第3怪 レディ・ルナティックご乱心 ―八尺様―
「「……」」
グレンが探偵局に足を踏み入れた途端、玄関に向けて飾っていた注連縄がブツリと切れて落ちた。
これって――
「……どういう状況?」
「非常事態だね」
グレンが困ったように私を見てくるが、どうしろって言うの。私だって困ってるんだが?
竜動 の探偵事務所に日本の注連縄なんて、とヘンに思った人もいるかもしれないが、私たちはいたって真剣な理由で注連縄に頼っていたんだ。作った私とヤシャも、「念のために用意しよう」と言い出したエムリス副局長も、「面白そうだから飾ろうぜ」と快諾したシャオ局長も。
なにせ、無自覚に周囲にバフ盛りする厄介な体質を持つ私は、その体質のせいでいろんなモノに魅入られやすいし憑かれやすい。いちいち祓い屋を探すのも面倒だから、外で勝手に憑いてきたモノを出入り口で祓い落としてそれっきりにする――そのために注連縄を飾っていたんだ。
ところが、その注連縄が切れてしまった。守ってもらっている私が、一歩も外に出ていないのに。いましがた外からやって来たグレンがリビングに足を下ろした瞬間、注連縄が限界を迎えて落ちた。つまり、彼がナニかを持って来たってことで……。
もしかすると、グレンが持ってきたナニかが私の触媒体質で強化された可能性も十分にある。注連縄が一気に限界を迎えるなんて、相当ヤバいけど⁈
「グレン、ナニを連れて来たの?」
「連れて来てないよ。オレひとりで来たし」
ずっとキョトンとしているグレンの後ろで、書斎机の一番上の引き出しがガタガタと音を立て始めた。お⁈
「あ、先越された」
怪奇現象でもなんでもない、どこからかやって来たただのヤシャだった。
「注連縄切れてんじゃん。どっちの仕業だよ」
「グレンだよ。あたしはどこにも出掛けてないもん」
「ナニに目を付けられたんだよ、お前」
「そんなこと言われてもわからない」
裸眼のままだとわかりづらいのか、ヤシャは肌と同化させた左目 のお札を剥がしてグレンを眇めた。邪眼を通した方が見えるモノもあるらしい。
「なんだこれ」
「普通の“呪われてる”と、ちょっと違う感じだよね?」
「だな。アシュもなったことねぇパターンじゃん」
「ふたりがわかんないなら、オレはもっとわかんないよ?」
「憑かれてる本人がなに言ってんだ。今日の行動全部思い出してイチから話せ」
本人はわからないだろうが、黒い靄のようなモノがグレンに色濃く纏わりついているんだ。明らかに、誰かにナニかをされた痕だ。それなのに、ナニをされたのかが私とヤシャには判別できない。
このままだとマズいってのは解るんだけどね?
「もしかして詰んでる?」
「全然。解る人がまもなく来るしね」
今日のお泊まり会に参加する最後のメンバー……私の幼馴染なら、グレンがどうなろうとしているのかが一目で解るはずだ。
玄関のドアの向こうに人の気配がする。ちょうどいいタイミングで来てくれたようだ。
「――というわけで、スペシャリストをお呼びしております! パチパチパチ〜」
手を叩く擬音語につられて、ヤシャが大げさなまでに拍手をしてくれた。君なら絶対に乗ってくれると思ったよ。
「ヒノリちゃんで――」
「アシュかキャロルだな⁈ どっちか? どっちもか? ナニやらかした⁈」
さすがはスペシャリスト、入る前からもうトラブルの気配を察知していた。しかも原因は私かグレンの2択と来たよ。泣いてもいいかな? 今回は私、なんにも悪くない!
†
「注連縄が切れたのかよ。相当まずいな」
スペシャリストもといヒノリ・テンカは、ため息を吐きながら丸眼鏡のブリッジを押し上げた。
「ヤシャ。百聞は一見に如かずだ。外覗いてみろ」
「おう、なんかいるんだな」
言われるがまま、ヤシャは素直に窓を覗き込んだ。レースのカーテンを少しだけ捲り、外からは見ていることがバレなさそうな絶妙な角度から。私の位置からは別段怪しい人影も見えないが……。
「どう?」
「わカらナいホうガいイ」
「やかましいわ。さっさと答えて」
「ノリ悪いな。アシュのくせに」
「どういうくせだよ」
「ヒノが気にしてんの、あそこに突っ立ってる女だろ」
「ああ。私が来た時にはもういたぞ」
誰がいるんだ? ヒノリが真っ先にヤシャに見てもらうってことは、怪異か呪術師がいるんだろうけれど。相手が似たような邪眼持ちだったとしても、ヤシャなら呪いを相殺できるからこんな時の一番槍に適役なんだよね。羨ましい限りだ。私は体質のせいで倍のダメージを食らいかねないのに……。
「アシュは見ても大丈夫だと思うぜ。グレンは止めとけ」
「なんで?」
「お前が見たら死ぬぞ。たぶん」
「いきなりベクトル変わったじゃん」
グレンの緊張感の無さったら……。ヒノリが盛大にため息を吐いたじゃないか。苦笑いを浮かべつつ、先程のヤシャと同じ角度から忍びやかに外を覗くと――ツバの広い白い帽子を目深に被った、白いワンピースの長躯の女が佇んでいるのが見えた。
「嘘、」
スラスラと外の女の特徴を言えば、グレンは案の定心当たりがあるみたいだ。ほら見たか、ヒノリ。今回の私は絶対に無実だぞ!
「そのひと、ずっとオレについて来るんだ。ようやく撒いたと思ってたのに、」
「アレはそんな簡単に撒ける存在じゃないぞ」
「ヒノリは、アレがなんなのか知ってるの?」
「キャロルが知らないのは無理ないか。アレ、《八尺様》だろ?」
ヒノリに問われ、私とヤシャは何度もうなずいた。
よもや竜動 で遭う日が来るなんて誰が思っただろうか。「そもそも八尺様って実在したんだ⁈」って驚きの方が勝っている。
「みんなの知り合い?」
「知り合いになって堪るか。こっちが願い下げだ」
「じゃあ、厄介モノなんだ」
グレンってば、ヒノリの反応で相手を量るんじゃないよ。
「『サマ』までが名前? たしか、神様 に付く言葉だよね?」
「アシュ。説明よろ」
「あたしがやるの?」
「めんどくさい」
「あんまり詳しくない」
きっぱり「面倒」と言い切ったのはヤシャで、まさかの無知を明言したのはヒノリだ。祓い屋の名家・天花 家、都市伝説は専門外ってこと? まあ、祓い屋が全部を知らなきゃダメってことはないだろうけどさぁ……。
「まず、尺ってのは昔の日本で使ってた長さの単位ね。八尺をメートルに直すと、だいたい240㎝」
「身長240㎝のひとだから八尺様?」
「そういうこと」
語り手によって差異はあれど、八尺様は「白いものを被っている」というのが共通項だ。「白いワンピースを着ている」も定着しつつあるらしい。
「人間にとって遭遇したくないモノなのは間違いないね。男を取り殺すって言われてるよ」
「男だけ?」
「うん。女が被害に遭ったって話、ないっぽいんだよね。その辺は《スレンダーマン》と違うかな」
「あ、そういうタイプか」
「似たような感じだけど、同じではないよ」
つい最近クラスメイトと映画を観た、と言っていたグレンはすぐにイメージが浮かんだようだ。一方で、ヒノリは新たな怪異の名前に顔を顰めている。
「八尺様に似たのがもうひとりいるのかよ?」
「そんなに気になるなら、今度一緒に映画――」
「観ない! 一生観ない!」
食い気味に断られちゃった。ヒノリはあいかわらずホラー系が苦手なんだなぁ。
「で、その八尺様に目をつけられたらどうなるの?」
「なにもしなければ死にます」
「死ぬ、」
「どんなふうに殺されるかは、殺されてみないとわからない」
「わかりたくない」
「さすがに『半分だけ殺されて来い』とか言わないよ。シャオじゃないし」
「ンな物騒なこと、さすがのシャオも言わねーだろ」
「やっぱりそういう人なのか? セトさんからも度々そういうニュアンスのことを言われるぞ」
だって、私たちと遊べないから「ホラー案件起きろ」って呪詛を残すような奴だぞ? いくらなんでも八尺様を仕向けるようなことはしないと信じているが。
「ざっとだが、キャロルは魅入られている。このままだと死ぬ。以上だ」
「淡々と死ぬって言われた……」
「ヒノリちゃん、グレンは助けられるんだよね?」
私はあくまでも話を知っているだけ、語るだけ、考察と解釈を巡らすだけ。祓えるのはヒノリしかいないのだ。ヤシャもまあ、見習いではあるから祓える側の人間だけど……。
「私が『無理』って言うと思ったか?」
「俺が『諦めろ』って言うわけねえだろ」
さすがは現役の祓い屋と邪眼師(見習い)、グレンを助けること大前提だ。返答かっこよすぎない⁈
「ま、外のアレが本当に八尺様かは疑問だが」
「そうなの?」
「実際に目の当たりにすればアシュもわかるぞ。あの女、いままで遭遇した怪異や鬼とは根本的に違う感じがする」
ヒノリの祓い屋としての勘だろうか?
たしかに、窓から見える女の見た目は都市伝説どおりの八尺様だけど……それだけだもんね。
「八尺様って、男を取り殺す以外の目立った能力は不明だからなぁ……」
「ただ見かけが同じってだけで、本当は八尺様じゃない可能性もあるってこと?」
「だな。巨人症の清楚系が突然グレンのストーカーを始めた説も考えられるぜ」
「そっちの方が怖いだろ。止せや。そもそも、日本の都市伝説が竜動にいる訳も検討がつかない。ご都合主義か?」
「急にメタいこと言わないでよ、ヒノリちゃん。八尺様は封印が解けたから、どこへでも行けるようになったんだよ」
「それで竜動にいるとか自由にも程があるだろ」
「自由人 に一番言われたくないと思う」
「おい女子コンビ。お前らまでうなずくな」
八尺様ってたしか、日本のどこかでお地蔵様を活用した結界に封じ込められていたんだよね。その結界を誰かが壊したから八尺様は自由になった、そんな終わり方だったはず。いったい誰がお地蔵様の結果を壊したのか――考察しがいがあって困っちゃうな〜!
「ゲームで遊んでる場合じゃなくなったが――。安心しろ、キャロル。絶対に助けてやるから」
頼もしすぎるヒノリの言葉に、どこか不安げだったグレンもコクンとうなずいた。
グレンが探偵局に足を踏み入れた途端、玄関に向けて飾っていた注連縄がブツリと切れて落ちた。
これって――
「……どういう状況?」
「非常事態だね」
グレンが困ったように私を見てくるが、どうしろって言うの。私だって困ってるんだが?
なにせ、無自覚に周囲にバフ盛りする厄介な体質を持つ私は、その体質のせいでいろんなモノに魅入られやすいし憑かれやすい。いちいち祓い屋を探すのも面倒だから、外で勝手に憑いてきたモノを出入り口で祓い落としてそれっきりにする――そのために注連縄を飾っていたんだ。
ところが、その注連縄が切れてしまった。守ってもらっている私が、一歩も外に出ていないのに。いましがた外からやって来たグレンがリビングに足を下ろした瞬間、注連縄が限界を迎えて落ちた。つまり、彼がナニかを持って来たってことで……。
もしかすると、グレンが持ってきたナニかが私の触媒体質で強化された可能性も十分にある。注連縄が一気に限界を迎えるなんて、相当ヤバいけど⁈
「グレン、ナニを連れて来たの?」
「連れて来てないよ。オレひとりで来たし」
ずっとキョトンとしているグレンの後ろで、書斎机の一番上の引き出しがガタガタと音を立て始めた。お⁈
「あ、先越された」
怪奇現象でもなんでもない、どこからかやって来たただのヤシャだった。
「注連縄切れてんじゃん。どっちの仕業だよ」
「グレンだよ。あたしはどこにも出掛けてないもん」
「ナニに目を付けられたんだよ、お前」
「そんなこと言われてもわからない」
裸眼のままだとわかりづらいのか、ヤシャは肌と同化させた
「なんだこれ」
「普通の“呪われてる”と、ちょっと違う感じだよね?」
「だな。アシュもなったことねぇパターンじゃん」
「ふたりがわかんないなら、オレはもっとわかんないよ?」
「憑かれてる本人がなに言ってんだ。今日の行動全部思い出してイチから話せ」
本人はわからないだろうが、黒い靄のようなモノがグレンに色濃く纏わりついているんだ。明らかに、誰かにナニかをされた痕だ。それなのに、ナニをされたのかが私とヤシャには判別できない。
このままだとマズいってのは解るんだけどね?
「もしかして詰んでる?」
「全然。解る人がまもなく来るしね」
今日のお泊まり会に参加する最後のメンバー……私の幼馴染なら、グレンがどうなろうとしているのかが一目で解るはずだ。
玄関のドアの向こうに人の気配がする。ちょうどいいタイミングで来てくれたようだ。
「――というわけで、スペシャリストをお呼びしております! パチパチパチ〜」
手を叩く擬音語につられて、ヤシャが大げさなまでに拍手をしてくれた。君なら絶対に乗ってくれると思ったよ。
「ヒノリちゃんで――」
「アシュかキャロルだな⁈ どっちか? どっちもか? ナニやらかした⁈」
さすがはスペシャリスト、入る前からもうトラブルの気配を察知していた。しかも原因は私かグレンの2択と来たよ。泣いてもいいかな? 今回は私、なんにも悪くない!
†
「注連縄が切れたのかよ。相当まずいな」
スペシャリストもといヒノリ・テンカは、ため息を吐きながら丸眼鏡のブリッジを押し上げた。
「ヤシャ。百聞は一見に如かずだ。外覗いてみろ」
「おう、なんかいるんだな」
言われるがまま、ヤシャは素直に窓を覗き込んだ。レースのカーテンを少しだけ捲り、外からは見ていることがバレなさそうな絶妙な角度から。私の位置からは別段怪しい人影も見えないが……。
「どう?」
「わカらナいホうガいイ」
「やかましいわ。さっさと答えて」
「ノリ悪いな。アシュのくせに」
「どういうくせだよ」
「ヒノが気にしてんの、あそこに突っ立ってる女だろ」
「ああ。私が来た時にはもういたぞ」
誰がいるんだ? ヒノリが真っ先にヤシャに見てもらうってことは、怪異か呪術師がいるんだろうけれど。相手が似たような邪眼持ちだったとしても、ヤシャなら呪いを相殺できるからこんな時の一番槍に適役なんだよね。羨ましい限りだ。私は体質のせいで倍のダメージを食らいかねないのに……。
「アシュは見ても大丈夫だと思うぜ。グレンは止めとけ」
「なんで?」
「お前が見たら死ぬぞ。たぶん」
「いきなりベクトル変わったじゃん」
グレンの緊張感の無さったら……。ヒノリが盛大にため息を吐いたじゃないか。苦笑いを浮かべつつ、先程のヤシャと同じ角度から忍びやかに外を覗くと――ツバの広い白い帽子を目深に被った、白いワンピースの長躯の女が佇んでいるのが見えた。
「嘘、」
スラスラと外の女の特徴を言えば、グレンは案の定心当たりがあるみたいだ。ほら見たか、ヒノリ。今回の私は絶対に無実だぞ!
「そのひと、ずっとオレについて来るんだ。ようやく撒いたと思ってたのに、」
「アレはそんな簡単に撒ける存在じゃないぞ」
「ヒノリは、アレがなんなのか知ってるの?」
「キャロルが知らないのは無理ないか。アレ、《八尺様》だろ?」
ヒノリに問われ、私とヤシャは何度もうなずいた。
よもや
「みんなの知り合い?」
「知り合いになって堪るか。こっちが願い下げだ」
「じゃあ、厄介モノなんだ」
グレンってば、ヒノリの反応で相手を量るんじゃないよ。
「『サマ』までが名前? たしか、
「アシュ。説明よろ」
「あたしがやるの?」
「めんどくさい」
「あんまり詳しくない」
きっぱり「面倒」と言い切ったのはヤシャで、まさかの無知を明言したのはヒノリだ。祓い屋の名家・
「まず、尺ってのは昔の日本で使ってた長さの単位ね。八尺をメートルに直すと、だいたい240㎝」
「身長240㎝のひとだから八尺様?」
「そういうこと」
語り手によって差異はあれど、八尺様は「白いものを被っている」というのが共通項だ。「白いワンピースを着ている」も定着しつつあるらしい。
「人間にとって遭遇したくないモノなのは間違いないね。男を取り殺すって言われてるよ」
「男だけ?」
「うん。女が被害に遭ったって話、ないっぽいんだよね。その辺は《スレンダーマン》と違うかな」
「あ、そういうタイプか」
「似たような感じだけど、同じではないよ」
つい最近クラスメイトと映画を観た、と言っていたグレンはすぐにイメージが浮かんだようだ。一方で、ヒノリは新たな怪異の名前に顔を顰めている。
「八尺様に似たのがもうひとりいるのかよ?」
「そんなに気になるなら、今度一緒に映画――」
「観ない! 一生観ない!」
食い気味に断られちゃった。ヒノリはあいかわらずホラー系が苦手なんだなぁ。
「で、その八尺様に目をつけられたらどうなるの?」
「なにもしなければ死にます」
「死ぬ、」
「どんなふうに殺されるかは、殺されてみないとわからない」
「わかりたくない」
「さすがに『半分だけ殺されて来い』とか言わないよ。シャオじゃないし」
「ンな物騒なこと、さすがのシャオも言わねーだろ」
「やっぱりそういう人なのか? セトさんからも度々そういうニュアンスのことを言われるぞ」
だって、私たちと遊べないから「ホラー案件起きろ」って呪詛を残すような奴だぞ? いくらなんでも八尺様を仕向けるようなことはしないと信じているが。
「ざっとだが、キャロルは魅入られている。このままだと死ぬ。以上だ」
「淡々と死ぬって言われた……」
「ヒノリちゃん、グレンは助けられるんだよね?」
私はあくまでも話を知っているだけ、語るだけ、考察と解釈を巡らすだけ。祓えるのはヒノリしかいないのだ。ヤシャもまあ、見習いではあるから祓える側の人間だけど……。
「私が『無理』って言うと思ったか?」
「俺が『諦めろ』って言うわけねえだろ」
さすがは現役の祓い屋と邪眼師(見習い)、グレンを助けること大前提だ。返答かっこよすぎない⁈
「ま、外のアレが本当に八尺様かは疑問だが」
「そうなの?」
「実際に目の当たりにすればアシュもわかるぞ。あの女、いままで遭遇した怪異や鬼とは根本的に違う感じがする」
ヒノリの祓い屋としての勘だろうか?
たしかに、窓から見える女の見た目は都市伝説どおりの八尺様だけど……それだけだもんね。
「八尺様って、男を取り殺す以外の目立った能力は不明だからなぁ……」
「ただ見かけが同じってだけで、本当は八尺様じゃない可能性もあるってこと?」
「だな。巨人症の清楚系が突然グレンのストーカーを始めた説も考えられるぜ」
「そっちの方が怖いだろ。止せや。そもそも、日本の都市伝説が竜動にいる訳も検討がつかない。ご都合主義か?」
「急にメタいこと言わないでよ、ヒノリちゃん。八尺様は封印が解けたから、どこへでも行けるようになったんだよ」
「それで竜動にいるとか自由にも程があるだろ」
「
「おい女子コンビ。お前らまでうなずくな」
八尺様ってたしか、日本のどこかでお地蔵様を活用した結界に封じ込められていたんだよね。その結界を誰かが壊したから八尺様は自由になった、そんな終わり方だったはず。いったい誰がお地蔵様の結果を壊したのか――考察しがいがあって困っちゃうな〜!
「ゲームで遊んでる場合じゃなくなったが――。安心しろ、キャロル。絶対に助けてやるから」
頼もしすぎるヒノリの言葉に、どこか不安げだったグレンもコクンとうなずいた。