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宇佐美
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記念日/宇佐美
今日は僕の誕生日だ。
さすがに成人してから何年も経つと、誕生日だからって彼女でもいないと今更誰かとお祝いをするなんてこともなくなる。周りから「誰か良い人いないの?」なんて言われることも増えた。結婚願望が強くあるわけではないが、好きな人はいる。というか、コイツ以外と結婚するくらいなら一生独身で良いとすら思っている相手だ。ここまできたのだからトコトン拗らせようと思えてきた今日この頃。そういうわけで、今日はせっかくなので自分1人の時間を楽しむことにした。
定時に仕事を終わらせさっさと退社して、帰りにケーキ屋で小さなケーキを買う。その後は真っ直ぐ帰宅して、仕舞い込んでいたちょっとお高いワインと、燻製のベーコン・チーズ・サーモンなんかもつまみに用意した。
1人の時間をしんみりと過ごしていると、スマホの着信音が鳴った。ほら、案の定僕を拗らせている張本人から連絡がきた。
「もしもし?」
『……時重、ちょっといい?』
ああ、可愛い。声だけでもう可愛いとか何なの?
「何?僕、せっかくの誕生日を満喫しているところなんだけど?」
腐れ縁というか何というか、電話の主は学生からの付き合いの夢主で、僕はずっとコイツが好きだ。でも、なんやかんやモテる夢主には変な虫が絶えず寄って来る。夢主も夢主で男の趣味が悪いというか、押しに弱いというか、変なのと付き合っては傷ついて別れるみたいなことを学習もせずに繰り返している。
夢主を諦めようとほかの女と付き合ったこともあるけど、結局どんな女も夢主と比較したらつまらなくって、フっちゃった。
最初は夢主と付き合えないことでハラワタが煮え繰り返った。別れさせようと画策したこともあったが、しょうもない男たちのせいで僕の評価が下がるのは御免だ。それに、なぜか夢主は僕のことをとても信用できる友人(それどころか親友)であると認識しているらしく、どの男と付き合っても僕との付き合い方はほとんど変わらなかった。男共が僕に嫉妬して嫌がらせをしてくることもあったが、生憎フィジカルで負けるようなか弱い男ではなかったので、簡単に返り討ちにできた。
と、まあそんなこんなで僕が拗らせた片想いの相手は、ちょうど僕の誕生日に電話をかけてきたので本音ではウキウキしながら応答したってわけ。
ところが電話口の夢主は涙声で僕の名前を呼んだ。
『……時重ぇ……ぐすっ』
え、何コレ凄い股間に響くんだけど?電話越しの泣き声ってエロい。そんな最低なことを考えつつも、努めて冷静な口調で返事をした。
「どうしたの?まさか夢主さ、僕の誕生日に別れたから慰めてとか言わないよね?」
『うぅ……だってぇ、彼氏が……彼氏が浮気してたんだもん……』
電話口でめそめそと泣き出した夢主に、僕はわざとらしくため息をついた。何度目だよ。っていうか付き合った時言ったじゃん、あいつ浮気性だと思うって。だから僕にしとけばいいのにさ。
「はぁ、わかったよ……ウチ来な。今どこらへん?迎えに行くから」
『ぐすっ……時重んちの近くのコンビニにいる……』
「全く。迎えにいくからナンパされないでよね?」
『……うん、ありがとう時重』
なんだかんだ惚れた相手には弱いんだよなぁ。
コンビニの駐車場に着くと、店の前で夢主が小さくなってしゃがんでいた。
「夢主」
声をかけると夢主は涙で濡れた顔で見上げてきた。ぐっ、と喉が鳴りそうになる。危ない危ない、あまりの破壊力に射精するところだった。
「時重……ごめん、誕生日なのに……」
「いいよ、夢主のことなんか大体わかってるし」
僕は平然とした顔で手を差し伸べる。夢主はちっちゃな手で僕の手を取った。何これもう結婚じゃない?
「ほら、もう泣くな。ウチで愚痴でも聞いてやるよ」
僕がそう言うと、夢主はこくんと頷いた。はぁぁぁ可愛い。抱きたい。
「お邪魔します」
「ん」
もう何度も来ているというのに、夢主は毎回少しだけ気まずそうに入ってくる。生活圏内に夢主がいるってだけでエロくない?なんでだろうね。
そんなことを考えているのに、表情だけは平静を装って夢主をソファに座らせる。
「ホットココアでいい?」
「お酒がいい……」
「だめ。うちにはヤケ酒できるようなつまんない酒置いてないから」
夢主はちょっとだけ唇を尖らせた。可愛い顔してもだめだっての。
僕はホットココアを用意して夢主にマグカップを差し出した。僕がソファの隣に腰かけると、「ありがと」と真っ赤な目のままこちらを見てお礼を言う夢主。そしてふーっと息を吹きかけてから恐る恐るといった様子で、ずずず……と熱そうにちょっとだけ飲む夢主。手も口もちっちゃくて可愛いなぁ……。
「で?夢主これからどうすんの?浮気されたんだから、当然別れるんでしょ」
「うん……」
口数の少ない夢主だが、ぽつりぽつりと経緯を話す。ほとんど予想の範囲内だったから、話は半分に聞いていて頭の中では夢主の瞳の動きや声のトーンなんかを五感で感じて楽しんでいた。なんで僕はこんなに夢主のことが好きなのに、いつも夢主は僕のこと見てないんだろう。
しばらく夢主を見つめていたら、話がひと段落ついたのだろう夢主がこちらを見た。大きな瞳が僕を見つめる。
「……時重」
「ん、なに?」
「時重ってさ、たまに私の話聞いてないでしょ」
図星だった。夢主が僕を見ていた事実で舞い上がりそうになる。でも全く顔には出さない自信があるので、とぼけてみせた。
「なに言ってんの、誕生日なのにつまんない話聞いてやってんだよ」
「……でも、時重って時々寂しそうな顔するよね」
「え?」
驚いた。夢主には全く悟られていないと思ったし、夢主が鈍感だからこそ清く正しく友人の関係性でいられたというのに。
「あのさ、別れたばっかでこんなこと言うと尻軽女って思われるかもしれないけど……」
「うん?」
内心では心臓がバクバクしていた。これは、もしかして?
しかし夢主は見事に期待を裏切ってくれる。夢主は僕へ柔らかく微笑みながら、続けた。
「いつもありがとう」
「……なにそれ」
拍子抜けだった。違うじゃん。僕の良さに気づいて告白する流れだったじゃん、コイツはまったくもう。
ああ、わかったよ。このまま一生片思いしているつもりだったけど、今のはさすがに堪えた。好意にすら気づいてもらえないっていうのは、好きな人が誰かと付き合っている状態より辛いってことだ。
僕はため息をつきながら立ち上がると、ダイニングにあった飲みかけのワインを瓶から直接煽った。普段なら絶対にしないような挙動に、夢主が目を丸くしているのが視界の端に映るが構わない。
ふう、と一息つき空になったワイン瓶を乱暴にテーブルに置いて、夢主の元へ戻る。夢主はきょとんとして首を傾げている。
僕はおもむろに夢主の肩を押してソファに押し付ける。夢主は半分くらい入ったココアのマグカップを零さないように気を取られていて、わっ、と声をあげてカップを握りしめていた。壁ドンならぬ、ソファドンってやつ?すっぽりソファに埋もれる夢主に上から顔を近づける。
「あのさ、信頼してくれてるところ悪いんだけど、僕は長年下心で夢主の友達やってんの。いい加減気づいてくれない?」
「うん?え?は?えぇ?」
素っ頓狂な声を上げて夢主が混乱している。ぽかん、と口が開いている間抜けな顔すら可愛いと思う。そして数秒後には言葉の意味を理解したのか、おろおろし始めた。
「え、え、じゃあ時重って、私のこと……?」
「そういうこと。全く、十何年も人のこと振りまわしといて、一ミリも想ってくれてないんだね?」
「時重、好きな人いるっていつも言ってたから……」
夢主の顔がほんのり赤く染まっている。普段よりも近い距離で堂々と観察できて嬉しい。
「夢主だけど?」
至近距離で瞳孔がくぱぁと開きそうなくらい目を見開いて夢主を見つめる。反対に夢主の瞳はきょろきょろと落ち着きなく動いた。僕はそのままの体勢で夢主を凝視し続ける。さながら獲物を狙う捕食者のようだろう。夢主は脅えてしまうだろうか。例えこれで嫌われても、もう気持ちが伝わるのならばどうでもいい。そう思えるくらいにアルコールが回ってきていた。
夢主の視線はウロウロと彷徨っていたが、ふっと目を細めて笑い出すとぽつりと呟いた。
「そうだったのかぁ……嬉しいな」
「!」
ったくもう、こいつは!襲っちゃいそうになるだろ!
内心でブチギレながら僕は夢主のちっちゃな手からマグカップを奪いテーブルに乱暴に置く。そして半ば夢主に馬乗りになるような形で覆い被さると、夢主の両頬を両手でガッと包んだ。
「っ?」
「ほんとに?本当に嫌じゃない?僕は今までの男たちと違って、束縛もするし容赦もしないし性欲は強いし大変だよ?」
「あは」
夢主は僕に両頬を押されて、口からふすっと息を吐き出した。ココアの甘い香りが漏れる。吐息すら愛おしいのかよ。もうやだこの女。沼じゃん。
「時重のことなら何でも知ってるよ。何年の付き合いだと思ってるの?私が知らなかったのは時重の片思いの相手だけだよ」
そうか。これでもう全部バレちゃったってことか。こっそりと秘密を抱えているのも楽しかったけど、全てを暴かれるのも意外と悪くないかもね。
「そ。なら良かった。安心して執着できる」
僕はそのまま夢主の両頬に手を添えたまま、唇を重ねた。
キスの後、夢主がくすぐったそうに笑った。
「ふふ、時重の誕生日が私たちの記念日になったね」
可愛いやつ。もう一生手放さないからな。
おわり
今日は僕の誕生日だ。
さすがに成人してから何年も経つと、誕生日だからって彼女でもいないと今更誰かとお祝いをするなんてこともなくなる。周りから「誰か良い人いないの?」なんて言われることも増えた。結婚願望が強くあるわけではないが、好きな人はいる。というか、コイツ以外と結婚するくらいなら一生独身で良いとすら思っている相手だ。ここまできたのだからトコトン拗らせようと思えてきた今日この頃。そういうわけで、今日はせっかくなので自分1人の時間を楽しむことにした。
定時に仕事を終わらせさっさと退社して、帰りにケーキ屋で小さなケーキを買う。その後は真っ直ぐ帰宅して、仕舞い込んでいたちょっとお高いワインと、燻製のベーコン・チーズ・サーモンなんかもつまみに用意した。
1人の時間をしんみりと過ごしていると、スマホの着信音が鳴った。ほら、案の定僕を拗らせている張本人から連絡がきた。
「もしもし?」
『……時重、ちょっといい?』
ああ、可愛い。声だけでもう可愛いとか何なの?
「何?僕、せっかくの誕生日を満喫しているところなんだけど?」
腐れ縁というか何というか、電話の主は学生からの付き合いの夢主で、僕はずっとコイツが好きだ。でも、なんやかんやモテる夢主には変な虫が絶えず寄って来る。夢主も夢主で男の趣味が悪いというか、押しに弱いというか、変なのと付き合っては傷ついて別れるみたいなことを学習もせずに繰り返している。
夢主を諦めようとほかの女と付き合ったこともあるけど、結局どんな女も夢主と比較したらつまらなくって、フっちゃった。
最初は夢主と付き合えないことでハラワタが煮え繰り返った。別れさせようと画策したこともあったが、しょうもない男たちのせいで僕の評価が下がるのは御免だ。それに、なぜか夢主は僕のことをとても信用できる友人(それどころか親友)であると認識しているらしく、どの男と付き合っても僕との付き合い方はほとんど変わらなかった。男共が僕に嫉妬して嫌がらせをしてくることもあったが、生憎フィジカルで負けるようなか弱い男ではなかったので、簡単に返り討ちにできた。
と、まあそんなこんなで僕が拗らせた片想いの相手は、ちょうど僕の誕生日に電話をかけてきたので本音ではウキウキしながら応答したってわけ。
ところが電話口の夢主は涙声で僕の名前を呼んだ。
『……時重ぇ……ぐすっ』
え、何コレ凄い股間に響くんだけど?電話越しの泣き声ってエロい。そんな最低なことを考えつつも、努めて冷静な口調で返事をした。
「どうしたの?まさか夢主さ、僕の誕生日に別れたから慰めてとか言わないよね?」
『うぅ……だってぇ、彼氏が……彼氏が浮気してたんだもん……』
電話口でめそめそと泣き出した夢主に、僕はわざとらしくため息をついた。何度目だよ。っていうか付き合った時言ったじゃん、あいつ浮気性だと思うって。だから僕にしとけばいいのにさ。
「はぁ、わかったよ……ウチ来な。今どこらへん?迎えに行くから」
『ぐすっ……時重んちの近くのコンビニにいる……』
「全く。迎えにいくからナンパされないでよね?」
『……うん、ありがとう時重』
なんだかんだ惚れた相手には弱いんだよなぁ。
コンビニの駐車場に着くと、店の前で夢主が小さくなってしゃがんでいた。
「夢主」
声をかけると夢主は涙で濡れた顔で見上げてきた。ぐっ、と喉が鳴りそうになる。危ない危ない、あまりの破壊力に射精するところだった。
「時重……ごめん、誕生日なのに……」
「いいよ、夢主のことなんか大体わかってるし」
僕は平然とした顔で手を差し伸べる。夢主はちっちゃな手で僕の手を取った。何これもう結婚じゃない?
「ほら、もう泣くな。ウチで愚痴でも聞いてやるよ」
僕がそう言うと、夢主はこくんと頷いた。はぁぁぁ可愛い。抱きたい。
「お邪魔します」
「ん」
もう何度も来ているというのに、夢主は毎回少しだけ気まずそうに入ってくる。生活圏内に夢主がいるってだけでエロくない?なんでだろうね。
そんなことを考えているのに、表情だけは平静を装って夢主をソファに座らせる。
「ホットココアでいい?」
「お酒がいい……」
「だめ。うちにはヤケ酒できるようなつまんない酒置いてないから」
夢主はちょっとだけ唇を尖らせた。可愛い顔してもだめだっての。
僕はホットココアを用意して夢主にマグカップを差し出した。僕がソファの隣に腰かけると、「ありがと」と真っ赤な目のままこちらを見てお礼を言う夢主。そしてふーっと息を吹きかけてから恐る恐るといった様子で、ずずず……と熱そうにちょっとだけ飲む夢主。手も口もちっちゃくて可愛いなぁ……。
「で?夢主これからどうすんの?浮気されたんだから、当然別れるんでしょ」
「うん……」
口数の少ない夢主だが、ぽつりぽつりと経緯を話す。ほとんど予想の範囲内だったから、話は半分に聞いていて頭の中では夢主の瞳の動きや声のトーンなんかを五感で感じて楽しんでいた。なんで僕はこんなに夢主のことが好きなのに、いつも夢主は僕のこと見てないんだろう。
しばらく夢主を見つめていたら、話がひと段落ついたのだろう夢主がこちらを見た。大きな瞳が僕を見つめる。
「……時重」
「ん、なに?」
「時重ってさ、たまに私の話聞いてないでしょ」
図星だった。夢主が僕を見ていた事実で舞い上がりそうになる。でも全く顔には出さない自信があるので、とぼけてみせた。
「なに言ってんの、誕生日なのにつまんない話聞いてやってんだよ」
「……でも、時重って時々寂しそうな顔するよね」
「え?」
驚いた。夢主には全く悟られていないと思ったし、夢主が鈍感だからこそ清く正しく友人の関係性でいられたというのに。
「あのさ、別れたばっかでこんなこと言うと尻軽女って思われるかもしれないけど……」
「うん?」
内心では心臓がバクバクしていた。これは、もしかして?
しかし夢主は見事に期待を裏切ってくれる。夢主は僕へ柔らかく微笑みながら、続けた。
「いつもありがとう」
「……なにそれ」
拍子抜けだった。違うじゃん。僕の良さに気づいて告白する流れだったじゃん、コイツはまったくもう。
ああ、わかったよ。このまま一生片思いしているつもりだったけど、今のはさすがに堪えた。好意にすら気づいてもらえないっていうのは、好きな人が誰かと付き合っている状態より辛いってことだ。
僕はため息をつきながら立ち上がると、ダイニングにあった飲みかけのワインを瓶から直接煽った。普段なら絶対にしないような挙動に、夢主が目を丸くしているのが視界の端に映るが構わない。
ふう、と一息つき空になったワイン瓶を乱暴にテーブルに置いて、夢主の元へ戻る。夢主はきょとんとして首を傾げている。
僕はおもむろに夢主の肩を押してソファに押し付ける。夢主は半分くらい入ったココアのマグカップを零さないように気を取られていて、わっ、と声をあげてカップを握りしめていた。壁ドンならぬ、ソファドンってやつ?すっぽりソファに埋もれる夢主に上から顔を近づける。
「あのさ、信頼してくれてるところ悪いんだけど、僕は長年下心で夢主の友達やってんの。いい加減気づいてくれない?」
「うん?え?は?えぇ?」
素っ頓狂な声を上げて夢主が混乱している。ぽかん、と口が開いている間抜けな顔すら可愛いと思う。そして数秒後には言葉の意味を理解したのか、おろおろし始めた。
「え、え、じゃあ時重って、私のこと……?」
「そういうこと。全く、十何年も人のこと振りまわしといて、一ミリも想ってくれてないんだね?」
「時重、好きな人いるっていつも言ってたから……」
夢主の顔がほんのり赤く染まっている。普段よりも近い距離で堂々と観察できて嬉しい。
「夢主だけど?」
至近距離で瞳孔がくぱぁと開きそうなくらい目を見開いて夢主を見つめる。反対に夢主の瞳はきょろきょろと落ち着きなく動いた。僕はそのままの体勢で夢主を凝視し続ける。さながら獲物を狙う捕食者のようだろう。夢主は脅えてしまうだろうか。例えこれで嫌われても、もう気持ちが伝わるのならばどうでもいい。そう思えるくらいにアルコールが回ってきていた。
夢主の視線はウロウロと彷徨っていたが、ふっと目を細めて笑い出すとぽつりと呟いた。
「そうだったのかぁ……嬉しいな」
「!」
ったくもう、こいつは!襲っちゃいそうになるだろ!
内心でブチギレながら僕は夢主のちっちゃな手からマグカップを奪いテーブルに乱暴に置く。そして半ば夢主に馬乗りになるような形で覆い被さると、夢主の両頬を両手でガッと包んだ。
「っ?」
「ほんとに?本当に嫌じゃない?僕は今までの男たちと違って、束縛もするし容赦もしないし性欲は強いし大変だよ?」
「あは」
夢主は僕に両頬を押されて、口からふすっと息を吐き出した。ココアの甘い香りが漏れる。吐息すら愛おしいのかよ。もうやだこの女。沼じゃん。
「時重のことなら何でも知ってるよ。何年の付き合いだと思ってるの?私が知らなかったのは時重の片思いの相手だけだよ」
そうか。これでもう全部バレちゃったってことか。こっそりと秘密を抱えているのも楽しかったけど、全てを暴かれるのも意外と悪くないかもね。
「そ。なら良かった。安心して執着できる」
僕はそのまま夢主の両頬に手を添えたまま、唇を重ねた。
キスの後、夢主がくすぐったそうに笑った。
「ふふ、時重の誕生日が私たちの記念日になったね」
可愛いやつ。もう一生手放さないからな。
おわり