人と怪物の辿る道
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「結莉さん、その…話があるんだけど」
隠神探偵事務所からの帰り道、織は突然話を切り出した。
「実は…その、俺…しばらく事務所を留守にすることになったから」
「えっ!」
突然のことに結莉は目を丸くする。
「ど、どうして…?」
悲しそうに見つめてくる結莉に織は動揺したが言葉を続ける。
「えっと、その、お…親を捜しに行こうと思って」
「…ご両親、を?」
「そう。…俺は叔父に、隠神さんのところに預けられたんだ。ずっと、親に棄てられたと思って生きてきた。でも、親の手がかりを隠神さんが掴んでくれた。それはずっと前のことで、俺は向き合う覚悟がなかった。でも今ようやく向き合ってみようと思って」
結莉に心配をかけないよう、淡々と話したつもりだった。
それでも、彼女は酷く心配そうに織の瞳を覗きこんでくる。そして結莉は織の手をとり、両手でそっと握りしめた。
「きっと、ご両親に会えるわ。織くんを棄てたりなんてしていない。きっと何か事情があったんだわ…」
「………うん」
きっと両親はもう死んでいる。織はそう思っていた。結莉にもそう伝えようと思っていた。
だけど、何故だか信じたくて。結莉の言うように両親に会えるのではないか。希望を、奇跡を信じてみたい。そう思った。
「親のこと、わかったら結莉さんに連絡するから」
「うん、…待ってる」
「じゃあ…また!」
そう言って二人は別れた。
あの後、織くんから事務所の皆でしばらく出かけることになったから、と連絡がきた。それきり私は事務所を訪れていない。織くんからもそれから連絡はきていない。
寂しい。
皆に会いたい。
織くんに会いたい。
…?
どうして、私は織くんに会いたいの…?
私は、きっと…
私は、織くんが。
「ああ、そう…そう、ね。わたし、織くんのこと…ずっと…」
ぽそりと部屋でひとり呟く。
彼は今どうしているだろう。
まだご両親に会えていないのだろうか。
時間だけが過ぎていく。ゆっくりと。とてもゆっくりと。
あなたがいない時間はあまりにも長い。
「…織くん」
名前を呼んでみた、その時だった。
突然、携帯が鳴り出す。
慌てて画面を見れば織からの着信で、
「っ、織、くん?」
「あっ、結莉さん。ご、ごめん突然電話して」
変わりない彼の声にホッとする。
「今、話して平気?」
「うん。平気、大丈夫」
「あのさ、…父ちゃんは、死んでた」
「!?」
織から告げられた内容に思わず涙が込み上げる。
「ま、待てよ!さては結莉さん泣いてるだろ!?泣くなってば!」
織の優しさに余計に涙が溢れ出した。そんな結莉の様子に慌てて織は次の言葉を紡ぐ。
「あ、あのさ、まだ続きがあってさ。父ちゃんは死んでたけど、母ちゃんが、生きてた。生きてたんだ。母ちゃんが」
震える声で織が言う。
「! 会えたの…?お母さんには、会えた?」
「会えた。母ちゃんに会えたよ、結莉さん」
涙声でそう話す織。
「よかった…、よかったね、織くん…」
今度は嬉しさで涙が溢れ出して。
織も結莉も泣いていた。
ひとしきり泣いたあと、織が声をかける。
「結莉さん、あのさ…母ちゃんに、会ってくれないかな…?それと、い、妹もいるから…!」
「! 妹さんもいるのね。…会いたいです。織くんのお母さんと、妹さんに会いたい…」
「…ありがと。そしたら、病院の住所教えるから!明日以降ならいつでも大丈夫だから」
「い、行くわ!明日、行きます!わたし、あの、お母さんと妹さんにも会いたいけれど、何よりも、その…織くんに、会いたい」
「!?」
「ずっと、会えてなかったから。織くんに、会いたい」
「お、俺も結莉さんに会いたい」
そして二人は明日病院で会う約束をして、電話を切った。
電話を切ったあともまだ顔が熱い。
会いたいって、何よりも俺に会いたいって、それってどういうことなんだ!?
それは、だって、つまり、結莉さんは。
いやいやいやいや、結莉さんは優しい人だから、心配してるだけで。
結莉さんが俺のことを想ってるなんてそんなこと、両想いなんてそんなこと。
ゴン!
「いってぇ…」
とりあえず落ち着け、俺!と壁に頭突きをしてみたがあまりの痛さにその場に屈み込む。
とにかく、明日だ。
明日結莉さんに会って、母ちゃんと妹を紹介する!
そして迎えた翌日。そわそわと病院の玄関をウロウロしながら結莉が来るのを待つ織。
「織くん!」
手を振り、駆け寄ってくる結莉。
「結莉さん!」
久しぶりに結莉の顔を見て思わず顔が綻んだ。
「…会いたかった」
潤んだ瞳で見上げてくる彼女にドキドキと胸が高鳴った。
「…俺も、結莉さんに会いたかった」
顔が熱い。赤面しているのが自分でもよくわかった。
織は結莉の手をとると、恥ずかしさを隠すように彼女の手を引いて、ズンズンと病院内を歩き出す。
あっという間に母の病室に着いてしまった。
織が扉をノックし、開ける。
「母ちゃん、結莉さん連れてきた」
織に続いて結莉が病室に入ると、とても美しい女性がベッドに横たわったままこちらを見ていた。
「貴女が、結莉さん…?はじめまして。織の母の組と言います。織がいつもお世話になっているそうで…」
「はじめまして。とんでもないです!こちらこそ、織くんにいつも良くして頂いていますから。…お加減はいかがですか?」
「ええ、もう大丈夫。ありがとう」
組は微笑み、織の方を見る。
「織ったら、母さんが知らない間にこんな可愛い子と…もしかして、付き「わーー!!!ストップストップ!」顔を真っ赤にしながら織は組の言葉を遮る。
「お兄ちゃん、カノジョいたんだ」
組の隣には小さな女の子がいて、興味深そうに結莉のことを見ていた。
「ふーん、可愛くて、清楚で、おしゃれな感じね。お兄ちゃん、こういう人が好きなん「アヤ!!ちょっと、黙ってろ!」慌てて少女の口を必死に塞ぐ織。
「織くんの、妹さん、よね?結莉といいます。はじめまして。あの、織くんとはお付き合いしていないので、彼女ではないです…」
カノジョを否定する結莉に織は少し傷ついた。そんな織の表情を見て、アヤはニヤリと笑う。
「ふーん、なるほどね。結莉さんっていうのね。あたしはアヤ。よろしくね」
「アヤちゃん。こちらこそ、よろしくお願いします」
「アヤ、ぜってー変なこと言うなよ」
「言わないわよ。そうだ、結莉さん。お願いがあるんだけど、私とお買い物に付き合ってくれない?」
「はい?」
突然のアヤのお誘いに結莉は困惑したが、引き受けることにした。
「やった!ありがとう!一緒にショッピングセンターに行きたいのよ。その間、お兄ちゃんはお母さんのこと見ていてくれる?」
「別に…いいけど」
心配そうにチラと結莉に目配せする織。
「大丈夫、アヤちゃんのことは任せて」
心配しないで、と結莉は頷いてみせた。
「そうと決まれば、早速行きましょ!」
「あっ、待ってアヤちゃん!」
パタパタと二人は病室から出て行く。
「ふふっ、本当に『結莉さん』が大好きなのねぇ、織」
「からかうなよ…」ぷいと朱に染まった顔を織は母から背けた。
ガヤガヤと賑わうショッピングセンターを爛々と瞳を輝かせて見て回るアヤ。楽しそうにお洋服を眺めるアヤが可愛くて結莉は思わずクスリと笑った。
「ねぇ!結莉さん、これどう思う?似合うかしら」
「よく似合っているわ。だけど、その、少し派手ではないかしら…」
アヤが気に入る洋服はどれも派手だったり、露出が多かったり、パンク系というような系統の服ばかりだった。
今着ている清楚なワンピースは叔父の趣味で、自分の趣味ではないのだとアヤは話す。
「うん!やっぱりこれに決めた!」
アヤは気に入った服を購入し、その場で新しい服に着替えさせてもらうことにした。
「結莉さん、どーお?」
着替えて出てきたアヤはお腹や足を露出したパンクファッションに身を包んでいた。
「うん、アヤちゃんにとても似合っていて可愛いわ」
露出が多いところが気になったが、本人が気に入っているのだから良いだろうと結莉が誉めると、アヤは無邪気に喜んだ。
二人が帰路につく途中、アヤは唐突に結莉に尋ねる。
「…結莉さんってお兄ちゃんのこと、どう思う?」
「? えっと…とても素敵な人だと思っているけれど」
「ほんと!?じゃあ、お兄ちゃんのこと好き?」
キラキラと目を輝かせてアヤは結莉を見つめてくる。
「えっ!?う、うん、好きよ」
恥ずかしくて顔が熱いが、素直に好意を伝えるとアヤは満面の笑顔になった。
そして、結莉の手を繋いで歩きだす。
(なーんだ、両想いなんじゃない。良かった!)
結莉は突然手を繋がれて吃驚したが、嬉しそうに微笑んでアヤの手を優しく握った。
「ただいまー!」
アヤは元気よく病室のドアを開ける。
「おう、遅かった…なっ!?」
アヤを見た織は目を丸くして固まってしまった。
「あら、アヤちゃん。結莉さんもお帰りなさい」
組は二人にニコリと微笑む。
「ねぇねぇ見て!結莉さんにつきあってもらって新しい服を買ってきたの!似合う?」
アヤは嬉しそうに母のベッドの前でくるりとターンしてみせる。
「ふふっ、とっても可愛いわ、アヤちゃん」
母に誉められ、アヤはご満悦だ。
「ねぇ、お兄ちゃんはどう思う?」
「お、おまっ、腹とか足とか出しすぎ!恥ずかしくねーのかよ!」
織はアヤの露出箇所を指差しながら訴える。アヤは不満そうに目を細めると「お兄ちゃんには、オシャレはわからないわよ」と言ってツンとしてしまった。
「う…、でも、まあまあ似合ってるんじゃねーの?」
不機嫌な様子のアヤを見て、織が言い直すとアヤも悪くなさそうに「まあね」と呟いた。
結莉は帰り支度をすませると、「遅くまで、お邪魔させて頂いてすみませんでした。お身体大事になさって下さいね」と組に伝え、病室を出る。
玄関まで見送ると言って織が結莉につづいた。
歩きながら織はお礼を言う。
「今日は、その、来てくれて、ありがとう」
「いいえ、こちらこそありがとう。織くんは、まだしばらく病院にいるの?」
「ああ、母ちゃんの様態が落ち着くまでは…。そしたら、また事務所に戻るから」
「うん、また事務所で会える日を楽しみにしています。お母さん、早く元気になるように祈っているわ」
「ありがと」
玄関に着き、結莉はお別れの挨拶をして病院を後にした。
帰っていく結莉の後ろ姿を織は名残惜しそうに見つめていた。
隠神探偵事務所からの帰り道、織は突然話を切り出した。
「実は…その、俺…しばらく事務所を留守にすることになったから」
「えっ!」
突然のことに結莉は目を丸くする。
「ど、どうして…?」
悲しそうに見つめてくる結莉に織は動揺したが言葉を続ける。
「えっと、その、お…親を捜しに行こうと思って」
「…ご両親、を?」
「そう。…俺は叔父に、隠神さんのところに預けられたんだ。ずっと、親に棄てられたと思って生きてきた。でも、親の手がかりを隠神さんが掴んでくれた。それはずっと前のことで、俺は向き合う覚悟がなかった。でも今ようやく向き合ってみようと思って」
結莉に心配をかけないよう、淡々と話したつもりだった。
それでも、彼女は酷く心配そうに織の瞳を覗きこんでくる。そして結莉は織の手をとり、両手でそっと握りしめた。
「きっと、ご両親に会えるわ。織くんを棄てたりなんてしていない。きっと何か事情があったんだわ…」
「………うん」
きっと両親はもう死んでいる。織はそう思っていた。結莉にもそう伝えようと思っていた。
だけど、何故だか信じたくて。結莉の言うように両親に会えるのではないか。希望を、奇跡を信じてみたい。そう思った。
「親のこと、わかったら結莉さんに連絡するから」
「うん、…待ってる」
「じゃあ…また!」
そう言って二人は別れた。
あの後、織くんから事務所の皆でしばらく出かけることになったから、と連絡がきた。それきり私は事務所を訪れていない。織くんからもそれから連絡はきていない。
寂しい。
皆に会いたい。
織くんに会いたい。
…?
どうして、私は織くんに会いたいの…?
私は、きっと…
私は、織くんが。
「ああ、そう…そう、ね。わたし、織くんのこと…ずっと…」
ぽそりと部屋でひとり呟く。
彼は今どうしているだろう。
まだご両親に会えていないのだろうか。
時間だけが過ぎていく。ゆっくりと。とてもゆっくりと。
あなたがいない時間はあまりにも長い。
「…織くん」
名前を呼んでみた、その時だった。
突然、携帯が鳴り出す。
慌てて画面を見れば織からの着信で、
「っ、織、くん?」
「あっ、結莉さん。ご、ごめん突然電話して」
変わりない彼の声にホッとする。
「今、話して平気?」
「うん。平気、大丈夫」
「あのさ、…父ちゃんは、死んでた」
「!?」
織から告げられた内容に思わず涙が込み上げる。
「ま、待てよ!さては結莉さん泣いてるだろ!?泣くなってば!」
織の優しさに余計に涙が溢れ出した。そんな結莉の様子に慌てて織は次の言葉を紡ぐ。
「あ、あのさ、まだ続きがあってさ。父ちゃんは死んでたけど、母ちゃんが、生きてた。生きてたんだ。母ちゃんが」
震える声で織が言う。
「! 会えたの…?お母さんには、会えた?」
「会えた。母ちゃんに会えたよ、結莉さん」
涙声でそう話す織。
「よかった…、よかったね、織くん…」
今度は嬉しさで涙が溢れ出して。
織も結莉も泣いていた。
ひとしきり泣いたあと、織が声をかける。
「結莉さん、あのさ…母ちゃんに、会ってくれないかな…?それと、い、妹もいるから…!」
「! 妹さんもいるのね。…会いたいです。織くんのお母さんと、妹さんに会いたい…」
「…ありがと。そしたら、病院の住所教えるから!明日以降ならいつでも大丈夫だから」
「い、行くわ!明日、行きます!わたし、あの、お母さんと妹さんにも会いたいけれど、何よりも、その…織くんに、会いたい」
「!?」
「ずっと、会えてなかったから。織くんに、会いたい」
「お、俺も結莉さんに会いたい」
そして二人は明日病院で会う約束をして、電話を切った。
電話を切ったあともまだ顔が熱い。
会いたいって、何よりも俺に会いたいって、それってどういうことなんだ!?
それは、だって、つまり、結莉さんは。
いやいやいやいや、結莉さんは優しい人だから、心配してるだけで。
結莉さんが俺のことを想ってるなんてそんなこと、両想いなんてそんなこと。
ゴン!
「いってぇ…」
とりあえず落ち着け、俺!と壁に頭突きをしてみたがあまりの痛さにその場に屈み込む。
とにかく、明日だ。
明日結莉さんに会って、母ちゃんと妹を紹介する!
そして迎えた翌日。そわそわと病院の玄関をウロウロしながら結莉が来るのを待つ織。
「織くん!」
手を振り、駆け寄ってくる結莉。
「結莉さん!」
久しぶりに結莉の顔を見て思わず顔が綻んだ。
「…会いたかった」
潤んだ瞳で見上げてくる彼女にドキドキと胸が高鳴った。
「…俺も、結莉さんに会いたかった」
顔が熱い。赤面しているのが自分でもよくわかった。
織は結莉の手をとると、恥ずかしさを隠すように彼女の手を引いて、ズンズンと病院内を歩き出す。
あっという間に母の病室に着いてしまった。
織が扉をノックし、開ける。
「母ちゃん、結莉さん連れてきた」
織に続いて結莉が病室に入ると、とても美しい女性がベッドに横たわったままこちらを見ていた。
「貴女が、結莉さん…?はじめまして。織の母の組と言います。織がいつもお世話になっているそうで…」
「はじめまして。とんでもないです!こちらこそ、織くんにいつも良くして頂いていますから。…お加減はいかがですか?」
「ええ、もう大丈夫。ありがとう」
組は微笑み、織の方を見る。
「織ったら、母さんが知らない間にこんな可愛い子と…もしかして、付き「わーー!!!ストップストップ!」顔を真っ赤にしながら織は組の言葉を遮る。
「お兄ちゃん、カノジョいたんだ」
組の隣には小さな女の子がいて、興味深そうに結莉のことを見ていた。
「ふーん、可愛くて、清楚で、おしゃれな感じね。お兄ちゃん、こういう人が好きなん「アヤ!!ちょっと、黙ってろ!」慌てて少女の口を必死に塞ぐ織。
「織くんの、妹さん、よね?結莉といいます。はじめまして。あの、織くんとはお付き合いしていないので、彼女ではないです…」
カノジョを否定する結莉に織は少し傷ついた。そんな織の表情を見て、アヤはニヤリと笑う。
「ふーん、なるほどね。結莉さんっていうのね。あたしはアヤ。よろしくね」
「アヤちゃん。こちらこそ、よろしくお願いします」
「アヤ、ぜってー変なこと言うなよ」
「言わないわよ。そうだ、結莉さん。お願いがあるんだけど、私とお買い物に付き合ってくれない?」
「はい?」
突然のアヤのお誘いに結莉は困惑したが、引き受けることにした。
「やった!ありがとう!一緒にショッピングセンターに行きたいのよ。その間、お兄ちゃんはお母さんのこと見ていてくれる?」
「別に…いいけど」
心配そうにチラと結莉に目配せする織。
「大丈夫、アヤちゃんのことは任せて」
心配しないで、と結莉は頷いてみせた。
「そうと決まれば、早速行きましょ!」
「あっ、待ってアヤちゃん!」
パタパタと二人は病室から出て行く。
「ふふっ、本当に『結莉さん』が大好きなのねぇ、織」
「からかうなよ…」ぷいと朱に染まった顔を織は母から背けた。
ガヤガヤと賑わうショッピングセンターを爛々と瞳を輝かせて見て回るアヤ。楽しそうにお洋服を眺めるアヤが可愛くて結莉は思わずクスリと笑った。
「ねぇ!結莉さん、これどう思う?似合うかしら」
「よく似合っているわ。だけど、その、少し派手ではないかしら…」
アヤが気に入る洋服はどれも派手だったり、露出が多かったり、パンク系というような系統の服ばかりだった。
今着ている清楚なワンピースは叔父の趣味で、自分の趣味ではないのだとアヤは話す。
「うん!やっぱりこれに決めた!」
アヤは気に入った服を購入し、その場で新しい服に着替えさせてもらうことにした。
「結莉さん、どーお?」
着替えて出てきたアヤはお腹や足を露出したパンクファッションに身を包んでいた。
「うん、アヤちゃんにとても似合っていて可愛いわ」
露出が多いところが気になったが、本人が気に入っているのだから良いだろうと結莉が誉めると、アヤは無邪気に喜んだ。
二人が帰路につく途中、アヤは唐突に結莉に尋ねる。
「…結莉さんってお兄ちゃんのこと、どう思う?」
「? えっと…とても素敵な人だと思っているけれど」
「ほんと!?じゃあ、お兄ちゃんのこと好き?」
キラキラと目を輝かせてアヤは結莉を見つめてくる。
「えっ!?う、うん、好きよ」
恥ずかしくて顔が熱いが、素直に好意を伝えるとアヤは満面の笑顔になった。
そして、結莉の手を繋いで歩きだす。
(なーんだ、両想いなんじゃない。良かった!)
結莉は突然手を繋がれて吃驚したが、嬉しそうに微笑んでアヤの手を優しく握った。
「ただいまー!」
アヤは元気よく病室のドアを開ける。
「おう、遅かった…なっ!?」
アヤを見た織は目を丸くして固まってしまった。
「あら、アヤちゃん。結莉さんもお帰りなさい」
組は二人にニコリと微笑む。
「ねぇねぇ見て!結莉さんにつきあってもらって新しい服を買ってきたの!似合う?」
アヤは嬉しそうに母のベッドの前でくるりとターンしてみせる。
「ふふっ、とっても可愛いわ、アヤちゃん」
母に誉められ、アヤはご満悦だ。
「ねぇ、お兄ちゃんはどう思う?」
「お、おまっ、腹とか足とか出しすぎ!恥ずかしくねーのかよ!」
織はアヤの露出箇所を指差しながら訴える。アヤは不満そうに目を細めると「お兄ちゃんには、オシャレはわからないわよ」と言ってツンとしてしまった。
「う…、でも、まあまあ似合ってるんじゃねーの?」
不機嫌な様子のアヤを見て、織が言い直すとアヤも悪くなさそうに「まあね」と呟いた。
結莉は帰り支度をすませると、「遅くまで、お邪魔させて頂いてすみませんでした。お身体大事になさって下さいね」と組に伝え、病室を出る。
玄関まで見送ると言って織が結莉につづいた。
歩きながら織はお礼を言う。
「今日は、その、来てくれて、ありがとう」
「いいえ、こちらこそありがとう。織くんは、まだしばらく病院にいるの?」
「ああ、母ちゃんの様態が落ち着くまでは…。そしたら、また事務所に戻るから」
「うん、また事務所で会える日を楽しみにしています。お母さん、早く元気になるように祈っているわ」
「ありがと」
玄関に着き、結莉はお別れの挨拶をして病院を後にした。
帰っていく結莉の後ろ姿を織は名残惜しそうに見つめていた。