頼んだよ。ではボクはこれで。」
「ここの喫茶店ゆっくりできて気に入ったよ。」
「それに、シアちゃんと趣味の話ができて嬉しかったよ。また話せたらいいね」
「それは、どうも。」
照れながら少し下を向く。まだ若干恥ずかしさが残ってるみたいだ。
街灯が着き明るくなった街中の方へ小さくなるダイゴの背中を眺めながらシアは「好きなことを語るダイゴさんってあんな情熱的な顔するんだ」と関心を抱き始めていた。
【ダイゴの意外な一面を知れてお互いの距離が少し縮まったシア。それは石に導かれた運命なのかもしれない】
プチsideストーリー更新中「本編chapter5 side~ダイゴとアクアリウム」
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