人と怪物の辿る道
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眠りにつくといつものように、精神世界に繋がる。
結莉は慌てて織の姿を探した。
ほどなくして織は見つかった。
結莉は織のもとに駆け寄ると、
「ごめんなさい!」
と謝罪し、お辞儀する。
「えっ、な、なんで謝るんだよ!」
織は困ったように結莉を見ていた。
「あの、この前…泣いたりして、どうしようもないことを言ったりして、私、織くんを困らせたわ。だから、ごめんなさい」
「そんなのいいって!気にしてないから!」
織は結莉の様子を見て少し微笑んだ。
「結莉さん、少し元気でたのかな?良かった」
「…ありがとう。 そうだ、織くんに報告を…。あのね、赤城さん無事だったのよ。花楓さんも無事だったみたい。対立するのは…どうしようもないことだけれど、それでもいつか、対立しなくていい時が来るように。そう、願っているから」
そして結莉は優しく微笑んだ。
その願いは、きっといつか叶う気がした。
織は思う。今はただ全力で目の前の敵に挑もう、と。それが今の自分にできることだから。引きずっていた想いが少し和らいだ気がした。彼女の願いは忘れない。もしも、そんな奇跡を起こせるのなら、その奇跡を起こすために全力を尽くそう。今はまだ、どうしていいかわからないけど。
「結莉さんの願いは、きっと叶うよ」
「…うん!」
織と結莉は、お互い見つめ合って笑った。
「あ、そうだ!私ね、考えたことがあるの。それで織くんに、申し訳ないけれどお願いしたいことがあって。きっといつかこの方法で大切なことを伝えられるような気がするから、だから頑張って解いてほしいの!」
「???」
「えっとね…0470415293219332300333」
「は?」
「だから…0470415293219332300333」
「ちょっ、待て待て!全然覚えらんないから!」
「織くん、頑張って!覚えて!」
「マジかよ!?」
「0470415293219332300333」
「047…えっと」
「0470415293219332300333」
「0470415…」
そんな調子でみっちり復唱を繰り返した織。
織は現実世界に戻ると飛び起きて慌てて携帯のメモ機能に控える。
『0470415293219332300333』
書き留めたはいいがこの数字が何を表しているのかはちんぷんかんぷんだった。
頭を抱えた織は、少しして閃いた。
「そうだ!ミハイさんに聞いてみればいいんじゃん!」
さっそくミハイにメールしてみた。すぐに返信が来て、メールを開く。
『くだらん。今、忙しい』
ガックリと織は肩を落とした。
でも、ミハイ以外に暗号を解けそうな人はいない。織は腹をくくり自撮りモードにして、動画を撮った。
「…お願いします。どうか教えて下さい。お願いします!ミハイさんしか頼れる人いないんだ!頼むよ!」
織は土下座する。プライドなんて捨ててしまえばいい。それで、彼女が言おうとしていることがわかるなら、それ以上のものなんてない。
動画をミハイに送る。
すぐに返信が来た。
『これは誰が考えた?』
『結莉さんだけど』
『ほう。くだらんがまぁ、結莉にしては上出来だ。貴様にヒントをやろう。これは十進数を使った暗号だ。以上』
ミハイは答えは教えず、ヒントだけをくれた。
でも、織はそれで良かった。結莉の暗号だ。出来ることなら自分で解きたい。
「よし!やるか!」
織は意気込み、まず十進数についてを携帯で調べることにした。
十を底とする記数法。左は十の位、右は一の位という表記。
そこから織は考え込む。
暗号というからには、数字に言葉の意味が込められているわけで。
語呂?ではないか。そうするとやっぱり『あかさたな』か?試しに紙にあかさたなを書き込んでみる。それぞれ0から10の数字を割り振ってみた。
0から数えれば全部で9行。そうすると縦の『あいうえお』には0から4まで数字がふれる。
あとはこれを二桁数字として見ていけば…
『おやにふ?し?つたえて』
93って何だ?でもこの言葉からすればおそらく、濁点!『゛』だ!
『おやにぶじつたえて』
『親に無事伝えて』
できた!
「できたああああ!!!!」
「もー!シキ、うるさい!今日から千葉のハム工場に行くってのに、早朝から何やってんの?」
「晶!!なっ、なんでもねーよ!あっちいけ、静かにするから!」
晶を追い払い、織は再び紙に目を落とす。
『親に無事伝えて』
暗号は解いた。
あとはどうするか、だ。
結莉の親には会ったことがあるが、家の番号までは聞いていない。
でも、もしかして…。
いつも結莉とはメッセージアプリで電話やメールをやりとりしているのだが、連絡先を交換したときに自宅の番号も入っているかもしれない。
「…あった!!」
アドレス帳を開き、結莉の情報を見ると携帯番号の他に自宅番号も登録されていた。
でも、結莉の親に何て言ったら良いんだろう。『結莉さんは、無事です』なんて言っても怪しいっつーか、説得力ないっつーか。
意を決して織は結莉の自宅に電話をかけた。
すぐに母親が電話に出た。血相を変えた声に、織は心が苦しくなった。
「隠神探偵事務所の織です。早朝にすみません」
「ああ…、探偵事務所の…織くん。結莉が帰ってこないのよ。結莉が、結莉がっ…」
泣き崩れる母親に織はそのまま声をかける。
「…警察に相談は?」
「すぐに警察に行ったわ。でも、有力情報はないって。誘拐されて、もし、もしもあの子に何かあったらっ!」
「警察からは何も情報が得られなかったんですね。わかりました。僕達は探偵です。探偵として、必ず結莉さんを探し出し、助けます。絶対に。今、事務所を閉めているのは大きな事件があったからです。もしかしたら結莉さんはその事件に巻き込まれたかもしれません」
「そんなっ、どうしたらいいの!?」
「落ち着いて下さい。今、事件を調査中です。結莉さんは必ず助けます。だから、どうか家族の皆さんも希望を捨てないで下さい。絶対に助かる。無事に戻ってくる。そう信じて下さい。隠神探偵事務所が絶対に何とかしてみせますから!」
「っ、ありがとう、ありがとうね、織くん。娘のこと、結莉のこと、どうかお願いします。結莉を助けて…」
「勿論です!彼女が見つかったら、すぐに連絡しますから!」
そして織は通話を切る。母の悲痛な想いに胸が張り裂けそうだった。
よし!あとは、今できることをやるだけだ。
乗り込むぞ、桜牙ハム!!
桜牙ハムでは結石捜索と破壊工作の二手に分かれることになった。結石は隠神と夏羽、破壊は織と晶が担当になった。
織は乗り込む前に、重装備の晶を説得し必要最低限の持ち物のみにさせ、晶にオトリ役を頼んだ。ミハイからの荷物を解くと中から大きなぬいぐるみが飛び出してきた。『にいさん』と晶が名付け可愛がっているものだ。壊れたぬいぐるみをミハイが修理して送ってきたらしい。にいさんは建物をスキャンし、その場に立体地図を投影させる。高機能なにいさんを織は気に入り、腕に抱えて上機嫌で潜入する。晶は慌てて織からにいさんを取り上げると、おそるおそる工場の中へ足を踏み入れた。
途中監視カメラを気にする二人に突然にいさんが目から電磁波を浴びせ、監視カメラを破壊した。織と晶は呆気にとられるが、すぐに晶はキラキラと目を輝かせた。
「すごーい、にいさん!これなら警備員さんに見つかっても怖くないよ!」
晶と織がスムーズに進んでいくと『おにハムくん』という桜牙ハムのマスコットキャラクターの巨大ぬいぐるみを晶が発見した。はしゃぐ晶を織はたしなめて先へと進む。
「そっち行かないほうがいいよ。トラウマ作りたくなければね。それとも…スプラッター平気なほう?」
おにハムくんのぬいぐるみから突如声が発せられる。にいさんがおにハムに向かって電磁波を浴びせるが、後ろから颯爽とドローンが現れた。
「残念。こっちだよ!」
ドローンは電気のビームをにいさんに放つ。ビームをまともにくらったにいさんはショートしてしまった。織がドローンの様子を伺っていると、見えないはずの織にドローンが向きを変える。
「また会えたねシキくん。それ、擬態糸でしょ?ナマで見れてうれしいよ!」
ドローンは、『桜牙ハム情報システム部サイバーセキュリティ担当主任、渡辺綱万代』と名乗り二階に行きたいなら自分を倒せと告げた。織は慌てて晶の手を掴み走り出す。綱万代はドローンから容赦なく二人に銃弾を撃ち込んでくる。間一髪攻撃をかわし、織は自分の唾液から網を作り、ドローンに投げつける。網に捕らわれたドローンはあっけなく落下し、織はドローンを捕らえた網を糸で引き寄せた。ドローンは織の手に収まりそうなところで突然放熱し、網を焼き切った。あまりの熱さに織はその場で手を抑えひっくり返る。
「ちょっとちょっと忘れないでよー。オレゲーマーだぜ!いっぺん組んだ仲間の性能覚えてないワケないじゃん!シキくんにできそーなことくらい大体わかっ」
ガンッと思い切りドローンにペットボトルが投げつけられた。投げたのは晶だ。
「それって凍らせたペットボトル?やるじゃんキミ!そんなのいつの間に用意したの?」
晶は織に、自分には雪男子の力があると言い、勢いよくドローンの前に飛び出した。
「来て!『りんりんげんげん』!」
しかし何も起きなかった。
「待ってなんか違う気がする」
「なにがしてえんだよ」
ドローンは銃弾を二人に撃ちながら逃げる二人を追いかける。
逃げながら織は晶に自分の作戦を伝えた。
「はあ!?何言ってんの!?絶対ダメ!!」
「うるせぇな…これしかねーんだ!やるぞ!」
「ヤダ!!!やだやだ絶対やだ絶対ダメそんなのぜったい…」
晶は足元の何かに躓き転倒する。
「何してんだマヌケ!」
「いた~、なんかやわらかいの踏んだ…ぎゃあああああ~っ!!!」
足元には切断された頭や手などを無造作にくっつけられた得体の知れないモノが落ちていた。あまりのおぞましさに晶と織が腰を抜かしているとドローンが二人に追いついた。
「あーもー、だから言ったのに。奥行かないほうがいいよ。短い間だったけど、同僚だったんだ。みんないい人たちでさー。ちょっと意外だったな…。もっと人間のこと雑に扱ってると思ってたよ」
「マヨ…オマエ…一体…」
「オレのこと知りたい?推しに興味持ってもらえんの気分いいなー。じゃ、いっこだけ教えてあげるね。オレ好きなコにはめちゃめちゃ迷惑かけたいタイプなんだよね。
シキくんの推しカバネくんって言うんでしょ?これ終わったら会いに行っちゃおうかなあ。
それと、シキくんが耳につけてるピアスも気になるから調べさせてもらうね!それ、透明になってるんだね。もしかしてミハイ製?」
「晶…やるぞ」
「だめ!!」
織はドローンに糸を投げつけ目潰しする。その間に一気に距離を詰め、上着でドローンを包み込んだ。
「ぐっ…!」
「えっ…何してんの!?オレ今300度くらいあるよ!?」
「はっ、だからだよ!熱に弱いのは俺じゃなくて、機械のオマエだろ!!喜べよ…お気に入りの服だぜ。このままじっくり包み焼きにしてやる」
晶はUSBを持ち、泣きながら織を置いて先へと駆け出した。覚悟を決めた晶の前には無情にももう一体のドローンが飛んでくる。
「ごめんごめん!でもオレ、ドローンが一体しかいないなんて言ってないよね?」
「デンリュウハ50Aマデナガセマス」
立ちふさがるドローンに、にいさんが捨て身で電流をくらわせる。にいさんとドローンは黒こげになり、その場に落下した。
「にいさん!!!」
「晶!!!行け!!!」
「イヤだ…行かない…アヤちゃんは今、屋島にいるんだ。遠いよ。火傷、ボクなら治せる…。今なら重傷にならない」
「ざけんな!!せっかく作った隙ムダにしてんじゃねえぞ!!」
「ふざけてんのはどっちだよ!!作戦がそんなに大事!?ちがうよ…大事なのは夏羽くんと結莉さんだ…!作戦がうまくいってもシキが無事じゃなかったら…夏羽クンと結莉さんがうれしいわけない!!」
そして六花権現の名を思い出した晶は雪男子の力を宿す。
晶は織を軽々とお姫様抱っこした。
織はそんな晶の様子を冷静に観察していた。
「2階へはみんなで行くから」
「ざけんな下ろせ!お荷物になるくれーなら火傷で死んだほうがマシだ!」
「ああそうだ、火傷…おんぶにしよ。これなら治るよ」
「そっ、そーいうことを言ってんじゃ…」
「夏羽クンはボクがどんなにお荷物でも絶対見捨てたりしないんだ。シキもだよ。口はイジワルだけど。だからボクもみんなと同じことする。ていうかケンカしてるヒマないよ」
織と晶の前に三体目のドローンが現れる。ドローンの銃弾を晶は氷の盾ですべて防いだ。晶は急速に冷気を込め、ドローンを氷づけにしてしまう。
「ね、見た?お水なくてもいけるの」
「お、オマエ…こんな隠し玉あんなら早く言…ん?」
晶の胸の模様が変化したような気がして織はじっと晶の胸元に視線を落とした。
「シキ、階段どっちだっけ?」
「ちっ、しょうがねーな…!みんなで行くぞ!」
「うん!」
今度は二人の前に三機ものドローンが一気に現れた。
「めっちゃ来た」
「晶!気をつけろ!マヨは合理的なヤツだ。攻略法もないのに突っ込んでくるタイプじゃねぇ…ヤツには勝算がある!!」
ドローンは三機のビームを合体させ巨大なビームを放つ。
晶は氷の盾でビームを防いだ。ふと織が晶の胸元を見ると模様が明らかに変わっていた。段々と角が減っている。もしもこれが残量だとしたら…
「晶!節約しろ!」
「えっ、何、急に。お給料の話?」
「氷だアホ!」
ガシャンと二体のドローンが地に落ちる。どうやら電流切れのようだ。
勝利を確信した晶が前へと進もうとするのを織が止める。床には大きな水たまりができており、電気の熱で溶けた水は帯電していた。触れると感電することを織は伝える。
「やるなあ…正解!オレ的には二階にキミ達を行かせなければ勝ちだからね。クールなキミ…さっきと見た目違うよね。ずいぶん弱々しくなったみたいだけど…勝負とはいえ殺しちゃうのはマジでイヤだからさ。今降参すれば助けてあげるよ」
織と晶はキッとドローンを見据える。
「マジ?やる気なの?」
「この程度で…勝った気になってんじゃねーぞ!!」
織は糸をドローンに向けて伸ばす。
ドローンはビームを放つため電流をパチパチと生み出していた。
「糸から手、離しなよ。氷は電気を通すんだから」
糸は網になり、網を冷気で凍らせ、氷の器ができる。
電流の熱で溶けた水がドローンにかかった。ドローンは感電し、氷の器の中でショートしてしまった。
勝負がついた瞬間、晶は倒れ込み、元の姿になった。
「晶!起きろ!!おい…おい!なあ…!俺が悪かったよ…。オマエがいて…マジでよかった…晶ってば!」
急激な頭痛に織も顔をしかめる。脱水症状で意識が遠のくなか、床に落としたUSBを握りしめた。
そこで織も意識を手放してしまった。
結莉は慌てて織の姿を探した。
ほどなくして織は見つかった。
結莉は織のもとに駆け寄ると、
「ごめんなさい!」
と謝罪し、お辞儀する。
「えっ、な、なんで謝るんだよ!」
織は困ったように結莉を見ていた。
「あの、この前…泣いたりして、どうしようもないことを言ったりして、私、織くんを困らせたわ。だから、ごめんなさい」
「そんなのいいって!気にしてないから!」
織は結莉の様子を見て少し微笑んだ。
「結莉さん、少し元気でたのかな?良かった」
「…ありがとう。 そうだ、織くんに報告を…。あのね、赤城さん無事だったのよ。花楓さんも無事だったみたい。対立するのは…どうしようもないことだけれど、それでもいつか、対立しなくていい時が来るように。そう、願っているから」
そして結莉は優しく微笑んだ。
その願いは、きっといつか叶う気がした。
織は思う。今はただ全力で目の前の敵に挑もう、と。それが今の自分にできることだから。引きずっていた想いが少し和らいだ気がした。彼女の願いは忘れない。もしも、そんな奇跡を起こせるのなら、その奇跡を起こすために全力を尽くそう。今はまだ、どうしていいかわからないけど。
「結莉さんの願いは、きっと叶うよ」
「…うん!」
織と結莉は、お互い見つめ合って笑った。
「あ、そうだ!私ね、考えたことがあるの。それで織くんに、申し訳ないけれどお願いしたいことがあって。きっといつかこの方法で大切なことを伝えられるような気がするから、だから頑張って解いてほしいの!」
「???」
「えっとね…0470415293219332300333」
「は?」
「だから…0470415293219332300333」
「ちょっ、待て待て!全然覚えらんないから!」
「織くん、頑張って!覚えて!」
「マジかよ!?」
「0470415293219332300333」
「047…えっと」
「0470415293219332300333」
「0470415…」
そんな調子でみっちり復唱を繰り返した織。
織は現実世界に戻ると飛び起きて慌てて携帯のメモ機能に控える。
『0470415293219332300333』
書き留めたはいいがこの数字が何を表しているのかはちんぷんかんぷんだった。
頭を抱えた織は、少しして閃いた。
「そうだ!ミハイさんに聞いてみればいいんじゃん!」
さっそくミハイにメールしてみた。すぐに返信が来て、メールを開く。
『くだらん。今、忙しい』
ガックリと織は肩を落とした。
でも、ミハイ以外に暗号を解けそうな人はいない。織は腹をくくり自撮りモードにして、動画を撮った。
「…お願いします。どうか教えて下さい。お願いします!ミハイさんしか頼れる人いないんだ!頼むよ!」
織は土下座する。プライドなんて捨ててしまえばいい。それで、彼女が言おうとしていることがわかるなら、それ以上のものなんてない。
動画をミハイに送る。
すぐに返信が来た。
『これは誰が考えた?』
『結莉さんだけど』
『ほう。くだらんがまぁ、結莉にしては上出来だ。貴様にヒントをやろう。これは十進数を使った暗号だ。以上』
ミハイは答えは教えず、ヒントだけをくれた。
でも、織はそれで良かった。結莉の暗号だ。出来ることなら自分で解きたい。
「よし!やるか!」
織は意気込み、まず十進数についてを携帯で調べることにした。
十を底とする記数法。左は十の位、右は一の位という表記。
そこから織は考え込む。
暗号というからには、数字に言葉の意味が込められているわけで。
語呂?ではないか。そうするとやっぱり『あかさたな』か?試しに紙にあかさたなを書き込んでみる。それぞれ0から10の数字を割り振ってみた。
0から数えれば全部で9行。そうすると縦の『あいうえお』には0から4まで数字がふれる。
あとはこれを二桁数字として見ていけば…
『おやにふ?し?つたえて』
93って何だ?でもこの言葉からすればおそらく、濁点!『゛』だ!
『おやにぶじつたえて』
『親に無事伝えて』
できた!
「できたああああ!!!!」
「もー!シキ、うるさい!今日から千葉のハム工場に行くってのに、早朝から何やってんの?」
「晶!!なっ、なんでもねーよ!あっちいけ、静かにするから!」
晶を追い払い、織は再び紙に目を落とす。
『親に無事伝えて』
暗号は解いた。
あとはどうするか、だ。
結莉の親には会ったことがあるが、家の番号までは聞いていない。
でも、もしかして…。
いつも結莉とはメッセージアプリで電話やメールをやりとりしているのだが、連絡先を交換したときに自宅の番号も入っているかもしれない。
「…あった!!」
アドレス帳を開き、結莉の情報を見ると携帯番号の他に自宅番号も登録されていた。
でも、結莉の親に何て言ったら良いんだろう。『結莉さんは、無事です』なんて言っても怪しいっつーか、説得力ないっつーか。
意を決して織は結莉の自宅に電話をかけた。
すぐに母親が電話に出た。血相を変えた声に、織は心が苦しくなった。
「隠神探偵事務所の織です。早朝にすみません」
「ああ…、探偵事務所の…織くん。結莉が帰ってこないのよ。結莉が、結莉がっ…」
泣き崩れる母親に織はそのまま声をかける。
「…警察に相談は?」
「すぐに警察に行ったわ。でも、有力情報はないって。誘拐されて、もし、もしもあの子に何かあったらっ!」
「警察からは何も情報が得られなかったんですね。わかりました。僕達は探偵です。探偵として、必ず結莉さんを探し出し、助けます。絶対に。今、事務所を閉めているのは大きな事件があったからです。もしかしたら結莉さんはその事件に巻き込まれたかもしれません」
「そんなっ、どうしたらいいの!?」
「落ち着いて下さい。今、事件を調査中です。結莉さんは必ず助けます。だから、どうか家族の皆さんも希望を捨てないで下さい。絶対に助かる。無事に戻ってくる。そう信じて下さい。隠神探偵事務所が絶対に何とかしてみせますから!」
「っ、ありがとう、ありがとうね、織くん。娘のこと、結莉のこと、どうかお願いします。結莉を助けて…」
「勿論です!彼女が見つかったら、すぐに連絡しますから!」
そして織は通話を切る。母の悲痛な想いに胸が張り裂けそうだった。
よし!あとは、今できることをやるだけだ。
乗り込むぞ、桜牙ハム!!
桜牙ハムでは結石捜索と破壊工作の二手に分かれることになった。結石は隠神と夏羽、破壊は織と晶が担当になった。
織は乗り込む前に、重装備の晶を説得し必要最低限の持ち物のみにさせ、晶にオトリ役を頼んだ。ミハイからの荷物を解くと中から大きなぬいぐるみが飛び出してきた。『にいさん』と晶が名付け可愛がっているものだ。壊れたぬいぐるみをミハイが修理して送ってきたらしい。にいさんは建物をスキャンし、その場に立体地図を投影させる。高機能なにいさんを織は気に入り、腕に抱えて上機嫌で潜入する。晶は慌てて織からにいさんを取り上げると、おそるおそる工場の中へ足を踏み入れた。
途中監視カメラを気にする二人に突然にいさんが目から電磁波を浴びせ、監視カメラを破壊した。織と晶は呆気にとられるが、すぐに晶はキラキラと目を輝かせた。
「すごーい、にいさん!これなら警備員さんに見つかっても怖くないよ!」
晶と織がスムーズに進んでいくと『おにハムくん』という桜牙ハムのマスコットキャラクターの巨大ぬいぐるみを晶が発見した。はしゃぐ晶を織はたしなめて先へと進む。
「そっち行かないほうがいいよ。トラウマ作りたくなければね。それとも…スプラッター平気なほう?」
おにハムくんのぬいぐるみから突如声が発せられる。にいさんがおにハムに向かって電磁波を浴びせるが、後ろから颯爽とドローンが現れた。
「残念。こっちだよ!」
ドローンは電気のビームをにいさんに放つ。ビームをまともにくらったにいさんはショートしてしまった。織がドローンの様子を伺っていると、見えないはずの織にドローンが向きを変える。
「また会えたねシキくん。それ、擬態糸でしょ?ナマで見れてうれしいよ!」
ドローンは、『桜牙ハム情報システム部サイバーセキュリティ担当主任、渡辺綱万代』と名乗り二階に行きたいなら自分を倒せと告げた。織は慌てて晶の手を掴み走り出す。綱万代はドローンから容赦なく二人に銃弾を撃ち込んでくる。間一髪攻撃をかわし、織は自分の唾液から網を作り、ドローンに投げつける。網に捕らわれたドローンはあっけなく落下し、織はドローンを捕らえた網を糸で引き寄せた。ドローンは織の手に収まりそうなところで突然放熱し、網を焼き切った。あまりの熱さに織はその場で手を抑えひっくり返る。
「ちょっとちょっと忘れないでよー。オレゲーマーだぜ!いっぺん組んだ仲間の性能覚えてないワケないじゃん!シキくんにできそーなことくらい大体わかっ」
ガンッと思い切りドローンにペットボトルが投げつけられた。投げたのは晶だ。
「それって凍らせたペットボトル?やるじゃんキミ!そんなのいつの間に用意したの?」
晶は織に、自分には雪男子の力があると言い、勢いよくドローンの前に飛び出した。
「来て!『りんりんげんげん』!」
しかし何も起きなかった。
「待ってなんか違う気がする」
「なにがしてえんだよ」
ドローンは銃弾を二人に撃ちながら逃げる二人を追いかける。
逃げながら織は晶に自分の作戦を伝えた。
「はあ!?何言ってんの!?絶対ダメ!!」
「うるせぇな…これしかねーんだ!やるぞ!」
「ヤダ!!!やだやだ絶対やだ絶対ダメそんなのぜったい…」
晶は足元の何かに躓き転倒する。
「何してんだマヌケ!」
「いた~、なんかやわらかいの踏んだ…ぎゃあああああ~っ!!!」
足元には切断された頭や手などを無造作にくっつけられた得体の知れないモノが落ちていた。あまりのおぞましさに晶と織が腰を抜かしているとドローンが二人に追いついた。
「あーもー、だから言ったのに。奥行かないほうがいいよ。短い間だったけど、同僚だったんだ。みんないい人たちでさー。ちょっと意外だったな…。もっと人間のこと雑に扱ってると思ってたよ」
「マヨ…オマエ…一体…」
「オレのこと知りたい?推しに興味持ってもらえんの気分いいなー。じゃ、いっこだけ教えてあげるね。オレ好きなコにはめちゃめちゃ迷惑かけたいタイプなんだよね。
シキくんの推しカバネくんって言うんでしょ?これ終わったら会いに行っちゃおうかなあ。
それと、シキくんが耳につけてるピアスも気になるから調べさせてもらうね!それ、透明になってるんだね。もしかしてミハイ製?」
「晶…やるぞ」
「だめ!!」
織はドローンに糸を投げつけ目潰しする。その間に一気に距離を詰め、上着でドローンを包み込んだ。
「ぐっ…!」
「えっ…何してんの!?オレ今300度くらいあるよ!?」
「はっ、だからだよ!熱に弱いのは俺じゃなくて、機械のオマエだろ!!喜べよ…お気に入りの服だぜ。このままじっくり包み焼きにしてやる」
晶はUSBを持ち、泣きながら織を置いて先へと駆け出した。覚悟を決めた晶の前には無情にももう一体のドローンが飛んでくる。
「ごめんごめん!でもオレ、ドローンが一体しかいないなんて言ってないよね?」
「デンリュウハ50Aマデナガセマス」
立ちふさがるドローンに、にいさんが捨て身で電流をくらわせる。にいさんとドローンは黒こげになり、その場に落下した。
「にいさん!!!」
「晶!!!行け!!!」
「イヤだ…行かない…アヤちゃんは今、屋島にいるんだ。遠いよ。火傷、ボクなら治せる…。今なら重傷にならない」
「ざけんな!!せっかく作った隙ムダにしてんじゃねえぞ!!」
「ふざけてんのはどっちだよ!!作戦がそんなに大事!?ちがうよ…大事なのは夏羽くんと結莉さんだ…!作戦がうまくいってもシキが無事じゃなかったら…夏羽クンと結莉さんがうれしいわけない!!」
そして六花権現の名を思い出した晶は雪男子の力を宿す。
晶は織を軽々とお姫様抱っこした。
織はそんな晶の様子を冷静に観察していた。
「2階へはみんなで行くから」
「ざけんな下ろせ!お荷物になるくれーなら火傷で死んだほうがマシだ!」
「ああそうだ、火傷…おんぶにしよ。これなら治るよ」
「そっ、そーいうことを言ってんじゃ…」
「夏羽クンはボクがどんなにお荷物でも絶対見捨てたりしないんだ。シキもだよ。口はイジワルだけど。だからボクもみんなと同じことする。ていうかケンカしてるヒマないよ」
織と晶の前に三体目のドローンが現れる。ドローンの銃弾を晶は氷の盾ですべて防いだ。晶は急速に冷気を込め、ドローンを氷づけにしてしまう。
「ね、見た?お水なくてもいけるの」
「お、オマエ…こんな隠し玉あんなら早く言…ん?」
晶の胸の模様が変化したような気がして織はじっと晶の胸元に視線を落とした。
「シキ、階段どっちだっけ?」
「ちっ、しょうがねーな…!みんなで行くぞ!」
「うん!」
今度は二人の前に三機ものドローンが一気に現れた。
「めっちゃ来た」
「晶!気をつけろ!マヨは合理的なヤツだ。攻略法もないのに突っ込んでくるタイプじゃねぇ…ヤツには勝算がある!!」
ドローンは三機のビームを合体させ巨大なビームを放つ。
晶は氷の盾でビームを防いだ。ふと織が晶の胸元を見ると模様が明らかに変わっていた。段々と角が減っている。もしもこれが残量だとしたら…
「晶!節約しろ!」
「えっ、何、急に。お給料の話?」
「氷だアホ!」
ガシャンと二体のドローンが地に落ちる。どうやら電流切れのようだ。
勝利を確信した晶が前へと進もうとするのを織が止める。床には大きな水たまりができており、電気の熱で溶けた水は帯電していた。触れると感電することを織は伝える。
「やるなあ…正解!オレ的には二階にキミ達を行かせなければ勝ちだからね。クールなキミ…さっきと見た目違うよね。ずいぶん弱々しくなったみたいだけど…勝負とはいえ殺しちゃうのはマジでイヤだからさ。今降参すれば助けてあげるよ」
織と晶はキッとドローンを見据える。
「マジ?やる気なの?」
「この程度で…勝った気になってんじゃねーぞ!!」
織は糸をドローンに向けて伸ばす。
ドローンはビームを放つため電流をパチパチと生み出していた。
「糸から手、離しなよ。氷は電気を通すんだから」
糸は網になり、網を冷気で凍らせ、氷の器ができる。
電流の熱で溶けた水がドローンにかかった。ドローンは感電し、氷の器の中でショートしてしまった。
勝負がついた瞬間、晶は倒れ込み、元の姿になった。
「晶!起きろ!!おい…おい!なあ…!俺が悪かったよ…。オマエがいて…マジでよかった…晶ってば!」
急激な頭痛に織も顔をしかめる。脱水症状で意識が遠のくなか、床に落としたUSBを握りしめた。
そこで織も意識を手放してしまった。