モブサイコ長編(茂夫)
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あの後、陽葵は霊幻と茂夫に連絡先を交換して帰っていった。
神木陽葵
連絡帳に登録された彼女の名前を眺め、茂夫は嬉しそうに微笑んだ。
翌日から陽葵は『霊とか相談所』のサポートを始めた。
「お茶です」
彼女の仕事はお茶出しだった。
「ご苦労」
霊幻は陽葵からお茶を受け取り、ズズッと茶をすすった。
陽葵は依頼者にも「どうぞ」とお茶を出す。
お茶を出した後は、茂夫の隣に座って陽葵は霊幻の様子を見ていた。霊幻は巧みな話術と得意のマッサージで依頼者を満足させていた。霊能力とは無縁の対応。明らかに詐欺だった。
陽葵は霊幻から視線をはずし、隣に座る茂夫を見る。
茂夫は霊幻を慕っていた。それに霊幻は悪人という訳でもなかった。だから陽葵は何も言わなかった。
「モブ、陽葵、たこ焼き食うかー?」
ある日、霊幻はたこ焼きを二人に分けてくれた。
霊幻は嬉々としてたこ焼きにかぶりつく、と、真っ赤な顔でたこ焼きを口から吐き出した。
「あっち!!」
口から飛び出たたこ焼きを茂夫は超能力で停止させると、そのままクルクルと回転させた。
自分はこのままで良いのだろうか?
そんな悩みを霊幻に打ち明けながら、たこ焼きを師匠の口へ放り込む。
霊幻は今のままで良いと茂夫に言ったが、茂夫はその答えに満足していないようだった。
「何かあったの?」
相談所からの帰り道、陽葵が茂夫に問う。
茂夫は陽葵を見て、それから俯くとぽつりぽつりと話し出した。
「何かあったっていうわけじゃないけど…。さっき師匠にも話したけど、このまま毎日放課後バイトして終わって、それで良いのかなって思って…」
「そっか…」
「………」
「私たち中学二年生だよね」
「うん、そうだけど…」
「色々、経験するのが良いんじゃないかな。生活していれば今みたいに疑問に思うことだって出てくる。それと向き合うのって大事だと思うよ」
「うん…」
「焦ってすぐに答えを出す必要なんてないし、ゆっくり考えたら良いんじゃないかな?」
「そう…だね。ありがとう神木さん」
「どういたしまして」
ふふっと陽葵は笑って「じゃあ私の家こっちだから。またね影山くん」と茂夫に手を振って別れた。
翌日。
私立聖ハイソ女学園の学生から相談所に依頼があった。学園から許可がおりなかったため、霊幻は女学園に潜入することにする。
ー女装して。
それを聞いた茂夫は顔を青くした。
女装。
しかも陽葵の前で。
絶対にしたくない。
「嫌ですよ!」
「我慢しろ、モブ!依頼者が困ってるんだ。俺たちで解決してやらないと被害がどんどん拡大する恐れもあるんだぞ」
「それはわかりますけど、何で女装なんですか!?」
「許可がおりなかったんだからしょーがないだろ!ほら、制服とカツラ!お前の分!」
霊幻はモブに潜入用の制服とカツラを渡すと、先に着替えにいってしまった。
「影山くん、嫌なら無理しなくていいよ。潜入捜査なら私得意だから」
「神木さん。で、でも神木さんは除霊する力がないし、もし何かあったら…」
「大丈夫だよ。相手の攻撃は私に効かないから、走って逃げるよ。それで、どんな幽霊だったか報告すればいいよね?除霊の方法はそのあと考えればいいよ」
「………、僕、やるよ。やっぱり神木さん一人に任せられない!」
茂夫はそう言って、霊幻が用意した制服に袖を通し、カツラを被った。
女装した茂夫を陽葵はじーっと見る。
「う…。な、何?」
「…可愛いなあと思って」
「か、可愛くないから!からかわないでよ!」
顔を赤くして怒る茂夫に陽葵は「ごめんごめん」と謝罪する。
「でも、ありがとう。一緒に除霊頑張ろうね」
そう言って陽葵はニコリと笑った。こんな風に笑顔を向けられたら何もかも許してしまう。
そこへ女装を終えた霊幻が戻ってきた。カツラと雑なメイク。処理していないすね毛が怪しさ全開だった。しかし、本人は自分の女装に自信満々だった為、茂夫も陽葵も何も言えなかった。
「よーし、あとは陽葵だな!お前は制服に着替えるだけでいいだろ。ほら、トイレで着替えてこい」
「わかりました」
陽葵は着替えてすぐに戻ってきた。
「着替え終わりました」
聖ハイソ女学園の制服を纏った陽葵は雰囲気が変わり、本当にお嬢様みたいだった。
「わあ…」
茂夫が見つめていると、陽葵は顔を赤くして照れ始めた。
「へ、変かな…?」
「ううん、変なんかじゃないよ!なんだか本当にお嬢様みたい…!」
「よーし!全員着替え終わったな。行くぞ!」
霊幻・茂夫・陽葵は正門から堂々と入ろうとした。
すると正門の警備員がすぐに霊幻に声をかける。
「怪しい奴!この学園に何の用だ!さては変態だな!こっちに来い!」
霊幻の女装はすぐにバレた。
(やっぱり無理だったんだ。でもすぐに見つかって良かったかも…)
「君達、大丈夫かい?怖かっただろう?さ、こっちに来なさい。この変態はおじさんが何とかするからね」
茂夫の女装はバレなかった。
茂夫は慌てて霊幻を見る。霊幻は背中を向けたまま指で合図した。
行・け!
(どどどどどうしよう、どうしよう、どうしよう)
固まる茂夫の手を引いて陽葵は校門の中へと足を踏み入れた。
バレるのではないかと心配し、ビクビクする茂夫の手を引いて陽葵はどんどん先へ進んでいく。そして茂夫と陽葵は依頼者の待つ屋上にたどり着いた。屋上には不良っぽい女子生徒達がたむろしていた。
「こんにちは。あなた達が依頼者の方ですか?」臆することなく陽葵が不良の女子生徒に声をかける。
「はあ!?何だよお前ら!見ねぇ顔だな。転校生か?転校生があたし達に注意しようっていうのかよ!ふざけんじゃねーよ!!」
どうやら人違いのようだった。怒らせてしまったし、どうしよう…!と、アワアワする茂夫だったが、不良の女子生徒達は「シラケた」と言ってそのまま屋上から去っていった。
茂夫がホッと胸をなで下ろすと、屋上の高いところから二人の女子生徒に声をかけられた。
「おーい、もしかしてあんた達が相談所の人?」
「依頼者は私達だよ」
女子生徒は降りてくると茂夫を見て「なんか頼りなさそう」と言った。
「さっきも女の子の影に隠れてビクビクしてたし、本当にこんなんで大丈夫なの?」
グサグサと女子生徒の言葉が茂夫の胸に突き刺さる。
「いいんだ…。大丈夫…。除霊すればそれで終わりだから…」
ブツブツと茂夫は自分に言い聞かせ、なんとか自身のメンタルを保った。
それから女子生徒に学園でおこる怪奇現象について話を聞き、幽霊を捜索することになった。
「いる…!」
「近い…!」
茂夫と陽葵の感知は当たり、近くの女子トイレから生徒の悲鳴があがる。
「大丈夫!?」
依頼者とともに女子トイレにかけこむと生徒が床にへたり込んで泣いていた。
「さっき誰かが扉の上から覗き込んで…!」
茂夫達が辺りを確認するが誰かが潜んでいる気配はない。扉から誰かが飛び出してきた形跡もなく、幽霊の仕業であることは明らかだった。
「探そう」
「あっちから気配がする」
茂夫と陽葵は霊の気配がする場所を端から見て回った。
ぴたりと茂夫が突然止まる。
「います。…怒ってる。これ以上刺激すると攻撃してくるかもしれない」
「体育館だね」
「えっ、で、でも体育館は今バスケットボール部が!」
茂夫は手を掲げて力を使う。
体育館の周りを青い光が包み込んだ。
「霊を閉じ込めました。…行きます」
茂夫と陽葵が体育館に乗り込むと巨大な悪霊がその姿を現した。可視化した悪霊に生徒達は悲鳴をあげる。悪霊が女子生徒に向けて攻撃を放った。茂夫はすぐさま手でその攻撃を払う。
悪霊は自身が不利と見て取ると、人質にしようと一人の女子生徒に手を伸ばした。
「危ない!」
陽葵はその生徒に向かって駆け出し、生徒を突き飛ばした。悪霊の手が陽葵に伸びる。
すぐさま茂夫は悪霊と陽葵の間に入り、悪霊の手を粉々に吹き飛ばした。
「影山くん!」
「神木さん、大丈夫!?今、終わらせる!」
そして茂夫は悪霊の身体を粉砕した。消えていく悪霊は最期に茂夫にこう言った。
「なあ、あんた、日々を満喫してるか?」
その言葉は茂夫の心に引っかかった。
悪霊を倒したあと、茂夫は女子生徒達に囲まれていた。「かっこよかった」「ありがとう」ときゃあきゃあ言われて茂夫はまんざらでもなかった。
ふと見ると陽葵がいなかった。
「あ、あれ?神木さん?」
「女の子なら、さっき先に帰ったよ。っていうか駄目じゃん。彼女がいるのに他の女の子にデレデレしちゃってさ」
「か、彼女じゃない!それにデレデレもしてない!」
「はいはい、わかったよ。それで?追いかけなくていいの?」
依頼者に促され、茂夫は陽葵を追いかけて走った。
「神木さん!待って!」
陽葵は茂夫を振り返り、じっと茂夫の目を見つめた。
「影山くん。もう良いの?なんだか楽しそうにお喋りしてたから」
「べ、別に楽しそうにお喋りなんてしてないよ!っていうか置いていかないでよ!」
「………」
陽葵は茂夫から前に視線を移すと黙って歩き出した。茂夫も黙って陽葵の後をついて行く。ぴたりと陽葵が歩みを止めた。
「隣、歩けばいいのに」
「う、うん!」
いつか聞いたその言葉に背中を押されるように茂夫は陽葵の隣に並ぶ。
陽葵が茂夫を見て言った。
「黙って置いていってごめんね」
「ううん、僕の方こそ。女の子達に感謝されて良い気になっていたのかもしれない」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「う…!ご、ごめん。…怒ってる?」
「怒ってないよ」
陽葵は吹き出したように笑った。そんな陽葵の笑顔を見て茂夫は心からホッとした。
あれ?
僕…。
茂夫には初恋の人がいた。
幼なじみの高嶺ツボミちゃん。
いつかツボミちゃんに告白して手を繋いで一緒に帰るのが茂夫の夢だった。
それなのに。
隣にいてほしいのはツボミちゃんじゃない。
僕が隣にいてほしいのはー。
「影山くん、着いたよ」
陽葵の声にハッと我に帰る。
着替えるために陽葵達は相談所に立ち寄ったのだった。
「おう、お前ら帰ったか。どうだった?」
何とか警備員の手から免れたらしい霊幻が二人に声をかける。
「除霊は終わりました」
「そうかそうか。よくやったぞー、二人とも。よーし、着替えたらラーメンでも食いに行くか!奢ってやるぞ!チャーシューのおかわりは二枚までだからな!」
「わかりました」
そこで茂夫は芽生えた感情に蓋をするのだった。
神木陽葵
連絡帳に登録された彼女の名前を眺め、茂夫は嬉しそうに微笑んだ。
翌日から陽葵は『霊とか相談所』のサポートを始めた。
「お茶です」
彼女の仕事はお茶出しだった。
「ご苦労」
霊幻は陽葵からお茶を受け取り、ズズッと茶をすすった。
陽葵は依頼者にも「どうぞ」とお茶を出す。
お茶を出した後は、茂夫の隣に座って陽葵は霊幻の様子を見ていた。霊幻は巧みな話術と得意のマッサージで依頼者を満足させていた。霊能力とは無縁の対応。明らかに詐欺だった。
陽葵は霊幻から視線をはずし、隣に座る茂夫を見る。
茂夫は霊幻を慕っていた。それに霊幻は悪人という訳でもなかった。だから陽葵は何も言わなかった。
「モブ、陽葵、たこ焼き食うかー?」
ある日、霊幻はたこ焼きを二人に分けてくれた。
霊幻は嬉々としてたこ焼きにかぶりつく、と、真っ赤な顔でたこ焼きを口から吐き出した。
「あっち!!」
口から飛び出たたこ焼きを茂夫は超能力で停止させると、そのままクルクルと回転させた。
自分はこのままで良いのだろうか?
そんな悩みを霊幻に打ち明けながら、たこ焼きを師匠の口へ放り込む。
霊幻は今のままで良いと茂夫に言ったが、茂夫はその答えに満足していないようだった。
「何かあったの?」
相談所からの帰り道、陽葵が茂夫に問う。
茂夫は陽葵を見て、それから俯くとぽつりぽつりと話し出した。
「何かあったっていうわけじゃないけど…。さっき師匠にも話したけど、このまま毎日放課後バイトして終わって、それで良いのかなって思って…」
「そっか…」
「………」
「私たち中学二年生だよね」
「うん、そうだけど…」
「色々、経験するのが良いんじゃないかな。生活していれば今みたいに疑問に思うことだって出てくる。それと向き合うのって大事だと思うよ」
「うん…」
「焦ってすぐに答えを出す必要なんてないし、ゆっくり考えたら良いんじゃないかな?」
「そう…だね。ありがとう神木さん」
「どういたしまして」
ふふっと陽葵は笑って「じゃあ私の家こっちだから。またね影山くん」と茂夫に手を振って別れた。
翌日。
私立聖ハイソ女学園の学生から相談所に依頼があった。学園から許可がおりなかったため、霊幻は女学園に潜入することにする。
ー女装して。
それを聞いた茂夫は顔を青くした。
女装。
しかも陽葵の前で。
絶対にしたくない。
「嫌ですよ!」
「我慢しろ、モブ!依頼者が困ってるんだ。俺たちで解決してやらないと被害がどんどん拡大する恐れもあるんだぞ」
「それはわかりますけど、何で女装なんですか!?」
「許可がおりなかったんだからしょーがないだろ!ほら、制服とカツラ!お前の分!」
霊幻はモブに潜入用の制服とカツラを渡すと、先に着替えにいってしまった。
「影山くん、嫌なら無理しなくていいよ。潜入捜査なら私得意だから」
「神木さん。で、でも神木さんは除霊する力がないし、もし何かあったら…」
「大丈夫だよ。相手の攻撃は私に効かないから、走って逃げるよ。それで、どんな幽霊だったか報告すればいいよね?除霊の方法はそのあと考えればいいよ」
「………、僕、やるよ。やっぱり神木さん一人に任せられない!」
茂夫はそう言って、霊幻が用意した制服に袖を通し、カツラを被った。
女装した茂夫を陽葵はじーっと見る。
「う…。な、何?」
「…可愛いなあと思って」
「か、可愛くないから!からかわないでよ!」
顔を赤くして怒る茂夫に陽葵は「ごめんごめん」と謝罪する。
「でも、ありがとう。一緒に除霊頑張ろうね」
そう言って陽葵はニコリと笑った。こんな風に笑顔を向けられたら何もかも許してしまう。
そこへ女装を終えた霊幻が戻ってきた。カツラと雑なメイク。処理していないすね毛が怪しさ全開だった。しかし、本人は自分の女装に自信満々だった為、茂夫も陽葵も何も言えなかった。
「よーし、あとは陽葵だな!お前は制服に着替えるだけでいいだろ。ほら、トイレで着替えてこい」
「わかりました」
陽葵は着替えてすぐに戻ってきた。
「着替え終わりました」
聖ハイソ女学園の制服を纏った陽葵は雰囲気が変わり、本当にお嬢様みたいだった。
「わあ…」
茂夫が見つめていると、陽葵は顔を赤くして照れ始めた。
「へ、変かな…?」
「ううん、変なんかじゃないよ!なんだか本当にお嬢様みたい…!」
「よーし!全員着替え終わったな。行くぞ!」
霊幻・茂夫・陽葵は正門から堂々と入ろうとした。
すると正門の警備員がすぐに霊幻に声をかける。
「怪しい奴!この学園に何の用だ!さては変態だな!こっちに来い!」
霊幻の女装はすぐにバレた。
(やっぱり無理だったんだ。でもすぐに見つかって良かったかも…)
「君達、大丈夫かい?怖かっただろう?さ、こっちに来なさい。この変態はおじさんが何とかするからね」
茂夫の女装はバレなかった。
茂夫は慌てて霊幻を見る。霊幻は背中を向けたまま指で合図した。
行・け!
(どどどどどうしよう、どうしよう、どうしよう)
固まる茂夫の手を引いて陽葵は校門の中へと足を踏み入れた。
バレるのではないかと心配し、ビクビクする茂夫の手を引いて陽葵はどんどん先へ進んでいく。そして茂夫と陽葵は依頼者の待つ屋上にたどり着いた。屋上には不良っぽい女子生徒達がたむろしていた。
「こんにちは。あなた達が依頼者の方ですか?」臆することなく陽葵が不良の女子生徒に声をかける。
「はあ!?何だよお前ら!見ねぇ顔だな。転校生か?転校生があたし達に注意しようっていうのかよ!ふざけんじゃねーよ!!」
どうやら人違いのようだった。怒らせてしまったし、どうしよう…!と、アワアワする茂夫だったが、不良の女子生徒達は「シラケた」と言ってそのまま屋上から去っていった。
茂夫がホッと胸をなで下ろすと、屋上の高いところから二人の女子生徒に声をかけられた。
「おーい、もしかしてあんた達が相談所の人?」
「依頼者は私達だよ」
女子生徒は降りてくると茂夫を見て「なんか頼りなさそう」と言った。
「さっきも女の子の影に隠れてビクビクしてたし、本当にこんなんで大丈夫なの?」
グサグサと女子生徒の言葉が茂夫の胸に突き刺さる。
「いいんだ…。大丈夫…。除霊すればそれで終わりだから…」
ブツブツと茂夫は自分に言い聞かせ、なんとか自身のメンタルを保った。
それから女子生徒に学園でおこる怪奇現象について話を聞き、幽霊を捜索することになった。
「いる…!」
「近い…!」
茂夫と陽葵の感知は当たり、近くの女子トイレから生徒の悲鳴があがる。
「大丈夫!?」
依頼者とともに女子トイレにかけこむと生徒が床にへたり込んで泣いていた。
「さっき誰かが扉の上から覗き込んで…!」
茂夫達が辺りを確認するが誰かが潜んでいる気配はない。扉から誰かが飛び出してきた形跡もなく、幽霊の仕業であることは明らかだった。
「探そう」
「あっちから気配がする」
茂夫と陽葵は霊の気配がする場所を端から見て回った。
ぴたりと茂夫が突然止まる。
「います。…怒ってる。これ以上刺激すると攻撃してくるかもしれない」
「体育館だね」
「えっ、で、でも体育館は今バスケットボール部が!」
茂夫は手を掲げて力を使う。
体育館の周りを青い光が包み込んだ。
「霊を閉じ込めました。…行きます」
茂夫と陽葵が体育館に乗り込むと巨大な悪霊がその姿を現した。可視化した悪霊に生徒達は悲鳴をあげる。悪霊が女子生徒に向けて攻撃を放った。茂夫はすぐさま手でその攻撃を払う。
悪霊は自身が不利と見て取ると、人質にしようと一人の女子生徒に手を伸ばした。
「危ない!」
陽葵はその生徒に向かって駆け出し、生徒を突き飛ばした。悪霊の手が陽葵に伸びる。
すぐさま茂夫は悪霊と陽葵の間に入り、悪霊の手を粉々に吹き飛ばした。
「影山くん!」
「神木さん、大丈夫!?今、終わらせる!」
そして茂夫は悪霊の身体を粉砕した。消えていく悪霊は最期に茂夫にこう言った。
「なあ、あんた、日々を満喫してるか?」
その言葉は茂夫の心に引っかかった。
悪霊を倒したあと、茂夫は女子生徒達に囲まれていた。「かっこよかった」「ありがとう」ときゃあきゃあ言われて茂夫はまんざらでもなかった。
ふと見ると陽葵がいなかった。
「あ、あれ?神木さん?」
「女の子なら、さっき先に帰ったよ。っていうか駄目じゃん。彼女がいるのに他の女の子にデレデレしちゃってさ」
「か、彼女じゃない!それにデレデレもしてない!」
「はいはい、わかったよ。それで?追いかけなくていいの?」
依頼者に促され、茂夫は陽葵を追いかけて走った。
「神木さん!待って!」
陽葵は茂夫を振り返り、じっと茂夫の目を見つめた。
「影山くん。もう良いの?なんだか楽しそうにお喋りしてたから」
「べ、別に楽しそうにお喋りなんてしてないよ!っていうか置いていかないでよ!」
「………」
陽葵は茂夫から前に視線を移すと黙って歩き出した。茂夫も黙って陽葵の後をついて行く。ぴたりと陽葵が歩みを止めた。
「隣、歩けばいいのに」
「う、うん!」
いつか聞いたその言葉に背中を押されるように茂夫は陽葵の隣に並ぶ。
陽葵が茂夫を見て言った。
「黙って置いていってごめんね」
「ううん、僕の方こそ。女の子達に感謝されて良い気になっていたのかもしれない」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「う…!ご、ごめん。…怒ってる?」
「怒ってないよ」
陽葵は吹き出したように笑った。そんな陽葵の笑顔を見て茂夫は心からホッとした。
あれ?
僕…。
茂夫には初恋の人がいた。
幼なじみの高嶺ツボミちゃん。
いつかツボミちゃんに告白して手を繋いで一緒に帰るのが茂夫の夢だった。
それなのに。
隣にいてほしいのはツボミちゃんじゃない。
僕が隣にいてほしいのはー。
「影山くん、着いたよ」
陽葵の声にハッと我に帰る。
着替えるために陽葵達は相談所に立ち寄ったのだった。
「おう、お前ら帰ったか。どうだった?」
何とか警備員の手から免れたらしい霊幻が二人に声をかける。
「除霊は終わりました」
「そうかそうか。よくやったぞー、二人とも。よーし、着替えたらラーメンでも食いに行くか!奢ってやるぞ!チャーシューのおかわりは二枚までだからな!」
「わかりました」
そこで茂夫は芽生えた感情に蓋をするのだった。