モブサイコ長編(茂夫)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
陽葵は時々学校で見かける不思議な男の子のことが気になっていた。
おかっぱ頭の目立たない少年。
いたって普通で特徴のない地味な印象。
それでも陽葵には見えていた。
とてつもなく大きな力が彼の中にあった。
こんなに大きな力を抱えて大変そうだな、と陽葵は思った。
気にはなったが、自分から彼に話しかけることはしなかった。
この先も関わることなんてないだろう。
そう思っていた。
時は過ぎ、陽葵は中学二年生になった。
気になっていた少年と同じクラスだった。
影山茂夫。
皆からはモブと呼ばれていた。
地味で大人しく、勉強もスポーツも苦手みたいだった。
同じクラスになったとはいえ、特に話しかけることもなく日々が過ぎていく。
ある日、陽葵が下校すると人気のない土手道で影山が不良にからまれていた。
殴られたり蹴られたりしていて、とても痛そうだった。
影山は不良達に抵抗することなく、その場にうずくまる。
無抵抗の影山に不良達はまだ手をあげようとしていた。
陽葵は不良達に向かってスタスタと歩き出す。
「ごめん。ちょっとどいて」
陽葵は不良達の間を通り抜け、影山の前に来た。
うずくまる影山に陽葵はしゃがんで手を差し出す。
「大丈夫?立てる?」
そんな陽葵に影山は驚き目を丸くしていた。
差し出した手を掴む様子がなかったため、陽葵は手を伸ばし、影山の手を掴んだ。
影山を引っ張って立たせると彼は傷が痛むようで顔をしかめた。
「あ、ごめん。痛かった?じゃあ、帰ろう」
陽葵は影山の手を掴んだまま、引っ張ってそのまま帰ろうとする。
「待てよ!!」
そんな陽葵に不良が声をあげた。
「なんなんだよ、そこの女子!俺達はそいつに用事があるんだよ!邪魔すんじゃねーよ!」
脅すように睨みつけてくる不良を陽葵はただぼんやりと見つめた。
「用事って何?殴ったり蹴ったりすることが用事なの?私はあなた達に用なんてないし、影山くんがここに留まる必要もない」
陽葵は不良達に背を向けると影山の手を引いて歩き出した。
そんな陽葵の態度に不良は頭にきたらしく陽葵に向かって拳をあげる。
「危ない!!」
慌てて影山は陽葵にバリアをはった。不良のパンチは影山のバリアに阻まれ陽葵に届くことはなかった。
突然起こった超常現象に不良達の顔が青くなる。
「なんだ…今の…」
呆然とする不良達。
「僕のことはいいから!僕を置いて早く逃げて!」
「駄目だよ」
自分を置いて逃げろと言う影山の手を陽葵は強く握る。
「面倒だから、一緒に逃げよう」
そう言って陽葵は影山の手を引いてその場から駆け出した。
不良達は追いかけてくるかと思ったが、陽葵達を追ってはこなかった。
少し走ると後ろから「ゼェ、ハァ」と苦しそうな声が聞こえてきたため陽葵は足を止める。
「大丈夫?」
ハァハァと苦しそうに呼吸する影山に陽葵が声をかけると「うん、大丈夫…」と影山が答えた。
「さっき助けてくれたでしょ?」
「! あ、あれは、とっさに…。危なかったから…」
「なんで抵抗しないの?力があるのに」
陽葵の言葉に影山は黙り込んだ。
「不良に手をあげられても力を使わないのに、私が殴られそうになった時は助けるんだ?」
「だって…それは…」
口ごもる影山に陽葵は笑った。
「影山くん、良い人だね!」
「え?」
「その力、大変そうだから半分持つよ」
微笑んでそう言ってくる陽葵を影山はただただ驚いて見つめていた。
「も、もしかして君も超能力者なの?」
「ううん、違うよ」
「え」
「その力、超能力だったんだ」
陽葵の言葉に、影山の顔が青くなる。
「い、言わないで!僕の力のこと!誰にも!!」
「言わないよ」
慌てる影山に陽葵は微笑んでそう答えた。影山は信用していないような目をこちらに向けていたが、構わず陽葵は続けた。
「っていうか影山くん、私の名前覚えてないでしょ?」
「………」
「同じクラスなのに。酷いなぁ」
「ご、ごめん…」
「別にいいよ。私は神木陽葵。よろしくね、影山茂夫くん」
「僕の名前…!」
何で知ってるの、という顔をする影山に「だってクラスメイトでしょ」と答えると、影山は何だか嬉しそうだった。
「せっかくだから、途中まで一緒に帰ろうよ」
「い、いいの?」
「いいに決まってるでしょ」
陽葵は歩き出すが、影山は呆けたまま動かなかった。
「影山くん何してるの?置いてくよ?」
「あ、う、うん!」
慌てて影山は陽葵の後をついてきた。
少し歩くと陽葵が影山の方を振り返る。
「何で後ろにいるの?」
「えっ!だ、だって…」
「隣、歩けばいいのに」
「う…うん」
陽葵の言葉に影山は恥ずかしそうに隣に並んだ。二人並んで土手道を歩く。特にお喋りをすることもなく、ただ歩いた。
歩いていると後ろから一台の自転車がやってきた。急いでいるのかスピードを出したまま近づいてくる。影山は自転車に道を譲ろうと端によけた。陽葵はそんな影山をちらりと見ると「ああ、そうだ、ちょっと見てて」と言い、自転車が接近したタイミングで自転車の前に飛び出した。
「!?」
予想もつかない陽葵の一瞬の行動に影山は何もできなかった。
避けることも止まることもできない自転車はそのまま陽葵に突っ込んだ。
と思われた。
自転車は陽葵にぶつかる寸前、ぐにゃりと前輪を曲げて陽葵の脇をすり抜けていった。
「あ、あぶねーなバカヤロー!!」
自転車に乗っていた男性が陽葵を振り返り叫んでその場を走り去っていった。
「な、な、な、何してるの!?」
青ざめた顔で影山が陽葵に詰め寄る。
「ぶつかってたら大怪我してたんだよ!?」
「うん、そうだね」
「そうだね、じゃなくて…!」
あっけらかんと言う陽葵を注意しようと影山が口を開くが、それより先に陽葵が「見たでしょ?」と言った。
「生まれつきこうなの」
「…もしかして、さっきのタイヤ、神木さんが曲げたの?」
「うーん…、ちょっと違うかな?勝手に曲がる、って言ったらいいのかな。私は何もしてないよ」
陽葵にぶつかる寸前、自転車の前輪がぐにゃりと曲がった。それは偶然ではない、と陽葵は言う。
「やっぱり神木さんって、超能力者なんじゃ…」
「そうかな?でも私、スプーン曲げとかできないよ?自分で意図的に曲げられるんだったら、超能力使いって言えるのかもしれないけど、そうじゃないから。…他の人には秘密にしてね」
「うん。誰にも言わないよ」
「ありがとう。これで、対等だね」
にっこり笑う陽葵に、影山は不思議そうに尋ねる。
「対等って…?」
「秘密、お互い知ってるでしょ?影山くん、私が影山くんの超能力のこと皆にバラすんじゃないかって心配してたでしょ?」
「うっ…!」
「でも、私も秘密を影山くんに教えたから、同じ立場だよね。だから、心配しなくていいから」
「ぼ、僕が皆に神木さんの力のこと話すかもしれないって思わないの?」
「うん。思わないよ。影山くん、良い人だからね」
そんな陽葵に影山は照れて俯いた。
「信用…してくれるんだ」
ぽそっと呟いた影山の言葉は陽葵には届かず、陽葵はさっさと歩いていく。
「影山くーん!置いてくよー?早くおいでよー!」
振り返って声をかける陽葵に、慌てて影山は駆け寄った。
陽葵は茂夫にとって初めてできた友達だった。
「その力、大変そうだから半分持つよ」
微笑んでそう言ってくれた陽葵の笑顔が頭から離れなかった。
自分に手を差し伸べてくれた大切な友達。
自然と茂夫は笑顔になっていた。
「兄さん、何か良いことあった?」
嬉しそうな兄の様子に弟の律が声をかけてくる。
「え!う、うん。…友達が、…できた」
律は驚いた顔をした後、嬉しそうに笑った。
「そうなんだ。良かったね、兄さん」
「うん!」
茂夫は明日学校に行くのがとても楽しみだった。学校に行くのが楽しみだなんて初めてかもしれない。これから楽しいことがたくさんあるような、そんな気がする。期待に胸を膨らませて茂夫はその日眠りについた。
おかっぱ頭の目立たない少年。
いたって普通で特徴のない地味な印象。
それでも陽葵には見えていた。
とてつもなく大きな力が彼の中にあった。
こんなに大きな力を抱えて大変そうだな、と陽葵は思った。
気にはなったが、自分から彼に話しかけることはしなかった。
この先も関わることなんてないだろう。
そう思っていた。
時は過ぎ、陽葵は中学二年生になった。
気になっていた少年と同じクラスだった。
影山茂夫。
皆からはモブと呼ばれていた。
地味で大人しく、勉強もスポーツも苦手みたいだった。
同じクラスになったとはいえ、特に話しかけることもなく日々が過ぎていく。
ある日、陽葵が下校すると人気のない土手道で影山が不良にからまれていた。
殴られたり蹴られたりしていて、とても痛そうだった。
影山は不良達に抵抗することなく、その場にうずくまる。
無抵抗の影山に不良達はまだ手をあげようとしていた。
陽葵は不良達に向かってスタスタと歩き出す。
「ごめん。ちょっとどいて」
陽葵は不良達の間を通り抜け、影山の前に来た。
うずくまる影山に陽葵はしゃがんで手を差し出す。
「大丈夫?立てる?」
そんな陽葵に影山は驚き目を丸くしていた。
差し出した手を掴む様子がなかったため、陽葵は手を伸ばし、影山の手を掴んだ。
影山を引っ張って立たせると彼は傷が痛むようで顔をしかめた。
「あ、ごめん。痛かった?じゃあ、帰ろう」
陽葵は影山の手を掴んだまま、引っ張ってそのまま帰ろうとする。
「待てよ!!」
そんな陽葵に不良が声をあげた。
「なんなんだよ、そこの女子!俺達はそいつに用事があるんだよ!邪魔すんじゃねーよ!」
脅すように睨みつけてくる不良を陽葵はただぼんやりと見つめた。
「用事って何?殴ったり蹴ったりすることが用事なの?私はあなた達に用なんてないし、影山くんがここに留まる必要もない」
陽葵は不良達に背を向けると影山の手を引いて歩き出した。
そんな陽葵の態度に不良は頭にきたらしく陽葵に向かって拳をあげる。
「危ない!!」
慌てて影山は陽葵にバリアをはった。不良のパンチは影山のバリアに阻まれ陽葵に届くことはなかった。
突然起こった超常現象に不良達の顔が青くなる。
「なんだ…今の…」
呆然とする不良達。
「僕のことはいいから!僕を置いて早く逃げて!」
「駄目だよ」
自分を置いて逃げろと言う影山の手を陽葵は強く握る。
「面倒だから、一緒に逃げよう」
そう言って陽葵は影山の手を引いてその場から駆け出した。
不良達は追いかけてくるかと思ったが、陽葵達を追ってはこなかった。
少し走ると後ろから「ゼェ、ハァ」と苦しそうな声が聞こえてきたため陽葵は足を止める。
「大丈夫?」
ハァハァと苦しそうに呼吸する影山に陽葵が声をかけると「うん、大丈夫…」と影山が答えた。
「さっき助けてくれたでしょ?」
「! あ、あれは、とっさに…。危なかったから…」
「なんで抵抗しないの?力があるのに」
陽葵の言葉に影山は黙り込んだ。
「不良に手をあげられても力を使わないのに、私が殴られそうになった時は助けるんだ?」
「だって…それは…」
口ごもる影山に陽葵は笑った。
「影山くん、良い人だね!」
「え?」
「その力、大変そうだから半分持つよ」
微笑んでそう言ってくる陽葵を影山はただただ驚いて見つめていた。
「も、もしかして君も超能力者なの?」
「ううん、違うよ」
「え」
「その力、超能力だったんだ」
陽葵の言葉に、影山の顔が青くなる。
「い、言わないで!僕の力のこと!誰にも!!」
「言わないよ」
慌てる影山に陽葵は微笑んでそう答えた。影山は信用していないような目をこちらに向けていたが、構わず陽葵は続けた。
「っていうか影山くん、私の名前覚えてないでしょ?」
「………」
「同じクラスなのに。酷いなぁ」
「ご、ごめん…」
「別にいいよ。私は神木陽葵。よろしくね、影山茂夫くん」
「僕の名前…!」
何で知ってるの、という顔をする影山に「だってクラスメイトでしょ」と答えると、影山は何だか嬉しそうだった。
「せっかくだから、途中まで一緒に帰ろうよ」
「い、いいの?」
「いいに決まってるでしょ」
陽葵は歩き出すが、影山は呆けたまま動かなかった。
「影山くん何してるの?置いてくよ?」
「あ、う、うん!」
慌てて影山は陽葵の後をついてきた。
少し歩くと陽葵が影山の方を振り返る。
「何で後ろにいるの?」
「えっ!だ、だって…」
「隣、歩けばいいのに」
「う…うん」
陽葵の言葉に影山は恥ずかしそうに隣に並んだ。二人並んで土手道を歩く。特にお喋りをすることもなく、ただ歩いた。
歩いていると後ろから一台の自転車がやってきた。急いでいるのかスピードを出したまま近づいてくる。影山は自転車に道を譲ろうと端によけた。陽葵はそんな影山をちらりと見ると「ああ、そうだ、ちょっと見てて」と言い、自転車が接近したタイミングで自転車の前に飛び出した。
「!?」
予想もつかない陽葵の一瞬の行動に影山は何もできなかった。
避けることも止まることもできない自転車はそのまま陽葵に突っ込んだ。
と思われた。
自転車は陽葵にぶつかる寸前、ぐにゃりと前輪を曲げて陽葵の脇をすり抜けていった。
「あ、あぶねーなバカヤロー!!」
自転車に乗っていた男性が陽葵を振り返り叫んでその場を走り去っていった。
「な、な、な、何してるの!?」
青ざめた顔で影山が陽葵に詰め寄る。
「ぶつかってたら大怪我してたんだよ!?」
「うん、そうだね」
「そうだね、じゃなくて…!」
あっけらかんと言う陽葵を注意しようと影山が口を開くが、それより先に陽葵が「見たでしょ?」と言った。
「生まれつきこうなの」
「…もしかして、さっきのタイヤ、神木さんが曲げたの?」
「うーん…、ちょっと違うかな?勝手に曲がる、って言ったらいいのかな。私は何もしてないよ」
陽葵にぶつかる寸前、自転車の前輪がぐにゃりと曲がった。それは偶然ではない、と陽葵は言う。
「やっぱり神木さんって、超能力者なんじゃ…」
「そうかな?でも私、スプーン曲げとかできないよ?自分で意図的に曲げられるんだったら、超能力使いって言えるのかもしれないけど、そうじゃないから。…他の人には秘密にしてね」
「うん。誰にも言わないよ」
「ありがとう。これで、対等だね」
にっこり笑う陽葵に、影山は不思議そうに尋ねる。
「対等って…?」
「秘密、お互い知ってるでしょ?影山くん、私が影山くんの超能力のこと皆にバラすんじゃないかって心配してたでしょ?」
「うっ…!」
「でも、私も秘密を影山くんに教えたから、同じ立場だよね。だから、心配しなくていいから」
「ぼ、僕が皆に神木さんの力のこと話すかもしれないって思わないの?」
「うん。思わないよ。影山くん、良い人だからね」
そんな陽葵に影山は照れて俯いた。
「信用…してくれるんだ」
ぽそっと呟いた影山の言葉は陽葵には届かず、陽葵はさっさと歩いていく。
「影山くーん!置いてくよー?早くおいでよー!」
振り返って声をかける陽葵に、慌てて影山は駆け寄った。
陽葵は茂夫にとって初めてできた友達だった。
「その力、大変そうだから半分持つよ」
微笑んでそう言ってくれた陽葵の笑顔が頭から離れなかった。
自分に手を差し伸べてくれた大切な友達。
自然と茂夫は笑顔になっていた。
「兄さん、何か良いことあった?」
嬉しそうな兄の様子に弟の律が声をかけてくる。
「え!う、うん。…友達が、…できた」
律は驚いた顔をした後、嬉しそうに笑った。
「そうなんだ。良かったね、兄さん」
「うん!」
茂夫は明日学校に行くのがとても楽しみだった。学校に行くのが楽しみだなんて初めてかもしれない。これから楽しいことがたくさんあるような、そんな気がする。期待に胸を膨らませて茂夫はその日眠りについた。
1/10ページ