十輪咲いた
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川を遡って遡って、とうとう開けた場所についた。
どうやら此処が水源のようだった。
『少し遅くなってしまったが、此処で昼餉をいただこうか』
そう言って、峡は二人が座っても汚れそうにない大きめの岩を見つけて腰かけた。
京治も腰を下ろすと、ふぅ、と荒い息をついた。
『慣れない山登りだもんなぁ、無理をさせたね。
昼餉の後も、暫くここで休もう』
申し訳なさそうに京治の額の汗を拭ってやる峡も、汗まみれだ。
身体は疲れて苦しかったが、心は弾むようでくすぐったかった。
「こんなに、たくさん歩いたのは初めてなので、とても楽しいです。
…また、連れてきてくださいますか?」
もじもじと下を向いて、無自覚だろうが未来の話をする京治に、
峡は嬉しい思いを隠し切れないように顔をほころばせるのだった。
柚が持たせてくれた弁当の握り飯を頬張りながら、峡はまた周辺の生き物の話をしつつ、銀樹まではもう少しだと言った。
『銀樹は水源より上に生えることが多い。
俺がこの山で知っている銀樹はこの水源よりもう少し北、もう少し上ったところに生えているんだ。
京治の足がもう少し楽になってきたら出発しよう。
それまでは、…ああ、この水源の話でもしようか』
峡が指さす先は水源の、水がちょろちょろと湧いている辺りだった。
『よく見てごらん。あの水が染み出ている辺り、一面苔だろう?
そこらの人間は知らないだろうが、あれも妖物の類でね。
“泉苔”というのさ。俺たちのような目を持つものにしか見えないんだよ。』
「!あれは見えないものなのですか?」
驚いて苔をじっと見る京治に、峡は続けた。
『山の水気を集めて吐き出すから、水源になっていることが多いんだよ。
それと、ほら、あそこ。泉苔が群生している中に少しだけ、赤い苔があるのが見えるかい?』
京治が目を凝らして見てみると、確かに一部だけ赤い苔が生えている。
『あれはとても珍しいんだ。本当に稀にしか生えていない。
“穢れ苔”という』
「けがれ?汚いのですか?」
京治はよくわからないといったような顔をした。
『汚れているわけではない。ただ、あの世に近いもの、血を流す苔なのさ』
「血…、」
元家族から受けていた体中の傷から血が流れだすような気がして、
京治はぶるりと身を震わせた。
『そんなに怖がる必要はないよ。あれもまた、人を生かしてくれるものだ。…我々呪術師の、ほんの一握りしかできないことだが。
輸血、と言われている治療ができる。まだ世界中のどこでもできないし解明されていないが、俺たちは知っているのさ。
穢れ苔から流れ出る血は、人の体に流すことができる。
血を流しすぎた人を、助けることができる。
・・・・・・これは、一部の術師の間でしか言えない秘密事項、というより信じてもらえないんだけどね』
どうやら此処が水源のようだった。
『少し遅くなってしまったが、此処で昼餉をいただこうか』
そう言って、峡は二人が座っても汚れそうにない大きめの岩を見つけて腰かけた。
京治も腰を下ろすと、ふぅ、と荒い息をついた。
『慣れない山登りだもんなぁ、無理をさせたね。
昼餉の後も、暫くここで休もう』
申し訳なさそうに京治の額の汗を拭ってやる峡も、汗まみれだ。
身体は疲れて苦しかったが、心は弾むようでくすぐったかった。
「こんなに、たくさん歩いたのは初めてなので、とても楽しいです。
…また、連れてきてくださいますか?」
もじもじと下を向いて、無自覚だろうが未来の話をする京治に、
峡は嬉しい思いを隠し切れないように顔をほころばせるのだった。
柚が持たせてくれた弁当の握り飯を頬張りながら、峡はまた周辺の生き物の話をしつつ、銀樹まではもう少しだと言った。
『銀樹は水源より上に生えることが多い。
俺がこの山で知っている銀樹はこの水源よりもう少し北、もう少し上ったところに生えているんだ。
京治の足がもう少し楽になってきたら出発しよう。
それまでは、…ああ、この水源の話でもしようか』
峡が指さす先は水源の、水がちょろちょろと湧いている辺りだった。
『よく見てごらん。あの水が染み出ている辺り、一面苔だろう?
そこらの人間は知らないだろうが、あれも妖物の類でね。
“泉苔”というのさ。俺たちのような目を持つものにしか見えないんだよ。』
「!あれは見えないものなのですか?」
驚いて苔をじっと見る京治に、峡は続けた。
『山の水気を集めて吐き出すから、水源になっていることが多いんだよ。
それと、ほら、あそこ。泉苔が群生している中に少しだけ、赤い苔があるのが見えるかい?』
京治が目を凝らして見てみると、確かに一部だけ赤い苔が生えている。
『あれはとても珍しいんだ。本当に稀にしか生えていない。
“穢れ苔”という』
「けがれ?汚いのですか?」
京治はよくわからないといったような顔をした。
『汚れているわけではない。ただ、あの世に近いもの、血を流す苔なのさ』
「血…、」
元家族から受けていた体中の傷から血が流れだすような気がして、
京治はぶるりと身を震わせた。
『そんなに怖がる必要はないよ。あれもまた、人を生かしてくれるものだ。…我々呪術師の、ほんの一握りしかできないことだが。
輸血、と言われている治療ができる。まだ世界中のどこでもできないし解明されていないが、俺たちは知っているのさ。
穢れ苔から流れ出る血は、人の体に流すことができる。
血を流しすぎた人を、助けることができる。
・・・・・・これは、一部の術師の間でしか言えない秘密事項、というより信じてもらえないんだけどね』