モブサイコ長編(律)
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これは…事件です。
お兄さんが、倒れています。
帰宅途中、道の真ん中でうつ伏せに倒れている影山兄を発見し、千冬は内心慌てふためいていた。
(これは、貧血?それとも不良による事件?とにかく警察?それとも救急車?それとも…)
「おーい!大丈夫か、影山ー!!」
千冬の思考を大柄な男子の声が遮る。
声の方を見れば筋肉隆々とした男子生徒達数名がこちらに駆けてくるところだった。
「ん?女子?」
「こ、こんばんは。あの、お兄さんは大丈夫でしょうか?」
おずおずと千冬が尋ねると大柄の男子は衝撃の表情を浮かべた。
「『お兄さん』…まさか…影山の『妹』!?」
「え?違います。私は妹では…」
男子生徒達は千冬の声など聞く耳持たず、何やら話し合うと代表の一人が千冬をヒョイとお姫様抱っこした。
「よし、妹さんも連れて保健室までダッシュだ!」
もう一人のたくましい男子が、倒れている茂夫を千冬同様にお姫様抱っこする。と、彼らは爆速で走り出した。
「す、凄い。何だかアトラクションみたいで、す…」
あまりの速さに目を回してしまった千冬はそこで意識を手放した。
「…ーい、おーい!妹さん!おーい!」
男子生徒の声にハッと目を覚ます。
「お、気が付いたぞ」「良かった良かった」「それにしても全然影山に似ていないな」
口々に言う男子生徒達に「だから私は妹では…」と抗議の声をあげるも、「じゃあ、あとは妹さんに任せて俺達はトレーニングに戻るとするか。ふぁい、おー!」と勢いよくかけ声をあげて走り去っていった。
傍らにはベッドですぅすぅと茂夫が寝息を立てている。青白い顔で苦しそうだった。
(トレーニング中の酸欠、かな?)
近くにあったパイプ椅子に千冬は腰掛け、じっと茂夫を見つめる。
(倒れるまでトレーニングするなんて、頑張り屋さんなんだなあ…)
目が覚めるまで付いていてあげよう。千冬は、帰りが遅くなる旨を両親にメールすると、茂夫に向き直る。よく見ると倒れた時に付いたのであろう砂や小石が顔や髪にまだ残っていた。
千冬はゴソゴソと自身のハンカチを取り出すと、茂夫の顔や髪をハンカチで拭い、砂や小石をはらう。
「う…、うー…ん」
すると茂夫がゆっくりと目を開いた。
「あ、お兄さん。目を覚ましたんですね。良かった…」
「あ、れ?君は確か、律のクラスメイトの…。えっと、ごめん。名前覚えてなくて…」
申し訳なさそうな茂夫の様子に、千冬は慌てて答える。
「逢瀬千冬です。気にしないでください。この前お会いしたばかりですし、名前を覚えていないのも当然です。」
「ありがとう。僕は茂夫。影山茂夫だよ。えっと…、逢瀬、さん?」
「千冬で良いですよ。先輩に『さん付け』で呼ばれるのも何だかくすぐったいですし」
「じゃ、じゃあ千冬ちゃん?」
「はい!私は影山先輩と呼んで良いでしょうか?」
「せ、先輩…!」
先輩という響きに、茂夫は照れて赤面してしまう。
「駄目、ですか?」
心配そうな千冬に、茂夫は慌てて首を横に振る。
「ううん、駄目なんかじゃないよ。ただちょっと恥ずかしくなっちゃって…。えっと、それから、苗字じゃなくて名前で呼んでもらえると嬉しい、ような、そうでもないような…。その、苗字だと律と被るし」
「わかりました。それでは、茂夫先輩と呼ばせて頂きますね」
「茂夫先輩…!う、うん!」
ニコニコと嬉しそうな様子の千冬に茂夫は口を開く。
「それから、律のことも「兄さん!!!」
茂夫の言葉を遮り、勢いよく保健室の扉が開かれる。
「兄さん大丈夫!?部活中に倒れたって聞いて、心配で迎えに…って、あれ?逢瀬さん?」
律はそこでようやく兄の傍らにいる千冬に気付く。
「ど、どうも…。えっと、影山くんが来てくれたから、もう大丈夫ですね茂夫先輩。お大事にしてください。では、私はこれで…」
ぺこりとお辞儀して、千冬はそそくさと保健室を後にした。
「あ、千冬ちゃん行っちゃった…。律、迎えに来てくれてありがとう。…律?」
茂夫が律に話しかけるが、律は反応がない。
「律?律!どうしたの?大丈夫?」
ハッと律は我に帰り、兄を見る。
「ごめん、兄さん。ちょっと、ぼーっとしてた。…ずいぶん逢瀬さんと仲良くなったんだね?」
言いながら律は、だんだんと嫉妬心が強くなっていくのを感じていた。大好きな兄が憎たらしく思えた。自分は兄には敵わない。兄には特別な力がある。今までに何度も感じていた劣等感に律は飲み込まれていった。
「仲良くっていうか、自己紹介したくらいだよ。それにしても、なんで千冬ちゃんここにいたんだろう?」
兄が彼女の名前を呼ぶたびに憎しみが一層深くなる。ギリッと歯を噛み締めるも、兄は弟の気持ちに全く気づかない。
「兄さん、帰るよ。荷物は?」
「あ、部室に置いたままだ。取ってくるよ」
茂夫はベッドから起き上がり、肉体改造部の部室へと向かった。
「僕も行くよ、兄さん」
律も兄の後を追いかける。
部室へつくと茂夫のロッカーに何やら紙が貼ってある。紙には男子特有の汚い字で『影山へ。お大事に。妹さんによろしくな!部員一同より』と書いてあった。
茂夫の顔がぱあっと明るいものになる。嬉々として茂夫は紙を剥がすと丁寧に折りたたんでポケットにしまった。
「『妹』って、もしかして逢瀬さんのこと?」
傍らで紙を見た律が疑問の声をあげる。
「千冬ちゃん、妹だと勘違いされちゃったんだね。明日、皆の誤解を解いておくよ」
ロッカーから荷物を取り出し、体操服から制服に着替えた茂夫は律とともに家路についた。
お兄さんが、倒れています。
帰宅途中、道の真ん中でうつ伏せに倒れている影山兄を発見し、千冬は内心慌てふためいていた。
(これは、貧血?それとも不良による事件?とにかく警察?それとも救急車?それとも…)
「おーい!大丈夫か、影山ー!!」
千冬の思考を大柄な男子の声が遮る。
声の方を見れば筋肉隆々とした男子生徒達数名がこちらに駆けてくるところだった。
「ん?女子?」
「こ、こんばんは。あの、お兄さんは大丈夫でしょうか?」
おずおずと千冬が尋ねると大柄の男子は衝撃の表情を浮かべた。
「『お兄さん』…まさか…影山の『妹』!?」
「え?違います。私は妹では…」
男子生徒達は千冬の声など聞く耳持たず、何やら話し合うと代表の一人が千冬をヒョイとお姫様抱っこした。
「よし、妹さんも連れて保健室までダッシュだ!」
もう一人のたくましい男子が、倒れている茂夫を千冬同様にお姫様抱っこする。と、彼らは爆速で走り出した。
「す、凄い。何だかアトラクションみたいで、す…」
あまりの速さに目を回してしまった千冬はそこで意識を手放した。
「…ーい、おーい!妹さん!おーい!」
男子生徒の声にハッと目を覚ます。
「お、気が付いたぞ」「良かった良かった」「それにしても全然影山に似ていないな」
口々に言う男子生徒達に「だから私は妹では…」と抗議の声をあげるも、「じゃあ、あとは妹さんに任せて俺達はトレーニングに戻るとするか。ふぁい、おー!」と勢いよくかけ声をあげて走り去っていった。
傍らにはベッドですぅすぅと茂夫が寝息を立てている。青白い顔で苦しそうだった。
(トレーニング中の酸欠、かな?)
近くにあったパイプ椅子に千冬は腰掛け、じっと茂夫を見つめる。
(倒れるまでトレーニングするなんて、頑張り屋さんなんだなあ…)
目が覚めるまで付いていてあげよう。千冬は、帰りが遅くなる旨を両親にメールすると、茂夫に向き直る。よく見ると倒れた時に付いたのであろう砂や小石が顔や髪にまだ残っていた。
千冬はゴソゴソと自身のハンカチを取り出すと、茂夫の顔や髪をハンカチで拭い、砂や小石をはらう。
「う…、うー…ん」
すると茂夫がゆっくりと目を開いた。
「あ、お兄さん。目を覚ましたんですね。良かった…」
「あ、れ?君は確か、律のクラスメイトの…。えっと、ごめん。名前覚えてなくて…」
申し訳なさそうな茂夫の様子に、千冬は慌てて答える。
「逢瀬千冬です。気にしないでください。この前お会いしたばかりですし、名前を覚えていないのも当然です。」
「ありがとう。僕は茂夫。影山茂夫だよ。えっと…、逢瀬、さん?」
「千冬で良いですよ。先輩に『さん付け』で呼ばれるのも何だかくすぐったいですし」
「じゃ、じゃあ千冬ちゃん?」
「はい!私は影山先輩と呼んで良いでしょうか?」
「せ、先輩…!」
先輩という響きに、茂夫は照れて赤面してしまう。
「駄目、ですか?」
心配そうな千冬に、茂夫は慌てて首を横に振る。
「ううん、駄目なんかじゃないよ。ただちょっと恥ずかしくなっちゃって…。えっと、それから、苗字じゃなくて名前で呼んでもらえると嬉しい、ような、そうでもないような…。その、苗字だと律と被るし」
「わかりました。それでは、茂夫先輩と呼ばせて頂きますね」
「茂夫先輩…!う、うん!」
ニコニコと嬉しそうな様子の千冬に茂夫は口を開く。
「それから、律のことも「兄さん!!!」
茂夫の言葉を遮り、勢いよく保健室の扉が開かれる。
「兄さん大丈夫!?部活中に倒れたって聞いて、心配で迎えに…って、あれ?逢瀬さん?」
律はそこでようやく兄の傍らにいる千冬に気付く。
「ど、どうも…。えっと、影山くんが来てくれたから、もう大丈夫ですね茂夫先輩。お大事にしてください。では、私はこれで…」
ぺこりとお辞儀して、千冬はそそくさと保健室を後にした。
「あ、千冬ちゃん行っちゃった…。律、迎えに来てくれてありがとう。…律?」
茂夫が律に話しかけるが、律は反応がない。
「律?律!どうしたの?大丈夫?」
ハッと律は我に帰り、兄を見る。
「ごめん、兄さん。ちょっと、ぼーっとしてた。…ずいぶん逢瀬さんと仲良くなったんだね?」
言いながら律は、だんだんと嫉妬心が強くなっていくのを感じていた。大好きな兄が憎たらしく思えた。自分は兄には敵わない。兄には特別な力がある。今までに何度も感じていた劣等感に律は飲み込まれていった。
「仲良くっていうか、自己紹介したくらいだよ。それにしても、なんで千冬ちゃんここにいたんだろう?」
兄が彼女の名前を呼ぶたびに憎しみが一層深くなる。ギリッと歯を噛み締めるも、兄は弟の気持ちに全く気づかない。
「兄さん、帰るよ。荷物は?」
「あ、部室に置いたままだ。取ってくるよ」
茂夫はベッドから起き上がり、肉体改造部の部室へと向かった。
「僕も行くよ、兄さん」
律も兄の後を追いかける。
部室へつくと茂夫のロッカーに何やら紙が貼ってある。紙には男子特有の汚い字で『影山へ。お大事に。妹さんによろしくな!部員一同より』と書いてあった。
茂夫の顔がぱあっと明るいものになる。嬉々として茂夫は紙を剥がすと丁寧に折りたたんでポケットにしまった。
「『妹』って、もしかして逢瀬さんのこと?」
傍らで紙を見た律が疑問の声をあげる。
「千冬ちゃん、妹だと勘違いされちゃったんだね。明日、皆の誤解を解いておくよ」
ロッカーから荷物を取り出し、体操服から制服に着替えた茂夫は律とともに家路についた。