第3怪 レディ・ルナティックご乱心 ―八尺様―
「男女4人、密室、アンブローズ探偵局。なにも起きないはずがなく」
「ヘンなフラグ立てないでくれる?」
このロクデナシめ。僻み全開か? ラッコ鍋なんか用意しないっての。
「なんで私がいないときに限って面白いことするんだよ。ずりぃ! アシュの意地悪! ひねくれもん!」
みなさん、ご覧ください。信じられますか? これが、我らがアンブローズ探偵局の局長(36歳)です。
「夜中までゲームするだけだよ。百物語する訳じゃないんだから」
「それを遊ぶ選択肢にするとか、友達減るぞ」
「あんたに言われたくないんだけど」
「親睦を深めよう」って会ったばかりの私とエムリスに百物語を持ちかけて来たくせに、なにを常識人ぶってるんだ。意気揚々と応じた私とエムリスもどうかと思うけどな!
「私だってグレンの下手プレイ見て大笑いしたい!」
「さりげなくディスんないで。グレン、ちょっとは上手くなったからね」
なぜ、シャオが年甲斐もなく拗ねているのか? 理由はシンプルーー彼が家を空ける日に、私がお泊まりゲーム大会を計画したからだ。
そもそもどうしてそうなったのかといえば、今晩、このアンブローズ探偵局には大人が誰もいなくなるからだ。シャオはともかく、エムリスまでもが家を空けるなんてめずらしいんだよ。どんな用事かって聞いてもうまい具合に誤魔化されたけど、要は「聞くな」ってことだ。エムリスとは竜動 に引っ越してきた時からの付き合いだが、彼に関しては知らないことだらけだよ……。
探偵局には私とエムリス以外に3人目の下宿者もいるが、彼にはしばらく会っていない。最後に会ったのはいつだ?
――という訳で、今夜はこの探偵局に私独りきりになってしまう。それがいやで、ヤシャとグレンと幼馴染に声をかけたら意外とみんな乗ってくれたんだよね。「じゃあやるか」と密かに準備を進めていたら、よりによって当日にバレた。別に隠し通すつもりもなかったんだが、駄々をこねるのはわかってたからね。黙って決行して、事後報告で済ませるつもりだったんだけど、ボロが出てしまった。
「独りになるのがそんなにいやなら、伯爵家に帰りゃあ――」
「やだ」
「即答かよ」
伯爵家もといハイデルバッハ家とは、身寄りを亡くした私とヤシャの養子先だ。私たちのパパに恩があるとかなんとかで、きょうだいそろって引き取ってくれたんだ。優しい人たちだし、家族仲が悪いとかはないんだが……。
4年前、ある事件がきっかけで、私はハイデルバッハ家を飛び出し、アンブローズ探偵局の2階に下宿することになっていまに至る。最初の頃はそれこそハイデルバッハ家に居続けることが気まずかったせいだが、いまは理由が変わった。年々強くなっている体質のせいでまた事件を起こしかねないから、帰らない。帰りたくない。
「妹 チャンが寂しがってるってよ。『アシュが帰って来ないのは自分がこうなったから?』ってヤシャにも訊くらしいぜ。私もヤシャも違うって何度も言ってるけど、年頃の子は説得が難しいな」
無条件に周りの能力を引き上げるこの体質のせいで、妹 には取り返しのつかないことをしてしまった。養父母は私を責めなくなったし、「顔だけでも見せて」って言われるけれど……。たった1日でさえ帰る決心ができないまま、気づいたら4年も経っている。
「ヘタレめ」
「うるさいっ! あたしだって年頃なんだからな⁈ 説得してくれるんなら帰らないこともないけど」
「聞く耳持たねえ奴に説教するほど暇じゃねーっつの。帰らないなら、せめて家じゃない場所で会うぐらいはしてやれよ。向こうは本気でお前のことを心配してんだから」
「ロクデナシの介護しててかわいそうだって?」
「誰が介護だコノヤロウ」
シャオは煽りこそするけどいつも私側に立ってくれるし、提案はするけど強制しないでくれる。この4年間、そうやって私を守ってくれるんだ。意外だけど。
「いっそ私と一緒に泊まりに行くか? お前しか見てないハイデルバッハ家の【亡霊】、すげぇ気になるし」
……私の味方になってくれたのは、自分の好奇心を満たすためか? だからロクデナシって言われるんだよ。私はその【亡霊】に会いたくないっていうのに。
「そろそろ時間か。明日は日曜だから張り切って夜更かしするつもりだろうが、程々にしとけよ」
なんだかんだでシャオも親っぽいことを言うようになったよね。こんな親はいやだけど、シャオだって私みたいな娘はいやだろうから言うつもりもないが。
「気をつけてね。気になる心霊スポットを見つけても行かないでよ」
「あいつと一緒に行ったって面白くねーよ。毎度見送るたびにそれ言うけどさ、お前は私をなんだと思ってんだ?」
「ロクデナシのオカルトヲタク」
「口悪いな! 誰仕込みだよ? あいつか⁈」
「シャオ」
「はあ〜?? 私はもっとお上品だぞ!」
私が着替えなりなんなりを詰めてやったスーツケースを持ち、電車の切符片手にさあ出発――と思いきや、シャオがドアの手前でピタリと止まった。なに?
「なにか起きろ……。できればホラー案件が起きろ……!」
前言撤回。呪詛を残していくような奴が親っぽいわけあるもんか!
「ヘンなフラグ立てないでくれる?」
このロクデナシめ。僻み全開か? ラッコ鍋なんか用意しないっての。
「なんで私がいないときに限って面白いことするんだよ。ずりぃ! アシュの意地悪! ひねくれもん!」
みなさん、ご覧ください。信じられますか? これが、我らがアンブローズ探偵局の局長(36歳)です。
「夜中までゲームするだけだよ。百物語する訳じゃないんだから」
「それを遊ぶ選択肢にするとか、友達減るぞ」
「あんたに言われたくないんだけど」
「親睦を深めよう」って会ったばかりの私とエムリスに百物語を持ちかけて来たくせに、なにを常識人ぶってるんだ。意気揚々と応じた私とエムリスもどうかと思うけどな!
「私だってグレンの下手プレイ見て大笑いしたい!」
「さりげなくディスんないで。グレン、ちょっとは上手くなったからね」
なぜ、シャオが年甲斐もなく拗ねているのか? 理由はシンプルーー彼が家を空ける日に、私がお泊まりゲーム大会を計画したからだ。
そもそもどうしてそうなったのかといえば、今晩、このアンブローズ探偵局には大人が誰もいなくなるからだ。シャオはともかく、エムリスまでもが家を空けるなんてめずらしいんだよ。どんな用事かって聞いてもうまい具合に誤魔化されたけど、要は「聞くな」ってことだ。エムリスとは
探偵局には私とエムリス以外に3人目の下宿者もいるが、彼にはしばらく会っていない。最後に会ったのはいつだ?
――という訳で、今夜はこの探偵局に私独りきりになってしまう。それがいやで、ヤシャとグレンと幼馴染に声をかけたら意外とみんな乗ってくれたんだよね。「じゃあやるか」と密かに準備を進めていたら、よりによって当日にバレた。別に隠し通すつもりもなかったんだが、駄々をこねるのはわかってたからね。黙って決行して、事後報告で済ませるつもりだったんだけど、ボロが出てしまった。
「独りになるのがそんなにいやなら、伯爵家に帰りゃあ――」
「やだ」
「即答かよ」
伯爵家もといハイデルバッハ家とは、身寄りを亡くした私とヤシャの養子先だ。私たちのパパに恩があるとかなんとかで、きょうだいそろって引き取ってくれたんだ。優しい人たちだし、家族仲が悪いとかはないんだが……。
4年前、ある事件がきっかけで、私はハイデルバッハ家を飛び出し、アンブローズ探偵局の2階に下宿することになっていまに至る。最初の頃はそれこそハイデルバッハ家に居続けることが気まずかったせいだが、いまは理由が変わった。年々強くなっている体質のせいでまた事件を起こしかねないから、帰らない。帰りたくない。
「
無条件に周りの能力を引き上げるこの体質のせいで、
「ヘタレめ」
「うるさいっ! あたしだって年頃なんだからな⁈ 説得してくれるんなら帰らないこともないけど」
「聞く耳持たねえ奴に説教するほど暇じゃねーっつの。帰らないなら、せめて家じゃない場所で会うぐらいはしてやれよ。向こうは本気でお前のことを心配してんだから」
「ロクデナシの介護しててかわいそうだって?」
「誰が介護だコノヤロウ」
シャオは煽りこそするけどいつも私側に立ってくれるし、提案はするけど強制しないでくれる。この4年間、そうやって私を守ってくれるんだ。意外だけど。
「いっそ私と一緒に泊まりに行くか? お前しか見てないハイデルバッハ家の【亡霊】、すげぇ気になるし」
……私の味方になってくれたのは、自分の好奇心を満たすためか? だからロクデナシって言われるんだよ。私はその【亡霊】に会いたくないっていうのに。
「そろそろ時間か。明日は日曜だから張り切って夜更かしするつもりだろうが、程々にしとけよ」
なんだかんだでシャオも親っぽいことを言うようになったよね。こんな親はいやだけど、シャオだって私みたいな娘はいやだろうから言うつもりもないが。
「気をつけてね。気になる心霊スポットを見つけても行かないでよ」
「あいつと一緒に行ったって面白くねーよ。毎度見送るたびにそれ言うけどさ、お前は私をなんだと思ってんだ?」
「ロクデナシのオカルトヲタク」
「口悪いな! 誰仕込みだよ? あいつか⁈」
「シャオ」
「はあ〜?? 私はもっとお上品だぞ!」
私が着替えなりなんなりを詰めてやったスーツケースを持ち、電車の切符片手にさあ出発――と思いきや、シャオがドアの手前でピタリと止まった。なに?
「なにか起きろ……。できればホラー案件が起きろ……!」
前言撤回。呪詛を残していくような奴が親っぽいわけあるもんか!