人と怪物の辿る道
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買い出しの帰り、公園にさしかかるところで女の子の泣き声が聞こえてくる。
「あーー!あーー!!あーー!!!」
どうしたのだろうと公園を覗くと、仰向けになって泣き続けている女の子。そして女の子の手を握り、どうしたらよいのかと慌てふためいている夏羽。
「夏羽くん」
「! 結莉さん!」
夏羽は結莉に気づくと助けを求めるように見つめてきた。
結莉は女の子に近づき、跪くと女の子の頭を優しく撫でる。
「?…あたたかい」
女の子はぴたりと泣き止み、瞑っていた目を開く。結莉と目が合った。瞬間。
女の子は飛び上がり結莉の手を強く弾いた。
「ニンゲン!!紺に触るな!」
吃驚して目を丸くする結莉。弾かれた手はじんじんと痛み赤く腫れ上がっていた。
「紺!結莉さんに乱暴してはいけない!」
咎める夏羽を紺はキッと睨み付ける。
「うるさい!紺に指図するな!」
立ち上がった女の子をよく見ると、耳がもふもふとした獣の耳をしている。
そんなことより。
結莉はすくっと立ち上がると紺という女の子に近づき、ポケットから取り出した何かを差し出した。
「あなた、血が出ているわ。使って」
紺はそれを拒否しようと口を開きかけたが、夏羽が素早くそれを取り、紺の鼻に押し当ててゴシゴシとこする。
「な、何をする!」
紺の鼻血を結莉が差し出したポケットティッシュで拭ってやったのだ。
「結莉さんは良い人だよ、紺」
「っ!良い人なんているもんか!ニンゲンなんてみんな飯生様の言いなりだ!弱くてちっぽけで!飯生様はっ…!飯生様…」
急に目を潤ませ、また泣き出しそうな紺。
結莉は紺の手を掴み、近くのベンチへ向かって歩き出す。
「離せ!」
しかし、紺は結莉の手を振りほどこうとはしなかった。振りほどく気力が起きなかったのだ。
(弱くて、ちっぽけなニンゲン…、今の紺はニンゲンと同じだ…。弱くて、ちっぽけだ…)
ボロボロと涙をこぼし始める紺を結莉はベンチに座らせる。紺を挟んで夏羽もベンチに腰掛けた。
結莉は何も言わなかった。夏羽も何も言わなかった。
紺はただただ泣き続けた。
紺の手を握る結莉と夏羽の手は優しくあたたかった。
そのうちに紺は泣き疲れ、眠ってしまう。
「紺ちゃん、眠っちゃったわね」
「はい。…あの…」
夏羽は結莉の腫れ上がる手を申しわけなさそうに見つめる。
「大丈夫よ。ありがとう」
にこりと微笑む結莉に夏羽はホッと息を吐く。
「…聞かないんですか?紺のこと…」
「自分から話してくれるまでは、聞かないわ」
「そう…ですか」
結莉になら、怪物の存在を話しても良いのではないか。自分達のことを打ち明けても良いのではないか。そう思った夏羽は意を決して口を開く。
「あの、結莉さん。俺は…、いえ、俺達は人間ではありません」
突然の夏羽の告白に結莉は驚き、目を丸くする。
「えっ!夏羽くん、も?…お耳は普通だけれど…」
「紺は狐ですが、俺は半妖なんです。見た目は人間と変わりません。今まで黙っていて、その…ごめんなさい」
謝る夏羽に結莉は優しく微笑む。
「話してくれて、ありがとう。私に打ち明けるの…怖かったでしょう?大丈夫、誰にも言わないわ。秘密、ね」
「ありがとう…ございます」
それきり、黙り込んでしまう結莉に夏羽はもう一度口を開く。
「あ、あの、結莉さん。怖く…ないのですか?…俺達のこと」
問いながら夏羽は弥太郎のことを思い返していた。異質なモノを恐怖するあの眼を。
「そうね、怖くないわ。とても驚いたけれど。夏羽くんは夏羽くんだもの。だから、今までと同じ。何も変わらないわ」
結莉の言葉に夏羽は安堵する。スッと気持ちが楽になり、夏羽は結莉に1ヶ月前のことをつらつらと話し始めた。何故だかわからないけれど、彼女には正直にすべて話したいと思ったからだ。ただ、隠神、織、晶の正体については伏せておいた。自分が話すべきではないと思ったからだ。
話し終わると辺りはすっかり暗くなっていた。
「あ、すみません。すっかり暗くなってしまった」
「夏羽くん」
結莉は紺と繋いでいないもう片方の手を夏羽に伸ばし、夏羽の頭を優しく撫でた。
「ありがとう」
にこりと笑う結莉に夏羽も思わず口角が上がる。
「ありがとうございます」
そして、もう帰らなければと寄りかかって眠る紺の肩をゆさゆさと揺する。
「ふが。む…眠ってしまった」
目覚めた紺はまだ眠たそうに眼をこする。
そんな紺を見て、夏羽は隠神のもとへ来ないかと紺に提案した。
「それは…できない。紺は狐だ。狸のもとでは暮らせない」
「そうか…」
「でも…夏羽となら暮らしてもいい」
嬉々として紺は夏羽にそう話す。
「俺?」
「夏羽は狸の手下だが狸ではない。今はここが紺の住処だ。ここには鳩も雀もいるから食うには困らない。夏羽も一緒に住めばいい!」
爛々と輝く紺の瞳を見つめながら、言いずらそうに夏羽は口を開く。
「ごめん、紺。実は…俺はすぐ夕飯を買って帰らないといけない」
「帰る?」
夏羽の言葉に紺は泣きそうな顔で「それは任務か?」と尋ねる。
「任務では…ない。当番、だから」
紺は悲しそうに夏羽を見つめたままだ。
「あの…それが終わったら…また来るから…」
「本当か?どれくらいで終わるんだ?」
今度は嬉しそうに夏羽に尋ねてくる紺。
「わからない…けど、そんなに時間はかからないと思う…」
「わかった!」
夏羽の答えに納得したようで、紺は握っていた夏羽の手を離した。
そして、今度は結莉の方へ顔を向ける。
「ニンゲンは?ニンゲンも帰るのか?」
「え…ええ。家に帰らないといけないから」
「ニンゲン…名前、なんていったっけ…?」
「…結莉、よ」
「結莉か。結莉もまた紺のところに来たらいい。結莉は、なんだか他のニンゲンと違う。手、あたたかかった。優しい、飯生様みたいだった…」
紺はそう言って結莉の手も少し寂しそうに離した。
「わかったわ。また紺ちゃんのところに来るわね」
「絶対だぞ!紺は…待っているからな」
元気に答える紺に二人はまた会いに来る約束をしてその場をあとにした。
結莉が帰宅すると、母がもう食事の用意を済ませていた。
「ごめんなさい。ちょっと…友達と会って、遅くなってしまって」
「あら、そうだったの。遅かったから心配したのよ。さ、夕食食べて今日はもうゆっくり休みなさい。手、どうしたの?」
母は赤く腫れ上がる結莉の手を心配そうに見つめてくる。
「転びそうになって手をついたら捻ってしまったの。じきに治るわ」
「そう…、気をつけなさいね」
結莉は、母の夕食を口にし、後片付けをすませて自室に戻った。それから、ふと思い立ちクローゼットから膝掛け毛布を取り出す。
「紺ちゃん…、きっと寒いわよね…」
結莉は母にすぐに戻るからと言い、走って紺のいる公園へ向かった。
「はぁ…はぁ…、紺ちゃん…?いない、の?」
辺りを見渡すがそれらしいヒトは見当たらない。
「ん?結莉か?どうした?」
頭上から声が聞こえたかと思うと、木の上から紺がぴょんと降りてきた。
「良かった。紺ちゃん、そこにいたのね。これ、良かったら使ってほしくて」
そして結莉は持ってきた毛布を紺の肩に羽織る形で掛けてやった。
「もふもふで、あたたかい」
気に入った様子の紺に思わず顔が綻んだ。
「ふふっ。気に入ってくれて良かった。夜は冷えるから、風邪をひいたら大変だもの。…また、来るわね。おやすみなさい、紺ちゃん」
もう遅い時間のため、結莉は紺に背を向けて家へ向かい走り始める。
「おやすみ、結莉!」
走り始めた結莉の背に向かって紺は叫ぶ。掛けられたあたたかな毛布を紺は両手で握りしめた。
「あーー!あーー!!あーー!!!」
どうしたのだろうと公園を覗くと、仰向けになって泣き続けている女の子。そして女の子の手を握り、どうしたらよいのかと慌てふためいている夏羽。
「夏羽くん」
「! 結莉さん!」
夏羽は結莉に気づくと助けを求めるように見つめてきた。
結莉は女の子に近づき、跪くと女の子の頭を優しく撫でる。
「?…あたたかい」
女の子はぴたりと泣き止み、瞑っていた目を開く。結莉と目が合った。瞬間。
女の子は飛び上がり結莉の手を強く弾いた。
「ニンゲン!!紺に触るな!」
吃驚して目を丸くする結莉。弾かれた手はじんじんと痛み赤く腫れ上がっていた。
「紺!結莉さんに乱暴してはいけない!」
咎める夏羽を紺はキッと睨み付ける。
「うるさい!紺に指図するな!」
立ち上がった女の子をよく見ると、耳がもふもふとした獣の耳をしている。
そんなことより。
結莉はすくっと立ち上がると紺という女の子に近づき、ポケットから取り出した何かを差し出した。
「あなた、血が出ているわ。使って」
紺はそれを拒否しようと口を開きかけたが、夏羽が素早くそれを取り、紺の鼻に押し当ててゴシゴシとこする。
「な、何をする!」
紺の鼻血を結莉が差し出したポケットティッシュで拭ってやったのだ。
「結莉さんは良い人だよ、紺」
「っ!良い人なんているもんか!ニンゲンなんてみんな飯生様の言いなりだ!弱くてちっぽけで!飯生様はっ…!飯生様…」
急に目を潤ませ、また泣き出しそうな紺。
結莉は紺の手を掴み、近くのベンチへ向かって歩き出す。
「離せ!」
しかし、紺は結莉の手を振りほどこうとはしなかった。振りほどく気力が起きなかったのだ。
(弱くて、ちっぽけなニンゲン…、今の紺はニンゲンと同じだ…。弱くて、ちっぽけだ…)
ボロボロと涙をこぼし始める紺を結莉はベンチに座らせる。紺を挟んで夏羽もベンチに腰掛けた。
結莉は何も言わなかった。夏羽も何も言わなかった。
紺はただただ泣き続けた。
紺の手を握る結莉と夏羽の手は優しくあたたかった。
そのうちに紺は泣き疲れ、眠ってしまう。
「紺ちゃん、眠っちゃったわね」
「はい。…あの…」
夏羽は結莉の腫れ上がる手を申しわけなさそうに見つめる。
「大丈夫よ。ありがとう」
にこりと微笑む結莉に夏羽はホッと息を吐く。
「…聞かないんですか?紺のこと…」
「自分から話してくれるまでは、聞かないわ」
「そう…ですか」
結莉になら、怪物の存在を話しても良いのではないか。自分達のことを打ち明けても良いのではないか。そう思った夏羽は意を決して口を開く。
「あの、結莉さん。俺は…、いえ、俺達は人間ではありません」
突然の夏羽の告白に結莉は驚き、目を丸くする。
「えっ!夏羽くん、も?…お耳は普通だけれど…」
「紺は狐ですが、俺は半妖なんです。見た目は人間と変わりません。今まで黙っていて、その…ごめんなさい」
謝る夏羽に結莉は優しく微笑む。
「話してくれて、ありがとう。私に打ち明けるの…怖かったでしょう?大丈夫、誰にも言わないわ。秘密、ね」
「ありがとう…ございます」
それきり、黙り込んでしまう結莉に夏羽はもう一度口を開く。
「あ、あの、結莉さん。怖く…ないのですか?…俺達のこと」
問いながら夏羽は弥太郎のことを思い返していた。異質なモノを恐怖するあの眼を。
「そうね、怖くないわ。とても驚いたけれど。夏羽くんは夏羽くんだもの。だから、今までと同じ。何も変わらないわ」
結莉の言葉に夏羽は安堵する。スッと気持ちが楽になり、夏羽は結莉に1ヶ月前のことをつらつらと話し始めた。何故だかわからないけれど、彼女には正直にすべて話したいと思ったからだ。ただ、隠神、織、晶の正体については伏せておいた。自分が話すべきではないと思ったからだ。
話し終わると辺りはすっかり暗くなっていた。
「あ、すみません。すっかり暗くなってしまった」
「夏羽くん」
結莉は紺と繋いでいないもう片方の手を夏羽に伸ばし、夏羽の頭を優しく撫でた。
「ありがとう」
にこりと笑う結莉に夏羽も思わず口角が上がる。
「ありがとうございます」
そして、もう帰らなければと寄りかかって眠る紺の肩をゆさゆさと揺する。
「ふが。む…眠ってしまった」
目覚めた紺はまだ眠たそうに眼をこする。
そんな紺を見て、夏羽は隠神のもとへ来ないかと紺に提案した。
「それは…できない。紺は狐だ。狸のもとでは暮らせない」
「そうか…」
「でも…夏羽となら暮らしてもいい」
嬉々として紺は夏羽にそう話す。
「俺?」
「夏羽は狸の手下だが狸ではない。今はここが紺の住処だ。ここには鳩も雀もいるから食うには困らない。夏羽も一緒に住めばいい!」
爛々と輝く紺の瞳を見つめながら、言いずらそうに夏羽は口を開く。
「ごめん、紺。実は…俺はすぐ夕飯を買って帰らないといけない」
「帰る?」
夏羽の言葉に紺は泣きそうな顔で「それは任務か?」と尋ねる。
「任務では…ない。当番、だから」
紺は悲しそうに夏羽を見つめたままだ。
「あの…それが終わったら…また来るから…」
「本当か?どれくらいで終わるんだ?」
今度は嬉しそうに夏羽に尋ねてくる紺。
「わからない…けど、そんなに時間はかからないと思う…」
「わかった!」
夏羽の答えに納得したようで、紺は握っていた夏羽の手を離した。
そして、今度は結莉の方へ顔を向ける。
「ニンゲンは?ニンゲンも帰るのか?」
「え…ええ。家に帰らないといけないから」
「ニンゲン…名前、なんていったっけ…?」
「…結莉、よ」
「結莉か。結莉もまた紺のところに来たらいい。結莉は、なんだか他のニンゲンと違う。手、あたたかかった。優しい、飯生様みたいだった…」
紺はそう言って結莉の手も少し寂しそうに離した。
「わかったわ。また紺ちゃんのところに来るわね」
「絶対だぞ!紺は…待っているからな」
元気に答える紺に二人はまた会いに来る約束をしてその場をあとにした。
結莉が帰宅すると、母がもう食事の用意を済ませていた。
「ごめんなさい。ちょっと…友達と会って、遅くなってしまって」
「あら、そうだったの。遅かったから心配したのよ。さ、夕食食べて今日はもうゆっくり休みなさい。手、どうしたの?」
母は赤く腫れ上がる結莉の手を心配そうに見つめてくる。
「転びそうになって手をついたら捻ってしまったの。じきに治るわ」
「そう…、気をつけなさいね」
結莉は、母の夕食を口にし、後片付けをすませて自室に戻った。それから、ふと思い立ちクローゼットから膝掛け毛布を取り出す。
「紺ちゃん…、きっと寒いわよね…」
結莉は母にすぐに戻るからと言い、走って紺のいる公園へ向かった。
「はぁ…はぁ…、紺ちゃん…?いない、の?」
辺りを見渡すがそれらしいヒトは見当たらない。
「ん?結莉か?どうした?」
頭上から声が聞こえたかと思うと、木の上から紺がぴょんと降りてきた。
「良かった。紺ちゃん、そこにいたのね。これ、良かったら使ってほしくて」
そして結莉は持ってきた毛布を紺の肩に羽織る形で掛けてやった。
「もふもふで、あたたかい」
気に入った様子の紺に思わず顔が綻んだ。
「ふふっ。気に入ってくれて良かった。夜は冷えるから、風邪をひいたら大変だもの。…また、来るわね。おやすみなさい、紺ちゃん」
もう遅い時間のため、結莉は紺に背を向けて家へ向かい走り始める。
「おやすみ、結莉!」
走り始めた結莉の背に向かって紺は叫ぶ。掛けられたあたたかな毛布を紺は両手で握りしめた。