モブサイコ長編(茂夫)
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茂夫達は男性に話を聞いたものの『ツメ』の手がかりは得られなかった。
「『ツメ』は強力な超能力者が多数存在する。そこで、だ。影山くん、君には味方が必要なんじゃないかい?強い力を持った味方がさ。ほら、目の前にいる…」
「目の前…。神木さん?」
「? 私はいつでも影山くんの味方だよ」
「いや、そうじゃなくて。目の前にいる、この僕が手伝ってあげるよ」
花沢はそう言って弟救出の手伝いをかってでた。
話を聞いていたラボの男性が立ち上がる。
「私も何か手伝おう!何かできることがあったら何でも言ってくれ!」
「いや、それには及ばないさ。おそらく、すぐに次の刺客がやってくる」
そこへ見知らぬ男がゆっくりと扉を開けて入ってきた。髭をはやした背の高い男性。
「影山くん、どーこかなー?」
余裕の態度で男性は近付いてくる。『ツメ』の刺客であることは明らかだった。
「思ったより早かったな。でも、丁度良い。あの人に色々聞こう」
「うん」
『ツメ』の刺客ー寺田は、茂夫・花沢にあっさり敗れる。寺田の付き人ともども花沢は拷問し口を割らせた。
「ちょっと可哀想かも…」
「うん。少し休ませて水を飲ませてから聞いた方が…」
「影山くんも意外と鬼畜だな。いいんだよ、悪人には優しくしなくて!ほら、知ってること全部吐けよ」
寺田は茂夫達に『ツメ』組織のことをすべて話した。そして茂夫達は寺田に組織のアジトまで道案内をさせる。
「あった…!」
「嘘は吐いてなかったみたいだね」
アジトの近くまできたところで花沢は車を着地させた。
「ここからは歩いていこう」
「あ」
「寺田が逃げた」
寺田は車から素早く降りて逃げていった。
「どうする?追いかける?」
「いや。あれだけこてんぱんにやられたんだ。もう襲ってこないだろう。時間もないし先を急ごう」
花沢は寺田を無視して先に進むことを提案した。茂夫達もうなずき、花沢に続く。
その時。
茂夫達の頭上に、根ごと抜き取られた巨大な樹木が浮かび上がる。樹木には鞭のようなものが巻きついており、鞭の動きに合わせて茂夫達めがけて勢いよく樹木が降ってきた。
「くっ!」
花沢はとっさに避ける。
「影山くん!神木さん!無事かい!?」
「うん。驚いた」
樹木が降ってきた時、陽葵は茂夫の手を握って力を使った。しかし、茂夫は陽葵と繋いでいない方の手をかざし、降ってきた樹木を吹き飛ばした。
「神木さん、怪我はない?」
「うん、大丈夫。ありがとう、影山くん」
二人の無事を確認した花沢はふぅ、と息を吐いた。
そんな花沢に寺田の空鞭が伸びる。花沢は鞭に捕まり、吹き飛ばされた。寺田は花沢にまた樹木をぶつけてくる。花沢は念力で樹木の動きを止め堪えた。
「くっ…!影山くん、今のうちに何とかしてくれ…!」
「わかった」
茂夫は力を使った。
バァン!!
勝負はあっけなく終わった。
寺田は樹木と樹木の間に挟まれ気を失った。
茂夫達がアジトの入口までくると警備員が見張っていた。中に入るには警備員を何とかするしかない。
「どうする?」
「茂夫、なんか考えはねーのか?」
「う、うん。律を助ける方向でいこう」
茂夫に策はなかった。
「オーケー。その方向でいこう」
さっき覚えたんだ、そう言って花沢は寺田が使っていた空鞭の技を使ってみせた。
警備員達を茂みに引っ張り込み、気絶させる。エクボは気絶した警備員の一人に乗り移りその体を支配した。
「もしかしてエクボって凄い悪霊なの?」
「うん、あぶないよ」
「どうせなら寺田ってやつの体を乗っ取ればよかったのに」
エクボは超能力者の体には耐性があり、乗っ取るには強大な力が必要になるため無理だと話した。
「まぁ、いいや。さあ、弟さんを助けにいこう」
「うん!」
茂夫達は遂にアジトに乗り込んだ。
アジトを進んでいくとすぐに構成員に見つかった。
「あ」
茂夫と花沢は同時に力を使った。
二人の力を受けた構成員は壁に大きくめり込んで気を失った。
「影山くん、雑魚は僕に任せて。弟くんの居場所を聞き出さなくちゃ」
「うん、わかった」
茂夫達は、すぐにもう一人の構成員と出くわした。今度は花沢が力を使い、構成員の動きを封じる。
「子どもが連れ去られたはずだ。彼らをどこへやった?」
「子ども…?それなら、地下に…」
情報を聞き出した花沢は構成員を気絶させる。
「地下だってさ。良かったね、影山くん。弟くんはここにいる」
「うん!」
先に進もうとした茂夫達の前に大柄な男性があらわれる。
それは、律を攫った男だった。
「こんなに早く会えるとは思わなかったぜ。そこの女ともども、ボコボコにしてやるよ!!」
男は茂夫めがけて襲いかかってきた。
茂夫は男の動きを止める。
「ごめん。今は余裕がない」
そう言って茂夫は力をふるった。
茂夫の念力で、男は高速でそこら中の壁に打ちつけられると、天井に上半身をめり込ませて動かなくなった。
圧倒的だった。
「相手に気を遣う余裕がないってことか」
陽葵は茂夫の様子を見ていて、心配だった。
超能力は人に向けて使わない。
それが茂夫の信念だった。
だけど、今。弟を救うために茂夫は力を使っている。
本当は人に向けて超能力を使いたくないはずだ。
茂夫にとって、きっとそれは心の負担になっている。
陽葵は茂夫の手を握った。
「神木さん?」
キョトンと茂夫が不思議そうに陽葵を見た。
陽葵は茂夫の手を離さなかった。
「ここからは手分けして弟くんを探そう」
花沢の提案で茂夫達は別行動をすることにした。
茂夫と陽葵は真ん中の道を進むことにする。
進んでいくと薄暗い部屋にたどり着いた。
中に入るとカタカタと動きだした人形たちに茂夫と陽葵は囲まれた。
「あの、弟を探しているんです。どこにいるか知りませんか?」
一応茂夫は人形たちに尋ねてみた。だが、人形たちは答えない。カタカタと震える人形たちは突然茂夫達に襲いかかった。茂夫は手をかざし、人形たちを一瞬で破壊する。
「ここに律はいないみたいだ。他の場所を探そう」
陽葵とともに部屋を出ようとした時、体を鍛え上げた女性がやってきた。
「侵入者って、お前たちか?なんだ、本当にまだ子どもじゃないか」
そう言うやいなや女性は茂夫に瞬時に近づき、茂夫を殴り飛ばした。
「影山くん!!」
吹き飛んでいく茂夫に陽葵が手を伸ばす。
女性は陽葵に接近し、陽葵を蹴り上げようとした。足が触れそうになった瞬間、女性は吹き飛ばされ激しく壁に体を打ちつけた。
「くっ…!何だ、その力…、防御型超能力か…!?」
女性はもう一度陽葵に近づき、今度は拳を振るう。命中するはずだった拳は軌道を曲げられ空振りに終わる。
「こいつ…!!」
「神木さんに手を出すな」
茂夫は女性と陽葵の間に割って入った。
「この子を守ろうってか。いいね、嫌いじゃないよ」
女性はターゲットを陽葵から茂夫に変えると、茂夫を蹴り飛ばした。
「影山くん!!」
吹き飛んだ茂夫に女性は迫り茂夫に拳をふるった。
茂夫は女性のパンチを腕でガードして耐えた。
ガンッ!!
女性の拳が茂夫の顔横の壁を抉る。
「あんた…何で泣いてるんだい?」
茂夫は泣いていた。
「……どうして僕が、女の人までやっつけないといけないんだ。師匠が言ってた。女の人に手を上げるのはこの世で一番やっちゃいけないことなんだ、って」
「…紳士だね。でも侮辱だよ。いいから、遠慮しないでかかってきな」
茂夫は女性を倒した。
女性は気を失って床に倒れ込む。
「影山くん…」
陽葵は茂夫にかける言葉が見つからなかった。
茂夫の手をとって陽葵は引っ張る。
「行こう。律くんを助けて、帰ろう」
部屋を出て通路を進む。分かれ道を右に曲がった。曲がって、ふと人の気配がして振り返る。
「律…くん…?」
「律!!」
振り返った先に律が気を失って倒れていた。壁は穴だらけで誰かと争ったことは明白だった。
「律!律!」
茂夫は律を抱きかかえて声をかける。
「息はある…。気を失っているだけみたい…」
陽葵の言葉にホッとした時、後ろから人影が近づいてきた。
「お前がやったのか…?」
茂夫は近付いてくる男に敵意を向ける。
男は茂夫に手をかざした。
「あ…あ…あ…あぁあぁあああ!!!!」
茂夫が力を爆発させる。
茂夫は幻覚を見せられていた。大好きな弟の律が倒れている。律の体から血があふれて、血だまりは大きく広がっていく。
律!
律!!
律!!!
嫌だ!!!!
爆発した茂夫の力は幻覚を見せている男の脳に逆流し、破壊した。
「影山くん!!!」
陽葵はエネルギーを爆発させる茂夫を抱き寄せた。白い光が茂夫と陽葵の体を包み込む。
赤。
赤。
赤。
茂夫の視界が真紅に染まった。
ぽつり。
赤い赤い血だまりに白い水滴が落ちる。
波紋が広がる。
真っ赤に染まった視界は徐々に白へと変わっていく。
真っ白な世界。
虚空から伸びてくる手。
知っている。
僕はこの手が誰かを知っている。
伸びてきた手は茂夫を優しく抱きしめた。
「大丈夫だよ」
声が聞こえた。
ああ。
やっぱりそうだ。
「神木さん…」
茂夫が彼女の名前を呼ぶ。
陽葵は茂夫に優しく微笑んだ。
爆発した茂夫の力は徐々に収まっていき、茂夫は完全に気を失った。
「へぇ。驚いた」
姿を隠していた赤い髪の少年が陽葵の前にあらわれる。
「面白い力してんじゃん。あんたも、そいつも。弟くんをエサにした甲斐があったぜ」
「………あなたがやったの?」
「?」
「あなたが律くんを傷つけたの?」
「はっ。そうだって言ったら?」
嘲笑し、おどける少年の手を陽葵が掴む。
「消す」
「なっ!?」
「あなたの力、全部消す」
陽葵は少年に向けて力を使った。少年は徐々に自身の力が抜けていくのを感じると、ニヤリと笑った。
「ははっ!ははははっ!!すげぇ!あんた、すげぇよ!!気に入った!でも、大人しくした方がいいぜ。友達を返してほしかったからな」
「何を…」
「金髪の男と、一体の幽霊。あんたの知り合いだろ?」
「!?」
陽葵は少年に向けていた力を引っ込めた。
「素直でいいね。じゃあ、そのまま動かないでよ」
少年は茂夫・律・陽葵の手をロープで拘束すると、茂夫と律を担ぎあげた。
「ついてこいよ」
陽葵は大人しく少年に従った。
少年に通された部屋には陽葵と同じく手を拘束された状態で花沢が捕まっていた。エクボは能力者が抱える壺の中に閉じ込められているようだった。
少年が茂夫と律を床に投げ捨てる。
「乱暴にしないでよ!!」
睨みつける陽葵を無視して、少年は部屋の椅子に腰掛けた。
「影山くんと神木さん、まさか君たちまで捕まってしまうなんて…」
(あの少年にやられたのか…?)
花沢が少年に視線を送ると、少年はヘラヘラと笑った。
「いーよ、いーよ。俺のことは気にすんな」
少年達は何やら話し合うと茂夫達をそのままにして部屋から出て行った。
「助かった…。よし、今のうちに…!」
花沢が超能力で拘束を解こうとするが、超能力を使うことができなかった。
「くそっ!!何でだ!?この部屋に何か仕掛けがあるのか…?」
花沢は少し考えて、陽葵に自分と背中合わせになるよう指示する。
「腕、伸ばして。ロープ、はずしてみる」
後ろ手に縛られた不自由な指先で、花沢は何とか陽葵の拘束を解くことに成功した。
「やった!」
陽葵は花沢の拘束をはずし、続けて茂夫の拘束を解いた。花沢も律の手の拘束を解いてやる。
「う…」
そこで律は目を覚ました。
「ここは…?神木、先輩?それと、えっと…」
「僕は花沢。影山くんの友人だよ。よろしく弟くん」
「…よろしく…。って、兄さん!?兄さん!!酷い怪我じゃないか!兄さん…!」
律はボロボロの体で気を失っている兄に声をかけるが、茂夫は目を覚まさなかった。
「大丈夫。そのうち目を覚ますよ」
陽葵が声をかけると、律は彼女の方を振り向いた。
「神木先輩…。僕が巻き込んだんだ。あの時、先輩は…!」
泣きだしそうな律に陽葵は微笑んだ。
「私ね、昔から特殊な力があって。攻撃を弾いたり無効化できるんだ。だからあの時、怪我してないよ。それに、影山くんが助けてくれたから大丈夫」
「兄さんが…?」
「…兄弟喧嘩、したんだってね」
「うっ………」
「したらいいよ、兄弟喧嘩。何でも言い合って、ぶつけ合って…。兄弟なんだから、ぶつかり合って当然だよ」
それから少し考えて、陽葵は言葉を続けた。
「…前に言ったよね。どんな律くんでも、律くんは律くんだよ、って。律くんの中にだって負の感情はある。それっておかしいことなんかじゃない。みんなそういう感情を持ってる。私だって、そうだよ」
「神木先輩が?」
「うん。だって、ほら。私、花沢くんのこと嫌いだもん」
「おいいいいいいい!!!!本人を前にして言う!?それ!!」
「初めて会った時も言ったじゃん」
「言われたけど!!まだ根に持ってたの!?」
「うん」
陽葵と花沢のやり取りに思わず律は、ぷっと吹き出した。
「何それ」
「あ。やっと、笑った」
「!」
陽葵は律の顔を覗き込んで笑った。
「影山くんだって、きっと怒ってないよ。だって、律くんのこと大好きだもん」
「兄さん…」
律はいまだ目覚めない兄のことをじっと見つめた。優しく兄を気遣う律の瞳に、彼はもう大丈夫だと陽葵はホッと息を吐いた。
「『ツメ』は強力な超能力者が多数存在する。そこで、だ。影山くん、君には味方が必要なんじゃないかい?強い力を持った味方がさ。ほら、目の前にいる…」
「目の前…。神木さん?」
「? 私はいつでも影山くんの味方だよ」
「いや、そうじゃなくて。目の前にいる、この僕が手伝ってあげるよ」
花沢はそう言って弟救出の手伝いをかってでた。
話を聞いていたラボの男性が立ち上がる。
「私も何か手伝おう!何かできることがあったら何でも言ってくれ!」
「いや、それには及ばないさ。おそらく、すぐに次の刺客がやってくる」
そこへ見知らぬ男がゆっくりと扉を開けて入ってきた。髭をはやした背の高い男性。
「影山くん、どーこかなー?」
余裕の態度で男性は近付いてくる。『ツメ』の刺客であることは明らかだった。
「思ったより早かったな。でも、丁度良い。あの人に色々聞こう」
「うん」
『ツメ』の刺客ー寺田は、茂夫・花沢にあっさり敗れる。寺田の付き人ともども花沢は拷問し口を割らせた。
「ちょっと可哀想かも…」
「うん。少し休ませて水を飲ませてから聞いた方が…」
「影山くんも意外と鬼畜だな。いいんだよ、悪人には優しくしなくて!ほら、知ってること全部吐けよ」
寺田は茂夫達に『ツメ』組織のことをすべて話した。そして茂夫達は寺田に組織のアジトまで道案内をさせる。
「あった…!」
「嘘は吐いてなかったみたいだね」
アジトの近くまできたところで花沢は車を着地させた。
「ここからは歩いていこう」
「あ」
「寺田が逃げた」
寺田は車から素早く降りて逃げていった。
「どうする?追いかける?」
「いや。あれだけこてんぱんにやられたんだ。もう襲ってこないだろう。時間もないし先を急ごう」
花沢は寺田を無視して先に進むことを提案した。茂夫達もうなずき、花沢に続く。
その時。
茂夫達の頭上に、根ごと抜き取られた巨大な樹木が浮かび上がる。樹木には鞭のようなものが巻きついており、鞭の動きに合わせて茂夫達めがけて勢いよく樹木が降ってきた。
「くっ!」
花沢はとっさに避ける。
「影山くん!神木さん!無事かい!?」
「うん。驚いた」
樹木が降ってきた時、陽葵は茂夫の手を握って力を使った。しかし、茂夫は陽葵と繋いでいない方の手をかざし、降ってきた樹木を吹き飛ばした。
「神木さん、怪我はない?」
「うん、大丈夫。ありがとう、影山くん」
二人の無事を確認した花沢はふぅ、と息を吐いた。
そんな花沢に寺田の空鞭が伸びる。花沢は鞭に捕まり、吹き飛ばされた。寺田は花沢にまた樹木をぶつけてくる。花沢は念力で樹木の動きを止め堪えた。
「くっ…!影山くん、今のうちに何とかしてくれ…!」
「わかった」
茂夫は力を使った。
バァン!!
勝負はあっけなく終わった。
寺田は樹木と樹木の間に挟まれ気を失った。
茂夫達がアジトの入口までくると警備員が見張っていた。中に入るには警備員を何とかするしかない。
「どうする?」
「茂夫、なんか考えはねーのか?」
「う、うん。律を助ける方向でいこう」
茂夫に策はなかった。
「オーケー。その方向でいこう」
さっき覚えたんだ、そう言って花沢は寺田が使っていた空鞭の技を使ってみせた。
警備員達を茂みに引っ張り込み、気絶させる。エクボは気絶した警備員の一人に乗り移りその体を支配した。
「もしかしてエクボって凄い悪霊なの?」
「うん、あぶないよ」
「どうせなら寺田ってやつの体を乗っ取ればよかったのに」
エクボは超能力者の体には耐性があり、乗っ取るには強大な力が必要になるため無理だと話した。
「まぁ、いいや。さあ、弟さんを助けにいこう」
「うん!」
茂夫達は遂にアジトに乗り込んだ。
アジトを進んでいくとすぐに構成員に見つかった。
「あ」
茂夫と花沢は同時に力を使った。
二人の力を受けた構成員は壁に大きくめり込んで気を失った。
「影山くん、雑魚は僕に任せて。弟くんの居場所を聞き出さなくちゃ」
「うん、わかった」
茂夫達は、すぐにもう一人の構成員と出くわした。今度は花沢が力を使い、構成員の動きを封じる。
「子どもが連れ去られたはずだ。彼らをどこへやった?」
「子ども…?それなら、地下に…」
情報を聞き出した花沢は構成員を気絶させる。
「地下だってさ。良かったね、影山くん。弟くんはここにいる」
「うん!」
先に進もうとした茂夫達の前に大柄な男性があらわれる。
それは、律を攫った男だった。
「こんなに早く会えるとは思わなかったぜ。そこの女ともども、ボコボコにしてやるよ!!」
男は茂夫めがけて襲いかかってきた。
茂夫は男の動きを止める。
「ごめん。今は余裕がない」
そう言って茂夫は力をふるった。
茂夫の念力で、男は高速でそこら中の壁に打ちつけられると、天井に上半身をめり込ませて動かなくなった。
圧倒的だった。
「相手に気を遣う余裕がないってことか」
陽葵は茂夫の様子を見ていて、心配だった。
超能力は人に向けて使わない。
それが茂夫の信念だった。
だけど、今。弟を救うために茂夫は力を使っている。
本当は人に向けて超能力を使いたくないはずだ。
茂夫にとって、きっとそれは心の負担になっている。
陽葵は茂夫の手を握った。
「神木さん?」
キョトンと茂夫が不思議そうに陽葵を見た。
陽葵は茂夫の手を離さなかった。
「ここからは手分けして弟くんを探そう」
花沢の提案で茂夫達は別行動をすることにした。
茂夫と陽葵は真ん中の道を進むことにする。
進んでいくと薄暗い部屋にたどり着いた。
中に入るとカタカタと動きだした人形たちに茂夫と陽葵は囲まれた。
「あの、弟を探しているんです。どこにいるか知りませんか?」
一応茂夫は人形たちに尋ねてみた。だが、人形たちは答えない。カタカタと震える人形たちは突然茂夫達に襲いかかった。茂夫は手をかざし、人形たちを一瞬で破壊する。
「ここに律はいないみたいだ。他の場所を探そう」
陽葵とともに部屋を出ようとした時、体を鍛え上げた女性がやってきた。
「侵入者って、お前たちか?なんだ、本当にまだ子どもじゃないか」
そう言うやいなや女性は茂夫に瞬時に近づき、茂夫を殴り飛ばした。
「影山くん!!」
吹き飛んでいく茂夫に陽葵が手を伸ばす。
女性は陽葵に接近し、陽葵を蹴り上げようとした。足が触れそうになった瞬間、女性は吹き飛ばされ激しく壁に体を打ちつけた。
「くっ…!何だ、その力…、防御型超能力か…!?」
女性はもう一度陽葵に近づき、今度は拳を振るう。命中するはずだった拳は軌道を曲げられ空振りに終わる。
「こいつ…!!」
「神木さんに手を出すな」
茂夫は女性と陽葵の間に割って入った。
「この子を守ろうってか。いいね、嫌いじゃないよ」
女性はターゲットを陽葵から茂夫に変えると、茂夫を蹴り飛ばした。
「影山くん!!」
吹き飛んだ茂夫に女性は迫り茂夫に拳をふるった。
茂夫は女性のパンチを腕でガードして耐えた。
ガンッ!!
女性の拳が茂夫の顔横の壁を抉る。
「あんた…何で泣いてるんだい?」
茂夫は泣いていた。
「……どうして僕が、女の人までやっつけないといけないんだ。師匠が言ってた。女の人に手を上げるのはこの世で一番やっちゃいけないことなんだ、って」
「…紳士だね。でも侮辱だよ。いいから、遠慮しないでかかってきな」
茂夫は女性を倒した。
女性は気を失って床に倒れ込む。
「影山くん…」
陽葵は茂夫にかける言葉が見つからなかった。
茂夫の手をとって陽葵は引っ張る。
「行こう。律くんを助けて、帰ろう」
部屋を出て通路を進む。分かれ道を右に曲がった。曲がって、ふと人の気配がして振り返る。
「律…くん…?」
「律!!」
振り返った先に律が気を失って倒れていた。壁は穴だらけで誰かと争ったことは明白だった。
「律!律!」
茂夫は律を抱きかかえて声をかける。
「息はある…。気を失っているだけみたい…」
陽葵の言葉にホッとした時、後ろから人影が近づいてきた。
「お前がやったのか…?」
茂夫は近付いてくる男に敵意を向ける。
男は茂夫に手をかざした。
「あ…あ…あ…あぁあぁあああ!!!!」
茂夫が力を爆発させる。
茂夫は幻覚を見せられていた。大好きな弟の律が倒れている。律の体から血があふれて、血だまりは大きく広がっていく。
律!
律!!
律!!!
嫌だ!!!!
爆発した茂夫の力は幻覚を見せている男の脳に逆流し、破壊した。
「影山くん!!!」
陽葵はエネルギーを爆発させる茂夫を抱き寄せた。白い光が茂夫と陽葵の体を包み込む。
赤。
赤。
赤。
茂夫の視界が真紅に染まった。
ぽつり。
赤い赤い血だまりに白い水滴が落ちる。
波紋が広がる。
真っ赤に染まった視界は徐々に白へと変わっていく。
真っ白な世界。
虚空から伸びてくる手。
知っている。
僕はこの手が誰かを知っている。
伸びてきた手は茂夫を優しく抱きしめた。
「大丈夫だよ」
声が聞こえた。
ああ。
やっぱりそうだ。
「神木さん…」
茂夫が彼女の名前を呼ぶ。
陽葵は茂夫に優しく微笑んだ。
爆発した茂夫の力は徐々に収まっていき、茂夫は完全に気を失った。
「へぇ。驚いた」
姿を隠していた赤い髪の少年が陽葵の前にあらわれる。
「面白い力してんじゃん。あんたも、そいつも。弟くんをエサにした甲斐があったぜ」
「………あなたがやったの?」
「?」
「あなたが律くんを傷つけたの?」
「はっ。そうだって言ったら?」
嘲笑し、おどける少年の手を陽葵が掴む。
「消す」
「なっ!?」
「あなたの力、全部消す」
陽葵は少年に向けて力を使った。少年は徐々に自身の力が抜けていくのを感じると、ニヤリと笑った。
「ははっ!ははははっ!!すげぇ!あんた、すげぇよ!!気に入った!でも、大人しくした方がいいぜ。友達を返してほしかったからな」
「何を…」
「金髪の男と、一体の幽霊。あんたの知り合いだろ?」
「!?」
陽葵は少年に向けていた力を引っ込めた。
「素直でいいね。じゃあ、そのまま動かないでよ」
少年は茂夫・律・陽葵の手をロープで拘束すると、茂夫と律を担ぎあげた。
「ついてこいよ」
陽葵は大人しく少年に従った。
少年に通された部屋には陽葵と同じく手を拘束された状態で花沢が捕まっていた。エクボは能力者が抱える壺の中に閉じ込められているようだった。
少年が茂夫と律を床に投げ捨てる。
「乱暴にしないでよ!!」
睨みつける陽葵を無視して、少年は部屋の椅子に腰掛けた。
「影山くんと神木さん、まさか君たちまで捕まってしまうなんて…」
(あの少年にやられたのか…?)
花沢が少年に視線を送ると、少年はヘラヘラと笑った。
「いーよ、いーよ。俺のことは気にすんな」
少年達は何やら話し合うと茂夫達をそのままにして部屋から出て行った。
「助かった…。よし、今のうちに…!」
花沢が超能力で拘束を解こうとするが、超能力を使うことができなかった。
「くそっ!!何でだ!?この部屋に何か仕掛けがあるのか…?」
花沢は少し考えて、陽葵に自分と背中合わせになるよう指示する。
「腕、伸ばして。ロープ、はずしてみる」
後ろ手に縛られた不自由な指先で、花沢は何とか陽葵の拘束を解くことに成功した。
「やった!」
陽葵は花沢の拘束をはずし、続けて茂夫の拘束を解いた。花沢も律の手の拘束を解いてやる。
「う…」
そこで律は目を覚ました。
「ここは…?神木、先輩?それと、えっと…」
「僕は花沢。影山くんの友人だよ。よろしく弟くん」
「…よろしく…。って、兄さん!?兄さん!!酷い怪我じゃないか!兄さん…!」
律はボロボロの体で気を失っている兄に声をかけるが、茂夫は目を覚まさなかった。
「大丈夫。そのうち目を覚ますよ」
陽葵が声をかけると、律は彼女の方を振り向いた。
「神木先輩…。僕が巻き込んだんだ。あの時、先輩は…!」
泣きだしそうな律に陽葵は微笑んだ。
「私ね、昔から特殊な力があって。攻撃を弾いたり無効化できるんだ。だからあの時、怪我してないよ。それに、影山くんが助けてくれたから大丈夫」
「兄さんが…?」
「…兄弟喧嘩、したんだってね」
「うっ………」
「したらいいよ、兄弟喧嘩。何でも言い合って、ぶつけ合って…。兄弟なんだから、ぶつかり合って当然だよ」
それから少し考えて、陽葵は言葉を続けた。
「…前に言ったよね。どんな律くんでも、律くんは律くんだよ、って。律くんの中にだって負の感情はある。それっておかしいことなんかじゃない。みんなそういう感情を持ってる。私だって、そうだよ」
「神木先輩が?」
「うん。だって、ほら。私、花沢くんのこと嫌いだもん」
「おいいいいいいい!!!!本人を前にして言う!?それ!!」
「初めて会った時も言ったじゃん」
「言われたけど!!まだ根に持ってたの!?」
「うん」
陽葵と花沢のやり取りに思わず律は、ぷっと吹き出した。
「何それ」
「あ。やっと、笑った」
「!」
陽葵は律の顔を覗き込んで笑った。
「影山くんだって、きっと怒ってないよ。だって、律くんのこと大好きだもん」
「兄さん…」
律はいまだ目覚めない兄のことをじっと見つめた。優しく兄を気遣う律の瞳に、彼はもう大丈夫だと陽葵はホッと息を吐いた。