人と怪物の辿る道
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「結莉さんっ!」
「…織くん」
織が話しかけるが結莉は元気のない様子だった。
「…どうかしたのか?」
「………」
結莉は悲しそうに目を伏せ、俯いたまま何も言わない。
「えっと…、そ、そうだ結莉さん、赤城さんって男なんじゃん!俺聞いてなかったから、すげーびっくりしてさ…」
バッ!と勢いよく結莉は顔を上げる。
「会ったの!?赤城さんに会ったの!?赤城さんはっ?無事なのっ?」
結莉の様子に織は驚き、気まずそうに彼女から視線を外した。
「…死んではいないはずだ。やらなきゃ、俺たちがやられてた」
織の言葉に結莉は息を呑む。
「織くんと赤城さんが…、そう…そうなの…」
そして結莉は顔を覆った。
「…ごめん。結莉さんが赤城ってやつの世話になってることは知ってた。…だけど、どうすることもできなかった」
結莉は泣いていた。
織は辛そうにそんな彼女を見つめる。
そして結莉は泣きながらぽつぽつと語り出した。
「わたし、織くん達が大事よ。とても。でも、赤城さんも大事なの。隠神さんと、飯生さんは、対立しているんでしょう?だから織くんと、赤城さんも、ぶつかることになって。…お互い仲良くいられないのかしら。お互いに歩み寄ることは、できないのかしら」
悲痛な想いに、織も俯いた。何も言葉をかけることができなかった。
織たちが那覇空港に着いたのは夜だった。
空港で無事に晶達と合流すると、晶は狐をやっつけたと嬉々として語った。
「じゃあこれ!はい!夏羽クンにあげるね!」
晶は手に入れた結石を夏羽に渡す。しかし、石は融合しなかった。不思議そうに見つめていると、結石は煙草に姿を変える。
「に…ニセモノ!!?」
晶から話を聞くと、時間を止めるオナラによって偽物とすり替えられたのではないかという結論に至った。
「隠神さんに言ったほうがいいよね…」
「連絡してみるか、もう夜だし」
隠神は電話に出ると、浄結石は手に入れたと語った。夏羽達が対峙したのは、おそらく全員特化型だと告げる。飯生のねらいは石を集め支配の力を拡大し人間を操り自分にとって都合のいい国をつくる…協力者には褒美として領土の一部と自由に使える民を与えるということだろうと隠神は検討をつけた。
「飯生の出方が気になる。一度屋島で合流しよう」
「わかりました」
「ちっ…そこら中焦げ臭くて鼻がバカになりそーだぜ。よーやく見つけたと思ったらコレだったし」
女性が拾い上げたのは赤城のウエットティッシュだった。
「でも、血の匂い濃いよ。このへんじゃない?」
「だからシラミつぶしに歩き回ってやってんじゃん!くそ、うぜーなこの草。花楓!赤城!どこだっ!!」
ガサガサと草を掻き分け、捜索する二人。
「ひぃちゃん、花楓いたー」
ひぃちゃんと呼ばれた女性は、結莉が赤城のことを頼んだ女性だ。
花楓は仰向けに倒れており意識がない。倒れている花楓には両手と左目と頭がなかった。
女性は持っていた大きなトランクを広げる。
中にはバラバラの手足などが入っていた。
男性は瓶から目玉を一つ取り出すと奇妙な銃を用いて、花楓の左目の辺りに埋め込んだ。
「あっ、目の色左右で違っちゃった」
「おう、どんどんいけや」
男性の特殊な力により、花楓の失われた身体が補修される。
少しして花楓が目を覚ました。
目を覚ました花楓は男性を食べようと大きな口を開く。
瞬時に女性が鞘に収まった大きな刀で花楓の顔面を殴りつけた。
「おらっ!こっちだ脳筋!」
「夏羽クンッ…喰えなかったああッ!!」
暴れる花楓と女性が応戦する間に、男性は赤城を発見した。
「骨がいっぱい折れてる…。俺、骨折は治せないんだけどな。開いていいなら別だけど」
「ん?あれっ、陽!なんでいんの?」
「おせーんだよ、ハゲ!」
花楓は正気を取り戻すと男性にも気づいて尻尾を振った。
「ろばもいるぅー」
「炉薔薇。ねぇ、赤城いたけど起こす?」
「いーよ、そのままで」
「あっ、赤城さん生きてんの?ラッキー」
花楓は赤城を担ぎ上げ、陽と炉薔薇とともに帰路についた。
「あの人質の女に礼言っとけよ。赤城に何かあったかもって気づいたのあの女だからな。まぁ、赤城からもオマエが両手喰ったって連絡は受けてたけど」
「そうなの?」
「それで、石はどうだった?」
「石?なにそれ」
「怪物の結石だよ!そういうシゴトだっただろ!オマエら『夏羽クン』と当たったんだろ?んな大ケガしといて成果ナシってこたぁねーよなあ」
4人は警視庁に戻ってきた。
赤城は目を覚まし、自分の置かれた状況を確認する。骨折だらけのため身体には包帯が巻かれ、松葉杖がなければ歩くことのできない状態だった。
なんとかベッドから身を起こすと、ベッドに肘をついて眠っている結莉がいた。おそらく、心配してつきっきりでいたのだろう。動く右手で眠る結莉の頬に触れる。
「う…ん…」
結莉はくすぐったそうに身を捩ると、ゆっくりと目を開けた。
「赤城さん…?赤城さんっ!良かった…!」
赤城が目を覚ましたことを結莉は泣いて喜んだ。
「結莉さん…、遅くなりましたね」
ぶんぶんと結莉は首を振る。
赤城は携帯を確認し、険しい顔をするとベッドの脇に立てかけられた松葉杖を使って起き上がった。
「赤城さん?」
心配そうな彼女の瞳から逃れるように、赤城は背を向ける。
「会議があるようです。行ってきます」
そう言って赤城は部屋から出て行った。
結莉は悲しそうに扉を見つめるが、気を取り直してキッチンへ向かった。
会議室には、野火丸、陽、炉薔薇、梅太郎、花楓、赤城が揃っていた。
「経過報告~」
パチパチと拍手し、陽気に野火丸は会議を始めた。
「それでは皆さん、手に入れた石を提出して下さい」
陽と梅太郎は手に入れた石を机の上に置く。
「…花楓刑事と赤城刑事は『成果ナシ』ということでいいですか?」
野火丸の言葉に花楓と赤城は険しい表情をする。
「皆さんご苦労さまでした。それでは、これより飯生さまが参ります」
「みんなー、おつかれさま~」
上機嫌で飯生がやってきた。皆、席を立ち飯生に敬礼する。
「ああ、いいよー。そういうの。フランクにいこー。わたしは成果主義だから」
飯生が席につくと、野火丸は報告会議を始めた。
「えー、それではご報告いたします。捜査官の入手した結石は、陽刑事・炉薔薇刑事がひとつ、梅太郎刑事がひとつ、以上です」
「わあー、すごーい。みんな優秀だね~」
飯生は拍手して喜んだ。
陽は舌打ちすると、炉薔薇に催促する。
「あっ、そうだ。俺も持ってるんだった…。『みっつ』です」
炉薔薇はポケットから結石を更に2つ取り出して飯生に見せる。
飯生の顔が笑顔に歪んだ。
「梅太郎刑事もよくがんばってくれましたね。僕の期待通りです」
パチパチと野火丸は拍手して梅太郎を誉めた。
花楓と赤城を除いて、盛り上がる飯生達にイラつきを露わにする花楓。赤城も珍しくイライラした様子だった。
「それじやー早速、くっつけちゃおっか~」
屋島に集合した夏羽達は、隠神が手に入れた浄結石を融合させる。5つの結石が融合し、石は大分大きくなってきた。
「ところで…結は一緒じゃなかったのか?」
隠神の問いにギクリと3人は固まる。
「ボク…ボク…交通費とひきかえに兄さんを…」
「まあ…金は振り込みで返せるし、コトが済んだら協力するって言ってたぜ。それより次の石のアテあんの?」
誤魔化すように織は話題を逸らした。
「ああ、だがその前にやらなきゃならんことがあってな。飯生はおそらく現時点で5つの石を持っている。石を手に入れ、支配の力を強めた飯生がまず最初にすること。なんだかわかるか?」
「何って…人間をあやつり人形にして…」
「『食糧』の独占。支配した人間を食糧にするんだ。そうすれば人間のみならず怪物をも支配下に置くことができる」
隠神の言葉に皆が息を呑んだ。
「怪物は基本雑食だが、とりわけ人肉を好む怪物もいてな。『鬼』と名の付く種族がそうだ」
屍鬼であることを夏羽は気にするが、それなら吸血鬼のミハイも同じだと宥める。
「食物連鎖自体は俺もとやかく言う気はない。だが、飯生のやろうとしていることは『洗脳』と『乱獲』だ。こんなものはお互い様とはいえない。加工食品なんかを作ってる『桜牙ハム』って会社があるんだが、製品の3割が人肉だ。飯生は桜牙の責任者と繋がって施設の拡張を提案するはずだ。人肉は大量生産が難しいからな。鬼族は皆、高い身体能力を誇る…結託すればまさしく鬼に金棒だろう。なので奴らが繋がる前にぶっ壊す。施設を」
「それ、根本的な解決になってなくない?」
織が口を挟むが隠神は続けた。
「時間は稼げる。要は狐に食糧管理をさせなきゃいいわけだからな」
「ふぅん、じゃ、石捜しはいったん中断ってこと?」
「いや、そうとも限らない。桜牙の責任者は怪物の結石を所持している可能性が高い。うまくいけば一石二鳥だ」
そして夏羽達は次の行き先として、桜牙ハムを目指すことになった。
飯生は結石をピアスに加工し身につけた。
融合した石達は強く光を放つ。
なんでも言うことを聞いてしまいそうな飯生の美貌に陽と梅太郎がたじろいだ。
そこへ、飯生が声をかける。
「おまえたち。ごめんね、ごほうびのことだけど、先にやらなきゃいけないことがあるんだよね。『食糧』の独占。千葉県に桜牙ハムの加工工場があるの。陽と炉薔薇はそこへ行って責任者に協力してあげて。本当のごほうびは後回しになってしまうけど、おまえたちの『望み』は叶うはずだよ。じゃっ、これにて会議おしま~い。あとは野火丸に任せるねー。みんなー、がんばってね~」
立ち去る飯生に花楓が声をかけるが、飯生は見向きもしなかった。
「では、残りの捜査官は引き続き結石の捜索をお願いします。解散~」
ガタガタと席を立ち、一同は解散してゆく。
梅太郎は気を落とす花楓を気遣い、声をかける。
「あんま気にすんなよな。飲み行くか?今日…」
花楓は梅太郎には答えず、ムスッとしていた。
皆が部屋を出て行き、花楓と赤城だけが残っていた。
「どこへ行くんですか」
席を立つ花楓に赤城が声をかける。
「どこだっていいじゃん。もう赤城さんに関係ないよ」
「もう?」
「俺、次の任務は梅ちゃんと組むから」
「ちょっと!どういう意味ですか?」
花楓は赤城を冷たく見下ろす。
「だって赤城さんのせいじゃん。なんだよ、さっきの!?飯生さまには無視されるし、なんかすげー俺が弱いみたいだった…!あんたのせいじゃなかったらなんなんだよ!?」
「…バカだバカだとは思ってましたが…、ここまでくるとかわいげがないですね…。いいでしょう、わかりました。パートナー解消上等です。ただし…反省はしてもらいますよ」
赤城は立ち上がり、ウエットティッシュを掴むと花楓を睨む。
「僕と勝負しましょう、花楓くん。なぜ、僕たちが夏羽クンに負けたのか教えてあげます」
赤城は、花楓に大井コンテナ埠頭に来るよう伝えて会議室を出た。
「おかえりなさい!」
部屋に戻ると結莉が笑顔で駆け寄ってくる。
「どうしたんですか?やけに機嫌が良いですね」
ふと見ればテーブルの上にいくつもの料理が並んでいた。
「これは…!」
「赤城さんが目を覚ましてくれたんだもの。お祝いしなくては!」
結莉はそう言ってニッコリ笑う。
(花楓くんは…目的地に着くまでに迷子になりそうですし…、まぁ、いいか)
赤城は結莉の手料理を頂くことにして、席につく。
「手料理を食べるのは、久しぶりです」
「…お口に合うとよいのですが…」
結莉は恥ずかしそうに赤城の様子を見守った。赤城は結莉の手料理を前にゴクリと唾を飲み込む。
他者が触れてできた料理など、ばい菌だらけなのではないか…そう思うと口に運ぶことに抵抗があったが、意を決して赤城は料理を口にした。
「! おいしい…!」
「本当ですか!?良かった…!」
結莉の料理はとても美味しかった。量が多く、すべては食べきれなかったが、それでも彼女はとても喜んでくれた。
赤城は歯を磨くと、結莉に声をかける。
「出かけてきます。帰りは遅くなりそうですから、先に寝ていて下さい。あ、夕食はいりませんからね」
「…わかりました」
心配そうに見上げてくる結莉を見て、「そうだ」と赤城は言う。
「結莉さん、貴女ここに連れてこられてから、ずっと制服のままでしょう。せめて上だけでも着替えては如何ですか。僕のシャツなので大きいと思いますが。結莉さんに差し上げます」
衣装ケースから、シャツを取り出して赤城は結莉に手渡す。
「今度、何か見繕って買ってきますから、それまで我慢してくださいね」
「赤城さん、ありがとうございます」
結莉は、優しく微笑んで礼を言うと頬を染めて赤城にお願いをしてきた。
「あの…すみません…もし、可能なら、その、し、下着も買ってきて頂けませんか…?」
結莉の申し出にボッと赤城の顔が赤くなる。
「しっ…、わ、わかりました。サイズ、紙に書いてください」
結莉のメモを受け取ると、赤城は小さく折りたたんで財布にしまった。
「見ませんから!店員に渡して見繕ってもらいますから!それで、いいですね!?」
「はい。すみません、こんなお願いをして…」
「別に、構いませんよ。…結莉さん、昨晩自分についていてくれたのでしょう?今日は、早く寝て下さいね。その…、ありがとう」
染まる頬を隠すようにぷいと顔を背け、赤城は慌てて部屋を出る。
「赤城さんっ!ありがとう。いってらっしゃい」
「…いってきます」
赤城は大井コンテナ埠頭へ向けて足早に去っていった。
「…織くん」
織が話しかけるが結莉は元気のない様子だった。
「…どうかしたのか?」
「………」
結莉は悲しそうに目を伏せ、俯いたまま何も言わない。
「えっと…、そ、そうだ結莉さん、赤城さんって男なんじゃん!俺聞いてなかったから、すげーびっくりしてさ…」
バッ!と勢いよく結莉は顔を上げる。
「会ったの!?赤城さんに会ったの!?赤城さんはっ?無事なのっ?」
結莉の様子に織は驚き、気まずそうに彼女から視線を外した。
「…死んではいないはずだ。やらなきゃ、俺たちがやられてた」
織の言葉に結莉は息を呑む。
「織くんと赤城さんが…、そう…そうなの…」
そして結莉は顔を覆った。
「…ごめん。結莉さんが赤城ってやつの世話になってることは知ってた。…だけど、どうすることもできなかった」
結莉は泣いていた。
織は辛そうにそんな彼女を見つめる。
そして結莉は泣きながらぽつぽつと語り出した。
「わたし、織くん達が大事よ。とても。でも、赤城さんも大事なの。隠神さんと、飯生さんは、対立しているんでしょう?だから織くんと、赤城さんも、ぶつかることになって。…お互い仲良くいられないのかしら。お互いに歩み寄ることは、できないのかしら」
悲痛な想いに、織も俯いた。何も言葉をかけることができなかった。
織たちが那覇空港に着いたのは夜だった。
空港で無事に晶達と合流すると、晶は狐をやっつけたと嬉々として語った。
「じゃあこれ!はい!夏羽クンにあげるね!」
晶は手に入れた結石を夏羽に渡す。しかし、石は融合しなかった。不思議そうに見つめていると、結石は煙草に姿を変える。
「に…ニセモノ!!?」
晶から話を聞くと、時間を止めるオナラによって偽物とすり替えられたのではないかという結論に至った。
「隠神さんに言ったほうがいいよね…」
「連絡してみるか、もう夜だし」
隠神は電話に出ると、浄結石は手に入れたと語った。夏羽達が対峙したのは、おそらく全員特化型だと告げる。飯生のねらいは石を集め支配の力を拡大し人間を操り自分にとって都合のいい国をつくる…協力者には褒美として領土の一部と自由に使える民を与えるということだろうと隠神は検討をつけた。
「飯生の出方が気になる。一度屋島で合流しよう」
「わかりました」
「ちっ…そこら中焦げ臭くて鼻がバカになりそーだぜ。よーやく見つけたと思ったらコレだったし」
女性が拾い上げたのは赤城のウエットティッシュだった。
「でも、血の匂い濃いよ。このへんじゃない?」
「だからシラミつぶしに歩き回ってやってんじゃん!くそ、うぜーなこの草。花楓!赤城!どこだっ!!」
ガサガサと草を掻き分け、捜索する二人。
「ひぃちゃん、花楓いたー」
ひぃちゃんと呼ばれた女性は、結莉が赤城のことを頼んだ女性だ。
花楓は仰向けに倒れており意識がない。倒れている花楓には両手と左目と頭がなかった。
女性は持っていた大きなトランクを広げる。
中にはバラバラの手足などが入っていた。
男性は瓶から目玉を一つ取り出すと奇妙な銃を用いて、花楓の左目の辺りに埋め込んだ。
「あっ、目の色左右で違っちゃった」
「おう、どんどんいけや」
男性の特殊な力により、花楓の失われた身体が補修される。
少しして花楓が目を覚ました。
目を覚ました花楓は男性を食べようと大きな口を開く。
瞬時に女性が鞘に収まった大きな刀で花楓の顔面を殴りつけた。
「おらっ!こっちだ脳筋!」
「夏羽クンッ…喰えなかったああッ!!」
暴れる花楓と女性が応戦する間に、男性は赤城を発見した。
「骨がいっぱい折れてる…。俺、骨折は治せないんだけどな。開いていいなら別だけど」
「ん?あれっ、陽!なんでいんの?」
「おせーんだよ、ハゲ!」
花楓は正気を取り戻すと男性にも気づいて尻尾を振った。
「ろばもいるぅー」
「炉薔薇。ねぇ、赤城いたけど起こす?」
「いーよ、そのままで」
「あっ、赤城さん生きてんの?ラッキー」
花楓は赤城を担ぎ上げ、陽と炉薔薇とともに帰路についた。
「あの人質の女に礼言っとけよ。赤城に何かあったかもって気づいたのあの女だからな。まぁ、赤城からもオマエが両手喰ったって連絡は受けてたけど」
「そうなの?」
「それで、石はどうだった?」
「石?なにそれ」
「怪物の結石だよ!そういうシゴトだっただろ!オマエら『夏羽クン』と当たったんだろ?んな大ケガしといて成果ナシってこたぁねーよなあ」
4人は警視庁に戻ってきた。
赤城は目を覚まし、自分の置かれた状況を確認する。骨折だらけのため身体には包帯が巻かれ、松葉杖がなければ歩くことのできない状態だった。
なんとかベッドから身を起こすと、ベッドに肘をついて眠っている結莉がいた。おそらく、心配してつきっきりでいたのだろう。動く右手で眠る結莉の頬に触れる。
「う…ん…」
結莉はくすぐったそうに身を捩ると、ゆっくりと目を開けた。
「赤城さん…?赤城さんっ!良かった…!」
赤城が目を覚ましたことを結莉は泣いて喜んだ。
「結莉さん…、遅くなりましたね」
ぶんぶんと結莉は首を振る。
赤城は携帯を確認し、険しい顔をするとベッドの脇に立てかけられた松葉杖を使って起き上がった。
「赤城さん?」
心配そうな彼女の瞳から逃れるように、赤城は背を向ける。
「会議があるようです。行ってきます」
そう言って赤城は部屋から出て行った。
結莉は悲しそうに扉を見つめるが、気を取り直してキッチンへ向かった。
会議室には、野火丸、陽、炉薔薇、梅太郎、花楓、赤城が揃っていた。
「経過報告~」
パチパチと拍手し、陽気に野火丸は会議を始めた。
「それでは皆さん、手に入れた石を提出して下さい」
陽と梅太郎は手に入れた石を机の上に置く。
「…花楓刑事と赤城刑事は『成果ナシ』ということでいいですか?」
野火丸の言葉に花楓と赤城は険しい表情をする。
「皆さんご苦労さまでした。それでは、これより飯生さまが参ります」
「みんなー、おつかれさま~」
上機嫌で飯生がやってきた。皆、席を立ち飯生に敬礼する。
「ああ、いいよー。そういうの。フランクにいこー。わたしは成果主義だから」
飯生が席につくと、野火丸は報告会議を始めた。
「えー、それではご報告いたします。捜査官の入手した結石は、陽刑事・炉薔薇刑事がひとつ、梅太郎刑事がひとつ、以上です」
「わあー、すごーい。みんな優秀だね~」
飯生は拍手して喜んだ。
陽は舌打ちすると、炉薔薇に催促する。
「あっ、そうだ。俺も持ってるんだった…。『みっつ』です」
炉薔薇はポケットから結石を更に2つ取り出して飯生に見せる。
飯生の顔が笑顔に歪んだ。
「梅太郎刑事もよくがんばってくれましたね。僕の期待通りです」
パチパチと野火丸は拍手して梅太郎を誉めた。
花楓と赤城を除いて、盛り上がる飯生達にイラつきを露わにする花楓。赤城も珍しくイライラした様子だった。
「それじやー早速、くっつけちゃおっか~」
屋島に集合した夏羽達は、隠神が手に入れた浄結石を融合させる。5つの結石が融合し、石は大分大きくなってきた。
「ところで…結は一緒じゃなかったのか?」
隠神の問いにギクリと3人は固まる。
「ボク…ボク…交通費とひきかえに兄さんを…」
「まあ…金は振り込みで返せるし、コトが済んだら協力するって言ってたぜ。それより次の石のアテあんの?」
誤魔化すように織は話題を逸らした。
「ああ、だがその前にやらなきゃならんことがあってな。飯生はおそらく現時点で5つの石を持っている。石を手に入れ、支配の力を強めた飯生がまず最初にすること。なんだかわかるか?」
「何って…人間をあやつり人形にして…」
「『食糧』の独占。支配した人間を食糧にするんだ。そうすれば人間のみならず怪物をも支配下に置くことができる」
隠神の言葉に皆が息を呑んだ。
「怪物は基本雑食だが、とりわけ人肉を好む怪物もいてな。『鬼』と名の付く種族がそうだ」
屍鬼であることを夏羽は気にするが、それなら吸血鬼のミハイも同じだと宥める。
「食物連鎖自体は俺もとやかく言う気はない。だが、飯生のやろうとしていることは『洗脳』と『乱獲』だ。こんなものはお互い様とはいえない。加工食品なんかを作ってる『桜牙ハム』って会社があるんだが、製品の3割が人肉だ。飯生は桜牙の責任者と繋がって施設の拡張を提案するはずだ。人肉は大量生産が難しいからな。鬼族は皆、高い身体能力を誇る…結託すればまさしく鬼に金棒だろう。なので奴らが繋がる前にぶっ壊す。施設を」
「それ、根本的な解決になってなくない?」
織が口を挟むが隠神は続けた。
「時間は稼げる。要は狐に食糧管理をさせなきゃいいわけだからな」
「ふぅん、じゃ、石捜しはいったん中断ってこと?」
「いや、そうとも限らない。桜牙の責任者は怪物の結石を所持している可能性が高い。うまくいけば一石二鳥だ」
そして夏羽達は次の行き先として、桜牙ハムを目指すことになった。
飯生は結石をピアスに加工し身につけた。
融合した石達は強く光を放つ。
なんでも言うことを聞いてしまいそうな飯生の美貌に陽と梅太郎がたじろいだ。
そこへ、飯生が声をかける。
「おまえたち。ごめんね、ごほうびのことだけど、先にやらなきゃいけないことがあるんだよね。『食糧』の独占。千葉県に桜牙ハムの加工工場があるの。陽と炉薔薇はそこへ行って責任者に協力してあげて。本当のごほうびは後回しになってしまうけど、おまえたちの『望み』は叶うはずだよ。じゃっ、これにて会議おしま~い。あとは野火丸に任せるねー。みんなー、がんばってね~」
立ち去る飯生に花楓が声をかけるが、飯生は見向きもしなかった。
「では、残りの捜査官は引き続き結石の捜索をお願いします。解散~」
ガタガタと席を立ち、一同は解散してゆく。
梅太郎は気を落とす花楓を気遣い、声をかける。
「あんま気にすんなよな。飲み行くか?今日…」
花楓は梅太郎には答えず、ムスッとしていた。
皆が部屋を出て行き、花楓と赤城だけが残っていた。
「どこへ行くんですか」
席を立つ花楓に赤城が声をかける。
「どこだっていいじゃん。もう赤城さんに関係ないよ」
「もう?」
「俺、次の任務は梅ちゃんと組むから」
「ちょっと!どういう意味ですか?」
花楓は赤城を冷たく見下ろす。
「だって赤城さんのせいじゃん。なんだよ、さっきの!?飯生さまには無視されるし、なんかすげー俺が弱いみたいだった…!あんたのせいじゃなかったらなんなんだよ!?」
「…バカだバカだとは思ってましたが…、ここまでくるとかわいげがないですね…。いいでしょう、わかりました。パートナー解消上等です。ただし…反省はしてもらいますよ」
赤城は立ち上がり、ウエットティッシュを掴むと花楓を睨む。
「僕と勝負しましょう、花楓くん。なぜ、僕たちが夏羽クンに負けたのか教えてあげます」
赤城は、花楓に大井コンテナ埠頭に来るよう伝えて会議室を出た。
「おかえりなさい!」
部屋に戻ると結莉が笑顔で駆け寄ってくる。
「どうしたんですか?やけに機嫌が良いですね」
ふと見ればテーブルの上にいくつもの料理が並んでいた。
「これは…!」
「赤城さんが目を覚ましてくれたんだもの。お祝いしなくては!」
結莉はそう言ってニッコリ笑う。
(花楓くんは…目的地に着くまでに迷子になりそうですし…、まぁ、いいか)
赤城は結莉の手料理を頂くことにして、席につく。
「手料理を食べるのは、久しぶりです」
「…お口に合うとよいのですが…」
結莉は恥ずかしそうに赤城の様子を見守った。赤城は結莉の手料理を前にゴクリと唾を飲み込む。
他者が触れてできた料理など、ばい菌だらけなのではないか…そう思うと口に運ぶことに抵抗があったが、意を決して赤城は料理を口にした。
「! おいしい…!」
「本当ですか!?良かった…!」
結莉の料理はとても美味しかった。量が多く、すべては食べきれなかったが、それでも彼女はとても喜んでくれた。
赤城は歯を磨くと、結莉に声をかける。
「出かけてきます。帰りは遅くなりそうですから、先に寝ていて下さい。あ、夕食はいりませんからね」
「…わかりました」
心配そうに見上げてくる結莉を見て、「そうだ」と赤城は言う。
「結莉さん、貴女ここに連れてこられてから、ずっと制服のままでしょう。せめて上だけでも着替えては如何ですか。僕のシャツなので大きいと思いますが。結莉さんに差し上げます」
衣装ケースから、シャツを取り出して赤城は結莉に手渡す。
「今度、何か見繕って買ってきますから、それまで我慢してくださいね」
「赤城さん、ありがとうございます」
結莉は、優しく微笑んで礼を言うと頬を染めて赤城にお願いをしてきた。
「あの…すみません…もし、可能なら、その、し、下着も買ってきて頂けませんか…?」
結莉の申し出にボッと赤城の顔が赤くなる。
「しっ…、わ、わかりました。サイズ、紙に書いてください」
結莉のメモを受け取ると、赤城は小さく折りたたんで財布にしまった。
「見ませんから!店員に渡して見繕ってもらいますから!それで、いいですね!?」
「はい。すみません、こんなお願いをして…」
「別に、構いませんよ。…結莉さん、昨晩自分についていてくれたのでしょう?今日は、早く寝て下さいね。その…、ありがとう」
染まる頬を隠すようにぷいと顔を背け、赤城は慌てて部屋を出る。
「赤城さんっ!ありがとう。いってらっしゃい」
「…いってきます」
赤城は大井コンテナ埠頭へ向けて足早に去っていった。