九輪咲いた
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峡が京治の手を引いて静かに机のそばにしゃがんだ。
京治もそれに倣ってそろりとしゃがむ。
そして覗き込んだ先には、
巣があった。
「!」
そしてその中に、いくつかのふわふわとした小さな丸い物が動いている。
『声を出さないようにして、見ておいで』
峡は京治の耳元でそう囁くと、
ちっちっちっ
と小さく何度か舌を鳴らした。
すると、
白や灰色の丸い何かが反応し、綿毛が風に乗るようにふうわりと浮いて峡の掌に群がった。
『よしよし、ほら京治、見てごらん。お前も気に入るといいが』
そうして見せてくれたのは、見たことが無い珍妙な生き物だった。
真ん丸な体に白や灰色の毛皮、そこに小さな瞳が二つ。
そして目の位置から察するに尻のあたりの場所から尻尾のような細長いものが伸び、
その先にまた丸くてふわふわした体を小さくしたようなものが付いている。
其の内の一匹が京治に気が付いてほわほわと宙を浮き近づいてきた。
京治は驚いたが、峡が微笑んでいるのでそのまま動かずに固まる。
白くて一番大きい(といっても掌に収まるほどの大きさだが)その一匹は一度止まって尻尾を振ると、
京治の頬にすり寄った。
ふわふわとした心地の良い暖かさが京治の頬を撫でる。
京治がくすぐったくて息を漏らすと、
峡の手に群がっていた他のモノたちも一斉に京治にすり寄り始めた。
『はは、気に入られたみたいだな。もう声を出してもいいぞ京治』
「っ、ふ、ふふ、何ですかこの生き物は?く、くすぐった、はは」
京治の笑顔に満足した峡は、嬉しそうに説明をしだした。
『これは“わたもどき”という妖物の一種だ。
主に塵や埃を食べる生き物でね、掃除の手間を省くために術師の中ではこうやって飼う者が多いんだ。
人懐っこいのがほとんどでね、まだ小さいうちに髪の毛や爪の切れ端なんかを与えてやると、
主従関係ができて、約二年の生涯ずっと側にいてくれるんだ。
鼠並みに増えるから、他にも屋敷中沢山住み着かせているよ。
主従の契約をせずに大きくなったわたもどきは所帯を持つために旅立っていくから、
定期的に新しく生まれた子の半分と主従を結んでいる。
どうだい、気に入ったか?』
峡がそう話している間にも、ふわふわほわほわと京治にすり寄るわたもどき達に、
京治は微笑みながら答えた。
「はい、とっても。
暖かくてふわふわしていて、可愛いです」
『そうか。それはよかった』
峡は嬉しそうに笑うと、京治の頭を優しく撫でて言った。
『丁度この巣にも今朝チビ達が生まれたんだ。
気に入ったなら、京治も主従を結んでみないか?
部屋で飼ってみるといい』
「!本当ですか?」
京治の初めて見せる嬉しそうな表情に、峡は大きくうなずいて巣に手を寄せた。
すると、
ちー、ちー
と小さな鳴き声がして、
峡の掌に、親指の爪程の小さなわたもどきが七匹乗った。
「ちいさいですね…」
目を輝かせた京治がほぅ、と息を吐く。
そして峡は鋏を京治に手渡して言った。
『この七匹の中から好きなだけ選んで主従を結びなさい。
やり方は、髪の毛や爪を、そのわたもどきの体の半分の長さに切って手から直接渡してやるだけだ。
でも、可愛いからだとか欲しがるからだとか言って、それ以上に手から直接体の一部を与えてしまうと、
味を占めて体を食い尽くしに来る恐ろしい面もあるから気をつけなさい。
約束事さえ守っていれば可愛いやつらだから、怯えることは無いけどね。』