人と怪物の辿る道
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小さな狸たちが投票結果の項目を書き直す。
『許さぬ』
『許す』
『白票』
許すは4票だ。
全吉が書き直された表を見て、嬉しそうに口を開く。
「それでは満場一致ということで…賊は『力を封じたうえで経過観察』『夏羽どのに一任する』ということでまとまりました」
全吉の言葉に皆が息を呑む。
花楓の命は繋がったのだ。
「あー、最後にひとついいですか」
今まで黙っていた隠神が挙手をして進言する。
「そもそも屋島が狙われたのは俺が飯生妖子の私怨を買ったからです。賊は実行犯にすぎない。討つ討たぬの話をするなら、真に討たねばならないのは飯生のほうです。そして俺たちはそのつもりでいる…。手伝ってくれとは言いませんが狸一丸となればこんなに心強いものもありません。夏羽のこと、どうかよろしくお願いします」
隠神の言葉を受けて、団三郎・芝右衛門・金長が揃って夏羽を見つめる。
「頼んだぞ。夏羽くんとやら」
皆、夏羽に託してくれたのだ。
じんわりと胸があたたかくなっていく。
夏羽も嬉しそうに目を見開いて、皆にお辞儀をして返す。
「ありがとうございます…。ありがとう…。頑張ります」
協議が終わり、ゾロゾロと皆が部屋を後にしていってから結莉は夏羽に思い切り飛びついた。
「わっ!」
「ありがとう!夏羽くんのおかげよ!花楓さんの命が繋がったの!良かった、本当に…良かった…」
ぼろぼろと涙を溢す結莉に夏羽があたふたする。
「結莉さんも頑張ってくれたから。俺だけじゃ駄目だったかもしれないし…、隠神さんも最後に一押ししてくれたから。だから、あの場にいた皆のおかげだと思う」
「うん…そうね、本当に、そう」
涙を流しながら結莉が微笑む。
抱きつく結莉の背を夏羽が優しく撫でる。
結莉は少し驚きながら、くすりと笑った。
「本当に、優しいのね。夏羽くんは。夏羽くんと一緒なら何だって出来そう」
心優しい夏羽くんがこの先もずっと明るく照らされていますように。
そんな世界になれたら…。
ううん、そんな世界を作るんだ。
夏羽くんと皆で。
一緒に。
結莉がそう決意した時。
強い力によって夏羽と引き離される。
「くっつきすぎだから!!」
顔を赤らめて頬を少し膨らませた織がジッと夏羽を睨む。
「ごめんなさい。あまりにも嬉しかったから…。あの…織くん、怒ってる…?」
申し訳ないと、おずおず謝罪する結莉を今度は織が抱き寄せた。
「きゃっ…!」
吃驚する結莉を織はギュッと強く抱きしめる。
「お、怒ってねーけど!あんまり他の男とくっつくのは…流石に、妬く…」
最後の方は消え入りそうな声になっていたが、結莉の耳にはしっかり届いていたようで。
結莉は真っ赤になりながら慌てて言葉を紡いだ。
「ご、ごめんなさい。その…、き、気をつけます」
「おう…」
頬を染めながら、織はそっと手を離した。
結莉は真っ赤な顔を見られないように俯いた。
「ゴホン!」
隠神がわざとらしく咳払いをして「あー、悪いんだけど、そろそろこれからの話をしてもいいかな?」と割って入ってきて、結莉も織もますます顔が赤くなるのだった。
「ま、でも夏羽のことを団三郎どのたちに認めてもらえたのはラッキーだったな。こいつも狢殺しに入れたままなら暴れる心配はないだろうよ」
「え!お散歩とかさせなくていいの?」
「足が弱るぞ」
「そうだよー、フォアグラになっちゃうよ」
わいわい賑やかな一同に「だから犬猫じゃねんだよ」と織がツッコミを入れたところで、伊予姫が夏羽を訪ねてきた。
泣き腫らした目で伊予姫は真っ直ぐに夏羽を見つめる。
「すまぬ…ありがとう…」
そう言って伊予姫は夏羽の手を取った。
晶が慌てて紺の目を手で覆う。
「おぬしがおらなんだら…父上の言う通りにするしかなかった…」
「ううん、こちらこそ。任せてくれてありがとう」
「父上の言うことは正しい。でも伊予は…もし、おじいが生きていたら賊を生かしたと思うのじゃ。釈迦の掌を舞う孫悟空のように反省するまでずっと…。じゃが…伊予にはまだその器がない…」
「…伊予姫、隠神さんが残ったほうがいい?」
「えっ?」
夏羽の問いかけに伊予姫はキョトンとする。
「俺にも隠神さんがいたほうがいいけど…もし伊予姫のほうが必要なら………ゆずる」
「ぬいぐるみか何かか?俺は」
夏羽の発言に思わず隠神が口をはさむが、伊予姫は気丈に笑ってみせた。
「ううん…平気じゃ!伊予には屋島の皆がおるし…優しさに甘えてもおれぬ。理想ばかりでは父上を説得することはできぬからの。次に会う時には立派な頭領になっておる!安心して行ってくるが良い」
「そうか、よかった。わかった」
伊予姫の様子に一同がホッとしたところで、荷物を女中さんが運んできてくれた。
皆の新しい洋服を用意してくれたらしい。
女性陣の洋服は彩が選んでくれたのだとか。
結莉に用意された洋服はショートパンツにニーハイソックスのコーディネートだった。
短い丈のボトムスと、少し太ももが露出してしまうのが恥ずかしい。
身支度を整えた一行は、屋島の者達に見送られ新たな目的地へと出発した。
次なる目的地は京都だ。
目的地へ向かう新幹線の中で、紺が京都の怪物の結石について話してくれた。
隠結石と陽結石というふたつの結石があり、京都の狐が管理しているということ。
そして、飯生妖子は京都の狐だったと紺は言う。
紺は警視庁の狐になる前、那須の山で石鎮の一族として暮らしており、紺の一族が守っていたのが妖結石…飯生妖子が初めて手にした怪物の結石だったという。ある日突然京都から那須にやってきた赤黒い毛並みの雌の狐…飯生妖子は、紺の家族から『飯さま』と呼ばれ『失礼のないように』と幼い紺は言い聞かされていたそうだ。しばらく里に棲みついた後、紺の家族を皆殺しにし生稲さまごと石を飲み込んで山を下り、東京の狐になったのだ、と。
生稲さまとは、妖結石を守るため柱になる狐のことをいう。
紺が大好きだったのは生稲さまだった。飯生妖子のことを生稲さまだと思い込むように記憶のすり替えをされていたのだ。
「そしておそらく、あの女の腹の中にはまだ生稲さまがいる。飯生妖子が東京から移動できないのはきっとそのせいだ。妖結石の柱になる狐は石の毒気にやられて身体が動かなくなる宿命にある。飯生妖子もその影響を受けているはず。生稲さまは今や妖結石そのものだ。きっとずっとおひとりで…今も戦っている。夏羽、紺は飯生妖子に裏切られたことはもうどうでもいいんだ。あの女はもともと紺の大切な人じゃなかった。紺は…生稲さまを助けたい。その為にこれからも夏羽についていっていいか?」
真剣な眼差しの紺に呆気に取られながら、夏羽が「いい」と答えると紺は目を輝かせて喜んだ。
「つまり、飯生さんが京都を脅威としているのは因縁があるから…?」
織の疑問に答えたのは隠神だ。
「そう見ていいだろうな。自ら出て行ったのか追い出されたのかはわからんが、京都の狐に会えれば飯生の弱点が見つかるかもしれない。それに『飯さま』という呼び名…。おそらく『飯』は飯生の本当な名だ。『飯生妖子』という名前は人間に紛れるためにつけた仮の名でしかない。京都には飯生がまだ飯だった時の記録があるはず…」
「京都の狐はどこに棲んでいるのでしょうか」
「そこから探ることになるな。簡単には会ってくれないだろうし」
「ノーヒントってこと?狐さんインスタとかやってないのかなー」
「みんなおめーみたいな連中だったらラクなんだけどな。ま、でも手がかりゼロってわけじゃないぜ。とりあえず俺の知り合いが何か知ってるみたいだからソイツに会っ…あっ!!!てめー!俺らの弁当!!」
お腹を空かせた花楓がバクバクと弁当を食べ漁っていることに気づいた織が花楓に掴みかかる。
「こんなの全然足んねーよ。おかわり」
織に掴みかかられても反省の色のない花楓が文句を言う。
「こらこら、暴れるな」
隠神がたしなめるも、織と花楓はギャーギャーと言い合っている。
「花楓さん、お腹が空いてしまったのは仕方がないけれど皆のお弁当を勝手に食べては駄目よ。お腹が空いたからお弁当食べたいってきちんと相談して」
優しく諭すように結莉が言うと花楓はしゅんと大人しくなった。
「よしよし、いい子ね。京都に着いたら何か食べ物を買いましょうね」
「やった!」
結莉に撫でられてご機嫌な花楓を織が睨む。
「こいつ、なんで結莉さんには素直なんだよ…!」
「だって相棒の大切な人だもん」
あっけらかんと答える花楓の台詞にますます織が膨れ顔になる。そのままプイと窓の方に顔を背けた織の肩に結莉はそっと寄りかかった。
「……少しこうしていたいの。織くんは、嫌?」
「………嫌じゃないけど」
顔を背けたまま、ツンと答える織に「良かった…」と呟くと結莉は織の腕に身を寄せて目を閉じる。
織は横目で結莉を見る。彼女がくっついてくるなんて珍しい。それも人前で。
結莉は自分を好いてくれているのだが、本当にそうなのだろうかと心配になることが多い。嫉妬したり、ヤキモキしたりするのは自分ばかりだ。
だからこうして彼女が好意を示してくれると、ホッとする。もっと甘えてほしいと思うのは贅沢なのだろうか。
そうこうしているうちに無事に目的地、京都へと一行はたどり着いた。
『許さぬ』
『許す』
『白票』
許すは4票だ。
全吉が書き直された表を見て、嬉しそうに口を開く。
「それでは満場一致ということで…賊は『力を封じたうえで経過観察』『夏羽どのに一任する』ということでまとまりました」
全吉の言葉に皆が息を呑む。
花楓の命は繋がったのだ。
「あー、最後にひとついいですか」
今まで黙っていた隠神が挙手をして進言する。
「そもそも屋島が狙われたのは俺が飯生妖子の私怨を買ったからです。賊は実行犯にすぎない。討つ討たぬの話をするなら、真に討たねばならないのは飯生のほうです。そして俺たちはそのつもりでいる…。手伝ってくれとは言いませんが狸一丸となればこんなに心強いものもありません。夏羽のこと、どうかよろしくお願いします」
隠神の言葉を受けて、団三郎・芝右衛門・金長が揃って夏羽を見つめる。
「頼んだぞ。夏羽くんとやら」
皆、夏羽に託してくれたのだ。
じんわりと胸があたたかくなっていく。
夏羽も嬉しそうに目を見開いて、皆にお辞儀をして返す。
「ありがとうございます…。ありがとう…。頑張ります」
協議が終わり、ゾロゾロと皆が部屋を後にしていってから結莉は夏羽に思い切り飛びついた。
「わっ!」
「ありがとう!夏羽くんのおかげよ!花楓さんの命が繋がったの!良かった、本当に…良かった…」
ぼろぼろと涙を溢す結莉に夏羽があたふたする。
「結莉さんも頑張ってくれたから。俺だけじゃ駄目だったかもしれないし…、隠神さんも最後に一押ししてくれたから。だから、あの場にいた皆のおかげだと思う」
「うん…そうね、本当に、そう」
涙を流しながら結莉が微笑む。
抱きつく結莉の背を夏羽が優しく撫でる。
結莉は少し驚きながら、くすりと笑った。
「本当に、優しいのね。夏羽くんは。夏羽くんと一緒なら何だって出来そう」
心優しい夏羽くんがこの先もずっと明るく照らされていますように。
そんな世界になれたら…。
ううん、そんな世界を作るんだ。
夏羽くんと皆で。
一緒に。
結莉がそう決意した時。
強い力によって夏羽と引き離される。
「くっつきすぎだから!!」
顔を赤らめて頬を少し膨らませた織がジッと夏羽を睨む。
「ごめんなさい。あまりにも嬉しかったから…。あの…織くん、怒ってる…?」
申し訳ないと、おずおず謝罪する結莉を今度は織が抱き寄せた。
「きゃっ…!」
吃驚する結莉を織はギュッと強く抱きしめる。
「お、怒ってねーけど!あんまり他の男とくっつくのは…流石に、妬く…」
最後の方は消え入りそうな声になっていたが、結莉の耳にはしっかり届いていたようで。
結莉は真っ赤になりながら慌てて言葉を紡いだ。
「ご、ごめんなさい。その…、き、気をつけます」
「おう…」
頬を染めながら、織はそっと手を離した。
結莉は真っ赤な顔を見られないように俯いた。
「ゴホン!」
隠神がわざとらしく咳払いをして「あー、悪いんだけど、そろそろこれからの話をしてもいいかな?」と割って入ってきて、結莉も織もますます顔が赤くなるのだった。
「ま、でも夏羽のことを団三郎どのたちに認めてもらえたのはラッキーだったな。こいつも狢殺しに入れたままなら暴れる心配はないだろうよ」
「え!お散歩とかさせなくていいの?」
「足が弱るぞ」
「そうだよー、フォアグラになっちゃうよ」
わいわい賑やかな一同に「だから犬猫じゃねんだよ」と織がツッコミを入れたところで、伊予姫が夏羽を訪ねてきた。
泣き腫らした目で伊予姫は真っ直ぐに夏羽を見つめる。
「すまぬ…ありがとう…」
そう言って伊予姫は夏羽の手を取った。
晶が慌てて紺の目を手で覆う。
「おぬしがおらなんだら…父上の言う通りにするしかなかった…」
「ううん、こちらこそ。任せてくれてありがとう」
「父上の言うことは正しい。でも伊予は…もし、おじいが生きていたら賊を生かしたと思うのじゃ。釈迦の掌を舞う孫悟空のように反省するまでずっと…。じゃが…伊予にはまだその器がない…」
「…伊予姫、隠神さんが残ったほうがいい?」
「えっ?」
夏羽の問いかけに伊予姫はキョトンとする。
「俺にも隠神さんがいたほうがいいけど…もし伊予姫のほうが必要なら………ゆずる」
「ぬいぐるみか何かか?俺は」
夏羽の発言に思わず隠神が口をはさむが、伊予姫は気丈に笑ってみせた。
「ううん…平気じゃ!伊予には屋島の皆がおるし…優しさに甘えてもおれぬ。理想ばかりでは父上を説得することはできぬからの。次に会う時には立派な頭領になっておる!安心して行ってくるが良い」
「そうか、よかった。わかった」
伊予姫の様子に一同がホッとしたところで、荷物を女中さんが運んできてくれた。
皆の新しい洋服を用意してくれたらしい。
女性陣の洋服は彩が選んでくれたのだとか。
結莉に用意された洋服はショートパンツにニーハイソックスのコーディネートだった。
短い丈のボトムスと、少し太ももが露出してしまうのが恥ずかしい。
身支度を整えた一行は、屋島の者達に見送られ新たな目的地へと出発した。
次なる目的地は京都だ。
目的地へ向かう新幹線の中で、紺が京都の怪物の結石について話してくれた。
隠結石と陽結石というふたつの結石があり、京都の狐が管理しているということ。
そして、飯生妖子は京都の狐だったと紺は言う。
紺は警視庁の狐になる前、那須の山で石鎮の一族として暮らしており、紺の一族が守っていたのが妖結石…飯生妖子が初めて手にした怪物の結石だったという。ある日突然京都から那須にやってきた赤黒い毛並みの雌の狐…飯生妖子は、紺の家族から『飯さま』と呼ばれ『失礼のないように』と幼い紺は言い聞かされていたそうだ。しばらく里に棲みついた後、紺の家族を皆殺しにし生稲さまごと石を飲み込んで山を下り、東京の狐になったのだ、と。
生稲さまとは、妖結石を守るため柱になる狐のことをいう。
紺が大好きだったのは生稲さまだった。飯生妖子のことを生稲さまだと思い込むように記憶のすり替えをされていたのだ。
「そしておそらく、あの女の腹の中にはまだ生稲さまがいる。飯生妖子が東京から移動できないのはきっとそのせいだ。妖結石の柱になる狐は石の毒気にやられて身体が動かなくなる宿命にある。飯生妖子もその影響を受けているはず。生稲さまは今や妖結石そのものだ。きっとずっとおひとりで…今も戦っている。夏羽、紺は飯生妖子に裏切られたことはもうどうでもいいんだ。あの女はもともと紺の大切な人じゃなかった。紺は…生稲さまを助けたい。その為にこれからも夏羽についていっていいか?」
真剣な眼差しの紺に呆気に取られながら、夏羽が「いい」と答えると紺は目を輝かせて喜んだ。
「つまり、飯生さんが京都を脅威としているのは因縁があるから…?」
織の疑問に答えたのは隠神だ。
「そう見ていいだろうな。自ら出て行ったのか追い出されたのかはわからんが、京都の狐に会えれば飯生の弱点が見つかるかもしれない。それに『飯さま』という呼び名…。おそらく『飯』は飯生の本当な名だ。『飯生妖子』という名前は人間に紛れるためにつけた仮の名でしかない。京都には飯生がまだ飯だった時の記録があるはず…」
「京都の狐はどこに棲んでいるのでしょうか」
「そこから探ることになるな。簡単には会ってくれないだろうし」
「ノーヒントってこと?狐さんインスタとかやってないのかなー」
「みんなおめーみたいな連中だったらラクなんだけどな。ま、でも手がかりゼロってわけじゃないぜ。とりあえず俺の知り合いが何か知ってるみたいだからソイツに会っ…あっ!!!てめー!俺らの弁当!!」
お腹を空かせた花楓がバクバクと弁当を食べ漁っていることに気づいた織が花楓に掴みかかる。
「こんなの全然足んねーよ。おかわり」
織に掴みかかられても反省の色のない花楓が文句を言う。
「こらこら、暴れるな」
隠神がたしなめるも、織と花楓はギャーギャーと言い合っている。
「花楓さん、お腹が空いてしまったのは仕方がないけれど皆のお弁当を勝手に食べては駄目よ。お腹が空いたからお弁当食べたいってきちんと相談して」
優しく諭すように結莉が言うと花楓はしゅんと大人しくなった。
「よしよし、いい子ね。京都に着いたら何か食べ物を買いましょうね」
「やった!」
結莉に撫でられてご機嫌な花楓を織が睨む。
「こいつ、なんで結莉さんには素直なんだよ…!」
「だって相棒の大切な人だもん」
あっけらかんと答える花楓の台詞にますます織が膨れ顔になる。そのままプイと窓の方に顔を背けた織の肩に結莉はそっと寄りかかった。
「……少しこうしていたいの。織くんは、嫌?」
「………嫌じゃないけど」
顔を背けたまま、ツンと答える織に「良かった…」と呟くと結莉は織の腕に身を寄せて目を閉じる。
織は横目で結莉を見る。彼女がくっついてくるなんて珍しい。それも人前で。
結莉は自分を好いてくれているのだが、本当にそうなのだろうかと心配になることが多い。嫉妬したり、ヤキモキしたりするのは自分ばかりだ。
だからこうして彼女が好意を示してくれると、ホッとする。もっと甘えてほしいと思うのは贅沢なのだろうか。
そうこうしているうちに無事に目的地、京都へと一行はたどり着いた。
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