少しして
少女は大きな傷のほとんどをそのままに、身体を引きずりながら貼り付けにされている女性の元へ歩み寄っていった。

少女が歩いた後には
赤い血のカーペットが敷かれていく。

そしてすぐ傍まで辿りつくと未だ表情を変えることなくその女を見上げ、そっとその頬に手を伸ばした。

生きていると思い込んでいるのか、どこか愛おしそうに…

その姿が三人にとってはあまりにも哀れに思えて、それぞれ視線をさ迷わせたり瞼を伏せたりした。
　
すると男は嘲笑うかのように笑みを浮かべた。

「哀れな餓鬼だろう？アイツは自分が死ねない身体であるがために
他人の死を知らねぇんだ

アイツはただ眠ってるだけなんだと思い込んでいやがる」
　
もう一度、三人は少女を見た。
少女はまるで甘えるように死んでいる姉の胸に擦り寄っている。
「滑稽だろ！？」
突如叫び出す男。
現状が理解できず狂ってしまったのだろうか？
その表情は恐怖とも狂気とも取れる奇妙で不気味なもの。

「ああしていつも死体を守ってやがる哀れな餓鬼！可哀想な餓鬼なん…ドガッ」
途端、近藤は言葉を遮るように男の横っ面を思い切り殴った。

先程とは違い、気絶してしまうほどに強く。
　
土方と沖田は感じていた。
近藤が怒っていることを…
だからこそ何も言うことなく殴られた男を黙って見つめた。

「…そ、じゃ…ねぇ」
近藤から絞り出される悲痛な声。
二人は黙ったまま近藤を見る。

「あの子は知らないんじゃない…わかってはいても納得できないんだ！」

真っ直ぐ、強い眼差しで少女を見る近藤。

「そうじゃなきゃ、あの子があんな悲しい顔をするわけがねぇ！！」
　
そう言われて少女を見やれば相変わらず感情なんて無に等しいくらい無機質な表情。

土方と沖田には少女が哀しい顔をしているかなんてわからなかった。

それでも近藤はそんな少女の表情から何かを感じとったのだろう。
二人は、近藤がどうするのか事の成り行きを見届ける事にした。
　
――ザッ
すると突如少女の元へと歩きだす近藤。
戸惑った土方は慌てて止めようとする。
先ほどまで攘夷浪士を躊躇いもなく斬り付けていた少女に無防備にも近づこうなど誰が思おうか。

しかし、沖田がそれを制した。

「ここは近藤さんに任せやしょう」
　
その提案に一度は渋る土方。
しかし近藤は止めて聞く男では無いことを長い付き合いで重々承知している。
土方は、呆れたようなため息を零しながら仕方がない と懐にしまってある煙草を取り出し銜えた。

一体、どうなるのやら…

不安に苛まれる土方とは違い、沖田は好奇心の目で近藤と少女をその瞳に映していた…。