人と怪物の辿る道
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はるか上空へと飛び上がった一同。ある程度の高さまでくると周りの空気が変化し始める。
見えてきた光景は屋島の町。その町をぐるりと囲う大波。大波に囲まれた町の中央には双頭の巨大な狐の姿があった。片方の狐はサーフボードで波に乗るタヌキめがけて火球を吐き出している。
「上から何か来ますね」
異変を感じとった赤城が上空に視線を移す。
そして驚き目を丸くした。
「結莉さん……!?なんで……!」
「…っ赤城さん!!」
狐の姿の赤城にためらうことなく結莉は彼の名を叫ぶ。名を呼ばれ赤城の瞳が揺らぐ。
「あーっ!夏羽クンだ!!結莉さんもいる!!」
もう片方の狐-花楓が爛々と目を輝かせた。
「あはっ!すげえ超ラッキー!!やっぱり赤城さんの言うことってマチガイないんだ!こういうのなんていうか知ってるぜ。飛んで火にいる…食べごろの牛だ!」
「だいたい合ってるじゃないですか。…花楓くん、結莉さんには絶対攻撃を当てないように」
「気をつけるけど、巻き込んじまうかもなー!」
あっけらかんと言う花楓を赤城は睨む。
落下していく夏羽たち4人。晶は雪男子の力を使い、皆を自身に捕まらせると体制を整えた。
「あー、びっくりした。もおー、温存しとこうと思ってたのに」
「お友達がたくさんいるんですね。つり目の坊やは?ケンカでもしましたか?」
赤城は話しながらも、どこかに織が紛れていると周囲を警戒する。織の他にも何かいるような感覚を赤城はとらえていた。
花楓は晶たちめがけて容赦なく火球を吐き出す。
「っ!!」
赤城は結莉に視線を送るが、晶の氷の盾により花楓の攻撃は回避されていた。火球から逃れるため、晶はひらりと上空を移動する。
「ぜんぜん攻撃するスキないよ~。せっかくゲンゲンしてるのにー」
「あったとしてもあの大きさじゃ届く前に燃やされそう…」
困り果てた夏羽たちに紺が声をかける。
「あの炎は幻だ!炎狐の持つもともとの力よりずっと大きい…幻のせいだ!」
「えっ、じゃあ見掛け倒しってこと?」
「違う。幻は五感に作用するんだ。頭にそう思い込ませるから火傷もするし焼死もする。紺も使うからわかる。厄介なのは炎狐じゃなくて……幻狐だ!あいつをどうにかすれば…炎はずっと小さくなる!」
「そう、赤城さんをどうにかすればいいのね。晶くん、私を赤城さんの頭部めがけて投げて」
「えっ!?」
「狐の赤城さんの身体は炎で燃え上がっているから近づけないけれど、頭部は違うわ。熱いとは思うけれど耐えられるはずよ。私が赤城さんと話すわ」
「……わかった!いくよ、結莉さん!!」
晶はくるりと旋回すると赤城に向き直り、赤城の頭部めがけて思いきり結莉を投げた。
「ちょっ……!?何するんですか!結莉さんっ!!」
赤城は結莉に向かって首を伸ばし、頭で彼女を受け止めた。転がり落ちそうになる結莉は慌てて赤城の毛並みを両手で掴む。
「いたたたたたた!!!!」
毛を引っ張られ悲鳴をあげる赤城に結莉は「ごめんなさい!」と謝った。なんとか落下を持ちこたえた結莉は這うようにして赤城の眼前に辿り着く。大きな瞳を覗き込む結莉に赤城は「怪我は?」と声をかけた。「大丈夫です。でも、予想通り熱いですね…」熱気に結莉の額が汗ばむ。
「どうしてこんな真似を…!もしかしたら炎に焼かれていたかもしれないんですよ!?そもそもここにいること自体が貴女には危険すぎます!」
咎める赤城を結莉はしっかり見つめて言葉を紡ぐ。
「赤城さんを止めたかったから!赤城さんを助けたいから!どうして赤城さんがこんなことをするのか私はわからないけれど、貴方はとても優しくて賢いヒトです!!こうしなくてはならない理由が何かあるんでしょう!?だったら解決できる方法を考えるから!一緒に考えるから!!だからもう屋島の町を壊すのは止めて!」
結莉の言葉に赤城の表情が曇っていく。
「………結莉さんは勘違いをしていますね。僕は優しくなんてありませんよ。屋島を壊滅させ、飯生妖子に太三郎狸の首を献上する。そのために僕はここにいるんです。それが理由です。他に何の理由があると?」
「嘘!!赤城さん、本当のことを話して!私がなんとかするから!がんばるから…っ、だから、おねがいだから、もうやめて。このままじゃ赤城さん…、いやです。いやです…!赤城さん死なないで…!!」
ぼろぼろと涙をこぼす結莉に赤城は悲痛な眼差しを向ける。
「…泣かないでください。貴女が泣くのは苦しい」
「赤城さん、ひどいです。本当のこと、私に話してくれないのね。止めたいのに、助けたいのに…!」
「結莉さん、貴女はとても優しくて賢い人です。僕がしていることは貴女や夏羽クン達からすれば許されないこと。それなのにどうして貴女はそこまで僕を想ってくれるのですか?」
「そんなの赤城さんが大事だからに決まっているじゃないですかっ!!貴方は私を助けてくれた。支えてくれた。私は赤城さんのことが大好きで、大切だから、だから私は貴方を止めるの。貴方を殺させたりしない。赤城さん…」
結莉は赤城の毛並みを優しく撫でる。赤城は心地良さそうに目を細めた。
ーああ、同じ想いだった。僕は貴女に救われて、支えられて、大切で、大好きで…だから僕は止まるわけにいかないー
赤城は愛おしそうに結莉の姿を目に焼き付けると、思い切り首を振り、彼女を振り落とした。
「あっ!!結莉さんっ!」
上空で様子を見守っていた晶は慌てて加速し結莉を受け止める。
「晶くん!ありがとう。それと…ごめんなさい、赤城さんを止められなかった。絶対に何か理由があるの。それがわかれば止められるかもしれないのだけど…」
「赤城が屋島を襲う理由…か。わからない。でも…」
「あっ、隠神さんたちだ!」
夏羽の言葉を遮り、晶が声をあげる。
眼下を見れば隠神と太三郎がサーフボードに乗っている。二人は『篠突雨龍』の技を使い、現れた巨大な水龍たちは赤城と花楓に猛然と向かっていった。
「おや、風流」
「水キライだよ、おれー。あっち行け!」
花楓の目が輝いたかと思うと、赤城と花楓の纏う炎が一層強いものとなる。花楓の咆哮とともに炎の勢いは更に増し、燃え盛る炎を前に水龍は気化されてしまった。
「うわ~めちゃ熱。これじゃ近づけないよ」
「でも…耐えられるかも。熱風が相手なら俺の炎の再生速度の方が速い。晶、俺を赤城のそばに落として。『あれ』をやってみる」
燃え盛る炎の中、向かってくる一人の少年を赤城は捉えていた。
「ああ…、熱波の中なら耐えられると踏んで来ましたか。さすが…勇敢ですね。夏羽クン、君にはお礼を言いたかった。君のような子供に敗北しなければ僕は他人に歩み寄ろうなんて生涯思わなかったでしょう。一人でよかった。孤高でよかったのに。フフフ。飯生さまの力を借りずとも欲しかったものを手に入れた。安らぎですよ。この世にこんな幸福があるとは…知らなかったな…」
「……赤城の言ってること……俺にもわかる。でも……していることは…全然わからない」
赤城は夏羽に向かって尾を鞭のように振るう。すると夏羽の姿はかき消え、尾が命中することはなかった。
(消えた!狙いは…脚か!!)
赤城の予想通り、夏羽は脚の後ろにいた。
赤城は夏羽を思い切り蹴り上げる。赤城の攻撃によって破壊された半身を夏羽は再生する。
(生えろ…!もっと…もっと強い身体!!)
夏羽の再生の炎が勢いを増していく。再生された半身の手足はヒトではなく鬼のものだった。
「……!?その姿…」
(後方、左にプレッシャー!来る!!)
夏羽は掌撃を赤城の左脚に向けて放つ。
ボンッ!!掌撃をくらった赤城の左脚は勢いよく弾け飛んだ。
「えっ!赤城さん、今のなに!?」
「すみません避けきれず。左の後ろ足がなくなりました。が…心配ご無用です。炎はもとより変幻自在。神の姿もまた然り……!火の迦具土・現人!!」
赤城と花楓は双頭のまま、身体だけが人間のものとなり、巨大な人型となった。
「うっそー、ぴんぴんしてる」
「炎が飛び散った。かなり体積が減ったぞ!」
「じゃが…すばしっこくなったのう…」
走る赤城・花楓に向けて、太三郎が水龍を放つ。
「しつこいなー。あっ、いいこと思いついた」
「そういうの思ってても言わない方が良いですよ」
赤城・花楓は水龍をすばやくかわす。
「夏羽を拾おう!地上にいるのはまずい!」
「わかった」
夏羽の元へと向かう晶たちに赤城・花楓が迫る。
「あっ…、こっちに来る!」
晶は赤城・花楓に向けて攻撃の構えをとる。しかし晶の眼前で赤城・花楓は大きく跳躍する。赤城・花楓を追っていた太三郎の水龍がそのまま晶に迫った。
晶は水龍を凍らせ動きを止めるが、結莉と紺は落下してしまう。
「あっ!」
「結莉!!」
紺は結莉を掴み、抱え込む。
「結莉さん!紺!」
視線を外した夏羽に容赦なく花楓が拳を振るう。
「うえーい、大成功。夏羽クンの肉せんべいだ!」
潰した夏羽を嬉々として持ち上げる花楓だったが、一瞬の隙に夏羽は何者かによってさらわれてしまう。
夏羽と、結莉を抱える紺の背中に粘着する太い蜘蛛の糸は織の手から伸ばされたものだった。
「シキ!ナイス!」
織と野火丸の乗るボートのそばに落下した三人はボートに引き上げられる。
「いや~大所帯になっちゃいましたね。こんなことならボートじゃなくてクルーズ船にしておくんだったな」
「結莉さん、大丈夫か!?」
「うん。私は大丈夫。ありがとう織くん、紺ちゃん」
「なに今の!?」
「つり目の坊や、やはりいましたね。それに…面白い子がいますよ」
「うわー、視線感じる。こっちの位置バレましたね」
「攻撃しよう。さっきのでかなり身体を散らせたと思う。もう一度十掌を当てればもっと小さくなる」
「当てられればだろ!」
「どうにかして動き止めたいですね。この波もいつまでもつかわかりません。隠神さまも万全ではないですし…太三郎さまの体力も心配です」
「晶もそろそろやばいぜ」
「げー、本当だ。あと2コしかない」
「策はないのか!?野火丸の兄ならいやらしい事を思いつくだろう」
「確かに」
「ちょっとー。それが人にものを頼む態度ですか?まあ…でも、『ちょっとやってみたいこと』ならありますよ」
「避けるの飽きてきたなー。なー、ジィちゃん、もうちょいむずかしくしてもいいよ!」
「ぬぅぅ…おのれ…ちょっと若いからって調子に…のりおって…」
(まずいな…じいさんはそろそろ限界だ。俺が手伝ってるとはいえ波を維持するのにかなり体力を使ってる。波が消えたらこっちの防御策がなくなって詰みだ。時間がない!!)
「残念ながらこれが全力のようですよ」
「そっかー。じゃあもういいな。ジイちゃん。やっぱさー、長生きって肉に悪いからやめたほうがいいと思うよ」
太三郎に迫る赤城の後頭部に衝撃が走り、身体が吹き飛ぶ。倒れ込んだ赤城・花楓に向かってくるのは狐と夏羽が混ざった姿の巨大な怪物だった。
見えてきた光景は屋島の町。その町をぐるりと囲う大波。大波に囲まれた町の中央には双頭の巨大な狐の姿があった。片方の狐はサーフボードで波に乗るタヌキめがけて火球を吐き出している。
「上から何か来ますね」
異変を感じとった赤城が上空に視線を移す。
そして驚き目を丸くした。
「結莉さん……!?なんで……!」
「…っ赤城さん!!」
狐の姿の赤城にためらうことなく結莉は彼の名を叫ぶ。名を呼ばれ赤城の瞳が揺らぐ。
「あーっ!夏羽クンだ!!結莉さんもいる!!」
もう片方の狐-花楓が爛々と目を輝かせた。
「あはっ!すげえ超ラッキー!!やっぱり赤城さんの言うことってマチガイないんだ!こういうのなんていうか知ってるぜ。飛んで火にいる…食べごろの牛だ!」
「だいたい合ってるじゃないですか。…花楓くん、結莉さんには絶対攻撃を当てないように」
「気をつけるけど、巻き込んじまうかもなー!」
あっけらかんと言う花楓を赤城は睨む。
落下していく夏羽たち4人。晶は雪男子の力を使い、皆を自身に捕まらせると体制を整えた。
「あー、びっくりした。もおー、温存しとこうと思ってたのに」
「お友達がたくさんいるんですね。つり目の坊やは?ケンカでもしましたか?」
赤城は話しながらも、どこかに織が紛れていると周囲を警戒する。織の他にも何かいるような感覚を赤城はとらえていた。
花楓は晶たちめがけて容赦なく火球を吐き出す。
「っ!!」
赤城は結莉に視線を送るが、晶の氷の盾により花楓の攻撃は回避されていた。火球から逃れるため、晶はひらりと上空を移動する。
「ぜんぜん攻撃するスキないよ~。せっかくゲンゲンしてるのにー」
「あったとしてもあの大きさじゃ届く前に燃やされそう…」
困り果てた夏羽たちに紺が声をかける。
「あの炎は幻だ!炎狐の持つもともとの力よりずっと大きい…幻のせいだ!」
「えっ、じゃあ見掛け倒しってこと?」
「違う。幻は五感に作用するんだ。頭にそう思い込ませるから火傷もするし焼死もする。紺も使うからわかる。厄介なのは炎狐じゃなくて……幻狐だ!あいつをどうにかすれば…炎はずっと小さくなる!」
「そう、赤城さんをどうにかすればいいのね。晶くん、私を赤城さんの頭部めがけて投げて」
「えっ!?」
「狐の赤城さんの身体は炎で燃え上がっているから近づけないけれど、頭部は違うわ。熱いとは思うけれど耐えられるはずよ。私が赤城さんと話すわ」
「……わかった!いくよ、結莉さん!!」
晶はくるりと旋回すると赤城に向き直り、赤城の頭部めがけて思いきり結莉を投げた。
「ちょっ……!?何するんですか!結莉さんっ!!」
赤城は結莉に向かって首を伸ばし、頭で彼女を受け止めた。転がり落ちそうになる結莉は慌てて赤城の毛並みを両手で掴む。
「いたたたたたた!!!!」
毛を引っ張られ悲鳴をあげる赤城に結莉は「ごめんなさい!」と謝った。なんとか落下を持ちこたえた結莉は這うようにして赤城の眼前に辿り着く。大きな瞳を覗き込む結莉に赤城は「怪我は?」と声をかけた。「大丈夫です。でも、予想通り熱いですね…」熱気に結莉の額が汗ばむ。
「どうしてこんな真似を…!もしかしたら炎に焼かれていたかもしれないんですよ!?そもそもここにいること自体が貴女には危険すぎます!」
咎める赤城を結莉はしっかり見つめて言葉を紡ぐ。
「赤城さんを止めたかったから!赤城さんを助けたいから!どうして赤城さんがこんなことをするのか私はわからないけれど、貴方はとても優しくて賢いヒトです!!こうしなくてはならない理由が何かあるんでしょう!?だったら解決できる方法を考えるから!一緒に考えるから!!だからもう屋島の町を壊すのは止めて!」
結莉の言葉に赤城の表情が曇っていく。
「………結莉さんは勘違いをしていますね。僕は優しくなんてありませんよ。屋島を壊滅させ、飯生妖子に太三郎狸の首を献上する。そのために僕はここにいるんです。それが理由です。他に何の理由があると?」
「嘘!!赤城さん、本当のことを話して!私がなんとかするから!がんばるから…っ、だから、おねがいだから、もうやめて。このままじゃ赤城さん…、いやです。いやです…!赤城さん死なないで…!!」
ぼろぼろと涙をこぼす結莉に赤城は悲痛な眼差しを向ける。
「…泣かないでください。貴女が泣くのは苦しい」
「赤城さん、ひどいです。本当のこと、私に話してくれないのね。止めたいのに、助けたいのに…!」
「結莉さん、貴女はとても優しくて賢い人です。僕がしていることは貴女や夏羽クン達からすれば許されないこと。それなのにどうして貴女はそこまで僕を想ってくれるのですか?」
「そんなの赤城さんが大事だからに決まっているじゃないですかっ!!貴方は私を助けてくれた。支えてくれた。私は赤城さんのことが大好きで、大切だから、だから私は貴方を止めるの。貴方を殺させたりしない。赤城さん…」
結莉は赤城の毛並みを優しく撫でる。赤城は心地良さそうに目を細めた。
ーああ、同じ想いだった。僕は貴女に救われて、支えられて、大切で、大好きで…だから僕は止まるわけにいかないー
赤城は愛おしそうに結莉の姿を目に焼き付けると、思い切り首を振り、彼女を振り落とした。
「あっ!!結莉さんっ!」
上空で様子を見守っていた晶は慌てて加速し結莉を受け止める。
「晶くん!ありがとう。それと…ごめんなさい、赤城さんを止められなかった。絶対に何か理由があるの。それがわかれば止められるかもしれないのだけど…」
「赤城が屋島を襲う理由…か。わからない。でも…」
「あっ、隠神さんたちだ!」
夏羽の言葉を遮り、晶が声をあげる。
眼下を見れば隠神と太三郎がサーフボードに乗っている。二人は『篠突雨龍』の技を使い、現れた巨大な水龍たちは赤城と花楓に猛然と向かっていった。
「おや、風流」
「水キライだよ、おれー。あっち行け!」
花楓の目が輝いたかと思うと、赤城と花楓の纏う炎が一層強いものとなる。花楓の咆哮とともに炎の勢いは更に増し、燃え盛る炎を前に水龍は気化されてしまった。
「うわ~めちゃ熱。これじゃ近づけないよ」
「でも…耐えられるかも。熱風が相手なら俺の炎の再生速度の方が速い。晶、俺を赤城のそばに落として。『あれ』をやってみる」
燃え盛る炎の中、向かってくる一人の少年を赤城は捉えていた。
「ああ…、熱波の中なら耐えられると踏んで来ましたか。さすが…勇敢ですね。夏羽クン、君にはお礼を言いたかった。君のような子供に敗北しなければ僕は他人に歩み寄ろうなんて生涯思わなかったでしょう。一人でよかった。孤高でよかったのに。フフフ。飯生さまの力を借りずとも欲しかったものを手に入れた。安らぎですよ。この世にこんな幸福があるとは…知らなかったな…」
「……赤城の言ってること……俺にもわかる。でも……していることは…全然わからない」
赤城は夏羽に向かって尾を鞭のように振るう。すると夏羽の姿はかき消え、尾が命中することはなかった。
(消えた!狙いは…脚か!!)
赤城の予想通り、夏羽は脚の後ろにいた。
赤城は夏羽を思い切り蹴り上げる。赤城の攻撃によって破壊された半身を夏羽は再生する。
(生えろ…!もっと…もっと強い身体!!)
夏羽の再生の炎が勢いを増していく。再生された半身の手足はヒトではなく鬼のものだった。
「……!?その姿…」
(後方、左にプレッシャー!来る!!)
夏羽は掌撃を赤城の左脚に向けて放つ。
ボンッ!!掌撃をくらった赤城の左脚は勢いよく弾け飛んだ。
「えっ!赤城さん、今のなに!?」
「すみません避けきれず。左の後ろ足がなくなりました。が…心配ご無用です。炎はもとより変幻自在。神の姿もまた然り……!火の迦具土・現人!!」
赤城と花楓は双頭のまま、身体だけが人間のものとなり、巨大な人型となった。
「うっそー、ぴんぴんしてる」
「炎が飛び散った。かなり体積が減ったぞ!」
「じゃが…すばしっこくなったのう…」
走る赤城・花楓に向けて、太三郎が水龍を放つ。
「しつこいなー。あっ、いいこと思いついた」
「そういうの思ってても言わない方が良いですよ」
赤城・花楓は水龍をすばやくかわす。
「夏羽を拾おう!地上にいるのはまずい!」
「わかった」
夏羽の元へと向かう晶たちに赤城・花楓が迫る。
「あっ…、こっちに来る!」
晶は赤城・花楓に向けて攻撃の構えをとる。しかし晶の眼前で赤城・花楓は大きく跳躍する。赤城・花楓を追っていた太三郎の水龍がそのまま晶に迫った。
晶は水龍を凍らせ動きを止めるが、結莉と紺は落下してしまう。
「あっ!」
「結莉!!」
紺は結莉を掴み、抱え込む。
「結莉さん!紺!」
視線を外した夏羽に容赦なく花楓が拳を振るう。
「うえーい、大成功。夏羽クンの肉せんべいだ!」
潰した夏羽を嬉々として持ち上げる花楓だったが、一瞬の隙に夏羽は何者かによってさらわれてしまう。
夏羽と、結莉を抱える紺の背中に粘着する太い蜘蛛の糸は織の手から伸ばされたものだった。
「シキ!ナイス!」
織と野火丸の乗るボートのそばに落下した三人はボートに引き上げられる。
「いや~大所帯になっちゃいましたね。こんなことならボートじゃなくてクルーズ船にしておくんだったな」
「結莉さん、大丈夫か!?」
「うん。私は大丈夫。ありがとう織くん、紺ちゃん」
「なに今の!?」
「つり目の坊や、やはりいましたね。それに…面白い子がいますよ」
「うわー、視線感じる。こっちの位置バレましたね」
「攻撃しよう。さっきのでかなり身体を散らせたと思う。もう一度十掌を当てればもっと小さくなる」
「当てられればだろ!」
「どうにかして動き止めたいですね。この波もいつまでもつかわかりません。隠神さまも万全ではないですし…太三郎さまの体力も心配です」
「晶もそろそろやばいぜ」
「げー、本当だ。あと2コしかない」
「策はないのか!?野火丸の兄ならいやらしい事を思いつくだろう」
「確かに」
「ちょっとー。それが人にものを頼む態度ですか?まあ…でも、『ちょっとやってみたいこと』ならありますよ」
「避けるの飽きてきたなー。なー、ジィちゃん、もうちょいむずかしくしてもいいよ!」
「ぬぅぅ…おのれ…ちょっと若いからって調子に…のりおって…」
(まずいな…じいさんはそろそろ限界だ。俺が手伝ってるとはいえ波を維持するのにかなり体力を使ってる。波が消えたらこっちの防御策がなくなって詰みだ。時間がない!!)
「残念ながらこれが全力のようですよ」
「そっかー。じゃあもういいな。ジイちゃん。やっぱさー、長生きって肉に悪いからやめたほうがいいと思うよ」
太三郎に迫る赤城の後頭部に衝撃が走り、身体が吹き飛ぶ。倒れ込んだ赤城・花楓に向かってくるのは狐と夏羽が混ざった姿の巨大な怪物だった。