小さく 悲痛だと思わせるような声だった。

土方は辺りを見渡してみる。

確かに少女が言うように
少女は人々の注目を浴びていた。

異質なものを見るような
あってはならないものを見るような…

中にはヒソヒソとした話し声も聞こえる。
それが少女のことだという確証は無いが十中八九そうだろう。

何がそんなに興味を惹くのか

少女が真選組の制服を着用していることか
あるいはその容姿か
はたまた天人であるという事実か。

恐らくそれら全てだろうが…。

確かにこれは居心地が悪い。

もし自分が少女の立場ならば
不満や不快感が募るに違いない。

ましてや少女は昔から
他人に良い目を向けられたことがない。

過剰に反応してしまうのも仕方の無いことだった。


しかし少女が注目を浴びるのは
当然で必然なこと。


この程度で萎縮していてはキリが無い。

何故ならここは地球。
数多の人間が住まい生活している星だ。

今や天人の存在は珍しいものでない。
それでも少女の容姿は至極珍しいものなのだから。




それでも土方は悩んだ。

ここは一旦帰るべきか
それとも少女の尻を叩き進むべきか…。




「帰るのか？ここで」

そして土方は

少女に決断を委ねることにした。

少女がどうしても というならば帰ろうと。

帰ってからでも仕事はある。

巡回ならば別に自分たちが廻らずとも
他に人手はある。


「どうすんだ？」


何も答えず
俯いたままの少女に再度問い掛ける。

少女は考えた。

――かえりたい かえりたい

――ここにいたくない


けれど、それで良いのか…。

ふ、と 前髪を切ってもらった時のことを思い出した。
その時にした決意も…。

先日、他の隊士と決闘したときも
その時に感じた思いも…。


ここで逃げてはいけない。
そう思った。


だから……。





『……ら…ぃ』
またか細い声。
「？」

疑問符を浮かべる土方に
少女は俯けていた顔を上げた。
その表情は酷く疲れきっていて
帰る と言いたげではあったが
『帰らない・・・行く・・・』

少女が発した言葉はその反対だった。
まさかの返事に一瞬、驚かされたが
すぐにいつも通りに戻ると

「それじゃさっさと済ませるぞ」

踵を返し また歩みを進めた。
少女はその後を重そうな厚底ブーツの音を響かせながらついていった。






すると丁度そこに土方の行きつけである定食屋が視界に入る。

何時だろうか？と太陽を見上げれば、だいたい昼飯時。
丁度いいなと、不安そうに辺りを見渡していたスノウを促して定食屋の暖簾をくぐった。
視界に入ったのは 古風な店作りと厨房に立つ夫婦。

座ったのは土方の特等席と化しているカウンター席。

そんな土方に遅れないようにスノウも そそくさと土方の隣の椅子に腰掛けた。
｢いつもの頼む｣
そういえば あいよーと明るく、それでいて優しげな声が響く。
それだけで土方はここの常連なのだということがうかがえる。
　
｢お前は 何にすんだ？｣
視線だけをコチラによこし 懐から煙草をだしてくわえる土方にスノウは酷く戸惑った。

スノウは一般的に人が食すものを食べたりはしないのだ。
と、言っても食べられないわけではないが…。
　
とりあえずスノウは いらないと言う意味を込めてフルフルと首を振った。
すると、それに土方は微かに驚いたような表情を浮かべる。
が、それもすぐに消え いつもの表情に戻った。
彼女が天人であることを思い出したからだ。

以前、空腹により
自身の鮮血をすすっていたことも……。