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「鼓八千さん、コーヒーをどうぞ」
「ああ、ありがとう早希」
隠神は早希からコーヒーカップを受け取り、ズズ…とすする。
その様子を見ていた織が疑問を口にする。
「隠神さんと早希さんって付き合ってんの?」
「ぶふっ!?」
隠神は驚きのあまりコーヒーを吹いてしまった。
「タオルをお持ちします」
早希はスッとタオルを取りに行き、隠神に手渡す。
隠神はタオルで口元を拭いながら、織に答えた。
「いや、付き合ってないよ。どうしてそう思う?」
「だってお互い下の名前で呼び合ってるし、なんか…付き合ってる通り越して夫婦みたいだし」
「夫婦!?いやいや、違うから。早希に失礼でしょ」
「ええ~っ!?隠神さんと早希さんって付き合ってないの!?信じられない!!」
「夫婦かと思ってました」
晶と夏羽も、恋仲を否定する隠神に驚いた様子だ。
「お前たちね…」
はぁーと溜息を吐く隠神。クスクスと早希が笑う。
「皆そんなふうに思ってたの?私はただの秘書。鼓八千さんとは恋仲じゃないわよ」
「えー!?絶対恋人同士だって!!」
納得できないという三人の様子に、早希が口を開く。
「そうねぇ…、昔の話、聞きたい?」
「早希!!」
隠神が珍しく頬を染めて早希を咎める。
「いいじゃない。この子たち、家族みたいなものでしょう。聞く権利はあるはずよ」
「~~~!わかった、好きにしなさい」
「やった!聞かせて聞かせて!!」
興味深そうに織、晶、夏羽が目を輝かせて早希を囲む。
早希は微笑んで語り始めた。
昔々。
隠神はある村人から依頼を受けていた。
美しい歌声で人を魅了する怪物を退治してほしい、と。
一度その歌声を聞けば、心を奪われてしまうという。
歌声を聞いて仕事が手につかなくなった者、一日中ぼんやりとしてしまう者、もう一度その歌声を聞きたいと森に入っていき帰ってこなかった者があとをたたないのだという。
隠神は怪物を探し、森へと入っていく。
葉のこすれる音、鳥や虫の鳴き声に混ざって微かに聞こえてくる歌の旋律。奥へ奥へと進んでいくほど歌声はだんだんと大きくなっていく。
森の奥深くで歌声の主の姿をようやく隠神がとらえた。金の長い髪の美しい女性が楽しそうに歌を紡いでいる。美しい歌声と姿に隠神は見とれてしまった。女性が歌を終えると、ハッと隠神は我に帰る。
意を決して隠神は女性に声をかけた。
「あの~、歌で人を魅了する怪物って君のこと?」
女性は隠神を見る。
「…そう話す人間もいるわ」
「………惜しいな」
「?」
「君のこと、退治してくれって頼まれて来たんだけど」
「そう…。…あなたは?」
「驚かないのか。俺は隠神 鼓八千。隠神探偵事務所の者でね。…化狸の怪物さ」
「私は早希。金糸雀の怪物。人間が私をどう思っているかはわかっているわ。それでも歌をやめることはできないの。」
「美しい歌だった。人間が虜になるのもわかる」
「私はただ生きているだけ。金糸雀だもの。囀ることは、歌を歌うことは、私にとって日常。それが人間にとって害だというのなら私はどうしたらよいの?」
「…俺と来ないか?」
「何故?」
「隠神探偵事務所には空き部屋が何部屋かある。そこに住めばいい。君を殺すのは惜しい」
「結構よ。何故、私が狸と住まねばならないの?」
「ははっ、振られたな。悪い話じゃないと思うけど。なら、力ずくでいくまでだ」
ズズ…と隠神が手を拳銃に変化させ、何発か銃弾を放った。
早希は避けなかった。
銃弾はすべて早希には当たらず、周りの木々に当たった。
「あなた、最初から私に当てる気ないでしょう?」
「まあね。綺麗な早希ちゃんに怪我させたくないし」
バサリと早希の背中から金色の翼が生える。翼を勢いよくはためかせ、隠神めがけて羽根をとばす。針のようなそれは当たればひとたまりもないだろう。隠神はかろうじて避ける。羽根は木々に突き刺さった。
続けて早希は歌を歌う。
先ほどとは違う美しくも妖しい歌声は隠神の頭に強烈な衝撃を与えた。
頭が割れるように痛い。あまりの痛みに隠神はその場にうずくまる。だんだんと意識が遠のいていく。
薄れゆく意識の中で隠神は早希に向けて手を伸ばした。
隠神が目を覚ますと、辺りは真っ暗になっていた。星が綺麗に輝いている。
「ずいぶん長く気を失っていたわね」
仰向けに寝転がる隠神の隣に早希が腰かけている。
「どうして殺さない?」
「あなたを殺す理由がないもの。真っ暗になっちゃったし、村まで道案内するわ。」
「ずいぶん親切だな」
「あら、嫌ならいいわよ。遭難しても知らないわ。それじゃ」
踵を返し立ち去ろうとする早希の腕を慌てて掴む。
「まてまてまて!本当に遭難する!頼む!」
慌てた隠神の様子にクスクスと声を出して早希が笑った。
「面白いヒト。隠神探偵事務所だったかしら?いいわよ。一緒に住んでも。」
「は?」
「ずっと独りでいるのもつまらないし。なんとなく、気が向いたのよ」
「…本当にいいのか?」
「あなたが私の歌を聴いてくれるなら、いいわよ。聴いてくれるヒトがいると嬉しいもの」
「勿論。喜んで」
事務所に着き、隠神が扉を開けると早希は顔をしかめた。
「…あなた、なんて生活してるの?」
「ははは、散らかっててすまない。片づけるから、座っていてくれ」
「いいわ。私も片づけを手伝うから」
「助かるよ。早希ちゃんは、好きな空き部屋を使うといい」
「ちゃん付けはやめて。子供じゃないわ」
「わかった。じゃあ…早希」
「…あなた、名前なんだったかしら?」
「おいおい、ひどいな。隠神 鼓八千だ」
「鼓八千さん、ね?」
下の名前で呼ばれ、思わず顔が赤くなる隠神。
「…照れてるの?ふふっ、可愛いヒト」
「あのねぇ、美女に下の名前で呼ばれたら誰だって照れるでしょ」
「お上手ね。…鼓八千さん、これからよろしくお願いします」
「ああ、よろしく。早希」
…そんなわけで、私は隠神探偵事務所で暮らすようになったのよ」
「へぇー、そうだったんだ!でも早希さん、下の名前で呼ぶなんて、やっぱり隠神さんに気があるんじゃないの?」
織の疑問に早希は「内緒」、と答えた。
「内緒ってことは、好きなんだ!?キャー!」
恋バナだ!と盛り上がる晶たちに隠神が近づく。
「はいはい。今日はそこまで。昔話はもういいでしょ」
「続きはまた今度ね」
「早希!!」
咎める隠神の顔は赤かった。
「ああ、ありがとう早希」
隠神は早希からコーヒーカップを受け取り、ズズ…とすする。
その様子を見ていた織が疑問を口にする。
「隠神さんと早希さんって付き合ってんの?」
「ぶふっ!?」
隠神は驚きのあまりコーヒーを吹いてしまった。
「タオルをお持ちします」
早希はスッとタオルを取りに行き、隠神に手渡す。
隠神はタオルで口元を拭いながら、織に答えた。
「いや、付き合ってないよ。どうしてそう思う?」
「だってお互い下の名前で呼び合ってるし、なんか…付き合ってる通り越して夫婦みたいだし」
「夫婦!?いやいや、違うから。早希に失礼でしょ」
「ええ~っ!?隠神さんと早希さんって付き合ってないの!?信じられない!!」
「夫婦かと思ってました」
晶と夏羽も、恋仲を否定する隠神に驚いた様子だ。
「お前たちね…」
はぁーと溜息を吐く隠神。クスクスと早希が笑う。
「皆そんなふうに思ってたの?私はただの秘書。鼓八千さんとは恋仲じゃないわよ」
「えー!?絶対恋人同士だって!!」
納得できないという三人の様子に、早希が口を開く。
「そうねぇ…、昔の話、聞きたい?」
「早希!!」
隠神が珍しく頬を染めて早希を咎める。
「いいじゃない。この子たち、家族みたいなものでしょう。聞く権利はあるはずよ」
「~~~!わかった、好きにしなさい」
「やった!聞かせて聞かせて!!」
興味深そうに織、晶、夏羽が目を輝かせて早希を囲む。
早希は微笑んで語り始めた。
昔々。
隠神はある村人から依頼を受けていた。
美しい歌声で人を魅了する怪物を退治してほしい、と。
一度その歌声を聞けば、心を奪われてしまうという。
歌声を聞いて仕事が手につかなくなった者、一日中ぼんやりとしてしまう者、もう一度その歌声を聞きたいと森に入っていき帰ってこなかった者があとをたたないのだという。
隠神は怪物を探し、森へと入っていく。
葉のこすれる音、鳥や虫の鳴き声に混ざって微かに聞こえてくる歌の旋律。奥へ奥へと進んでいくほど歌声はだんだんと大きくなっていく。
森の奥深くで歌声の主の姿をようやく隠神がとらえた。金の長い髪の美しい女性が楽しそうに歌を紡いでいる。美しい歌声と姿に隠神は見とれてしまった。女性が歌を終えると、ハッと隠神は我に帰る。
意を決して隠神は女性に声をかけた。
「あの~、歌で人を魅了する怪物って君のこと?」
女性は隠神を見る。
「…そう話す人間もいるわ」
「………惜しいな」
「?」
「君のこと、退治してくれって頼まれて来たんだけど」
「そう…。…あなたは?」
「驚かないのか。俺は隠神 鼓八千。隠神探偵事務所の者でね。…化狸の怪物さ」
「私は早希。金糸雀の怪物。人間が私をどう思っているかはわかっているわ。それでも歌をやめることはできないの。」
「美しい歌だった。人間が虜になるのもわかる」
「私はただ生きているだけ。金糸雀だもの。囀ることは、歌を歌うことは、私にとって日常。それが人間にとって害だというのなら私はどうしたらよいの?」
「…俺と来ないか?」
「何故?」
「隠神探偵事務所には空き部屋が何部屋かある。そこに住めばいい。君を殺すのは惜しい」
「結構よ。何故、私が狸と住まねばならないの?」
「ははっ、振られたな。悪い話じゃないと思うけど。なら、力ずくでいくまでだ」
ズズ…と隠神が手を拳銃に変化させ、何発か銃弾を放った。
早希は避けなかった。
銃弾はすべて早希には当たらず、周りの木々に当たった。
「あなた、最初から私に当てる気ないでしょう?」
「まあね。綺麗な早希ちゃんに怪我させたくないし」
バサリと早希の背中から金色の翼が生える。翼を勢いよくはためかせ、隠神めがけて羽根をとばす。針のようなそれは当たればひとたまりもないだろう。隠神はかろうじて避ける。羽根は木々に突き刺さった。
続けて早希は歌を歌う。
先ほどとは違う美しくも妖しい歌声は隠神の頭に強烈な衝撃を与えた。
頭が割れるように痛い。あまりの痛みに隠神はその場にうずくまる。だんだんと意識が遠のいていく。
薄れゆく意識の中で隠神は早希に向けて手を伸ばした。
隠神が目を覚ますと、辺りは真っ暗になっていた。星が綺麗に輝いている。
「ずいぶん長く気を失っていたわね」
仰向けに寝転がる隠神の隣に早希が腰かけている。
「どうして殺さない?」
「あなたを殺す理由がないもの。真っ暗になっちゃったし、村まで道案内するわ。」
「ずいぶん親切だな」
「あら、嫌ならいいわよ。遭難しても知らないわ。それじゃ」
踵を返し立ち去ろうとする早希の腕を慌てて掴む。
「まてまてまて!本当に遭難する!頼む!」
慌てた隠神の様子にクスクスと声を出して早希が笑った。
「面白いヒト。隠神探偵事務所だったかしら?いいわよ。一緒に住んでも。」
「は?」
「ずっと独りでいるのもつまらないし。なんとなく、気が向いたのよ」
「…本当にいいのか?」
「あなたが私の歌を聴いてくれるなら、いいわよ。聴いてくれるヒトがいると嬉しいもの」
「勿論。喜んで」
事務所に着き、隠神が扉を開けると早希は顔をしかめた。
「…あなた、なんて生活してるの?」
「ははは、散らかっててすまない。片づけるから、座っていてくれ」
「いいわ。私も片づけを手伝うから」
「助かるよ。早希ちゃんは、好きな空き部屋を使うといい」
「ちゃん付けはやめて。子供じゃないわ」
「わかった。じゃあ…早希」
「…あなた、名前なんだったかしら?」
「おいおい、ひどいな。隠神 鼓八千だ」
「鼓八千さん、ね?」
下の名前で呼ばれ、思わず顔が赤くなる隠神。
「…照れてるの?ふふっ、可愛いヒト」
「あのねぇ、美女に下の名前で呼ばれたら誰だって照れるでしょ」
「お上手ね。…鼓八千さん、これからよろしくお願いします」
「ああ、よろしく。早希」
…そんなわけで、私は隠神探偵事務所で暮らすようになったのよ」
「へぇー、そうだったんだ!でも早希さん、下の名前で呼ぶなんて、やっぱり隠神さんに気があるんじゃないの?」
織の疑問に早希は「内緒」、と答えた。
「内緒ってことは、好きなんだ!?キャー!」
恋バナだ!と盛り上がる晶たちに隠神が近づく。
「はいはい。今日はそこまで。昔話はもういいでしょ」
「続きはまた今度ね」
「早希!!」
咎める隠神の顔は赤かった。