モブサイコ長編(律)
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休日。
特に用事のない千冬は今日も家の仕事を手伝うべく喫茶店の制服に着替えていた。
着替え終わり、洗面台で髪を結おうと櫛でとかし始めると母親が駆け寄ってきた。
「千冬ちゃ~ん!」
「何ですか、お母さん」
母はいたずらっぽく千冬に笑むと、千冬の手から櫛を取り上げた。
「せっかくの休日なんだから、髪型変えてみましょうよ~」
「別にいつも通りで良いですよ」
「駄目よ~!女の子なんだからお洒落しないと!さあさあ、母にお任せあれ!」
母は言うなり千冬の髪をいじり始める。こうして母が千冬の髪をいじるのは珍しいことではなかった。
しょうがないな…、そう思い母に髪を任せると母はテキパキと髪を結った。
「じゃーん!完成~!!」
洗面台の鏡にはツインテール姿の千冬が映っていた。
「つ、ツインテール…!恥ずかしい…」
幼く見えると不満そうに訴える娘を無視して母は満足そうに開店準備へと戻っていった。
(くっ…!スキップしてる。どれだけご機嫌なの…!)
千冬は覚悟を決め、ツインテール姿のまま店に立つことにした。
午後3時。
ちょうど店が混み合ってくる時間になると常連客も多く、千冬の髪型を『可愛い』と誉めてくれるお客様もいた。
(恥ずかしい…!でも営業終了まであと三時間。これを乗り切れば…!)
カランカランとドアチャイムが鳴り、「いらっしゃいませ」と千冬はお客様に声をかける。
声をかけ、ピシリと千冬は固まった。
店に入ってきたのは影山ファミリーだったのだ。
(なななななんで!?よりによってこんな日に!?)
「こんにちは。あら、この前と髪型違うのねぇ」
影山母の言葉が千冬の胸に突き刺さる。
ツインテールを見る影山ファミリーの視線が痛い。
「こここここちらへどうぞ」
動揺しながらも席に案内し、千冬はグラスに冷水を注いで影山ファミリーの席へと運ぶ。
千冬を見て、律が声をかけた。
「逢瀬さん、髪型変えたんだね。…えっと、その髪型も…すごく、に、に、に、似合っ「可愛い髪型だね」
しーん。
律の言葉を遮って放たれた茂夫の言葉にその場が凍りつく。
「ああああ、ありがとうございます…!」
『可愛い』という言葉に照れる千冬の様子を見て、律の肩がワナワナと震える。
「り、律?そんなに怒らないのよ。茂夫だって悪気はないんだから…」
「え?僕、何か変なこと言った?」
母のフォローも虚しく、空気の読めない茂夫の一言が律を逆撫でする。
最低だ。
最低だ!最低だ!!最低だ!!!
空気が読めない兄だとはわかっていたが、ここまでとは思わなかった!
「母さん。やっぱり僕、先に帰ってるね」
はりつけたような笑顔が逆に恐ろしい。
律がとても怒っていることに影山父母は気づいていたが、茂夫から離した方が良いだろうと思い律を止めることはしなかった。
「千冬ちゃ~ん?ちょっと、ちょっと」
様子を見ていた千冬の母が手招きする。
「はい、これ。律くんに渡してあげて」
「これは…」
「いいからいいから。ほら、早くしないと帰っちゃうわよ」
「あ、ま、待って!影山くん!」
出入り口のドアノブに手をかけた律を千冬は慌てて呼び止める。
「何?」
「これ、影山くんに」
そう言って千冬は母から託された小袋を渡した。小袋の中にはクッキーが入っている。
「これは?」
「この前、お母さんと一緒に作ったクッキーです。良かったらおやつに食べてください。お口に合うと良いのですけど…」
千冬の言葉に律の表情が柔らかくなる。
「あ!そうだ、ちょっと待っていてください!」
千冬は律を待たせると、慌てて店の奥へと駆けてゆく。すぐに千冬は手に何かを持って戻ってきた。
「おまたせしました!これも、良かったらどうぞ」
千冬が持ってきたのは紅茶のティーバッグだった。
「お店の物ではなくて、普段私が飲んでいる私物ですけど、ハーブティーのティーバッグです。クッキーにも合いますし、リラックス効果もありますから。影山くん、どこか具合悪いみたいですし、心配です…」
「ごめん、ちょっと気分が悪くて…。でも、ありがとう。お家で頂くよ」
律は、千冬からティーバッグを受け取ると店を出て行った。
「ふふっ、一件落着かしら。千冬ちゃん、母に感謝なさい!」
ドヤ顔で胸を張る母親に千冬は顔を赤くした。
「お母さん、茂夫先輩の前で恥ずかしいこと言わないでください。あ、そうだ、ご注文は…」
千冬は影山ファミリーのオーダーを伺いにパタパタと駆けていった。
律は帰宅すると、はぁとため息を吐いた。
兄さんが憎い。あんなに憎たらしく思えたのは初めてだった。
千冬から貰ったクッキーと紅茶に律は目を向ける。
冷たい憎悪に寄り添ってくれるあたたかい感情に少し安堵する。
台所でクッキーを皿に移し、お湯を沸かして紅茶を作る。カップとお皿をトレイにのせて律は、自室にこもった。
「…美味しい」
香りの良いあたたかいハーブティーと甘いクッキーが律の心を落ち着けた。
ふと、律は自身の学習机に目を向ける。
机の上に置いてあったペンを手に取ると、律は念じる。
(曲がれ…曲がれ…曲がれ…!)
しかし律の念も虚しく、ペンが曲がる様子は欠片もなかった。
舌打ちして律は壁にペンを投げつける。
兄はとてつもない力を持つ超能力者だった。
弟である自分も当然いつの日か超能力を使えるようになるのだと思っていた。幼少期は毎日超能力の練習をしていたが、ただ虚しくなるだけだと気づき、練習もやめてしまった。
兄さんが大好きだった。
兄さんが大嫌いだった。
相反する感情。渦巻く劣等感。律は膝を抱えて部屋にうずくまった。
特に用事のない千冬は今日も家の仕事を手伝うべく喫茶店の制服に着替えていた。
着替え終わり、洗面台で髪を結おうと櫛でとかし始めると母親が駆け寄ってきた。
「千冬ちゃ~ん!」
「何ですか、お母さん」
母はいたずらっぽく千冬に笑むと、千冬の手から櫛を取り上げた。
「せっかくの休日なんだから、髪型変えてみましょうよ~」
「別にいつも通りで良いですよ」
「駄目よ~!女の子なんだからお洒落しないと!さあさあ、母にお任せあれ!」
母は言うなり千冬の髪をいじり始める。こうして母が千冬の髪をいじるのは珍しいことではなかった。
しょうがないな…、そう思い母に髪を任せると母はテキパキと髪を結った。
「じゃーん!完成~!!」
洗面台の鏡にはツインテール姿の千冬が映っていた。
「つ、ツインテール…!恥ずかしい…」
幼く見えると不満そうに訴える娘を無視して母は満足そうに開店準備へと戻っていった。
(くっ…!スキップしてる。どれだけご機嫌なの…!)
千冬は覚悟を決め、ツインテール姿のまま店に立つことにした。
午後3時。
ちょうど店が混み合ってくる時間になると常連客も多く、千冬の髪型を『可愛い』と誉めてくれるお客様もいた。
(恥ずかしい…!でも営業終了まであと三時間。これを乗り切れば…!)
カランカランとドアチャイムが鳴り、「いらっしゃいませ」と千冬はお客様に声をかける。
声をかけ、ピシリと千冬は固まった。
店に入ってきたのは影山ファミリーだったのだ。
(なななななんで!?よりによってこんな日に!?)
「こんにちは。あら、この前と髪型違うのねぇ」
影山母の言葉が千冬の胸に突き刺さる。
ツインテールを見る影山ファミリーの視線が痛い。
「こここここちらへどうぞ」
動揺しながらも席に案内し、千冬はグラスに冷水を注いで影山ファミリーの席へと運ぶ。
千冬を見て、律が声をかけた。
「逢瀬さん、髪型変えたんだね。…えっと、その髪型も…すごく、に、に、に、似合っ「可愛い髪型だね」
しーん。
律の言葉を遮って放たれた茂夫の言葉にその場が凍りつく。
「ああああ、ありがとうございます…!」
『可愛い』という言葉に照れる千冬の様子を見て、律の肩がワナワナと震える。
「り、律?そんなに怒らないのよ。茂夫だって悪気はないんだから…」
「え?僕、何か変なこと言った?」
母のフォローも虚しく、空気の読めない茂夫の一言が律を逆撫でする。
最低だ。
最低だ!最低だ!!最低だ!!!
空気が読めない兄だとはわかっていたが、ここまでとは思わなかった!
「母さん。やっぱり僕、先に帰ってるね」
はりつけたような笑顔が逆に恐ろしい。
律がとても怒っていることに影山父母は気づいていたが、茂夫から離した方が良いだろうと思い律を止めることはしなかった。
「千冬ちゃ~ん?ちょっと、ちょっと」
様子を見ていた千冬の母が手招きする。
「はい、これ。律くんに渡してあげて」
「これは…」
「いいからいいから。ほら、早くしないと帰っちゃうわよ」
「あ、ま、待って!影山くん!」
出入り口のドアノブに手をかけた律を千冬は慌てて呼び止める。
「何?」
「これ、影山くんに」
そう言って千冬は母から託された小袋を渡した。小袋の中にはクッキーが入っている。
「これは?」
「この前、お母さんと一緒に作ったクッキーです。良かったらおやつに食べてください。お口に合うと良いのですけど…」
千冬の言葉に律の表情が柔らかくなる。
「あ!そうだ、ちょっと待っていてください!」
千冬は律を待たせると、慌てて店の奥へと駆けてゆく。すぐに千冬は手に何かを持って戻ってきた。
「おまたせしました!これも、良かったらどうぞ」
千冬が持ってきたのは紅茶のティーバッグだった。
「お店の物ではなくて、普段私が飲んでいる私物ですけど、ハーブティーのティーバッグです。クッキーにも合いますし、リラックス効果もありますから。影山くん、どこか具合悪いみたいですし、心配です…」
「ごめん、ちょっと気分が悪くて…。でも、ありがとう。お家で頂くよ」
律は、千冬からティーバッグを受け取ると店を出て行った。
「ふふっ、一件落着かしら。千冬ちゃん、母に感謝なさい!」
ドヤ顔で胸を張る母親に千冬は顔を赤くした。
「お母さん、茂夫先輩の前で恥ずかしいこと言わないでください。あ、そうだ、ご注文は…」
千冬は影山ファミリーのオーダーを伺いにパタパタと駆けていった。
律は帰宅すると、はぁとため息を吐いた。
兄さんが憎い。あんなに憎たらしく思えたのは初めてだった。
千冬から貰ったクッキーと紅茶に律は目を向ける。
冷たい憎悪に寄り添ってくれるあたたかい感情に少し安堵する。
台所でクッキーを皿に移し、お湯を沸かして紅茶を作る。カップとお皿をトレイにのせて律は、自室にこもった。
「…美味しい」
香りの良いあたたかいハーブティーと甘いクッキーが律の心を落ち着けた。
ふと、律は自身の学習机に目を向ける。
机の上に置いてあったペンを手に取ると、律は念じる。
(曲がれ…曲がれ…曲がれ…!)
しかし律の念も虚しく、ペンが曲がる様子は欠片もなかった。
舌打ちして律は壁にペンを投げつける。
兄はとてつもない力を持つ超能力者だった。
弟である自分も当然いつの日か超能力を使えるようになるのだと思っていた。幼少期は毎日超能力の練習をしていたが、ただ虚しくなるだけだと気づき、練習もやめてしまった。
兄さんが大好きだった。
兄さんが大嫌いだった。
相反する感情。渦巻く劣等感。律は膝を抱えて部屋にうずくまった。