第29話/人間の美徳【HAPPYEND√】
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悠仁の言うとおり、咲桜は中庭にいた。
夏の眩しい光に照らされながら、ジョウロで花壇に咲いた花に、鼻歌を歌いながら水をやっている。
僕は、咲桜の名前を呼んで彼女が振り向くと同時に抱きしめた。
バランスを崩しそうになる彼女の手からジョウロが落ち、中に入った水がかかる。
「あぁ…水が……急に…どうしたの?…お母さんには…会えた?」
「うん。会えたよ。会えた…」
「お話…した?」
「うん…した」
「よかった…」
声だけしか聞こえないけど声色だけで心から歓んでいるのがわかる。
柔らかい口調。
「咲桜…ありがとう…」
彼女の首元に鼻先をうずめると、お日様の匂いがした。
「うん…」
咲桜は、僕の背中に腕をまわして「順平君が喜んでくれたなら、私も嬉しいよ」と暖かい言葉が耳元で響く。
それが僕の涙腺を刺激した。
「なんで…」
「ん?」
僕はマジックテープを剥がすみたいに、咲桜の肩を持って離した。
涙が目に溜まって、咲桜の顔がぼやける。
「…なんで、僕の為にそこまでしてくれるの?…僕は、咲桜に何もしてあげてない……なんで?」
「…」
「僕や、母さんを生き返らせたり、僕の罰則を軽くしたり……なんで……そこまでできるの?なん…でっ…僕の、為に……」
頬を冷たい涙が流れたとき、咲桜の暖かな指がそれを拭った。
「それはね。…順平君のこと愛してるからだよ」
頬を染めて、目を瞑るように笑う彼女をみていると、体の中を心地よい風が通り過ぎていった。
「だだ、それだけ……それ以上でもそれ以下でもない……無償の愛だから、見返りは望んでないよ。順平君が幸せでいてくれたら、私は幸せなの」
魂が燃えるように熱くなった。
熱くて…。
熱くて、僕はまた咲桜を抱きしめた。
「あり…がとう……僕もっ…咲桜が幸せなら、それでいいんだ…っ」
「うん。うん…嬉しい…」
僕は、いつだったかツギハギの男に、無関心こそが人間の美徳だと言ったことがあった。
でも、人間の美徳はやっぱり、僕が一度馬鹿にしたあの人の言うように、例えば彼女のような……。
人を愛すること。
人に愛されること。
それこそが、人間の行くつくべき美徳なんだと……。
「咲桜。僕は…これからの人生、君と一緒に生きるよ。君の為に生きたい」
体を離して、彼女の瞳をじっと真っ直ぐ見つめると、咲桜の顔が一気に紅く染まった。
遠くの方で、五条先生が僕と咲桜を呼んでいる声が聞こえた。
僕は「呼ばれてるから行こう」と咲桜の手を取ると、彼女は僕の手をギュッと握った。
「私も、これからの人生、順平君の為に生きたい」
「うん…僕らお互い。お互いの為に生きよう」
僕と咲桜の視線がぶつかり合って、混ざり合って、一つになった時、どちらかともなく微笑みあった。
「いこう!」
夏の眩しい光が僕らを照らす。
その光に向かって、僕らは手を固く繫ぎながら、迷うことなく歩みを進めた。
最終話/世界一愛を知った僕【HAPPYEND√】へ続く