人と怪物の辿る道
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「赤城さん!!どこ行ったんだよ……!返事しろって!!俺、まだやれるって言ってんだろ!!もっぺん強くしてよ!!なあ!!」
人型に戻った花楓は赤城に語りかけ続けていた。
「赤城さん…、赤城さん…」
結莉は涙をこぼしながら赤城の名を呼び、抑え込む織の手を振りほどこうとする。
「結莉さん…、俺が様子を見てくる…。だから、結莉さんはそこにいて…」
夏羽は残りの力を振り絞り、ズルズルと這いつくばりながら横たわる赤城に近づいた。燃えている赤城の心音を確認しようと夏羽が耳を近づけた時、野火丸が夏羽を止めた。
「死んでますよ」
夏羽は顔を上げ、野火丸を見る。
「死んでます」
野火丸は念を押すようにもう一度そう言った。
「…?死んだ…?」
「そうです。赤城は死にました。お前の敗北です」
野火丸は淡々と花楓に言った。
「…まけ…?はっ!ハナきかないけど…おまえ野火丸だろ!ウソだよ!おまえウソつきだもん!赤城さん言ってたよ。野火丸のことは信用するなって。おまえが飯生さまの言うこと聞いてるのは飯生さまをコン……コ…なんだっけ。ロールケーキにするため…いっ!!?」
野火丸は顔色を変えずに花楓の足首を燃やす。
「補足しましょう。喉も潰しておきますか?」
「ま…待てって。俺やるよ…。動けねーようにすりゃいいんだろ」
見かねた織がそう申し出た時、周りの建物の様子が変化した。建物を燃やしていた火は消え、赤城達が襲う前の裏屋島の情景に戻ったかのようだった。
「夏羽!」
「あっ、伊代姫!」
伊代姫は夏羽に声をかけたあと太三郎の元へと駆け寄った。
「おじい!!」
「皆さん、ご無事ですか!?」
後から全吉と綾も駆けつけてくる。
「全吉…、アヤ、これは…」
「伊代姫さまが裏屋島を作り直したんです。俺も驚きましたが…、伊代姫さまは太三郎さまが裏屋島を調整するのをずっと見ていましたからね」
「外は…?大丈夫だった?」
「それは…、……皆さんが気にされることではございません。今は一刻も早く傷の手当てを受けてください。後のことはそれからにしましょう。よろしければあなたも」
「おや、良いんですか?」
声をかけられた野火丸が飄々と答える。そんな野火丸を全吉と多郎太はじっと見つめた。
「…休めってより逃がさないぞって目ですね。まあ、いいですけど」
手当てを受ける前に、夏羽は結莉の方を振り返った。結莉は俯いていて表情が見えなかったが、頬を涙が伝っていた。
「結莉さん…」
織が結莉に声をかけたが彼女は返事をしなかった。黙ったまま俯く結莉に、従者が「お休みできる部屋へご案内します」と声をかけた。
「…さんは…、赤城さんは…、どうなるの…?」
力なく尋ねる結莉に従者は答える。
「ご安心ください。賊はこちらで厳重に警備いたします。赤城、とはこちらの者ですか?亡骸も念のためこちらで警備・監視いたします」
他の従者たちが拘束された花楓をどこかへ引き連れてゆく。
赤城も従者たちによって運ばれようとしていた。
「…赤城、さん…」
結莉はフラフラと赤城に近づく。
「…見ない方がよろしいかと」
従者の忠告に結莉は首を左右に振る。結莉は近づいて赤城の顔を見た。焼け焦げて真っ黒な肌。変わり果てた姿だった。
死。
受け入れたくない事実が結莉の胸に重くのしかかる。
「…運びます」
気は済んだか、と従者は一言声をかけ赤城を運んでいった。
結莉は赤城を運ぶ従者たちについていった。赤城は倉へと運ばれ、遺体に白い布がかけられた。
赤城の遺体には警護者が二人ついた。
「…傍にいることは、できませんか…?」
「ならぬ」
結莉の申し出は冷たく却下された。
「……………」
結莉は名残惜しく、じっと赤城を見つめると、踵を返してその場を立ち去った。
結莉には一つの部屋があてがわれた。
綾たちと同室になるはずだったが、心境を慮り一人別室となった。
部屋に入り、膝をつく。
「赤城さん…、赤城さん…、うっ、う、うぁ…」
涙が止まらなかった。
赤城は死んでしまった。
最後に見た亡骸が脳裏に焼き付いて離れなかった。
泣いて。泣いて。泣いて。
涙が溢れて止まらない。行き場のない悲しみをどうしたら良いのだろう。
泣き続けて、どれだけ時間が経ったのだろうか。
部屋に近づいてくる足音が聞こえた。
部屋の前で誰かがピタリと止まる。
「結莉さん…、まだ起きてる…?」
申し訳なさそうに声をかけてきたのは夏羽だった。
「夏羽くん…」
彼の名前を呼ぶことが精一杯だった。
「そのまま、聞いて。…赤城は、俺が殺した。結莉さんは、悪くない。俺を恨んでいい。だから、泣かないで」
夏羽の言葉はとても優しかった。
結莉は、よろよろと立ち上がり、部屋の入り口まで行くと襖ごしに夏羽に話しかけた。
「…赤城さんを殺したのは、私も同じ。止めると言っておきながら、止められなかった。何も出来なかった。私は無力で、そんな無力な自分を許せない。だから、私が夏羽くんを恨むなんてこと、ないの」
「じゃあ、俺はどうしたらいい?どうしたら、結莉さんは泣き止んでくれるの?」
「…夏羽くんは、優しいのね。ありがとう。…少し、時間が欲しいの。もう少し一人でいさせて」
結莉はそう言うと黙り込んでしまった。
夏羽は結莉のことが気がかりだったが、「わかった」と告げてその場から離れた。
(駄目ね。このままじゃ)
そう自分を叱責する。
赤城の死はとてつもなく悲しい。
だけど、この悲しみを自分は乗り越えなくてはいけない。
心配してくれるヒトがいるから。こんな私を想ってくれるヒトがいるから。
そう思うと皆の顔が頭に浮かんだ。
織くん、晶くん、隠神さん、紺ちゃん、綾ちゃん、組さん。
私にとってかけがえのない大切なヒト達。
(織くんはきっと…気を遣ってくれたのね。)
織はとても優しい。そして思慮深い。色々考えて、私のことを一人にしてくれたのだろうと思う。
私がこうしていつまでも泣いていたら、皆に心配をかけるだけ。
…前を見なくちゃ。
立ち止まるわけにいかない。
次に進まないといけない。
そう思った時、首にかけていたネックレスがシャラリと音をたてた。
忘れない。大切な貴方のこと。
結莉はそっとネックレスを撫でる。
「赤城さん…、私、進みます。だから、見ていてください」
もう二度と大切なヒトを失わないように。
ドン!!!
突然の大きな爆発音に慌てて部屋から飛び出す。
「赤城さん…っ!」
結莉は赤城の遺体がある倉に向かって部屋を飛び出した。
倉に着いた時、そこはもぬけの殻だった。
赤城の遺体は何者かによって持ち去られたようだった。
思い当たるのは、ただ一人。
野火丸。
こちら側に情報を漏らしたくないのか、それとも何かを企んでいるのか。
「結莉さん!!」
振り返ると、駆け寄ってくるのは織と隠神だった。
「織くん!隠神さん!赤城さんが連れ去られたみたいです。…野火丸くんは、どこにいますか?」
状況を把握した織と隠神は顔を見合わせる。
「確認しよう」
隠神は近くの従者に声をかけ、野火丸の部屋まで案内させた。
織が部屋の襖を勢いよく開けると、部屋の中央に敷かれた布団で何故か夏羽が寝ていた。
「おっ、オマエなんでここで寝てんだよ!!なんもされてねーだろうな!ケツに爆竹とか刺さってねーか!?」
「カエルじゃないんだから。なくなったのは死体だけか?」
隠神が案内してくれた従者に確認する。
「はい」
「あいつめ、おとなしくしてりゃあそれくらいなんとかしてやったのに」
「どっちの心配してんだよ!隠神さんが味方だって言うから信用したのに〜」
「まあまあ、ちょっと待て」
隠神は夏羽の懐を確認すると「やっぱりな」と漏らした。
「見ろ。俺が飯生の従順な部下だったら、死体よりこっちを盗んでるぜ」
そう言って隠神は夏羽の持っている結石を見せた。
「盗まれてない…!」
「偽物とすり替えられてる感じもない。わざと残していったんだ」
「んな…、そんなの、何のために…」
納得がいかないという織に、「ちょっと、整理するか」と隠神が話す。
「俺たちの集めた怪物の結石は今のところ6つ。命結石、零結石、幻結石、流結石、浄結石、栄結石、を融合させた。石は屍鬼の身体を分けて作られたものとして、形状を見るにこれは主に下半身。飯生の持ってる石は俺の知ってる限りで5つ。増えててもおかしくないが、夏羽の持っていない石になるから主に上半身。身体のパーツのことを考えると、残る石の数はもうそんなに多くないはずだ。あとひとつかふたつか…」
「一個は京都にあるんだろ?」
「ああ。最後にしようと思ってたが、実質最後なのかもな。万が一、夏羽の石を全て奪われても京都さえ無事なら立て直せる。飯生にとってそれくらいの脅威が京都にはある。攻め入るとしたら京都以外全ての石を揃えた時だろう」
「それを踏まえるとますますナゾじゃん。なんで野火丸は石を盗らなかったんだ?向こうにとっては王手のはずだろ…。野火丸は飯生さんに石を集めさせたくない…?」
「または京都の石を夏羽に取って来させようとしているかだ。もちろんノコノコそんな真似はしないが…。やっぱり次は京都だな。ツナマヨとかいう奴の話、乗ってみるか」
「大丈夫かなあ。ミハイさんの次くらいにロクでもないヤツだぜ」
「ま、何はともあれ明日だな」
「もう目ぇ覚めちゃったよ、俺。…ところで、その、あの…さ」
織は結莉を見て、しどろもどろに言葉を発する。
「もう、大丈夫なのか?」
隠神が結莉に問う。
「はい…。もう、大丈夫です」
「大丈夫、な訳ないだろ!だってさ…!」
織が心配そうに結莉を見つめる。結莉はふるふると首を振った。
「大丈夫。前に進むって決めたから。…心配をかけて、ごめんなさい」
「本当に本当に大丈夫、なのか?無理とかしてないよな?」
「もう。織くんってば心配症」
苦笑する私を見て、織が涙目になる。
「…ごめん。俺は…」
「いいの。赤城さんに付くのは私だけでいい。織くん達に彼の味方をしてなんて言わない。…赤城さんは、最後まで自分を通したの。…それだけよ」
「…そのことなんだけどさ。多分、赤城は、結莉さんの為だったんじゃないのかな?」
「私の、ため…?」
「赤城は結莉さんのことを、その、すごく、想っていたから。よくわかんねーけど、なんとなく結莉さんの為に何かを貫いたんじゃないかなって」
織の言葉に結莉の瞳から涙が溢れた。
「ちょっ、待っ、ごめん!俺が変なこと言った!」
「違う。そうじゃない。赤城さんに聞かないと本当のことはわからないけど。織くんの言う通りかもしれない。あのヒトはとても優しいヒトだから。最期まで優しいヒトだったんだわ、きっと。…ありがとう、織くん。もう二度と大切なヒトを失わない。」
そう言って結莉は微笑んだ。
その微笑みに、織も隠神も安堵の笑みをこぼす。
「よし、それじゃあまた明日。しっかり眠れよ?」
ぽんぽんと隠神が結莉の頭に優しく触れる。
「おやすみ、結莉さん」
織も笑顔で手を振った。
「はい、おやすみなさい。また明日」
もう大丈夫。
私は前へ進める。
見ていてね、赤城さん。
人型に戻った花楓は赤城に語りかけ続けていた。
「赤城さん…、赤城さん…」
結莉は涙をこぼしながら赤城の名を呼び、抑え込む織の手を振りほどこうとする。
「結莉さん…、俺が様子を見てくる…。だから、結莉さんはそこにいて…」
夏羽は残りの力を振り絞り、ズルズルと這いつくばりながら横たわる赤城に近づいた。燃えている赤城の心音を確認しようと夏羽が耳を近づけた時、野火丸が夏羽を止めた。
「死んでますよ」
夏羽は顔を上げ、野火丸を見る。
「死んでます」
野火丸は念を押すようにもう一度そう言った。
「…?死んだ…?」
「そうです。赤城は死にました。お前の敗北です」
野火丸は淡々と花楓に言った。
「…まけ…?はっ!ハナきかないけど…おまえ野火丸だろ!ウソだよ!おまえウソつきだもん!赤城さん言ってたよ。野火丸のことは信用するなって。おまえが飯生さまの言うこと聞いてるのは飯生さまをコン……コ…なんだっけ。ロールケーキにするため…いっ!!?」
野火丸は顔色を変えずに花楓の足首を燃やす。
「補足しましょう。喉も潰しておきますか?」
「ま…待てって。俺やるよ…。動けねーようにすりゃいいんだろ」
見かねた織がそう申し出た時、周りの建物の様子が変化した。建物を燃やしていた火は消え、赤城達が襲う前の裏屋島の情景に戻ったかのようだった。
「夏羽!」
「あっ、伊代姫!」
伊代姫は夏羽に声をかけたあと太三郎の元へと駆け寄った。
「おじい!!」
「皆さん、ご無事ですか!?」
後から全吉と綾も駆けつけてくる。
「全吉…、アヤ、これは…」
「伊代姫さまが裏屋島を作り直したんです。俺も驚きましたが…、伊代姫さまは太三郎さまが裏屋島を調整するのをずっと見ていましたからね」
「外は…?大丈夫だった?」
「それは…、……皆さんが気にされることではございません。今は一刻も早く傷の手当てを受けてください。後のことはそれからにしましょう。よろしければあなたも」
「おや、良いんですか?」
声をかけられた野火丸が飄々と答える。そんな野火丸を全吉と多郎太はじっと見つめた。
「…休めってより逃がさないぞって目ですね。まあ、いいですけど」
手当てを受ける前に、夏羽は結莉の方を振り返った。結莉は俯いていて表情が見えなかったが、頬を涙が伝っていた。
「結莉さん…」
織が結莉に声をかけたが彼女は返事をしなかった。黙ったまま俯く結莉に、従者が「お休みできる部屋へご案内します」と声をかけた。
「…さんは…、赤城さんは…、どうなるの…?」
力なく尋ねる結莉に従者は答える。
「ご安心ください。賊はこちらで厳重に警備いたします。赤城、とはこちらの者ですか?亡骸も念のためこちらで警備・監視いたします」
他の従者たちが拘束された花楓をどこかへ引き連れてゆく。
赤城も従者たちによって運ばれようとしていた。
「…赤城、さん…」
結莉はフラフラと赤城に近づく。
「…見ない方がよろしいかと」
従者の忠告に結莉は首を左右に振る。結莉は近づいて赤城の顔を見た。焼け焦げて真っ黒な肌。変わり果てた姿だった。
死。
受け入れたくない事実が結莉の胸に重くのしかかる。
「…運びます」
気は済んだか、と従者は一言声をかけ赤城を運んでいった。
結莉は赤城を運ぶ従者たちについていった。赤城は倉へと運ばれ、遺体に白い布がかけられた。
赤城の遺体には警護者が二人ついた。
「…傍にいることは、できませんか…?」
「ならぬ」
結莉の申し出は冷たく却下された。
「……………」
結莉は名残惜しく、じっと赤城を見つめると、踵を返してその場を立ち去った。
結莉には一つの部屋があてがわれた。
綾たちと同室になるはずだったが、心境を慮り一人別室となった。
部屋に入り、膝をつく。
「赤城さん…、赤城さん…、うっ、う、うぁ…」
涙が止まらなかった。
赤城は死んでしまった。
最後に見た亡骸が脳裏に焼き付いて離れなかった。
泣いて。泣いて。泣いて。
涙が溢れて止まらない。行き場のない悲しみをどうしたら良いのだろう。
泣き続けて、どれだけ時間が経ったのだろうか。
部屋に近づいてくる足音が聞こえた。
部屋の前で誰かがピタリと止まる。
「結莉さん…、まだ起きてる…?」
申し訳なさそうに声をかけてきたのは夏羽だった。
「夏羽くん…」
彼の名前を呼ぶことが精一杯だった。
「そのまま、聞いて。…赤城は、俺が殺した。結莉さんは、悪くない。俺を恨んでいい。だから、泣かないで」
夏羽の言葉はとても優しかった。
結莉は、よろよろと立ち上がり、部屋の入り口まで行くと襖ごしに夏羽に話しかけた。
「…赤城さんを殺したのは、私も同じ。止めると言っておきながら、止められなかった。何も出来なかった。私は無力で、そんな無力な自分を許せない。だから、私が夏羽くんを恨むなんてこと、ないの」
「じゃあ、俺はどうしたらいい?どうしたら、結莉さんは泣き止んでくれるの?」
「…夏羽くんは、優しいのね。ありがとう。…少し、時間が欲しいの。もう少し一人でいさせて」
結莉はそう言うと黙り込んでしまった。
夏羽は結莉のことが気がかりだったが、「わかった」と告げてその場から離れた。
(駄目ね。このままじゃ)
そう自分を叱責する。
赤城の死はとてつもなく悲しい。
だけど、この悲しみを自分は乗り越えなくてはいけない。
心配してくれるヒトがいるから。こんな私を想ってくれるヒトがいるから。
そう思うと皆の顔が頭に浮かんだ。
織くん、晶くん、隠神さん、紺ちゃん、綾ちゃん、組さん。
私にとってかけがえのない大切なヒト達。
(織くんはきっと…気を遣ってくれたのね。)
織はとても優しい。そして思慮深い。色々考えて、私のことを一人にしてくれたのだろうと思う。
私がこうしていつまでも泣いていたら、皆に心配をかけるだけ。
…前を見なくちゃ。
立ち止まるわけにいかない。
次に進まないといけない。
そう思った時、首にかけていたネックレスがシャラリと音をたてた。
忘れない。大切な貴方のこと。
結莉はそっとネックレスを撫でる。
「赤城さん…、私、進みます。だから、見ていてください」
もう二度と大切なヒトを失わないように。
ドン!!!
突然の大きな爆発音に慌てて部屋から飛び出す。
「赤城さん…っ!」
結莉は赤城の遺体がある倉に向かって部屋を飛び出した。
倉に着いた時、そこはもぬけの殻だった。
赤城の遺体は何者かによって持ち去られたようだった。
思い当たるのは、ただ一人。
野火丸。
こちら側に情報を漏らしたくないのか、それとも何かを企んでいるのか。
「結莉さん!!」
振り返ると、駆け寄ってくるのは織と隠神だった。
「織くん!隠神さん!赤城さんが連れ去られたみたいです。…野火丸くんは、どこにいますか?」
状況を把握した織と隠神は顔を見合わせる。
「確認しよう」
隠神は近くの従者に声をかけ、野火丸の部屋まで案内させた。
織が部屋の襖を勢いよく開けると、部屋の中央に敷かれた布団で何故か夏羽が寝ていた。
「おっ、オマエなんでここで寝てんだよ!!なんもされてねーだろうな!ケツに爆竹とか刺さってねーか!?」
「カエルじゃないんだから。なくなったのは死体だけか?」
隠神が案内してくれた従者に確認する。
「はい」
「あいつめ、おとなしくしてりゃあそれくらいなんとかしてやったのに」
「どっちの心配してんだよ!隠神さんが味方だって言うから信用したのに〜」
「まあまあ、ちょっと待て」
隠神は夏羽の懐を確認すると「やっぱりな」と漏らした。
「見ろ。俺が飯生の従順な部下だったら、死体よりこっちを盗んでるぜ」
そう言って隠神は夏羽の持っている結石を見せた。
「盗まれてない…!」
「偽物とすり替えられてる感じもない。わざと残していったんだ」
「んな…、そんなの、何のために…」
納得がいかないという織に、「ちょっと、整理するか」と隠神が話す。
「俺たちの集めた怪物の結石は今のところ6つ。命結石、零結石、幻結石、流結石、浄結石、栄結石、を融合させた。石は屍鬼の身体を分けて作られたものとして、形状を見るにこれは主に下半身。飯生の持ってる石は俺の知ってる限りで5つ。増えててもおかしくないが、夏羽の持っていない石になるから主に上半身。身体のパーツのことを考えると、残る石の数はもうそんなに多くないはずだ。あとひとつかふたつか…」
「一個は京都にあるんだろ?」
「ああ。最後にしようと思ってたが、実質最後なのかもな。万が一、夏羽の石を全て奪われても京都さえ無事なら立て直せる。飯生にとってそれくらいの脅威が京都にはある。攻め入るとしたら京都以外全ての石を揃えた時だろう」
「それを踏まえるとますますナゾじゃん。なんで野火丸は石を盗らなかったんだ?向こうにとっては王手のはずだろ…。野火丸は飯生さんに石を集めさせたくない…?」
「または京都の石を夏羽に取って来させようとしているかだ。もちろんノコノコそんな真似はしないが…。やっぱり次は京都だな。ツナマヨとかいう奴の話、乗ってみるか」
「大丈夫かなあ。ミハイさんの次くらいにロクでもないヤツだぜ」
「ま、何はともあれ明日だな」
「もう目ぇ覚めちゃったよ、俺。…ところで、その、あの…さ」
織は結莉を見て、しどろもどろに言葉を発する。
「もう、大丈夫なのか?」
隠神が結莉に問う。
「はい…。もう、大丈夫です」
「大丈夫、な訳ないだろ!だってさ…!」
織が心配そうに結莉を見つめる。結莉はふるふると首を振った。
「大丈夫。前に進むって決めたから。…心配をかけて、ごめんなさい」
「本当に本当に大丈夫、なのか?無理とかしてないよな?」
「もう。織くんってば心配症」
苦笑する私を見て、織が涙目になる。
「…ごめん。俺は…」
「いいの。赤城さんに付くのは私だけでいい。織くん達に彼の味方をしてなんて言わない。…赤城さんは、最後まで自分を通したの。…それだけよ」
「…そのことなんだけどさ。多分、赤城は、結莉さんの為だったんじゃないのかな?」
「私の、ため…?」
「赤城は結莉さんのことを、その、すごく、想っていたから。よくわかんねーけど、なんとなく結莉さんの為に何かを貫いたんじゃないかなって」
織の言葉に結莉の瞳から涙が溢れた。
「ちょっ、待っ、ごめん!俺が変なこと言った!」
「違う。そうじゃない。赤城さんに聞かないと本当のことはわからないけど。織くんの言う通りかもしれない。あのヒトはとても優しいヒトだから。最期まで優しいヒトだったんだわ、きっと。…ありがとう、織くん。もう二度と大切なヒトを失わない。」
そう言って結莉は微笑んだ。
その微笑みに、織も隠神も安堵の笑みをこぼす。
「よし、それじゃあまた明日。しっかり眠れよ?」
ぽんぽんと隠神が結莉の頭に優しく触れる。
「おやすみ、結莉さん」
織も笑顔で手を振った。
「はい、おやすみなさい。また明日」
もう大丈夫。
私は前へ進める。
見ていてね、赤城さん。