モブサイコ長編(律)
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春。
長い黒髪をポニーテールにした少女の名前は、逢瀬千冬。
入学式を終えたばかりの中学一年生だ。身長は150センチ程で小さく、可愛らしい。
千冬は緊張をほぐすように大きく深呼吸すると、意を決してクラスの扉を開く。
扉を開ければ、ざわざわと騒がしい音が耳に入ってきた。近くの人同士でおしゃべりしたり自己紹介をしたりしているらしい。皆、緊張しつつも楽しそうな様子だった。
席はあいうえお順。
机の上には新入生の名札が置いてある。
千冬は自分の席を探し、見つけると席につく。隣は気さくそうな男子生徒で、千冬が席につくなり声をかけてきた。
「俺、上原。よろしくー!」
「逢瀬です。よ、よろしく…」
男子生徒の勢いに圧倒されながら、なんとか挨拶を返す。ふぅと溜め息をついて周りを見渡す。皆近くの人同士でおしゃべりをしているが、千冬は自分から声をかけることが苦手だった。
(お友達、できるでしょうか…?)
不安に俯き、自身の机をジッと見つめて時が過ぎるのを待った。
(先生、早く来ないかな…)
「ねぇ!」
ぼんやりと考え事をしていると前の生徒から声をかけられ、吃驚して千冬は勢いよく顔を上げる。
「私、遠藤麻紀っていうの。よろしくね」
ニッコリと自己紹介をしてくる女生徒に、慌てて千冬も自己紹介をする。
「逢瀬千冬です。よ、よろしくお願いします」
ツンツンと今度は後ろから背中をつつかれ、振り返る。
「私、片桐恵。よろしくね」
後ろの女生徒もニコッと微笑んで自己紹介をしてくる。
「逢瀬千冬です。よろしくお願いします…」
「もー、千冬ちゃん緊張しすぎ!せっかく近くの席になれたんだからこれからよろしくね!」
明るく気さくそうな女生徒達に千冬はほっと胸をなで下ろした。
(良かった。皆さん、良い人そうです。これならなんとかやっていけるかも…)
麻紀・恵と話していると、恵の隣に男子生徒がやってきて席についた。背が高く、キリッとした少年だった。
「えっ、かっこいい…!わ、私、片桐恵っていいます。よろしくお願いします!」
恵が男子生徒に声をかける。声をかけられた男子生徒は恵の方を向いた。
「僕は影山律。よろしく、片桐さん」
ニコッと微笑んだ影山を見て、恵の顔が赤くなる。
「恵さん、大丈夫ですか?顔赤いですよ?」
「千冬ちゃん、黙って!!」
顔が赤くなっていると悪気なく指摘してしまった千冬を恵は睨みつけた。
「す、すみません…」
「俺、上原!よろしく、影山~!」
「上原くん、よろしく」
千冬の隣の上原も影山に声をかけ、自己紹介していた。
斜め後ろの席の人なのだから自分も挨拶せねば。そう思って彼の方を見ると、彼も千冬のことを見ていた。
「影山律です。よろしく」
「逢瀬千冬です。よろしくお願いします」
挨拶をすませたので千冬は前に向き直る。
「影山くん、かっこいい~!」
前の席の麻紀も、何やら頬を染めて影山のことを見つめていた。
(何なんでしょうか。早く先生来てほしい…)
少しして、教員が入ってくる。
クラスの雰囲気はうわついたものから、一気に緊張へと変わる。
こうして中学生初めての授業がスタートした。
休み時間になると、麻紀と恵が窓際から千冬に手招きする。
「何か…?」
「もー!何か…?じゃないでしょ!私たちもう友達じゃん!!」
(いつの間にか友達にされている…)
「影山くん、すっごくかっこいいよね!恵、隣の席なんて羨ましいな~!」
「えへへー、私超ラッキー!また話しかけてみようかなあ」
キャッキャッと麻紀と恵は影山を話題に楽しそうだ。
「千冬ちゃん聞いてる?」
「聞いています」
麻紀・恵は千冬の温度差もなんのその。二人で話はどんどん盛り上がっていく。そんな二人の話を聞いた周りの女子達も集まってきた。
(はあ、自分の席に帰りたい…)
熱を帯びてゆく女子達の恋バナを冷めた様子で見守る千冬なのだった。
それから数日。
影山律はクラスの女子達からすっかり人気者になっていた。かっこよくて勉強もスポーツもできるとあって、憧れの的となっていたのだ。性格も温厚で優しく紳士的で、男女問わず好かれていた。噂によると上の学年に兄がいるらしい。兄の方は、彼とは正反対でとても地味なんだとか。
「千冬ー!」
「何ですか、麻紀さん」
「さっきの授業のノート見せてー!!」
「別にいいですけど、また居眠りですか?」
「しょーがないじゃん、だって先生の話難しいんだもん」
「しょーがなくありません。ノートくらいきちんと自分でとって下さい」
ぶーとふてくされる麻紀に千冬は自分のノートを手渡した。
逢瀬千冬。彼女も勉強ができた。スポーツはそれなりだが、可愛くて、ちょっと天然なところがある。実は密かに男子生徒から人気があったが、当人はそのことに全く気が付いていなかった。
「ねぇねぇ、千冬ちゃん。部活何入るかもう決めた~?」
恵の質問にスパッと千冬は答える。
「入りません」
「は?え!?嘘でしょ!?千冬ちゃん部活入らないの!?中学生といったら部活が青春じゃない!!」
「そうなんですか?でも入りませんよ」
「え~、何でよ~」
「何でって、家の仕事の手伝いがあるので…」
「家の仕事って?」
「私の家、喫茶店をやっているので」
「喫茶店!?ウエイトレス!?やだ、千冬ちゃん絶対可愛い!!なんていうお店?行く行く!!」
ぐいぐい食いついてくる恵に対し、ジト目で千冬は返す。
「来なくていいです。店名は教えません」
「なんでよー!?見たい見たい!千冬のウエイトレス姿が見たーい!!」
「ちょっ!?恥ずかしいから大きい声出さないで下さい!!もう、わからない問題教えてあげませんよ?」
「ちぇー」
恵はふてくされながらも大人しくなったが、千冬のウエイトレスの噂はひっそりとクラス中に広まってしまうのだった。
翌日。千冬は日直当番だった。授業が終わり、教員が書いた黒板の字を消していく。が、上の方の字にどうしても手が届かず困っていた。
「ぐぬぬ…!」
同じく日直当番の上原はどうしたのかというと、休み時間だ!と友人を引き連れて日直の仕事を放り出してどこかに行ってしまったのである。
ぴょんぴょんとジャンプしてみるが、どうしても消すことができない。
「貸して」
いつの間にか隣に男子生徒がいて、千冬の手から黒板消しをさらってゆく。男子生徒は高いところの字を消すと黒板消しを戻した。
「上原くんが戻ってきたら、ちゃんと日直の仕事やるように注意しておくね」
そう言って微笑んだのは影山律だった。
「い、良い人…!」
千冬はキラキラと目を輝かせて影山を見上げた。
影山は照れくさそうに頬をかくと、自分の席へと戻っていく。
そんな千冬の元へ友人二人が駆け寄ってきた。
「ちょっとちょっと!見たわよ!いいなぁ~、千冬。影山くん、ほんっと優しいわよね~!」
「千冬ちゃんもようやく影山くんの良さに気づいたんじゃないの~?」
「良い人だなぁとは思いました」
「それだけ?えー、つまんな~い」
「つまらなくて結構です」
黒板を消すのを手伝ってくれた。
ただ、それだけ。
それだけなのに、なんだかとても嬉しかった。
長い黒髪をポニーテールにした少女の名前は、逢瀬千冬。
入学式を終えたばかりの中学一年生だ。身長は150センチ程で小さく、可愛らしい。
千冬は緊張をほぐすように大きく深呼吸すると、意を決してクラスの扉を開く。
扉を開ければ、ざわざわと騒がしい音が耳に入ってきた。近くの人同士でおしゃべりしたり自己紹介をしたりしているらしい。皆、緊張しつつも楽しそうな様子だった。
席はあいうえお順。
机の上には新入生の名札が置いてある。
千冬は自分の席を探し、見つけると席につく。隣は気さくそうな男子生徒で、千冬が席につくなり声をかけてきた。
「俺、上原。よろしくー!」
「逢瀬です。よ、よろしく…」
男子生徒の勢いに圧倒されながら、なんとか挨拶を返す。ふぅと溜め息をついて周りを見渡す。皆近くの人同士でおしゃべりをしているが、千冬は自分から声をかけることが苦手だった。
(お友達、できるでしょうか…?)
不安に俯き、自身の机をジッと見つめて時が過ぎるのを待った。
(先生、早く来ないかな…)
「ねぇ!」
ぼんやりと考え事をしていると前の生徒から声をかけられ、吃驚して千冬は勢いよく顔を上げる。
「私、遠藤麻紀っていうの。よろしくね」
ニッコリと自己紹介をしてくる女生徒に、慌てて千冬も自己紹介をする。
「逢瀬千冬です。よ、よろしくお願いします」
ツンツンと今度は後ろから背中をつつかれ、振り返る。
「私、片桐恵。よろしくね」
後ろの女生徒もニコッと微笑んで自己紹介をしてくる。
「逢瀬千冬です。よろしくお願いします…」
「もー、千冬ちゃん緊張しすぎ!せっかく近くの席になれたんだからこれからよろしくね!」
明るく気さくそうな女生徒達に千冬はほっと胸をなで下ろした。
(良かった。皆さん、良い人そうです。これならなんとかやっていけるかも…)
麻紀・恵と話していると、恵の隣に男子生徒がやってきて席についた。背が高く、キリッとした少年だった。
「えっ、かっこいい…!わ、私、片桐恵っていいます。よろしくお願いします!」
恵が男子生徒に声をかける。声をかけられた男子生徒は恵の方を向いた。
「僕は影山律。よろしく、片桐さん」
ニコッと微笑んだ影山を見て、恵の顔が赤くなる。
「恵さん、大丈夫ですか?顔赤いですよ?」
「千冬ちゃん、黙って!!」
顔が赤くなっていると悪気なく指摘してしまった千冬を恵は睨みつけた。
「す、すみません…」
「俺、上原!よろしく、影山~!」
「上原くん、よろしく」
千冬の隣の上原も影山に声をかけ、自己紹介していた。
斜め後ろの席の人なのだから自分も挨拶せねば。そう思って彼の方を見ると、彼も千冬のことを見ていた。
「影山律です。よろしく」
「逢瀬千冬です。よろしくお願いします」
挨拶をすませたので千冬は前に向き直る。
「影山くん、かっこいい~!」
前の席の麻紀も、何やら頬を染めて影山のことを見つめていた。
(何なんでしょうか。早く先生来てほしい…)
少しして、教員が入ってくる。
クラスの雰囲気はうわついたものから、一気に緊張へと変わる。
こうして中学生初めての授業がスタートした。
休み時間になると、麻紀と恵が窓際から千冬に手招きする。
「何か…?」
「もー!何か…?じゃないでしょ!私たちもう友達じゃん!!」
(いつの間にか友達にされている…)
「影山くん、すっごくかっこいいよね!恵、隣の席なんて羨ましいな~!」
「えへへー、私超ラッキー!また話しかけてみようかなあ」
キャッキャッと麻紀と恵は影山を話題に楽しそうだ。
「千冬ちゃん聞いてる?」
「聞いています」
麻紀・恵は千冬の温度差もなんのその。二人で話はどんどん盛り上がっていく。そんな二人の話を聞いた周りの女子達も集まってきた。
(はあ、自分の席に帰りたい…)
熱を帯びてゆく女子達の恋バナを冷めた様子で見守る千冬なのだった。
それから数日。
影山律はクラスの女子達からすっかり人気者になっていた。かっこよくて勉強もスポーツもできるとあって、憧れの的となっていたのだ。性格も温厚で優しく紳士的で、男女問わず好かれていた。噂によると上の学年に兄がいるらしい。兄の方は、彼とは正反対でとても地味なんだとか。
「千冬ー!」
「何ですか、麻紀さん」
「さっきの授業のノート見せてー!!」
「別にいいですけど、また居眠りですか?」
「しょーがないじゃん、だって先生の話難しいんだもん」
「しょーがなくありません。ノートくらいきちんと自分でとって下さい」
ぶーとふてくされる麻紀に千冬は自分のノートを手渡した。
逢瀬千冬。彼女も勉強ができた。スポーツはそれなりだが、可愛くて、ちょっと天然なところがある。実は密かに男子生徒から人気があったが、当人はそのことに全く気が付いていなかった。
「ねぇねぇ、千冬ちゃん。部活何入るかもう決めた~?」
恵の質問にスパッと千冬は答える。
「入りません」
「は?え!?嘘でしょ!?千冬ちゃん部活入らないの!?中学生といったら部活が青春じゃない!!」
「そうなんですか?でも入りませんよ」
「え~、何でよ~」
「何でって、家の仕事の手伝いがあるので…」
「家の仕事って?」
「私の家、喫茶店をやっているので」
「喫茶店!?ウエイトレス!?やだ、千冬ちゃん絶対可愛い!!なんていうお店?行く行く!!」
ぐいぐい食いついてくる恵に対し、ジト目で千冬は返す。
「来なくていいです。店名は教えません」
「なんでよー!?見たい見たい!千冬のウエイトレス姿が見たーい!!」
「ちょっ!?恥ずかしいから大きい声出さないで下さい!!もう、わからない問題教えてあげませんよ?」
「ちぇー」
恵はふてくされながらも大人しくなったが、千冬のウエイトレスの噂はひっそりとクラス中に広まってしまうのだった。
翌日。千冬は日直当番だった。授業が終わり、教員が書いた黒板の字を消していく。が、上の方の字にどうしても手が届かず困っていた。
「ぐぬぬ…!」
同じく日直当番の上原はどうしたのかというと、休み時間だ!と友人を引き連れて日直の仕事を放り出してどこかに行ってしまったのである。
ぴょんぴょんとジャンプしてみるが、どうしても消すことができない。
「貸して」
いつの間にか隣に男子生徒がいて、千冬の手から黒板消しをさらってゆく。男子生徒は高いところの字を消すと黒板消しを戻した。
「上原くんが戻ってきたら、ちゃんと日直の仕事やるように注意しておくね」
そう言って微笑んだのは影山律だった。
「い、良い人…!」
千冬はキラキラと目を輝かせて影山を見上げた。
影山は照れくさそうに頬をかくと、自分の席へと戻っていく。
そんな千冬の元へ友人二人が駆け寄ってきた。
「ちょっとちょっと!見たわよ!いいなぁ~、千冬。影山くん、ほんっと優しいわよね~!」
「千冬ちゃんもようやく影山くんの良さに気づいたんじゃないの~?」
「良い人だなぁとは思いました」
「それだけ?えー、つまんな~い」
「つまらなくて結構です」
黒板を消すのを手伝ってくれた。
ただ、それだけ。
それだけなのに、なんだかとても嬉しかった。
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