第1怪 挨拶代わりのプロローグ ―幽霊屋敷探索―
2階の踊り場は、大きな肖像画が飾られたままになっていた。もしかして目が動いたりするかな?
「あの蝶みたいなの、どうやって描いたんだろうな」
「あー……天井の奴? たしかに、梯子使っても手届くかなってところにあるね」
「この絵、違和感ない?」
私たち、同じ光景を見ても気にするポイントが違うんだよな。私が怪奇現象しか期待していなかった反面、ヤシャは天井に描かれた落書きが気になって、片やグレンは肖像画そのものを観察していて。
モデルはおそらくこの廃墟の元主人とその家族だろう。でっぷり肥えた男と、豪奢なドレスとアクセサリーで着飾った細身の女、ふたりの間に立っている気が強そうな女の子――。
「アシュ。目玉動いたりしてないか?」
「全然」
「なんだよ。つまんねーな」
このオカルトヲタクと同じこと考えてたのか……。一生の不覚。
「強いて挙げるなら、この女の子の隣に誰かいてもよさそうだよネ」
エムリスの言うとおり、女の子の左隣、主人の腰から下――不自然に空いているような気がした。グレンはその余白に違和感があると言ってるんだろうか?
「ここに住んでた家族の話とかはサイトにないのか?」
「うーん……。某伯爵家の三男坊で、一晩で一家全員が不審死、って嘘か本当かわからない話があったような」
「一家ってこの3人?」
「人数まではさすがに書いてなかったよ」
「管理人なら知ってるんじゃないかい? 聞いてみようか?」
「お願い」
エムリスのフォロー、本当にありがたい。うちのロクデナシ局長なんて、まともなアドバイスすらしないでひたすら私たちや幽霊を煽るばっかりだぞ。
バタンッ
どこかでドアが閉じる音がした。さっきよりも近くで。
†
「ここを開けたらなにが出てくるか賭けようぜ。当たった奴には、探偵局の冷蔵庫でキンキンに冷えたレモネードをプレゼント」
「「要らない」」
「は??」
ヤシャがなにを言うかと思えば、くだらない賭けだった。
しかし、こっちが乗らないと、ヤシャは永遠にドアを開けようとしないから付き合うしかない。
「なんかの彫刻」
「そろそろ幽霊が見たい!」
「コウモリかな。糞が落ちてたから、棲んでるはず」
私、シャオに続いて、グレンも賭けに乗った。生き物の糞なんてあったんだ? 全然気づかなかったや。
2階が見応えスポットと言われていた理由はすぐにわかった。一家の寝室や、蒐集家だった主人のコレクション・ルームが集中していたから。そして、部屋のドアを開けるたびに、なかから物が飛び出してくるポルターガイスト現象が続いていた。
だが、ただそれだけ。さすがに飽きた。だからこそ、ヤシャも賭けを始めたんだと思う。
「ボクも乗っていい?」
「いいぞ」
「ベッドだと思うな」
「大胆だなーエムリス」
「さすがにそれはないだろ。デカいし」
グレンもヤシャも笑っているが、エムリスの勘の良さを知っている私は確信した。この賭け、エムリスの独り勝ちだな。
「んじゃ、開けるぞ。3、2、1――」
ヤシャがドアを開ける寸前、シングルベッドが猛スピードでドアを突き破って来た。
「うおぉっ」
幸い、神がかり的な反射神経で一斉に避けたから、誰も巻き込まれることはなかった。
ベッドは、私たちの後ろにあった窓枠ごと中庭へ落ちていった……。
「俺のレモネードがエムリスに取られた……」
「そんなに悔しいなら賭けなきゃいいのに」
グレンのマジレス、ご尤も。
†
「コレクション・ルーム、ちゃっちいな」
「値打ちモノはもうないんじゃない? 盗まれたか回収されたかはわからないけど」
いま残っているのは偽物かレプリカじゃないだろうか。誰かさんの彫刻に、バースデー・パーティにしか使えなさそうなサングラスが掛かってたけど、ゴミを捨てたつもりなのか悪戯なのか……。
「ポスターガイストばっかでつまんねぇな。そろそろ幽霊に遭遇したい」
「今回は、幽霊 を見つけないと依頼達成じゃないからな? しかも結構いい額で払ってくれる約束だ。手抜くなよお前ら!」
「いまさらそれ言うの? 中庭に落ちたベッドの修理費とか請求されない?」
「それはボクもチラッと考えたけど、証拠の動画もあるから無実だって言い張れるヨ」
「そうそう! セーフセーフ!」
「シャオもエムリスも、意外と現金だな」
「だって、もらえるところからガッポリもらっとかないと。面白そうな無償依頼を引き受ける余裕がなくなるでしょ」
「アシュにも伝染してる?」
私たちがここにいるのは、「本当に幽霊がいるのかどうかを調べてほしい」とセト先生伝に依頼があったからだ。例の動画のせいで不法侵入が増えて困ってるんだって。本当に幽霊屋敷なのかを見極めて今後どうするかを慎重に検討したいから、怪奇専門の我らがアンブローズ探偵局に調べてほしい――というわけだ。
「幽霊が本当にいるってわかったら、どうするつもりなんだろう?」
「今度は『祓ってくれ』って頼まれたりしてな」
「あたしたちで祓えるレベルだといいけど――」
タンッ トンッ トンッ……
突然、誰かが歩いている音が聞こえてきた。
「……セト先生?」
「いや、セトクンは向かってる最中だヨ」
「先遣隊?」
「要は不法侵入者だろ。もっと早いうちに物音がしねえとおかしくないか?」
あ、なるほど。ヤシャの言うとおりだ。足音以外に話し声が聞こえてもおかしくないよね。
「あれ? 遠ざかってる?」
足音はこっちに来ず、私たちが向かう方へ歩いているらしかった。
「もしかして、オレたちを誘ってるのかな?」
グレンが呟いたそれに、私はふと閃いた。
「――ここの怪奇現象、矛盾してない?」
シャンデリアの落下。階段を軋ませて嗤う声。「部屋に入るな」と言いたげなポスターガイスト現象。
片や、閉じ続けるドアの音。現在進行形の足音。
「あたしたちを追い出そうとしてるのかと思えば、もっと奥の方へ誘おうとしてて……」
私たちを追い出したいのか、誘いたいのか。
「幽霊はふたりいるんじゃないかな。あたしたちを追い出したいヤツと、逆に来てほしいヤツと、」
自分でそれを口にした途端、急に寒気が襲って来た。さっきまでは全然普通だったのに、外で感じた“ヤバい”気配がいきなり身近に迫ってきたような気がする。
「正確な数はわからないけど、ここ、幽霊はいるよ。間違いなく」
「とりあえず足音のほうに突っ込んで行ったらどうだ? なんかわかるだろ」
シャオはここにいないからあっさり言えるんだよ。言うだけなら簡単だし⁈
「危ないと思ったらセトクンが来るまでじっとしていればいいヨ。3人一緒なら怖くないだろう?」
「まあ、たしかに心強いね……」
エムリスにまで言われちゃったら、行くしかないじゃん。グレンとヤシャもうなずいたし。
途中の部屋に一切寄らず、私たちは足音がする方へ進むことにした。
†
「ここみたいだな」
屋敷の最奥――突き当たりの部屋の前に、古ぼけたぬいぐるみが落ちていた。私たちへの目印のつもりか?
「急に冷気がすごくなってきた」
「うん。ここだけ雰囲気が違う……」
ヤシャもグレンも、空気が一変したことに気づいたらしい。だが、それがどうした。いまさら怯むはずがない。
「アシュ。ドアの前に移動」
「はいはい」
「はいは1回!」
「はーい」
「伸ばすな!」
うるさいなあ、シャオ。あんたが乗ってる電車、もう他に人がいるよね? 話し声とか拾ってるし。構わず通話を続けるシャオがすごいわ。絶対見習いたくない。
「開けるぞ」
率先してヤシャがドアノブに手をかけたが、慎重だったのはその瞬間だけ。だって、もうこの部屋にいるのはわかりきってるし。
ヤシャは、自分の家のような気軽さでドアを開けた。緊張感ゼロ。
うああああああぁぁあぁぁぁ!!!!
不気味な叫び声を上げながら、恨み辛み全開の幽霊が私たちに迫ってきた――
「【邪魔】」
「ギャッ⁈」
幽霊はまっすぐ床に落ちた。出会い頭に【邪眼】、ヤシャってば本当に容赦ない。
この様子だと、金縛りを起こしたのかな。いきなり手足が動かせなくなったもんだから、幽霊はパニック状態に陥っていた。
「いっ、なんで? なんで動けないの⁉︎」
「よう。お憑かれさん」
「なんなのよアンタ! 私になにをしたの⁈」
「【邪眼】使っただけだけど」
「はぁ⁈ なんなのよアンタたち! 全然ビビらないじゃないっ! 脅かし甲斐なくてムカつくんだけど!」
「ほら見ろティーンズ! 幽霊キレてんじゃん! わざとでもビビったふりしろって言っただろ」
「「「嘘つけロクデナシ」」」
「演出がつまんねえ」って一番ディスってたくせになにを言うか、シャオめ。
「最近は1階で逃げていく奴らばっかりだったのに〜! なんなのよもう! 変な細工までして動けなくしてきやがるし! わたしにこんなことしていいと思ってんの⁈」
「「「「「「うん」」」」」」
「全員即答かッ!! 鬼!!」
完全にこっちのペースに乗せられちゃって、ご愁傷様。相手が悪いよ。……いま、声がひとり分多かったような気がするが。
「その子、肖像画の女の子だろう? あんまりお嬢様っぽくないネ」
エムリスのご指摘どおり、この幽霊は間違いなく肖像画のあの娘だ。絵のなかでは勝気そうに釣り上がっていた眉尻は、いまやハの字に下がりきっているが。口調も全然お嬢様っぽくないが。
「シャンデリアの奴はお前が殺したのか?」
「そうよ! ムカついたんだもん! 何度も侵入して下品に笑うからっ」
「肝試しに来た人を追い返してたのも、君の仕業?」
「自分の家に無断で誰かが入ってきたらアンタだって追い出すでしょ? 当然のことをしたまでよ!」
「それでベッドを飛ばすって発想になるかな。お嬢様ってもっとお淑やかだと思ってた」
「アンタたちが全然怖がらないのが悪いのよッ!」
グレンは悪気ないよ? 純粋に思ったことを言っただけだからね? 煽りとしては最高だけど。
……テ
「ん?」
……シテ ダシテ ココカラ、
「『ここから出して』?」
「あの蝶みたいなの、どうやって描いたんだろうな」
「あー……天井の奴? たしかに、梯子使っても手届くかなってところにあるね」
「この絵、違和感ない?」
私たち、同じ光景を見ても気にするポイントが違うんだよな。私が怪奇現象しか期待していなかった反面、ヤシャは天井に描かれた落書きが気になって、片やグレンは肖像画そのものを観察していて。
モデルはおそらくこの廃墟の元主人とその家族だろう。でっぷり肥えた男と、豪奢なドレスとアクセサリーで着飾った細身の女、ふたりの間に立っている気が強そうな女の子――。
「アシュ。目玉動いたりしてないか?」
「全然」
「なんだよ。つまんねーな」
このオカルトヲタクと同じこと考えてたのか……。一生の不覚。
「強いて挙げるなら、この女の子の隣に誰かいてもよさそうだよネ」
エムリスの言うとおり、女の子の左隣、主人の腰から下――不自然に空いているような気がした。グレンはその余白に違和感があると言ってるんだろうか?
「ここに住んでた家族の話とかはサイトにないのか?」
「うーん……。某伯爵家の三男坊で、一晩で一家全員が不審死、って嘘か本当かわからない話があったような」
「一家ってこの3人?」
「人数まではさすがに書いてなかったよ」
「管理人なら知ってるんじゃないかい? 聞いてみようか?」
「お願い」
エムリスのフォロー、本当にありがたい。うちのロクデナシ局長なんて、まともなアドバイスすらしないでひたすら私たちや幽霊を煽るばっかりだぞ。
バタンッ
どこかでドアが閉じる音がした。さっきよりも近くで。
†
「ここを開けたらなにが出てくるか賭けようぜ。当たった奴には、探偵局の冷蔵庫でキンキンに冷えたレモネードをプレゼント」
「「要らない」」
「は??」
ヤシャがなにを言うかと思えば、くだらない賭けだった。
しかし、こっちが乗らないと、ヤシャは永遠にドアを開けようとしないから付き合うしかない。
「なんかの彫刻」
「そろそろ幽霊が見たい!」
「コウモリかな。糞が落ちてたから、棲んでるはず」
私、シャオに続いて、グレンも賭けに乗った。生き物の糞なんてあったんだ? 全然気づかなかったや。
2階が見応えスポットと言われていた理由はすぐにわかった。一家の寝室や、蒐集家だった主人のコレクション・ルームが集中していたから。そして、部屋のドアを開けるたびに、なかから物が飛び出してくるポルターガイスト現象が続いていた。
だが、ただそれだけ。さすがに飽きた。だからこそ、ヤシャも賭けを始めたんだと思う。
「ボクも乗っていい?」
「いいぞ」
「ベッドだと思うな」
「大胆だなーエムリス」
「さすがにそれはないだろ。デカいし」
グレンもヤシャも笑っているが、エムリスの勘の良さを知っている私は確信した。この賭け、エムリスの独り勝ちだな。
「んじゃ、開けるぞ。3、2、1――」
ヤシャがドアを開ける寸前、シングルベッドが猛スピードでドアを突き破って来た。
「うおぉっ」
幸い、神がかり的な反射神経で一斉に避けたから、誰も巻き込まれることはなかった。
ベッドは、私たちの後ろにあった窓枠ごと中庭へ落ちていった……。
「俺のレモネードがエムリスに取られた……」
「そんなに悔しいなら賭けなきゃいいのに」
グレンのマジレス、ご尤も。
†
「コレクション・ルーム、ちゃっちいな」
「値打ちモノはもうないんじゃない? 盗まれたか回収されたかはわからないけど」
いま残っているのは偽物かレプリカじゃないだろうか。誰かさんの彫刻に、バースデー・パーティにしか使えなさそうなサングラスが掛かってたけど、ゴミを捨てたつもりなのか悪戯なのか……。
「ポスターガイストばっかでつまんねぇな。そろそろ幽霊に遭遇したい」
「今回は、
「いまさらそれ言うの? 中庭に落ちたベッドの修理費とか請求されない?」
「それはボクもチラッと考えたけど、証拠の動画もあるから無実だって言い張れるヨ」
「そうそう! セーフセーフ!」
「シャオもエムリスも、意外と現金だな」
「だって、もらえるところからガッポリもらっとかないと。面白そうな無償依頼を引き受ける余裕がなくなるでしょ」
「アシュにも伝染してる?」
私たちがここにいるのは、「本当に幽霊がいるのかどうかを調べてほしい」とセト先生伝に依頼があったからだ。例の動画のせいで不法侵入が増えて困ってるんだって。本当に幽霊屋敷なのかを見極めて今後どうするかを慎重に検討したいから、怪奇専門の我らがアンブローズ探偵局に調べてほしい――というわけだ。
「幽霊が本当にいるってわかったら、どうするつもりなんだろう?」
「今度は『祓ってくれ』って頼まれたりしてな」
「あたしたちで祓えるレベルだといいけど――」
タンッ トンッ トンッ……
突然、誰かが歩いている音が聞こえてきた。
「……セト先生?」
「いや、セトクンは向かってる最中だヨ」
「先遣隊?」
「要は不法侵入者だろ。もっと早いうちに物音がしねえとおかしくないか?」
あ、なるほど。ヤシャの言うとおりだ。足音以外に話し声が聞こえてもおかしくないよね。
「あれ? 遠ざかってる?」
足音はこっちに来ず、私たちが向かう方へ歩いているらしかった。
「もしかして、オレたちを誘ってるのかな?」
グレンが呟いたそれに、私はふと閃いた。
「――ここの怪奇現象、矛盾してない?」
シャンデリアの落下。階段を軋ませて嗤う声。「部屋に入るな」と言いたげなポスターガイスト現象。
片や、閉じ続けるドアの音。現在進行形の足音。
「あたしたちを追い出そうとしてるのかと思えば、もっと奥の方へ誘おうとしてて……」
私たちを追い出したいのか、誘いたいのか。
「幽霊はふたりいるんじゃないかな。あたしたちを追い出したいヤツと、逆に来てほしいヤツと、」
自分でそれを口にした途端、急に寒気が襲って来た。さっきまでは全然普通だったのに、外で感じた“ヤバい”気配がいきなり身近に迫ってきたような気がする。
「正確な数はわからないけど、ここ、幽霊はいるよ。間違いなく」
「とりあえず足音のほうに突っ込んで行ったらどうだ? なんかわかるだろ」
シャオはここにいないからあっさり言えるんだよ。言うだけなら簡単だし⁈
「危ないと思ったらセトクンが来るまでじっとしていればいいヨ。3人一緒なら怖くないだろう?」
「まあ、たしかに心強いね……」
エムリスにまで言われちゃったら、行くしかないじゃん。グレンとヤシャもうなずいたし。
途中の部屋に一切寄らず、私たちは足音がする方へ進むことにした。
†
「ここみたいだな」
屋敷の最奥――突き当たりの部屋の前に、古ぼけたぬいぐるみが落ちていた。私たちへの目印のつもりか?
「急に冷気がすごくなってきた」
「うん。ここだけ雰囲気が違う……」
ヤシャもグレンも、空気が一変したことに気づいたらしい。だが、それがどうした。いまさら怯むはずがない。
「アシュ。ドアの前に移動」
「はいはい」
「はいは1回!」
「はーい」
「伸ばすな!」
うるさいなあ、シャオ。あんたが乗ってる電車、もう他に人がいるよね? 話し声とか拾ってるし。構わず通話を続けるシャオがすごいわ。絶対見習いたくない。
「開けるぞ」
率先してヤシャがドアノブに手をかけたが、慎重だったのはその瞬間だけ。だって、もうこの部屋にいるのはわかりきってるし。
ヤシャは、自分の家のような気軽さでドアを開けた。緊張感ゼロ。
うああああああぁぁあぁぁぁ!!!!
不気味な叫び声を上げながら、恨み辛み全開の幽霊が私たちに迫ってきた――
「【邪魔】」
「ギャッ⁈」
幽霊はまっすぐ床に落ちた。出会い頭に【邪眼】、ヤシャってば本当に容赦ない。
この様子だと、金縛りを起こしたのかな。いきなり手足が動かせなくなったもんだから、幽霊はパニック状態に陥っていた。
「いっ、なんで? なんで動けないの⁉︎」
「よう。お憑かれさん」
「なんなのよアンタ! 私になにをしたの⁈」
「【邪眼】使っただけだけど」
「はぁ⁈ なんなのよアンタたち! 全然ビビらないじゃないっ! 脅かし甲斐なくてムカつくんだけど!」
「ほら見ろティーンズ! 幽霊キレてんじゃん! わざとでもビビったふりしろって言っただろ」
「「「嘘つけロクデナシ」」」
「演出がつまんねえ」って一番ディスってたくせになにを言うか、シャオめ。
「最近は1階で逃げていく奴らばっかりだったのに〜! なんなのよもう! 変な細工までして動けなくしてきやがるし! わたしにこんなことしていいと思ってんの⁈」
「「「「「「うん」」」」」」
「全員即答かッ!! 鬼!!」
完全にこっちのペースに乗せられちゃって、ご愁傷様。相手が悪いよ。……いま、声がひとり分多かったような気がするが。
「その子、肖像画の女の子だろう? あんまりお嬢様っぽくないネ」
エムリスのご指摘どおり、この幽霊は間違いなく肖像画のあの娘だ。絵のなかでは勝気そうに釣り上がっていた眉尻は、いまやハの字に下がりきっているが。口調も全然お嬢様っぽくないが。
「シャンデリアの奴はお前が殺したのか?」
「そうよ! ムカついたんだもん! 何度も侵入して下品に笑うからっ」
「肝試しに来た人を追い返してたのも、君の仕業?」
「自分の家に無断で誰かが入ってきたらアンタだって追い出すでしょ? 当然のことをしたまでよ!」
「それでベッドを飛ばすって発想になるかな。お嬢様ってもっとお淑やかだと思ってた」
「アンタたちが全然怖がらないのが悪いのよッ!」
グレンは悪気ないよ? 純粋に思ったことを言っただけだからね? 煽りとしては最高だけど。
……テ
「ん?」
……シテ ダシテ ココカラ、
「『ここから出して』?」