短編集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「もうすぐ結莉さんの誕生日です。ということで、この日は僕の部屋でお祝いしますから、皆さん18時に僕の部屋に集まってください」
「はあ?なんで俺たちまで行かなきゃいけねーんだよ。めんどくせーな。パスパス!!」
一番に拒否したのは陽だ。
「この日はとびきりのご馳走を用意する予定なのですが、そうですか…。それは残念ですね」
残念そうに赤城が呟くと、陽の表情がパッと変わる。
「ふ、ふーん、まあ、短い時間なら出てやらなくもないけどな!な、炉薔薇!」
「ひぃちゃん、ご飯につられたんだね…」
「んなわけねーだろ!祝ってやらなくもないって思っただけだ!」
「そうですか、それは良かったです。賑やかな方が彼女も喜びますからね」
してやったりとニヤリと赤城は笑った。
「まぁ、僕も短い時間なら構いませんよ」
ニコニコと野火丸も参加の意を示す。
花楓と梅太郎も快諾してくれた。
「料理は僕が買い出しに行ってきますから、皆さんに手間はかけさせませんよ。プレゼントは渡したい方だけ、用意してください。以上です」
各自が解散したあと、花楓と梅太郎が赤城のもとにやってきた。
「何か手伝うことあるか?赤城一人で準備するんじゃ大変だろ?」
「俺も手伝う!」
「…二人とも、ありがとうございます。助かります。それでは…」
当日は三人で買い出しに行くことに決め、それ以外は分担することにした。
飾り付けは赤城が。
余興については花楓が。
梅太郎はその両方のサポートを行うことになった。
~梅太郎の部屋~
「で、何でおまえたちは俺の部屋に集まるんだよ」
「何でって、自分の部屋でやったらバレてしまうではないですか」
赤城は買ってきた折り紙を折ったり、切ったりしている。
「まぁ、赤城の理由はわかるけど」
チラと梅太郎は花楓を見る
「二人だけでずるいじゃん!俺もここで考える!」
余興担当の花楓はメモを片手にどっかり腰を据えていた。
「はい、梅太郎はこれを糊付けして下さいね」
「はいはい」
赤城と梅太郎が協力して飾り付けを作ること30分。大分飾り付けは仕上がってきた。すると、
「あー!もー!わかんねーよ!!」
と花楓がメモ帳を地面に叩きつけた。
「花楓くん、暴れないで下さい。何がわからないんです?」
「余興って、皆が楽しめる芸とかゲームとかだろ?俺と梅ちゃんと赤城さんだったら良いけどさ、野火丸と陽達が楽しめる余興ってのがわかんねーよ!」
赤城は花楓が投げ捨てたメモを拾い上げて目を通すと「なかなか良いんじゃないですか?」と言った。
「ほんと!?どれどれ?」
「一発芸大会ですかね」
「でも、あいつらやってくれるかな?」
心配そうに梅太郎が言う。
「そうですね、結莉さんに一番良かった人を決めて頂いて、優勝者には豪華景品を用意するのはどうですか?」
「景品ねぇ。あいつらが喜ぶものって何だろうな」
「…無難に商品券ですかね。まぁ、参加したくない人には無理強いしなくて良いんじゃないですか?」
「だな」
「よーし、じゃあ俺皆に一発芸大会するから、準備しといてって言ってくる!」
花楓は元気よく飛び出していった。
~誕生日当日~
赤城は部屋の飾り付けを黙々と行っていた。
「赤城さん、どうしたんですか?急にお部屋を飾り付けたりして」
「今日は貴女のお誕生日ですから。結莉さん、お誕生日おめでとうございます」
「!?」
「この部屋に閉じ込めて、窮屈な思いをさせてしまってすみません。せめて、僕達でお祝いさせてください。…結莉さん?」
結莉はポロポロと涙をこぼし始めた。
「ど、どうして泣くんですか!泣かないでください。貴女が泣くのを見るのは辛いです」
「す、すみません。嬉しくて。いつもとても良くして下さっているのに。私の誕生日をお祝いして下さるなんてとっても嬉しいんです。ありがとう、赤城さん」
「どういたしまして。僕だけではありませんよ。18時には皆ここに集まりますから」
赤城はそう言うと結莉の頬にそっと触れる。
「…貴女に寂しい思いはさせません」
赤城が飾り付け作業に戻ると、結莉がついてきて飾りに手を伸ばした。
「一緒に飾らせてください」
二人で作業をしていると結莉が口を開いた。
「…赤城さんがいてくれて、私は救われているんです。貴方がいなかったら、きっと私はまた違っていたでしょう。こんな風に笑って過ごすことなんて、出来なかったと思います。本当に、ありがとうございます」
「…僕には、勿体ない言葉です。…結莉さんに、これを」
赤城は小さな箱を結莉に渡した。
「これは?」
「開けてみて下さい。その…皆が来てからでは恥ずかしいですから。プレゼントです」
結莉が箱のリボンを解いて開けると、中には美しい銀色のネックレスが入っていた。
「綺麗…!」
赤城はネックレスを取り、結莉の首につける。
「この先僕達が離れても、これを見て思い出してもらえたら嬉しいです。いつか貴女は戻らなくては。大切な家族のもとへ。貴女の日常へ。…約束します、僕は貴女を守ります」
「っ、どうして…、どうして、赤城さんはこんなに良くして下さるんですか。私は、何も貴方にできていないのに」
泣きながら結莉は声を絞り出す。
「貴女が何もできていないということはありません。僕は救われていますよ、貴女に」
赤城は結莉を優しく抱きしめる。
「ありがとう。貴女に出会えて良かった」
結莉は泣いた。かけがえのない言葉を貰ったことが、とてもとても嬉しかった。赤城がいつか遠くへ行ってしまうことがとてもとても悲しかった。
赤城の目からも涙がこぼれていた。
結莉が泣き止むと赤城はそっと身を離した。
「さて、そろそろ買い出しにいかないと。少し出てきます。ああ、そうだ結莉さん。今日は何も作らなくていいですからね」
赤城が出て行ったあと、結莉は部屋を見渡した。手作りの折り紙やペーパーフラワーで彩られた部屋は結莉の心を励ました。
「ありがとう。貴方に出会えて良かったのは、私も同じです」
そっとネックレスに触れる。家族に、織達に、会いたい。帰りたい。けれど、それは赤城との別れを意味している。考えないようにしていたこと。それを赤城に突きつけられた気がした。
~パーティー開始~
赤城、花楓、梅太郎が買い出しを終え、部屋にやってきた。
「結莉ちゃん誕生日おめでとー!!」
「こらこら、花楓。まだ早いだろ…。まぁ、いいか。誕生日おめでとう、結莉ちゃん」
花楓と梅太郎に結莉はありがとうと礼を言う。
彼らは大きな袋を下ろし、買ってきた料理などを並べ始めた。結莉も紙皿や紙コップを並べたりするのを手伝った。
18時ぴったりになると、ガチャリと扉を開けて野火丸、陽、炉薔薇が入ってきた。
「おめでとうございま~す!!」
にこやかな野火丸。
「まぁ、なんだ。わざわざ来てやったんだからな!感謝しろよ」
ふんっとした態度の陽。
「おめでとー」
心が全くこもっていない炉薔薇。
皆が集合し、賑やかになる。
「皆さん、ありがとうございます!とっても嬉しいです!」
改めて結莉が礼を言う。
各々酒やジュースをコップに注ぎ、乾杯する。
早々に一発芸大会が始まった。
「はいはーい、じゃあ今から一発芸大会始めまーす!一番良かった人を結莉ちゃんが選んでくださーい!景品はこちら!商品券一万円分でーす!」
「うわっ、ショボ」
「いらねー」
野火丸と陽が文句をこぼすが、「はい、そこ文句言わなーい」と花楓がたしなめた。
「一番は野火丸ー!」
「はーい、やりまーす」
やる気なさそうな野火丸は前に出ると、ポケットからハンカチを取り出す。
そして幻術でハンカチを小鳥に変化させた。
「鳥さんでーす。どうです、可愛いでしょ?」
結莉はニコニコと笑って拍手を送った。
「はい、おしまいでーす」
野火丸はスタスタと席に戻り、料理をパクパク食べ始めた。
「二番は陽&ロバー!」
「炉薔薇」
陽と炉薔薇は前に出ると、突然部屋の椅子を陽が真っ二つに切る。そして細かく椅子を刻む陽。それを炉薔薇が特殊な銃でくっつけていく。奇妙なオブジェが完成した。
「はい、できたー」
パチパチと結莉は二人に拍手を送った。
「三番、梅ちゃーん!」
梅太郎はよくある手品グッズで手品を披露した。
切ったのに、切れてない糸。
何もなかったところから出現するコイン。
王道な手品だが、よく練習していてとても上手だった。
結莉は嬉しそうに笑っていた。
「四番、赤城さーん!」
「いきます」
赤城は幻術で部屋を夜空の草原に変える。
「これなら、キャンプしているようでしょう。せっかくなので、しばらくこうしておきましょうか」
結莉は美しい星空をとても気に入った様子だった。
「最後、俺ー!」
花楓は冷蔵庫から買ってきたケーキを取り出し、ろうそくを立てていく。結莉ちゃん、何歳?」
「18歳になりました」
「じゃあ、いーち、にーい、さーん、ごー、いいや全部さしちゃえ」
ろうそくをさし終えると、ガツンと拳を合わせて小さな火球を生み出した。その火球で花楓はケーキのろうそくに火を灯していく。
灯し終えると大きな声でハッピーバースデーを歌った。歌詞はところどころ間違えていたが結莉は嬉しかった。
「結莉ちゃん、火を消してくださーい」
ふぅっと火を吹き消すと皆がパチパチと拍手した。
『お誕生日おめでとう』
「皆さんありがとうございます。私、とっても幸せです」
「なあなあ!誰が一番良かったー?一番決めて!」
うーんと考え込んでから結莉が口を開く。
「一番は…陽さんと炉薔薇さんです」
「えー!?なんで、なんでー!なんで俺じゃないのー!」
ぷうっと頬を膨らませて花楓が不満を述べた。
「皆さんとっても素敵でした!なので、誰に景品をお渡ししたいかで考えさせてもらったんです。陽さんと炉薔薇さんは、あまりこういう場は好きではなさそうですから、だから来て頂いてとても嬉しかったんです。ありがとうございます」
「ちぇー。じゃ、陽とロバにあげるー」
つまらなそうに花楓は商品券を二人に渡した。
「ふん」
「ひぃちゃん、嬉しそう」
「別に、嬉しくない!」
それから皆で談笑し、ケーキや料理を楽しんだ。なんだかんだで皆楽しんでいるようだった。
「もし、プレゼントを持ってきている人がいたら、そろそろお渡ししてください。僕はもう渡しました」
「じゃ、これ結莉ちゃんに」
梅太郎は結莉に小さな包みを渡す。中には可愛いハンカチが入っていた。
「僕はこれを」
野火丸は花(その辺から摘んできた)を差し出した。
陽と炉薔薇からはチロルチョコを貰った。
花楓はとびきりのものを用意したと言った。しかし、彼は手ぶらだった。
「花楓くん、もしかして持ってくるの忘れたんですか?」
「違いまーす!俺からはー、赤城さんのキスをプレゼント!!」
「はあああ!?」
赤城が動揺し、花楓を睨む。
「何ですか、それ!聞いてないですし!」
「へえー、僕興味ないのでそろそろ帰りますよ」
「俺らも帰るぜ」
スタスタと野火丸達は帰っていった。
そして残されたのは梅太郎、花楓、赤城、結莉の四人だ。
キース、キース、とキスコールをする梅太郎と花楓を赤城は睨み、結莉に向き直る。
「結莉さん、嫌ですか?」
「えっ、えっと、その、こういう感じでするのは違うと思います!それに私、すっ、好きな人が」
「えっ!?だ、誰ですか!それ!!」
赤城は怖い顔で結莉を問い詰めた。
「えっと…織くん…」
「織…、もしかして、つり目の少年ですか?確か夏羽クンがそう呼んでいた気が。そう。そうですか。ふっふふ、ふふふふふ」
突然赤城は笑いだした。
「赤城さんが壊れた!!」
「失恋か、切ないね~」
キッと赤城はまっすぐ結莉を見つめる。
「いいでしょう!」
赤城は結莉の右手を取ると手の甲に優しくキスをした。
「振り向かせてみせますよ、結莉さん!」
「ええっ!?」
困った顔で赤城を見るが、赤城は真剣に結莉を見つめていた。
「いいぞ、いいぞ、頑張れ赤城ー!」
「赤城さん、ファイトー!」
ようやく結莉は赤城の想いに気づいたのだった。
「あのっ、赤城さん、私困ります!私、織くんが好きなんです!あの、その、ど、どうしたらいいの?」
困って泣きそうな結莉に赤城は声をかける。
「別に、今までと変わらずにいてくれたら、それで良いんです。僕は貴女が好きです。ただ、それだけです。貴方が他の誰を好きだとしても、僕の想いは変わりませんから」
「赤城さん…」
長い結莉の髪を一束すくって赤城は言う。
「諦めませんよ。振り向かせてみせますから。これから覚悟してくださいね」
意地悪そうに赤城が笑った。
「はあ?なんで俺たちまで行かなきゃいけねーんだよ。めんどくせーな。パスパス!!」
一番に拒否したのは陽だ。
「この日はとびきりのご馳走を用意する予定なのですが、そうですか…。それは残念ですね」
残念そうに赤城が呟くと、陽の表情がパッと変わる。
「ふ、ふーん、まあ、短い時間なら出てやらなくもないけどな!な、炉薔薇!」
「ひぃちゃん、ご飯につられたんだね…」
「んなわけねーだろ!祝ってやらなくもないって思っただけだ!」
「そうですか、それは良かったです。賑やかな方が彼女も喜びますからね」
してやったりとニヤリと赤城は笑った。
「まぁ、僕も短い時間なら構いませんよ」
ニコニコと野火丸も参加の意を示す。
花楓と梅太郎も快諾してくれた。
「料理は僕が買い出しに行ってきますから、皆さんに手間はかけさせませんよ。プレゼントは渡したい方だけ、用意してください。以上です」
各自が解散したあと、花楓と梅太郎が赤城のもとにやってきた。
「何か手伝うことあるか?赤城一人で準備するんじゃ大変だろ?」
「俺も手伝う!」
「…二人とも、ありがとうございます。助かります。それでは…」
当日は三人で買い出しに行くことに決め、それ以外は分担することにした。
飾り付けは赤城が。
余興については花楓が。
梅太郎はその両方のサポートを行うことになった。
~梅太郎の部屋~
「で、何でおまえたちは俺の部屋に集まるんだよ」
「何でって、自分の部屋でやったらバレてしまうではないですか」
赤城は買ってきた折り紙を折ったり、切ったりしている。
「まぁ、赤城の理由はわかるけど」
チラと梅太郎は花楓を見る
「二人だけでずるいじゃん!俺もここで考える!」
余興担当の花楓はメモを片手にどっかり腰を据えていた。
「はい、梅太郎はこれを糊付けして下さいね」
「はいはい」
赤城と梅太郎が協力して飾り付けを作ること30分。大分飾り付けは仕上がってきた。すると、
「あー!もー!わかんねーよ!!」
と花楓がメモ帳を地面に叩きつけた。
「花楓くん、暴れないで下さい。何がわからないんです?」
「余興って、皆が楽しめる芸とかゲームとかだろ?俺と梅ちゃんと赤城さんだったら良いけどさ、野火丸と陽達が楽しめる余興ってのがわかんねーよ!」
赤城は花楓が投げ捨てたメモを拾い上げて目を通すと「なかなか良いんじゃないですか?」と言った。
「ほんと!?どれどれ?」
「一発芸大会ですかね」
「でも、あいつらやってくれるかな?」
心配そうに梅太郎が言う。
「そうですね、結莉さんに一番良かった人を決めて頂いて、優勝者には豪華景品を用意するのはどうですか?」
「景品ねぇ。あいつらが喜ぶものって何だろうな」
「…無難に商品券ですかね。まぁ、参加したくない人には無理強いしなくて良いんじゃないですか?」
「だな」
「よーし、じゃあ俺皆に一発芸大会するから、準備しといてって言ってくる!」
花楓は元気よく飛び出していった。
~誕生日当日~
赤城は部屋の飾り付けを黙々と行っていた。
「赤城さん、どうしたんですか?急にお部屋を飾り付けたりして」
「今日は貴女のお誕生日ですから。結莉さん、お誕生日おめでとうございます」
「!?」
「この部屋に閉じ込めて、窮屈な思いをさせてしまってすみません。せめて、僕達でお祝いさせてください。…結莉さん?」
結莉はポロポロと涙をこぼし始めた。
「ど、どうして泣くんですか!泣かないでください。貴女が泣くのを見るのは辛いです」
「す、すみません。嬉しくて。いつもとても良くして下さっているのに。私の誕生日をお祝いして下さるなんてとっても嬉しいんです。ありがとう、赤城さん」
「どういたしまして。僕だけではありませんよ。18時には皆ここに集まりますから」
赤城はそう言うと結莉の頬にそっと触れる。
「…貴女に寂しい思いはさせません」
赤城が飾り付け作業に戻ると、結莉がついてきて飾りに手を伸ばした。
「一緒に飾らせてください」
二人で作業をしていると結莉が口を開いた。
「…赤城さんがいてくれて、私は救われているんです。貴方がいなかったら、きっと私はまた違っていたでしょう。こんな風に笑って過ごすことなんて、出来なかったと思います。本当に、ありがとうございます」
「…僕には、勿体ない言葉です。…結莉さんに、これを」
赤城は小さな箱を結莉に渡した。
「これは?」
「開けてみて下さい。その…皆が来てからでは恥ずかしいですから。プレゼントです」
結莉が箱のリボンを解いて開けると、中には美しい銀色のネックレスが入っていた。
「綺麗…!」
赤城はネックレスを取り、結莉の首につける。
「この先僕達が離れても、これを見て思い出してもらえたら嬉しいです。いつか貴女は戻らなくては。大切な家族のもとへ。貴女の日常へ。…約束します、僕は貴女を守ります」
「っ、どうして…、どうして、赤城さんはこんなに良くして下さるんですか。私は、何も貴方にできていないのに」
泣きながら結莉は声を絞り出す。
「貴女が何もできていないということはありません。僕は救われていますよ、貴女に」
赤城は結莉を優しく抱きしめる。
「ありがとう。貴女に出会えて良かった」
結莉は泣いた。かけがえのない言葉を貰ったことが、とてもとても嬉しかった。赤城がいつか遠くへ行ってしまうことがとてもとても悲しかった。
赤城の目からも涙がこぼれていた。
結莉が泣き止むと赤城はそっと身を離した。
「さて、そろそろ買い出しにいかないと。少し出てきます。ああ、そうだ結莉さん。今日は何も作らなくていいですからね」
赤城が出て行ったあと、結莉は部屋を見渡した。手作りの折り紙やペーパーフラワーで彩られた部屋は結莉の心を励ました。
「ありがとう。貴方に出会えて良かったのは、私も同じです」
そっとネックレスに触れる。家族に、織達に、会いたい。帰りたい。けれど、それは赤城との別れを意味している。考えないようにしていたこと。それを赤城に突きつけられた気がした。
~パーティー開始~
赤城、花楓、梅太郎が買い出しを終え、部屋にやってきた。
「結莉ちゃん誕生日おめでとー!!」
「こらこら、花楓。まだ早いだろ…。まぁ、いいか。誕生日おめでとう、結莉ちゃん」
花楓と梅太郎に結莉はありがとうと礼を言う。
彼らは大きな袋を下ろし、買ってきた料理などを並べ始めた。結莉も紙皿や紙コップを並べたりするのを手伝った。
18時ぴったりになると、ガチャリと扉を開けて野火丸、陽、炉薔薇が入ってきた。
「おめでとうございま~す!!」
にこやかな野火丸。
「まぁ、なんだ。わざわざ来てやったんだからな!感謝しろよ」
ふんっとした態度の陽。
「おめでとー」
心が全くこもっていない炉薔薇。
皆が集合し、賑やかになる。
「皆さん、ありがとうございます!とっても嬉しいです!」
改めて結莉が礼を言う。
各々酒やジュースをコップに注ぎ、乾杯する。
早々に一発芸大会が始まった。
「はいはーい、じゃあ今から一発芸大会始めまーす!一番良かった人を結莉ちゃんが選んでくださーい!景品はこちら!商品券一万円分でーす!」
「うわっ、ショボ」
「いらねー」
野火丸と陽が文句をこぼすが、「はい、そこ文句言わなーい」と花楓がたしなめた。
「一番は野火丸ー!」
「はーい、やりまーす」
やる気なさそうな野火丸は前に出ると、ポケットからハンカチを取り出す。
そして幻術でハンカチを小鳥に変化させた。
「鳥さんでーす。どうです、可愛いでしょ?」
結莉はニコニコと笑って拍手を送った。
「はい、おしまいでーす」
野火丸はスタスタと席に戻り、料理をパクパク食べ始めた。
「二番は陽&ロバー!」
「炉薔薇」
陽と炉薔薇は前に出ると、突然部屋の椅子を陽が真っ二つに切る。そして細かく椅子を刻む陽。それを炉薔薇が特殊な銃でくっつけていく。奇妙なオブジェが完成した。
「はい、できたー」
パチパチと結莉は二人に拍手を送った。
「三番、梅ちゃーん!」
梅太郎はよくある手品グッズで手品を披露した。
切ったのに、切れてない糸。
何もなかったところから出現するコイン。
王道な手品だが、よく練習していてとても上手だった。
結莉は嬉しそうに笑っていた。
「四番、赤城さーん!」
「いきます」
赤城は幻術で部屋を夜空の草原に変える。
「これなら、キャンプしているようでしょう。せっかくなので、しばらくこうしておきましょうか」
結莉は美しい星空をとても気に入った様子だった。
「最後、俺ー!」
花楓は冷蔵庫から買ってきたケーキを取り出し、ろうそくを立てていく。結莉ちゃん、何歳?」
「18歳になりました」
「じゃあ、いーち、にーい、さーん、ごー、いいや全部さしちゃえ」
ろうそくをさし終えると、ガツンと拳を合わせて小さな火球を生み出した。その火球で花楓はケーキのろうそくに火を灯していく。
灯し終えると大きな声でハッピーバースデーを歌った。歌詞はところどころ間違えていたが結莉は嬉しかった。
「結莉ちゃん、火を消してくださーい」
ふぅっと火を吹き消すと皆がパチパチと拍手した。
『お誕生日おめでとう』
「皆さんありがとうございます。私、とっても幸せです」
「なあなあ!誰が一番良かったー?一番決めて!」
うーんと考え込んでから結莉が口を開く。
「一番は…陽さんと炉薔薇さんです」
「えー!?なんで、なんでー!なんで俺じゃないのー!」
ぷうっと頬を膨らませて花楓が不満を述べた。
「皆さんとっても素敵でした!なので、誰に景品をお渡ししたいかで考えさせてもらったんです。陽さんと炉薔薇さんは、あまりこういう場は好きではなさそうですから、だから来て頂いてとても嬉しかったんです。ありがとうございます」
「ちぇー。じゃ、陽とロバにあげるー」
つまらなそうに花楓は商品券を二人に渡した。
「ふん」
「ひぃちゃん、嬉しそう」
「別に、嬉しくない!」
それから皆で談笑し、ケーキや料理を楽しんだ。なんだかんだで皆楽しんでいるようだった。
「もし、プレゼントを持ってきている人がいたら、そろそろお渡ししてください。僕はもう渡しました」
「じゃ、これ結莉ちゃんに」
梅太郎は結莉に小さな包みを渡す。中には可愛いハンカチが入っていた。
「僕はこれを」
野火丸は花(その辺から摘んできた)を差し出した。
陽と炉薔薇からはチロルチョコを貰った。
花楓はとびきりのものを用意したと言った。しかし、彼は手ぶらだった。
「花楓くん、もしかして持ってくるの忘れたんですか?」
「違いまーす!俺からはー、赤城さんのキスをプレゼント!!」
「はあああ!?」
赤城が動揺し、花楓を睨む。
「何ですか、それ!聞いてないですし!」
「へえー、僕興味ないのでそろそろ帰りますよ」
「俺らも帰るぜ」
スタスタと野火丸達は帰っていった。
そして残されたのは梅太郎、花楓、赤城、結莉の四人だ。
キース、キース、とキスコールをする梅太郎と花楓を赤城は睨み、結莉に向き直る。
「結莉さん、嫌ですか?」
「えっ、えっと、その、こういう感じでするのは違うと思います!それに私、すっ、好きな人が」
「えっ!?だ、誰ですか!それ!!」
赤城は怖い顔で結莉を問い詰めた。
「えっと…織くん…」
「織…、もしかして、つり目の少年ですか?確か夏羽クンがそう呼んでいた気が。そう。そうですか。ふっふふ、ふふふふふ」
突然赤城は笑いだした。
「赤城さんが壊れた!!」
「失恋か、切ないね~」
キッと赤城はまっすぐ結莉を見つめる。
「いいでしょう!」
赤城は結莉の右手を取ると手の甲に優しくキスをした。
「振り向かせてみせますよ、結莉さん!」
「ええっ!?」
困った顔で赤城を見るが、赤城は真剣に結莉を見つめていた。
「いいぞ、いいぞ、頑張れ赤城ー!」
「赤城さん、ファイトー!」
ようやく結莉は赤城の想いに気づいたのだった。
「あのっ、赤城さん、私困ります!私、織くんが好きなんです!あの、その、ど、どうしたらいいの?」
困って泣きそうな結莉に赤城は声をかける。
「別に、今までと変わらずにいてくれたら、それで良いんです。僕は貴女が好きです。ただ、それだけです。貴方が他の誰を好きだとしても、僕の想いは変わりませんから」
「赤城さん…」
長い結莉の髪を一束すくって赤城は言う。
「諦めませんよ。振り向かせてみせますから。これから覚悟してくださいね」
意地悪そうに赤城が笑った。