その特異点、混沌につき
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前回までのあらすじ
7人の小人たちからお礼がしたいと強制的に彼らの家に招待された僕。お茶だけ頂いてすぐに家を出ようとしていたものの彼らの生活力の無さというかドジっぷりというか……放っておいたら確実に全滅する、と察してしまった時点で暫くここに滞在する事を決めた。僕の姿をしているのに全滅されるのは流石に嫌だ。
そんなわけで鉱物を採掘する仕事以外の事は壊滅的だった彼らに掃除、洗濯、料理、道具作りなどを叩き込むことからはじめたのだがそれが原因なのか
「ぴゃあ」
「あぁ、オムレツかい?上手にできたじゃないか」
「ぴ!ぴ!」
「ん?キミはサラダを作れるようになったんだね。ちゃんとドレッシングもかけた?えらいえらい」
よしよし、と棒読みしながら出来たアピールする自分にそっくりな小さい生き物の頭を撫でると彼らはふんす!と誇らしげに胸を張ってキラキラした目で僕を見る。
まぁ、こいつらのこの反応はいい。問題はこの森に住んでいる穏やかな動物たちだ。
朝は窓から侵入してきた小鳥の優しくも美しい囀りに起こされ、小人たちのあの不協和音をなんとかしてやろうという理由で軽く歌いながら掃除をしていると何処からともなく湧いてくるウサギ、リス、小鳥、子鹿などのメルヘン全開エトセトラたちが僕の周りで踊り、囀り、時には肩に乗ってきて歌うように鳴き声を発する。
まるで小さな森の片隅でひっそりと開かれる可愛らしい舞踏会のようだ。うふふ、あはは、…はは、
きっっっも!!!!!!!!
なんっっだこれ!?なんだこれは!?一体どうなっている!?
気持ち悪すぎてぶち壊してやりたい衝動には駆られる、現在進行形でこの現状をディストラクションしてやりたいさ!!!!!
なのに何らかの強い力が働いているのかサーヴァントとしての力が機能しないどころかこいつらを傷付けようとすると力が抜け、払い除けようと振るった手はふわりと優しくフェザータッチに変換される。それで余計にこの動物たちはお姫様!お姫様!と騒ぎ立てるのだ。
誰でもいい、誰でもいいからこの状況をなんとかしてくれ。いっそころせ……、贅沢を言わせてもらえるなら立香、僕のマスター…、出来れば僕を、俺を、今度こそ完全に終わらせる存在はきみがいい。きみしかいない。そしてきみを終わらせるのは僕で、俺で、一緒に終わって堕ちていこう奈落の果てまで…。
そんな現実逃避に走るくらいには精神的に参っていた。メルヘンに汚染されて完全に頭の中がお花畑のクソヤロウに成り果ててしまう前になんとかしてくれ、と願っていた。
願ってはいたが…。
「ぷいー!」
「ぴぴ!ぴっぴ!」
まさか、突然訪ねてきた老婆から渡された青い林檎を手に取った瞬間猛烈なまでの乾きと心の中にぽっかり空いた空白を感じたと同時にそれを埋められるであろう立香の魔力が林檎に込められている事に気付き、思わず口にしてしまったせいで意識はあるものの身体は完全に自由を失い、崩れ落ちた。
老婆が姿を消した後、小人たちが仕事から戻ってくるまでに瞼も完全に閉じてしまい力も入らず蛹の頃の記憶が蘇り吐きそうだった。小人たちが帰ってきたと分かったのはドアの音だ。そのあとすぐにパタパタと駆け寄ってくる足音と、ぴーぴーと泣きながら僕を取り囲む気配を感じる。
だから、僕の姿で泣くなんて妖精王の威厳を台無しにするような事はやめてくれないだろうか。
身体は動かない。声も出ない。だから、今の僕にはこいつらに話しかけて安心させてやることも、慰めてやることも、喝を入れてやることも、触れてやることすらも出来なかった。
*** *** ***
「はー、やっと逃げ切れた…。」
城で立香様、立香様とちやほやされる日々を送っていたのも束の間の事。
ここにきて3日目あたりから毎日毎日見合いの話、縁談の話、可愛いお姫様がやってきて自分アピールのエトセトラ。
そこで初めて私が「王子様」である事に気付いて密かに城からの脱出計画を企てていた。
執事さんやメイドさんの目を掻い潜り、護衛の兵士の目を盗み城を抜け出した私の目の前に現れたのは私の自慢のサーヴァント、赤兎
「こんにちはマスター、貴女の呂布です。レイシフト適正があるということで送り込まれたものの誰とも出会えず不安でしたがご無事でよかった、ヒヒン」
「…うん、来てくれてありがとう本当に助かった!!」
呂布を名乗る赤兎馬のおかげでなんとか城から完全に脱出できた私はいつのまにか迷い込んでいた静かな森の中を赤兎馬の背に揺られながら彷徨っていた。
「それにしてもなんなんだこの特異点…、謎すぎる」
「はい、マスターを探す傍らどのような場所なのか把握する為この特異点を駆け回っていたのですが奇妙なのです」
「奇妙?」
「見えない壁に閉ざされた空間、とでもいいましょうか。この空間には二つの国、城、町、森、それしか存在しないのです。ですが壁の向こう側から魔術師やサーヴァントの魔力を感じたので壁を破壊出来ないものかと宝具を展開しましたがそれも無意味に終わりました。申し訳ない」
「ううん、ありがとうせき…呂布。マシュやもうひとりのマスター…彼には、ここではまだ会ってないんだよね?」
「ええ、マスターとしか遭遇出来ませんでした。恐らく、壁の向こう側に別の空間が存在しており…そちらにいる可能性が高いかと」
「そうか…とりあえず、ここから抜け出す方法を考えないと…あと捕まらないようにしないとこの国の王子様としてお姫様と結婚させられる」
「それは一大事、…おや?マスター、何か聞こえませんか?」
「え?」
赤兎馬が歩みを止めるとしん…と静まり返る森の中、小さく啜り泣くような音が聴こえてくる事に気付いて私と赤兎馬は無言で目を合わせて頷きあう。赤兎馬は音のする方向へ静かに歩きはじめた。
*** *** ***
森の奥、小さな広場の真ん中に置かれた透明なガラスの棺の中、色とりどりの花々に埋もれるように横たわる美しく真っ白なドレスを纏う人と、童話に出てくるようなメルヘンオーラを放ちながらも悲しみに暮れる動物たち、そして、
「ぴー、」
「ぴぴー」
棺に縋りながらギャン泣きするミニ白オベロンとミニ黒オベロンがひぃ、ふぅ、みぃ、よ……7匹、ちがった、7人。
「オベロンもレイシフト適正サーヴァントだったってこと?でもなんでミニ化してるの?あとなんでこんなに増えてるの?」
「分かりません…が、あの棺だけ異質に感じます、近寄って確かめましょう。大丈夫です、マスターに危険が及そうになればその時は私が」
「弓出さなくていいから、それ持ってたら警戒されるからしまって!…よし、キミたち!どうしたの?」
赤兎馬に武器を仕舞うように指示してから彼らに声をかけて近寄ると敵意もなく、すんなりと近くに行くことを許してくれた。むしろ小鳥たちが私の背中をぐいぐい押して棺に近づくように促しているようにも感じる
すごい、メルヘンだなぁ…と思いながらも恐る恐る棺の中に横たわる人を見て、ぴしりと固まる。
「オベロンがお姫様みたいな女装趣味に目覚めながらも眠ってる…!!」
肩の動きで呼吸はしている事を確認し、生きていることにほっとしつつも衝撃的な光景についツッコミをいれてしまうも棺の中の彼は無反応。
おかしい、普段ならますたぁ??とドスの効いた声でオラついてくるはずなのに…。状態異常…?夢の終わりを使ったとか…?とぐるぐる考えているといつの間にか近付いてきていたミニオベロンたちがぴぃぴぃ泣きながらオベロンを指差して助けを求めてくる。
可愛い、可愛いけど助ける方法が分からない。
とりあえずよく観察してみる…?と棺の横で片膝をついてオベロンの顔を覗き込んだ。
「うわ睫毛なっが!!肌艶良……美少女じゃん…」
観察してみたが女としてこの男に負けた事しか分からなかった。悔しい、なんでこんな綺麗なんだこの男は、と頬を指で摘んでむにむにしてやっていると突然私の頭に勢いよくミニオベロンが飛び乗ってきて、その重みでオベロンの顔を覗き込んでいた私の唇と棺の中で眠っているオベロンの唇の距離がゼロになり、重なった。
「え、」
「は、」
そして、どんな御伽噺展開なのか唇が重なったと同時にオベロンの瞼がゆっくりとあがり、蒼い星のような瞳と私の視線が交わって…我に返った私はごめん!!と謝りながらオベロンから勢いよく離れた。
「…立香、」
起きあがったオベロンは唇を人差し指で撫でながら目を丸くして私を見ている。ごめん、本当にごめん、今のは事故だから、事故チューだからゆるして、と内心混乱する私をじっと眺めたあと彼はふは、と柔らかく笑ったかと思えば立ち上がって私のところまで優雅に、軽く跳ねるような足取りでやってきて、優しく私を抱きしめた。
「まぁ、なんて初心な王子様。…なんてね?なぁるほどぉ、立香は王子様、そして僕は王子様のキスで助けられる白雪姫だったわけか!はは、笑うー」
「えーと、オベロンさん?」
「あはは、ありがとう立香。……これでやっとぶち壊せる、このメルヘン溢れるくっそ気持ち悪い世界を!!」
「オベロンさーん!?落ち着こう!?」
「うるさい!!きみにこれ以上大層な役を背負わせるような気持ち悪い世界なんか消えちまえ!!」
背骨!私の背骨折れる!!と思いっきり腕に力を込めて邪悪に笑う見た目が妖精王の奈落の虫をなんとか落ち着けなくては!と辛うじて彼の背に回せた手でぽんぽんと優しく宥めるように叩いたその時だった。いつの間にか私たちの足元に移動してきた黒いミニオベロンが「ぴゃ!」と言いながら差し出してきたそれは、
「「聖杯!?」」
「ぴゃ!…ぴゃあっ!?」
黒いミニオベロンが元気に頷いた瞬間、聖杯から光が溢れ、眩い光が周囲を呑み込んでいく。
「立香っ!!」
オベロンが私を庇うように抱きしめてくれる体温を感じながら、私の意識は途絶えた。
*** *** ***
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