人と怪物の辿る道
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紺と別れたあと、ミハイとともに挑んだ任務を夏羽が無事に終えた翌日。
織はようやく目を覚ました。
「ふぁ~…あれ?」
任務の時、自分は確か夏羽を助けようとして、そして…
「…どうなったんだ?」
ベッドから起き上がり、喉の渇きを潤そうと織は自室から出る。
「織!」
「シキ!大丈夫?」
とたんに夏羽と晶が心配そうに織のもとへと駆け寄ってきた。
状況が飲み込めず戸惑う織。
「織!ようやく起きたか」
そこへ隠神もやってきて心配そうに織の顔を覗きこんできた。
隠神は状況のわかっていない織に説明する。
夏羽が無事に敵を倒し、倒れた織を夏羽と晶が事務所へ連れ帰ってきたのだと。
「で!状況はわかったけど!なんでお前はずーっと俺につきまとうわけ!?」
その後、織がどこへ行くのにも、ちょこまかと後をついてくる夏羽を鬱陶しそうに見て織は吐き捨てる。
「心配してるんだよ。いーじゃん、それくらい」
「よくない!」
晶に文句を言おうとしたところで、コンコンと事務所のドアがノックされる。
隠神がドアを開けると「こんばんは」と挨拶をして結莉が入ってきた。
「結莉さん!!」
結莉の顔を見て織は心の底から安堵した。
任務中、とてつもない恐怖に襲われ動けなくなり、死を意識したあの時、心に浮かんだのは結莉だった。
死んでしまえばもう結莉に会うことはできない。
会いたい。
死にたくない。
そう、強く思っていた。
今、目の前で結莉が優しく微笑んでいる。
「あ…」
織は思わず泣きそうになるのをこらえ、ニカッと彼女に笑いかけた。
織達が結莉と談笑している間、夏羽は隠神にこっそりと耳打ちする。
「隠神さん、実は…」
ぶふぉっっ!!
隠神は飲んでいたコーヒーを思わず吹き出した。
何事かと皆が隠神へ視線を向ける。
「夏羽!お前っ、話したのか!?」
「はい」
「は~…。夏羽、ちょっと来なさい」
隠神は溜め息を吐くと夏羽を連れて外へ出て行ってしまう。
結莉は二人が出て行った玄関をジッと見つめた。
「夏羽」
「はい」
「何故、彼女に話した?」
隠神は珍しく、怒ったような声で夏羽を問いただす。そんな隠神の様子にたじろぎながらも夏羽は素直に答えた。
紺をきっかけに怪物の存在を知ってしまった結莉に、すべて打ち明けようと思ったこと。そして、隠神、織、晶の正体のことは彼女に話していないこと。
「それで?」
「…結莉さんは俺に言いました。驚いたけれど、怖くはないと。俺は俺で、何も変わらない…と」
「そうか…」
ふと隠神は優しい声色になり、夏羽の頭をぐしゃりと撫でる。
「ははっ、夏羽の方が俺より勇気があるな!よく言えたもんだ。さて、…俺達も、本当のことを話さなきゃならんな」
隠神は夏羽とともに事務所へと戻ると、結莉に話があると詰め寄った。
真剣な隠神の眼差しに織はごくりと唾を飲み込む。
結莉は感づいていた。きっと彼は、いいえ彼等も、また人ではないのだと。
「隠神さん…、大丈夫ですよ…」
そう微笑む彼女に隠神は溜め息をこぼす。
「まったく…敵わないね、結莉ちゃんは」
隠神達も夏羽と同じく怪物であるということに感づいているであろう彼女が、その事実を受け止め、そして彼等を安心させるように気を遣っているのだから。
「結莉ちゃん。もうわかっているだろうけれど、俺達は人間じゃない。…怪物だ」
「ちょっ!隠神さんっ!?」
「えええっ!隠神さん、なにいってるのっ!?」
隠神の告白に織と晶は慌ててソファーから飛び上がる。
隠神は自分の右手を小さな花束に変化させると、結莉の前に恭しく跪く。
「今までずっと…黙っていて悪かった。俺は狸の怪物なんだ。…結莉ちゃん、こんな俺だけど、これからも変わらずにいてくれるかい?」
端から見ればそれはプロポーズのワンシーンのようだった。結莉は少し恥ずかしそうに微笑むと隠神が変化させた花束をそっと両の手で包み込む。
「勿論です。隠神さんは、隠神さんですから。私の方こそ、これからもよろしくお願いします」
にっこりと笑う結莉に安堵し、隠神は変化を解く。そしてスッキリした顔で結莉の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
様子を見ていた晶は、結莉の前に飛び出すと自分は雪男子なのだと打ち明けた。そして結莉の前で、テーブル上のコップに入った飲み物を瞬時に凍らせてみせる。驚く結莉に晶は半泣きになりながら、訴えた。
「結莉ちゃん、黙っていてごめんね。ボクも人間じゃない。…それでも、こんな僕でも変わらずにいてくれる?」
「晶くん、…大丈夫。変わらずにいるわ。泣かせてしまってごめんなさい」
「うっ…ううっ…、結莉ちゃーんっ!!」
晶は嬉しさのあまり結莉に飛びつく。そんな晶を結莉は優しく受け止めた。
残るは織のみだ。
織は青ざめたまま固まっていた。
「シキ?」
次はシキの番だと促すように晶が見てくるが、織は固まったまま動けない。
怖い。
彼女に否定されるのが怖い。
(結莉さんが、否定する訳ないだろ…!)
皆の告白を受け止める結莉の様子を見ていても、それでもどこかで否定される可能性を、その恐怖を、どうしても拭い去れない。
硬直する織。恐怖に織はギュッと目を瞑る。
その時だった。
ふわっと優しく結莉が織を抱きしめる。
「はっ!?…ちょっ、な、なにしてんの結莉さん!!」
顔を真っ赤にする織に結莉は視線を合わせる。
「織くんは織くんです」
そう言ってにっこり笑う結莉にますます織の顔は赤くなる。
「っ!………蜘蛛」
「?」
きょとんとしている結莉に織はもう一度言う。
「だからっ、蜘蛛!蜘蛛の半妖が、俺!」
もうこうなったらヤケだ!とばかりに織も告白する。
「そう、蜘蛛の半妖が、織くん。改めて、これからもよろしくお願いします」
至近距離でにっこり微笑まれ、心臓が爆発しそうになる織。
「よよよよよ、よろしくっ…」
結莉の両肩を掴み、やっとの思いで自分から織は引き剥がした。
「さて…、結莉ちゃんちょっと良い?」
隠神に導かれ、結莉は事務所の奥の扉に向き合う。
「隠神さん、この部屋は…」
絶対に開けるなと昔から言われていた扉では?と隠神を見上げる。
隠神はコンコンとそのドアをノックし、躊躇なくそのドアを開く。
扉の奥には線の細い男性がモニターに向かって椅子に腰掛けていた。中に人がいたことに結莉は驚き固まってしまう。
「ミハイ」
「なんだ、隠神。今忙しい」
ミハイと呼ばれた男性は鬱陶しそうに隠神に訴える。モニターからは眼を離そうとせず、カチカチとキーボードを物凄い速さで入力していた。
「紹介しよう。結莉ちゃんだ」
そんなミハイに全く構わず、隠神は結莉の両肩を掴んで、ずいっと前へと押し出す。
ミハイは戸惑う結莉を一瞥するとモニターへと向き直り「くだらん、時間の無駄だ」と呟いた。
「まぁ、一応挨拶はすませたからな」
そう言って隠神は扉を閉めた。
「えっと…隠神さん、今の方は?」
「ミハイと言ってな。吸血鬼なんだ。非常に頭の良い奴なんだが、いかんせん日本のオンラインゲームにはまってあの通りだ。まぁ、面倒に巻き込まれるから今まで通りあの扉には近づかない方がいい」
「…はぁ、…わかりました」
「と、いうわけで。俺達のことはすべて話した。…このことは誰にも言わないでほしい」
「勿論です。誰にも言ったりしません。秘密にします」
結莉の返答を聞き、隠神ははあ~とようやく安心して息を吐く。
「ありがとう。結莉ちゃん、本当にありがとうね」
「いえ、私は何も。こちらこそ、話して頂いてありがとうございました。皆さんのことを知ることができて、嬉しいです」
恥ずかしそうに頬を赤らめて俯く結莉。
優しくあたたかな時間が流れる。
どうか怪物を受け入れて。
これからも、ずっと。
そう願わずにはいられなかった。
織はようやく目を覚ました。
「ふぁ~…あれ?」
任務の時、自分は確か夏羽を助けようとして、そして…
「…どうなったんだ?」
ベッドから起き上がり、喉の渇きを潤そうと織は自室から出る。
「織!」
「シキ!大丈夫?」
とたんに夏羽と晶が心配そうに織のもとへと駆け寄ってきた。
状況が飲み込めず戸惑う織。
「織!ようやく起きたか」
そこへ隠神もやってきて心配そうに織の顔を覗きこんできた。
隠神は状況のわかっていない織に説明する。
夏羽が無事に敵を倒し、倒れた織を夏羽と晶が事務所へ連れ帰ってきたのだと。
「で!状況はわかったけど!なんでお前はずーっと俺につきまとうわけ!?」
その後、織がどこへ行くのにも、ちょこまかと後をついてくる夏羽を鬱陶しそうに見て織は吐き捨てる。
「心配してるんだよ。いーじゃん、それくらい」
「よくない!」
晶に文句を言おうとしたところで、コンコンと事務所のドアがノックされる。
隠神がドアを開けると「こんばんは」と挨拶をして結莉が入ってきた。
「結莉さん!!」
結莉の顔を見て織は心の底から安堵した。
任務中、とてつもない恐怖に襲われ動けなくなり、死を意識したあの時、心に浮かんだのは結莉だった。
死んでしまえばもう結莉に会うことはできない。
会いたい。
死にたくない。
そう、強く思っていた。
今、目の前で結莉が優しく微笑んでいる。
「あ…」
織は思わず泣きそうになるのをこらえ、ニカッと彼女に笑いかけた。
織達が結莉と談笑している間、夏羽は隠神にこっそりと耳打ちする。
「隠神さん、実は…」
ぶふぉっっ!!
隠神は飲んでいたコーヒーを思わず吹き出した。
何事かと皆が隠神へ視線を向ける。
「夏羽!お前っ、話したのか!?」
「はい」
「は~…。夏羽、ちょっと来なさい」
隠神は溜め息を吐くと夏羽を連れて外へ出て行ってしまう。
結莉は二人が出て行った玄関をジッと見つめた。
「夏羽」
「はい」
「何故、彼女に話した?」
隠神は珍しく、怒ったような声で夏羽を問いただす。そんな隠神の様子にたじろぎながらも夏羽は素直に答えた。
紺をきっかけに怪物の存在を知ってしまった結莉に、すべて打ち明けようと思ったこと。そして、隠神、織、晶の正体のことは彼女に話していないこと。
「それで?」
「…結莉さんは俺に言いました。驚いたけれど、怖くはないと。俺は俺で、何も変わらない…と」
「そうか…」
ふと隠神は優しい声色になり、夏羽の頭をぐしゃりと撫でる。
「ははっ、夏羽の方が俺より勇気があるな!よく言えたもんだ。さて、…俺達も、本当のことを話さなきゃならんな」
隠神は夏羽とともに事務所へと戻ると、結莉に話があると詰め寄った。
真剣な隠神の眼差しに織はごくりと唾を飲み込む。
結莉は感づいていた。きっと彼は、いいえ彼等も、また人ではないのだと。
「隠神さん…、大丈夫ですよ…」
そう微笑む彼女に隠神は溜め息をこぼす。
「まったく…敵わないね、結莉ちゃんは」
隠神達も夏羽と同じく怪物であるということに感づいているであろう彼女が、その事実を受け止め、そして彼等を安心させるように気を遣っているのだから。
「結莉ちゃん。もうわかっているだろうけれど、俺達は人間じゃない。…怪物だ」
「ちょっ!隠神さんっ!?」
「えええっ!隠神さん、なにいってるのっ!?」
隠神の告白に織と晶は慌ててソファーから飛び上がる。
隠神は自分の右手を小さな花束に変化させると、結莉の前に恭しく跪く。
「今までずっと…黙っていて悪かった。俺は狸の怪物なんだ。…結莉ちゃん、こんな俺だけど、これからも変わらずにいてくれるかい?」
端から見ればそれはプロポーズのワンシーンのようだった。結莉は少し恥ずかしそうに微笑むと隠神が変化させた花束をそっと両の手で包み込む。
「勿論です。隠神さんは、隠神さんですから。私の方こそ、これからもよろしくお願いします」
にっこりと笑う結莉に安堵し、隠神は変化を解く。そしてスッキリした顔で結莉の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
様子を見ていた晶は、結莉の前に飛び出すと自分は雪男子なのだと打ち明けた。そして結莉の前で、テーブル上のコップに入った飲み物を瞬時に凍らせてみせる。驚く結莉に晶は半泣きになりながら、訴えた。
「結莉ちゃん、黙っていてごめんね。ボクも人間じゃない。…それでも、こんな僕でも変わらずにいてくれる?」
「晶くん、…大丈夫。変わらずにいるわ。泣かせてしまってごめんなさい」
「うっ…ううっ…、結莉ちゃーんっ!!」
晶は嬉しさのあまり結莉に飛びつく。そんな晶を結莉は優しく受け止めた。
残るは織のみだ。
織は青ざめたまま固まっていた。
「シキ?」
次はシキの番だと促すように晶が見てくるが、織は固まったまま動けない。
怖い。
彼女に否定されるのが怖い。
(結莉さんが、否定する訳ないだろ…!)
皆の告白を受け止める結莉の様子を見ていても、それでもどこかで否定される可能性を、その恐怖を、どうしても拭い去れない。
硬直する織。恐怖に織はギュッと目を瞑る。
その時だった。
ふわっと優しく結莉が織を抱きしめる。
「はっ!?…ちょっ、な、なにしてんの結莉さん!!」
顔を真っ赤にする織に結莉は視線を合わせる。
「織くんは織くんです」
そう言ってにっこり笑う結莉にますます織の顔は赤くなる。
「っ!………蜘蛛」
「?」
きょとんとしている結莉に織はもう一度言う。
「だからっ、蜘蛛!蜘蛛の半妖が、俺!」
もうこうなったらヤケだ!とばかりに織も告白する。
「そう、蜘蛛の半妖が、織くん。改めて、これからもよろしくお願いします」
至近距離でにっこり微笑まれ、心臓が爆発しそうになる織。
「よよよよよ、よろしくっ…」
結莉の両肩を掴み、やっとの思いで自分から織は引き剥がした。
「さて…、結莉ちゃんちょっと良い?」
隠神に導かれ、結莉は事務所の奥の扉に向き合う。
「隠神さん、この部屋は…」
絶対に開けるなと昔から言われていた扉では?と隠神を見上げる。
隠神はコンコンとそのドアをノックし、躊躇なくそのドアを開く。
扉の奥には線の細い男性がモニターに向かって椅子に腰掛けていた。中に人がいたことに結莉は驚き固まってしまう。
「ミハイ」
「なんだ、隠神。今忙しい」
ミハイと呼ばれた男性は鬱陶しそうに隠神に訴える。モニターからは眼を離そうとせず、カチカチとキーボードを物凄い速さで入力していた。
「紹介しよう。結莉ちゃんだ」
そんなミハイに全く構わず、隠神は結莉の両肩を掴んで、ずいっと前へと押し出す。
ミハイは戸惑う結莉を一瞥するとモニターへと向き直り「くだらん、時間の無駄だ」と呟いた。
「まぁ、一応挨拶はすませたからな」
そう言って隠神は扉を閉めた。
「えっと…隠神さん、今の方は?」
「ミハイと言ってな。吸血鬼なんだ。非常に頭の良い奴なんだが、いかんせん日本のオンラインゲームにはまってあの通りだ。まぁ、面倒に巻き込まれるから今まで通りあの扉には近づかない方がいい」
「…はぁ、…わかりました」
「と、いうわけで。俺達のことはすべて話した。…このことは誰にも言わないでほしい」
「勿論です。誰にも言ったりしません。秘密にします」
結莉の返答を聞き、隠神ははあ~とようやく安心して息を吐く。
「ありがとう。結莉ちゃん、本当にありがとうね」
「いえ、私は何も。こちらこそ、話して頂いてありがとうございました。皆さんのことを知ることができて、嬉しいです」
恥ずかしそうに頬を赤らめて俯く結莉。
優しくあたたかな時間が流れる。
どうか怪物を受け入れて。
これからも、ずっと。
そう願わずにはいられなかった。