人と怪物の辿る道
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赤城は大井コンテナ埠頭へ辿り着いたが、花楓の姿はまだなかった。夕暮れで空が朱に染まる頃、ようやく花楓が待ち合わせ場所に現れる。
「…なんだよ、わざわざこんなとこで」
「ここなら民間人への被害も少ないでしょう。女王の膝元で好き放題やるわけにもいきません。幻の陣も敷いておきましたから…今度は出ないで下さいね」
花楓はムッとして、赤城を挑発する。
「俺に勝てるワケないじゃん。赤城さんてけっこーバカだよね」
「そうですね。ですから…『鬼ごっこ』で勝負してもらえますか?もうあと30分もすればレインボーブリッジがライトアップします。それまでに僕を捕まえられたら君の勝ちです。ついでに何かひとつ言うことを聞いてあげますよ」
赤城の言葉に花楓はニヤリと笑う。
「喰ってもいいの?」
「よく焼いてくれるなら」
そして赤城は10数えてからスタートして下さいと花楓に伝えて姿を隠す。
花楓は指で10数えると、狐に変化し、赤城の匂いを頼りに飛び出した。
花楓が鼻をひくつかせると、そこら中から赤城の匂いがすることに疑問を抱いたが、炎で炙り出せば良いと火球を生み出す。
思い切り炎を投げつけると、コンテナが勢いよく燃え上がり、炎と煙で余計に赤城の匂いはわからなくなってしまった。
「あれ?なんか前にもこんなことあったな。まあ…「『まあいいや。火の海にしてしまえば逃げ場をなくして出てくるだろう』ですか?君の攻撃パターンは単純すぎますね。だからちょっと頭のいいだけの子供にしてやられるんです」
コンテナの狐柄から赤城の言葉が吐き出される。花楓は怒りに顔を歪ませ、声のするコンテナに近づき破壊する。赤城は花楓の行動をすべて声に出して読み、余計に花楓を苛つかせた。
「まったく…鬼ごっこだと言ってるのに、すぐ、目的を見失う。ほらもう10分ほど経ちましたよ」
花楓はひたすらに破壊し、コンテナをすべて炎で燃やし尽くす。しかし、赤城はどこにもいなかった。頭を抱えて考え込むと名案を思いつく。
「そーだ!赤城さんに俺のやること読まれてるなら、俺も赤城さんのやりそーなこと当てればいいんじゃん。天才!」
しかし、思いついたはいいが、赤城のやりそうなことが全く思い浮かばない。花楓は苛々して、咆哮し、破壊する。
夏羽に負けた記憶が重なる。
悔しさに涙を流し、咆哮するとレインボーブリッジに灯りがともった。
「の…くせに…!あんにんどうふのくせに~」
「満身創痍」
赤城は、花楓の背後に姿を表す。花楓は悔しそうに振り向いた。
「僕の勝ちですね。まあ…始めから勝敗なんてどうでもいいのですけど」
赤城は花楓の前に腰を下ろすと、花楓の燃やした炎を見つめながら、その炎の美しさを讃えた。
「今なぜ勝てなかったのかわかりますか?」
「…おれが…バカだから…」
「そうですね。それと、もうひとつは、君が僕に興味がないからです。君は明るく人懐こい性格で、誰に対しても友好的ですが、その実他人に興味がない。だから僕のやりそうなこともわからないんです。はじめに「陣から出るな」と言ったの聞いてましたか?戦いで僕が陣から出ることはまずありません。そのほうが圧倒的に強いからです。そして石兵稲荷の幻の射程範囲は20メートル。君には教えておいたはずですが、覚えていれば僕のいる場所をある程度絞れたでしょう。君は僕の能力を何も知らない。夏羽クンたちは子供でしたが強い絆で繋がっていた。僕たちは彼らの連携に負けたんです」
呆気にとられた花楓は赤城に、じゃあさっきはどこにいたのかと問う。赤城は、鳥に変化して匂いを分散させるためにウエットティッシュを蒔きながらずっと上空を旋回していたのだと答えた。
「すげ~!全然わかんなかった!やっぱ赤城さんってアタマいいな~。次、俺勝つからもっかいやってよ!」
赤城は沈黙すると低い声色で
「…で?次の任務は誰と組むって?」
と花楓に問いかける。
「えっ、俺?赤城さんとじゃないの?なんで?えー、梅ちゃんととかになったらヤダなー」
「…まあ、いいでしょう。ところで花楓くん、一応僕が勝ったのですからひとつお願いを聞いてもらえますか?」
「で、なんで花楓くんまでついてくるんです?」
「えー、いいじゃんべつに。梅ちゃんとの待ち合わせまで暇だしさー」
赤城は新宿の駅ビルにやってきていた。
結莉に頼まれたモノを買うためだ。
女性ファッションフロアに進んでいくと花楓がぶはっ!と吹き出した。
「なになに、赤城さんって女装趣味あんの~?」
「違います。結莉さんの頼まれごとです」
からかう花楓をピシャリとたしなめる。
花楓は、ああと納得したようにポンと手を叩いた。
「結莉ちゃんって、あの人質の子か~。そういえば、赤城さんを助けるために陽に頼んだの結莉ちゃんだって言ってたなー。やべ、お礼まだ言ってねーや」
「は?」
赤城は立ち止まり花楓を見る。
「いま何て言いました?」
「ん?結莉ちゃんにお礼言ってねーなって」
「その前!」
「赤城さん助けるために陽に頼んだの結莉ちゃん」
花楓の言葉に赤城の目が丸くなる。そして、赤城は花楓から目を逸らすとズンズンとフロアを突き進んだ。
そして下着ショップにたどり着くと迷わず赤城は入っていく。
「えっ!?赤城さん、ここに入るの?マジ!?」
花楓は店内に並べられた下着を見て、ニヤニヤしているが、赤城はそんな花楓を完全無視して店員に声をかける。
男性客に驚く店員に、ずいっと結莉が書いたメモを見せた。
「すみませんが、こちらのサイズを下さい。…頼まれたもので」
「あ、はい。上下セットでよろしいですか?」
「はい、それで」
「お色はどうなさいますか?」
「色!?えっと、…では色違いで二つ下さい。お任せします。その…、清楚な方に似合う色で」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
店員が店内の商品を品定めしている間、花楓が声をかけてくる。
「えー、黒とかどう?小悪魔的な派手なやつとかセクシーでいいじゃん」
「花楓くん、少し黙っていて頂けますか?」
赤城は花楓を睨みつけて黙らせる。
少しして、店員が二つ商品を持ってやってきた。淡いピンク色と、淡い水色の下着だった。
「こちらなんて、いかがですか?」
「…それで、お願いします」
思わず結莉が身にまとっている姿を想像してしまい、赤城は赤面しながら会計を済ませた。
ショップを出ると、花楓がニヤニヤしながら赤城を見ていた。
「そーいえば赤城さん、結莉ちゃんと生活してるんだよな~。やったりすんの?」
「するわけないでしょう。結莉さんは人質です。僕の恋人でも何でもありませんから」
「え~」
なんだ、つまらないと花楓が頬を膨らませる。
無視して歩くと、ふとショップのディスプレイに足が止まった。
「これは…」
赤城がショップに入っていくと花楓も慌ててついてきた。赤城は店員に声をかけ、ディスプレイされていた白のシャツワンピースを購入する。清潔感があり、彼女によく似合いそうだと思ったからだ。
買い物を済ませ、赤城達は歌舞伎町へ向かった。
「えっ、なんで赤城いんの!?」
梅太郎は赤城に驚いて、思わず指を指す。
「梅ちゃんと飲みに行くって言ったらさー、一緒にいくってー」
赤城はすでに吐き気を催しているようだった。
「俺はいいけどさあ…今から行くとこはちょっと…」
「赤城さん、けっぺき症治したいんだって」
「へぇ~、マジメだねえ…。でも、なるほどな!だったら今から行くとこは丁度いいかもしんねえぞ!」
「? 食事に行くんじゃないんですか?」
花楓と梅太郎は『熟キャバ生』というキャバクラ店に入っていった。顔面魚の怪物女に挟まれ、赤城はウエットティッシュに顔を突っ込んだ。あまりの吐き気に耐えきれず、トイレへ駆け込む。花楓と梅太郎がそんな赤城の様子を見て爆笑していた。
しばらくトイレにこもって吐き気が収まると赤城はふらふらと花楓達のもとに戻った。
「おっ、やっと帰ってきたな」
「赤城さん、おかえりー」
ガシッと今度は梅太郎と花楓に挟まれる。
「赤城さん、結莉ちゃんと何にもないって言うけど、本当のところどうなんだよー?」
「そうそう、可愛い子と一緒に生活してるんだよな~。羨ましいぜ」
酔っ払い二人に囲まれ、からまれた赤城は苛々していた。
「結莉ちゃん、いくつだっけ?高校生?」
「二人で部屋いて、なにしてんのー?ちゅーはもうした?」
バン!と赤城は机を松葉杖で叩く。
「いい加減にして下さいね、二人とも」
ギロリと二人を睨みつけると、赤城は五千円札を机に置いて店を出て行った。
イライラしながら、自室に帰る。すっかり遅くなってしまっていたため、結莉は床で毛布にくるまり、スヤスヤと眠っていた。
買ってきた荷物を置き、赤城もベッドに入る。疲れたからか、すぐに眠ってしまった。
目が覚めると、机の上には美味しそうな和食が並んでいた。
「おはようございます、赤城さん」
にこりと結莉が微笑んでくる。
「おはようございます、結莉さん」
身を起こし、赤城は結莉と朝食をとる。美味しく、幸せな気持ちに顔が綻んだ。
結莉が後片付けをすませてから、赤城は昨日買ってきた袋を彼女に渡した。
「頼まれていたものです。あと、貴女に似合いそうな服があったので買ってきました。嫌でなければ、着てください」
結莉は袋から赤城が買ってくれたシャツワンピースを取り出す。
「わあ…!とっても可愛い…!こんな素敵なもの、良いのですか?」
「もしよかったら、今着てみてもらえませんか?」
赤城の頼みに勿論と結莉は頷き、脱衣場で着替えてくる。服は彼女にとても似合っていた。
「…よくお似合いです」
「ありがとうございます!私、大事に着ます!」
満面の笑顔で喜ぶ結莉。
「結莉さん、そういえば陽に僕のことを助けるようお願いしてくれたそうですね」
赤城の言葉にピタリと結莉の動きが止まる。彼女は気まずそうに俯いた。
「ごめんなさい、部屋から出てはいけないと言われたのに。でも、心配だったんです」
「ありがとうございます。おかげで僕は助かりました。僕だけではありません、花楓くんも」
赤城の言葉にパッと結莉は顔を上げた。
赤城は彼女に近づくと頬に手を添える。
「…貴女が、狐だったら良かったのに」
赤城と結莉の目が合う。まっすぐ見つめる赤城の瞳がどこか悲しみを帯びていた。
「…いいえ、何でもありません。もう、部屋から出ないでくださいね。貴女は大事な…人質なんですから」
赤城はそう言って身支度を整えると部屋から出て行った。
「…なんだよ、わざわざこんなとこで」
「ここなら民間人への被害も少ないでしょう。女王の膝元で好き放題やるわけにもいきません。幻の陣も敷いておきましたから…今度は出ないで下さいね」
花楓はムッとして、赤城を挑発する。
「俺に勝てるワケないじゃん。赤城さんてけっこーバカだよね」
「そうですね。ですから…『鬼ごっこ』で勝負してもらえますか?もうあと30分もすればレインボーブリッジがライトアップします。それまでに僕を捕まえられたら君の勝ちです。ついでに何かひとつ言うことを聞いてあげますよ」
赤城の言葉に花楓はニヤリと笑う。
「喰ってもいいの?」
「よく焼いてくれるなら」
そして赤城は10数えてからスタートして下さいと花楓に伝えて姿を隠す。
花楓は指で10数えると、狐に変化し、赤城の匂いを頼りに飛び出した。
花楓が鼻をひくつかせると、そこら中から赤城の匂いがすることに疑問を抱いたが、炎で炙り出せば良いと火球を生み出す。
思い切り炎を投げつけると、コンテナが勢いよく燃え上がり、炎と煙で余計に赤城の匂いはわからなくなってしまった。
「あれ?なんか前にもこんなことあったな。まあ…「『まあいいや。火の海にしてしまえば逃げ場をなくして出てくるだろう』ですか?君の攻撃パターンは単純すぎますね。だからちょっと頭のいいだけの子供にしてやられるんです」
コンテナの狐柄から赤城の言葉が吐き出される。花楓は怒りに顔を歪ませ、声のするコンテナに近づき破壊する。赤城は花楓の行動をすべて声に出して読み、余計に花楓を苛つかせた。
「まったく…鬼ごっこだと言ってるのに、すぐ、目的を見失う。ほらもう10分ほど経ちましたよ」
花楓はひたすらに破壊し、コンテナをすべて炎で燃やし尽くす。しかし、赤城はどこにもいなかった。頭を抱えて考え込むと名案を思いつく。
「そーだ!赤城さんに俺のやること読まれてるなら、俺も赤城さんのやりそーなこと当てればいいんじゃん。天才!」
しかし、思いついたはいいが、赤城のやりそうなことが全く思い浮かばない。花楓は苛々して、咆哮し、破壊する。
夏羽に負けた記憶が重なる。
悔しさに涙を流し、咆哮するとレインボーブリッジに灯りがともった。
「の…くせに…!あんにんどうふのくせに~」
「満身創痍」
赤城は、花楓の背後に姿を表す。花楓は悔しそうに振り向いた。
「僕の勝ちですね。まあ…始めから勝敗なんてどうでもいいのですけど」
赤城は花楓の前に腰を下ろすと、花楓の燃やした炎を見つめながら、その炎の美しさを讃えた。
「今なぜ勝てなかったのかわかりますか?」
「…おれが…バカだから…」
「そうですね。それと、もうひとつは、君が僕に興味がないからです。君は明るく人懐こい性格で、誰に対しても友好的ですが、その実他人に興味がない。だから僕のやりそうなこともわからないんです。はじめに「陣から出るな」と言ったの聞いてましたか?戦いで僕が陣から出ることはまずありません。そのほうが圧倒的に強いからです。そして石兵稲荷の幻の射程範囲は20メートル。君には教えておいたはずですが、覚えていれば僕のいる場所をある程度絞れたでしょう。君は僕の能力を何も知らない。夏羽クンたちは子供でしたが強い絆で繋がっていた。僕たちは彼らの連携に負けたんです」
呆気にとられた花楓は赤城に、じゃあさっきはどこにいたのかと問う。赤城は、鳥に変化して匂いを分散させるためにウエットティッシュを蒔きながらずっと上空を旋回していたのだと答えた。
「すげ~!全然わかんなかった!やっぱ赤城さんってアタマいいな~。次、俺勝つからもっかいやってよ!」
赤城は沈黙すると低い声色で
「…で?次の任務は誰と組むって?」
と花楓に問いかける。
「えっ、俺?赤城さんとじゃないの?なんで?えー、梅ちゃんととかになったらヤダなー」
「…まあ、いいでしょう。ところで花楓くん、一応僕が勝ったのですからひとつお願いを聞いてもらえますか?」
「で、なんで花楓くんまでついてくるんです?」
「えー、いいじゃんべつに。梅ちゃんとの待ち合わせまで暇だしさー」
赤城は新宿の駅ビルにやってきていた。
結莉に頼まれたモノを買うためだ。
女性ファッションフロアに進んでいくと花楓がぶはっ!と吹き出した。
「なになに、赤城さんって女装趣味あんの~?」
「違います。結莉さんの頼まれごとです」
からかう花楓をピシャリとたしなめる。
花楓は、ああと納得したようにポンと手を叩いた。
「結莉ちゃんって、あの人質の子か~。そういえば、赤城さんを助けるために陽に頼んだの結莉ちゃんだって言ってたなー。やべ、お礼まだ言ってねーや」
「は?」
赤城は立ち止まり花楓を見る。
「いま何て言いました?」
「ん?結莉ちゃんにお礼言ってねーなって」
「その前!」
「赤城さん助けるために陽に頼んだの結莉ちゃん」
花楓の言葉に赤城の目が丸くなる。そして、赤城は花楓から目を逸らすとズンズンとフロアを突き進んだ。
そして下着ショップにたどり着くと迷わず赤城は入っていく。
「えっ!?赤城さん、ここに入るの?マジ!?」
花楓は店内に並べられた下着を見て、ニヤニヤしているが、赤城はそんな花楓を完全無視して店員に声をかける。
男性客に驚く店員に、ずいっと結莉が書いたメモを見せた。
「すみませんが、こちらのサイズを下さい。…頼まれたもので」
「あ、はい。上下セットでよろしいですか?」
「はい、それで」
「お色はどうなさいますか?」
「色!?えっと、…では色違いで二つ下さい。お任せします。その…、清楚な方に似合う色で」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
店員が店内の商品を品定めしている間、花楓が声をかけてくる。
「えー、黒とかどう?小悪魔的な派手なやつとかセクシーでいいじゃん」
「花楓くん、少し黙っていて頂けますか?」
赤城は花楓を睨みつけて黙らせる。
少しして、店員が二つ商品を持ってやってきた。淡いピンク色と、淡い水色の下着だった。
「こちらなんて、いかがですか?」
「…それで、お願いします」
思わず結莉が身にまとっている姿を想像してしまい、赤城は赤面しながら会計を済ませた。
ショップを出ると、花楓がニヤニヤしながら赤城を見ていた。
「そーいえば赤城さん、結莉ちゃんと生活してるんだよな~。やったりすんの?」
「するわけないでしょう。結莉さんは人質です。僕の恋人でも何でもありませんから」
「え~」
なんだ、つまらないと花楓が頬を膨らませる。
無視して歩くと、ふとショップのディスプレイに足が止まった。
「これは…」
赤城がショップに入っていくと花楓も慌ててついてきた。赤城は店員に声をかけ、ディスプレイされていた白のシャツワンピースを購入する。清潔感があり、彼女によく似合いそうだと思ったからだ。
買い物を済ませ、赤城達は歌舞伎町へ向かった。
「えっ、なんで赤城いんの!?」
梅太郎は赤城に驚いて、思わず指を指す。
「梅ちゃんと飲みに行くって言ったらさー、一緒にいくってー」
赤城はすでに吐き気を催しているようだった。
「俺はいいけどさあ…今から行くとこはちょっと…」
「赤城さん、けっぺき症治したいんだって」
「へぇ~、マジメだねえ…。でも、なるほどな!だったら今から行くとこは丁度いいかもしんねえぞ!」
「? 食事に行くんじゃないんですか?」
花楓と梅太郎は『熟キャバ生』というキャバクラ店に入っていった。顔面魚の怪物女に挟まれ、赤城はウエットティッシュに顔を突っ込んだ。あまりの吐き気に耐えきれず、トイレへ駆け込む。花楓と梅太郎がそんな赤城の様子を見て爆笑していた。
しばらくトイレにこもって吐き気が収まると赤城はふらふらと花楓達のもとに戻った。
「おっ、やっと帰ってきたな」
「赤城さん、おかえりー」
ガシッと今度は梅太郎と花楓に挟まれる。
「赤城さん、結莉ちゃんと何にもないって言うけど、本当のところどうなんだよー?」
「そうそう、可愛い子と一緒に生活してるんだよな~。羨ましいぜ」
酔っ払い二人に囲まれ、からまれた赤城は苛々していた。
「結莉ちゃん、いくつだっけ?高校生?」
「二人で部屋いて、なにしてんのー?ちゅーはもうした?」
バン!と赤城は机を松葉杖で叩く。
「いい加減にして下さいね、二人とも」
ギロリと二人を睨みつけると、赤城は五千円札を机に置いて店を出て行った。
イライラしながら、自室に帰る。すっかり遅くなってしまっていたため、結莉は床で毛布にくるまり、スヤスヤと眠っていた。
買ってきた荷物を置き、赤城もベッドに入る。疲れたからか、すぐに眠ってしまった。
目が覚めると、机の上には美味しそうな和食が並んでいた。
「おはようございます、赤城さん」
にこりと結莉が微笑んでくる。
「おはようございます、結莉さん」
身を起こし、赤城は結莉と朝食をとる。美味しく、幸せな気持ちに顔が綻んだ。
結莉が後片付けをすませてから、赤城は昨日買ってきた袋を彼女に渡した。
「頼まれていたものです。あと、貴女に似合いそうな服があったので買ってきました。嫌でなければ、着てください」
結莉は袋から赤城が買ってくれたシャツワンピースを取り出す。
「わあ…!とっても可愛い…!こんな素敵なもの、良いのですか?」
「もしよかったら、今着てみてもらえませんか?」
赤城の頼みに勿論と結莉は頷き、脱衣場で着替えてくる。服は彼女にとても似合っていた。
「…よくお似合いです」
「ありがとうございます!私、大事に着ます!」
満面の笑顔で喜ぶ結莉。
「結莉さん、そういえば陽に僕のことを助けるようお願いしてくれたそうですね」
赤城の言葉にピタリと結莉の動きが止まる。彼女は気まずそうに俯いた。
「ごめんなさい、部屋から出てはいけないと言われたのに。でも、心配だったんです」
「ありがとうございます。おかげで僕は助かりました。僕だけではありません、花楓くんも」
赤城の言葉にパッと結莉は顔を上げた。
赤城は彼女に近づくと頬に手を添える。
「…貴女が、狐だったら良かったのに」
赤城と結莉の目が合う。まっすぐ見つめる赤城の瞳がどこか悲しみを帯びていた。
「…いいえ、何でもありません。もう、部屋から出ないでくださいね。貴女は大事な…人質なんですから」
赤城はそう言って身支度を整えると部屋から出て行った。