參
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「それでは…行ってまいります」
早朝、市女笠を被った咲桜は涙を流す女中達に見送られながら、格式張った門をくぐった。
女中が用意した宿儺邸までの地図を見ながら、砂利地を歩く。
優しい太陽の光が市女笠を被った咲桜に降り注ぎ、咲桜は大きく深呼吸した。
初めての屋敷外の空気は驚くほど澄んでいた。
これから"生贄"になるとは思えないくらい高揚した気持ちで咲桜は鼻歌を歌いながら宿儺邸に向かった。
宿儺邸は山の頂上に立っており、初めて外に出て、普段から平坦な場所しか歩かない咲桜にとって、山道をずっと歩くのは体力的にきつい。
木陰にある大きな岩に腰掛け、持ってきていた竹筒で喉を潤した。
たらりと頬を伝う汗を手ぬぐいで拭き、地図で現在地を確認する。
「この道をまっすぐ行けばいいのかぁ……歩きすぎるとこんなにも足が痛くなるのね……あと少し頑張るのよ咲桜」
咲桜は痛む足を擦り、一呼吸おいて立ち上がり、宿儺邸へ足を向けた。
宿儺邸の周りは鬱々とした空気に包まれていた。
昼間だという何故かどんよりとした空気に、咲桜の気持ちが引き締まる。
湿った潜り門を叩くと、くぐり戸から白髪おかっぱ頭をした男とも、女とも見受けられる人が顔を出した。
「お待ちしておりました。どうぞ中へ」
裏梅というおかっぱ頭は、咲桜を屋敷の中へ招き入れた。
裏梅の後ろを歩き、連れてこられたのは広い和室。
「こちらでお待ちください」
咲桜は言われたとおり、下座に正座して待った。
数分待っていると部屋に近づくずっしりと重い足音が聞こえた。
少々乱暴に襖が開き顔を向けると、そこには裏梅と、目が4つ、手が4つの、人間とは異型の宿儺が立っていた。
躰も身丈も迫力のある宿儺に見下され、咲桜の躰は一瞬硬直したが、直ぐに頭を垂れた。
宿儺は用意された座布団に胡座をかき、肘置きにもたれ掛かる。
「面を見せろ」
低く太い声が咲桜の耳に木霊し、彼女は顔を上げた。
4つの目で躰を射抜かれる。
怯えては駄目よと、じっと宿儺を見つめた。
宿儺はズシリズシリと畳を鳴らしながら咲桜の前に立ち、屈んで彼女の頬を片手で掴む。
「不味くはなさそうだな」
「いかが調理致しましょう?」
裏梅が頭を垂れながら宿儺に尋ねると、宿儺はまじまじと咲桜の躰を見た。
咲桜はその間黙って宿儺の行動を眺めていると、強い力で腕を掴まれ顔を顰めた。
「痛いか」
ケヒヒと、独特な笑い声をあげる宿儺を咲桜は睨むことなく、冷静に落ち着いて声を出す。
「えぇ。勿論。生きておりますゆえ…」
「……生きてる、か……裏梅、小娘に茶を出してやれ」
「御意」
裏梅が部屋を出ると、宿儺は咲桜から手を離し、また座布団に胡座をかいて肘置きに身体を預けた。
重苦しい静けさが咲桜の身体を包む。
「小娘がここに来たのは、呪術師共の」
「ええ。所謂生贄でございます」
「…生贄…?」
宿儺が鼻で笑う。
「こんなヒョロヒョロの小娘が生贄など、俺も見くびられたもんだ」
「もっとふくよかな女子の方がよろしいですか?」
「……あぁそうだな。だが貴様の肉は質がいい」
宿儺がケヒヒと笑ったあと、静かに襖が開き、裏梅がお茶を持ってきた。
出されたお茶を一口飲む。
今まで力が入っていた躰がほっと温まり落ち着ついた。
裏梅は、咲桜に茶を出し終えると直ぐに宿儺のそばによって「夕餉は彼女で?」と尋ねた。
「いや」
宿儺は、「小娘に部屋を用意してやれ」と裏梅に言った。
「部屋…ですか?」
「あぁ。まだあいつは食わん、少し飼う」
「……御意」
裏梅は頭を垂れ、部屋を後にした。
そして、ずっと使われていない客間を軽く掃除するために、掃除用具を手に客間に向かった。
続