十輪咲いた
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籠の底が見えなくなるくらいに採っても、青桃はまだまだ実っていた。
だが峡は全ての実を収穫せずに大半を残した。
「まだ籠に入るのに、もう採らないのですか?」
京治が不思議そうに尋ねると、峡は少し離れた藪の影を指さした。
『俺たちが全て採りつくしてしまったら、この山が困るのさ。
ほら、見てごらん。あそこの藪から狸がこっちを見ているだろう?』
峡の指さす藪の影をよく見てみると、確かに茶色い毛の塊がこちらを見ている。
その茶色は、痩せこけて少し震えていた。
「あれが、たぬきと言う生き物なんですね」
生まれて初めて見る狸は、何だか聞いていたものと違った。
もっとふくよかで、ふわふわしていて、腹を叩くと太鼓のような音がする。
そんな昔話に出てくる狸を想像していた。
『ああ、そうだよ。あれは痩せているから、力の弱い狸なんだろう。
食べ物の争奪戦に負けて、飢えているんだ。
・・・青桃の実を、食べに来たのさ』
「…え、?青桃は、冬に食べちゃ、」
困惑した京治に、峡は真剣な、しかし少しばかり悲しそうな顔をして言った。
『そう。青桃は冬に食べると死んでしまう。
でもあの狸は腹が減っているんだ。食べないと死んじまうって思ってる。
食べたら死んでしまうなんて、もうわかっていないんだ。』
「そんな、」
『俺たちが去った後あの狸は、この青桃を食べるだろう。
ここで、腹が膨れて幸せな気持ちで、体温を失って逝くのさ。
そうしてその亡骸は、この樹の下で朽ちて土に還り、この樹の養分になる。
ほら、よく見てみなさい。この樹の下には、今までに青桃を食べて朽ちた生き物の骨が残っている。』
京治は足元を見て、ひっ、と引き攣った声を上げた。
そして、心底恐ろしいという顔をして峡を見上げた。
『恐ろしいし、可哀そうだろうが、これが生き物の理だ。
青桃はただ自分が生きるために殺しているわけではないよ。
種族の数が増えすぎて食いっぱぐれた個体を食ってやる事で、生き物の数を守っているんだ。
食うものも食われるものも、大体決まった数から増えても減っても、滅びてしまうものだからね。』
峡は京治の頭をぽんぽんと撫でると、籠を背負った。
『さあ、行こう。
丁度小川の横だ。この川を辿って行けば、銀樹の近くに出られるだろう』
川上の方へ歩き出して振り返り、おいでと笑う峡を見て、
京治は自分の籠を背負ってもう一度狸を振り返りお辞儀をしてから後を追った。
だが峡は全ての実を収穫せずに大半を残した。
「まだ籠に入るのに、もう採らないのですか?」
京治が不思議そうに尋ねると、峡は少し離れた藪の影を指さした。
『俺たちが全て採りつくしてしまったら、この山が困るのさ。
ほら、見てごらん。あそこの藪から狸がこっちを見ているだろう?』
峡の指さす藪の影をよく見てみると、確かに茶色い毛の塊がこちらを見ている。
その茶色は、痩せこけて少し震えていた。
「あれが、たぬきと言う生き物なんですね」
生まれて初めて見る狸は、何だか聞いていたものと違った。
もっとふくよかで、ふわふわしていて、腹を叩くと太鼓のような音がする。
そんな昔話に出てくる狸を想像していた。
『ああ、そうだよ。あれは痩せているから、力の弱い狸なんだろう。
食べ物の争奪戦に負けて、飢えているんだ。
・・・青桃の実を、食べに来たのさ』
「…え、?青桃は、冬に食べちゃ、」
困惑した京治に、峡は真剣な、しかし少しばかり悲しそうな顔をして言った。
『そう。青桃は冬に食べると死んでしまう。
でもあの狸は腹が減っているんだ。食べないと死んじまうって思ってる。
食べたら死んでしまうなんて、もうわかっていないんだ。』
「そんな、」
『俺たちが去った後あの狸は、この青桃を食べるだろう。
ここで、腹が膨れて幸せな気持ちで、体温を失って逝くのさ。
そうしてその亡骸は、この樹の下で朽ちて土に還り、この樹の養分になる。
ほら、よく見てみなさい。この樹の下には、今までに青桃を食べて朽ちた生き物の骨が残っている。』
京治は足元を見て、ひっ、と引き攣った声を上げた。
そして、心底恐ろしいという顔をして峡を見上げた。
『恐ろしいし、可哀そうだろうが、これが生き物の理だ。
青桃はただ自分が生きるために殺しているわけではないよ。
種族の数が増えすぎて食いっぱぐれた個体を食ってやる事で、生き物の数を守っているんだ。
食うものも食われるものも、大体決まった数から増えても減っても、滅びてしまうものだからね。』
峡は京治の頭をぽんぽんと撫でると、籠を背負った。
『さあ、行こう。
丁度小川の横だ。この川を辿って行けば、銀樹の近くに出られるだろう』
川上の方へ歩き出して振り返り、おいでと笑う峡を見て、
京治は自分の籠を背負ってもう一度狸を振り返りお辞儀をしてから後を追った。