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尾形
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後輩/尾形
私はどこにでもいる平凡なOL。それなりに社会経験も増えてきて、ついに今年からは後輩の指導も任されるようになった。
私の元についた後輩は「尾形百之助」くんと言って、基本的には優秀で悪い子ではないのだが性格がクールというか取っ付きにくいというか……少し曲者なのだ。
恐らく尾形くんは対人コミュニケーションが苦手なのだろう。普段から言葉数は少なく素っ気ない態度を取られることが多かった。しかしマンツーマンで教えているうちに少しだけ彼のことが分かってきた。
たとえば、教えている時は真剣な顔でメモを取っていること・褒めると前髪を撫で上げるような仕草をすること・私に話しかける前には何かイメトレのようなものをして気合いを入れてから話しかけていること・私が冗談を言ってその時は無表情でも後で覗いた横顔がちょっとだけニヤけていること……他にもたくさん。
とあるプロジェクトを担当して尾形くんと二人で残業していた時、普段はめったに尾形くんから話しかけてくることはないのに、珍しく声をかけられた。
「あの……先輩。ちょっといいですか」
呼びかけられて驚いてしまった。顔に出ていたのだろう、尾形くんは私の表情に少しだけムッとした様子を見せた。
「ごめん、ちょっとびっくりしちゃった。どうしたの?」
「……このプロジェクトが終わったら飲みに行きませんか」
尾形くんの顔はいつもより強ばっている。相当緊張しているのだろう。そんな姿は私の母性を刺激する。
「もちろん。行こう」
尾形くんから誘ってくれたことが嬉しくて私が頷いて答えると、尾形くんは少しだけ表情を明るくした。そして何度も前髪を撫で上げながら、続ける。
「店は任せてください」
「いいの?」
「先輩はプロジェクトで忙しいでしょうから」
「ふふ、ありがとう。楽しみにしてるね」
「はい」
「じゃあプロジェクトが終わる来週金曜の夜ね」
そんな会話をしてから、尾形くんはあからさまにやる気に満ちあふれていた。
そんなに飲み会が好きだったのだろうか?これまでの彼は必要最低限の歓送迎会にしか顔を出していないように思えるが。
プロジェクトが無事成功して、晴れ晴れとした気持ちで迎えた金曜日の定時。
「お待たせ」
尾形くんから社用携帯に場所が送られてきていたカジュアルなイタリアンのお店に向かうと、お店の前にはすでに尾形くんがいた。
「……お疲れ様です」
「おなか減ったぁ早く入ろう~」
「はい」
尾形くんの口数がいつもより少ない気がする。仕事は無事終わったのに元気がないなぁ。もしかして、連日の残業続きで疲れちゃってるのかな。申し訳ないから今日はササッと食事をして少し飲んだら解散できるようにしなくちゃな。
尾形くんは食事を終えても様子が変だった。色んな話題を振ったけど反応は微妙だ。楽しくないのかな。そりゃそうか、上司と業務外でご飯だもんね。そもそも誘ったのも社交辞令だったりして……あ、なんかすごく切ない気持ちになってきちゃった。
ぼんやりと考え込んでいると尾形くんから声がかかる。
「先輩」
「?」
「に、二軒目……付き合ってくれますか」
「え」
二軒目に到着したお店はお洒落なバーだった。
「わぁすごい!こんな素敵なお店よく知ってたね」
高級そうなバーで隣に座る尾形くんに話しかけるも、彼の反応は鈍い。おしぼりを触ったり前髪を撫で上げたりとソワソワと落ち着きがない。
尾形くんは珍しく早口で聞いたこともないようなカクテルを注文していた。私は迷った挙句、ミモザを注文した。
実は私は先ほどの食事でほとんどの尾形くんと共通の話題を出しきってしまい、会話のネタがもうなくなってしまっていた。
だから黙って届いたカクテルを飲むしかなかった。
高級感があり落ち着いた店内にはジャズのBGMが控えめにかかっている。
そして会話もなく静かに酒を飲むだけの時間が流れる。
尾形くんはやっぱり様子がおかしい。私は自分のペースでコントロールして飲んでいたが、尾形くんは私よりも断然早いペースで次々にアルコールを注文する。
チラリと横を見れば、尾形くんがいつもの会社の飲み会ではスーツを着崩しているところなど見たことないのに、ネクタイはゆるゆるだし、腕まくりもしているし、顔は赤く染まっていて時々気だるそうため息もついている。それがとんでもない色気を放っていることに彼は気づいていないのだろうか。
私はドキドキせずにはいられなかった。いやいや、見惚れている場合じゃない。気を引き締めろ自分。せっかく慕ってくれる後輩ができたんだ。後輩が酔いつぶれないようにしっかりサポートしなくては。
「ね、ねえ……尾形くん」
「なんですか先輩」
尾形くんの眼がとろん、としている。理性が負けそうになる。
「……ちょっと飲みすぎだよ」
「……」
尾形くんは私の顔をチラ、と見た後、またアルコールを煽る。
「どうしちゃったの、何か悩みでもあるの?」
心配して私が尾形くんの肩に手を置くと、彼は私の手を掴んで机の上に下ろした。
「あっ……ご、ごめん」
不用意に身体に触れてしまったことに驚いて手を引っ込めようとしたが、強い力で握られているため動かせない。
「へ」
隣を見ると、なぜか泣き出しそうな顔でこちらを見ている尾形くんがいた。
「手、握ってて良いですか」
「な、何言って……」
急な言葉に理解が追い付かない。しかし雰囲気に流されるわけにはいかない。会社の先輩と後輩なのだ。私はなけなしの理性を総動員して酔っ払いの戯言として流してあげることにした。
「あ、あはは、だめだよ。こういうのは普通好きな人とするものだよ」
尾形くんはカウンターに半ば突っ伏すような体勢のまま、こちらを上目遣いに見つめて言った。手は握られたまま。
「好きでもない相手をわざわざサシ飲みに誘わないですよ」
「そ、それって……」
「好きですけど……先輩のこと」
その瞬間、ぶわっと自分でもわかるくらい体温が上がるのを感じた。
目の前にいる男は本当にいつもの後輩か?私は驚愕と動揺と、その中に確かに喜びの感情を見出して戸惑った。
もしかして今日ずっと様子がおかしかったのって、告白したかったから?さっきのお店もこのお店も、背伸びして色々調べてくれたのだろうか。そんなことを考えていたら少し愛おしく思ってしまった。
私が何も言えずにいると、二人の前にあったグラスからカランと氷が融ける音が響いた。
おわり
私はどこにでもいる平凡なOL。それなりに社会経験も増えてきて、ついに今年からは後輩の指導も任されるようになった。
私の元についた後輩は「尾形百之助」くんと言って、基本的には優秀で悪い子ではないのだが性格がクールというか取っ付きにくいというか……少し曲者なのだ。
恐らく尾形くんは対人コミュニケーションが苦手なのだろう。普段から言葉数は少なく素っ気ない態度を取られることが多かった。しかしマンツーマンで教えているうちに少しだけ彼のことが分かってきた。
たとえば、教えている時は真剣な顔でメモを取っていること・褒めると前髪を撫で上げるような仕草をすること・私に話しかける前には何かイメトレのようなものをして気合いを入れてから話しかけていること・私が冗談を言ってその時は無表情でも後で覗いた横顔がちょっとだけニヤけていること……他にもたくさん。
とあるプロジェクトを担当して尾形くんと二人で残業していた時、普段はめったに尾形くんから話しかけてくることはないのに、珍しく声をかけられた。
「あの……先輩。ちょっといいですか」
呼びかけられて驚いてしまった。顔に出ていたのだろう、尾形くんは私の表情に少しだけムッとした様子を見せた。
「ごめん、ちょっとびっくりしちゃった。どうしたの?」
「……このプロジェクトが終わったら飲みに行きませんか」
尾形くんの顔はいつもより強ばっている。相当緊張しているのだろう。そんな姿は私の母性を刺激する。
「もちろん。行こう」
尾形くんから誘ってくれたことが嬉しくて私が頷いて答えると、尾形くんは少しだけ表情を明るくした。そして何度も前髪を撫で上げながら、続ける。
「店は任せてください」
「いいの?」
「先輩はプロジェクトで忙しいでしょうから」
「ふふ、ありがとう。楽しみにしてるね」
「はい」
「じゃあプロジェクトが終わる来週金曜の夜ね」
そんな会話をしてから、尾形くんはあからさまにやる気に満ちあふれていた。
そんなに飲み会が好きだったのだろうか?これまでの彼は必要最低限の歓送迎会にしか顔を出していないように思えるが。
プロジェクトが無事成功して、晴れ晴れとした気持ちで迎えた金曜日の定時。
「お待たせ」
尾形くんから社用携帯に場所が送られてきていたカジュアルなイタリアンのお店に向かうと、お店の前にはすでに尾形くんがいた。
「……お疲れ様です」
「おなか減ったぁ早く入ろう~」
「はい」
尾形くんの口数がいつもより少ない気がする。仕事は無事終わったのに元気がないなぁ。もしかして、連日の残業続きで疲れちゃってるのかな。申し訳ないから今日はササッと食事をして少し飲んだら解散できるようにしなくちゃな。
尾形くんは食事を終えても様子が変だった。色んな話題を振ったけど反応は微妙だ。楽しくないのかな。そりゃそうか、上司と業務外でご飯だもんね。そもそも誘ったのも社交辞令だったりして……あ、なんかすごく切ない気持ちになってきちゃった。
ぼんやりと考え込んでいると尾形くんから声がかかる。
「先輩」
「?」
「に、二軒目……付き合ってくれますか」
「え」
二軒目に到着したお店はお洒落なバーだった。
「わぁすごい!こんな素敵なお店よく知ってたね」
高級そうなバーで隣に座る尾形くんに話しかけるも、彼の反応は鈍い。おしぼりを触ったり前髪を撫で上げたりとソワソワと落ち着きがない。
尾形くんは珍しく早口で聞いたこともないようなカクテルを注文していた。私は迷った挙句、ミモザを注文した。
実は私は先ほどの食事でほとんどの尾形くんと共通の話題を出しきってしまい、会話のネタがもうなくなってしまっていた。
だから黙って届いたカクテルを飲むしかなかった。
高級感があり落ち着いた店内にはジャズのBGMが控えめにかかっている。
そして会話もなく静かに酒を飲むだけの時間が流れる。
尾形くんはやっぱり様子がおかしい。私は自分のペースでコントロールして飲んでいたが、尾形くんは私よりも断然早いペースで次々にアルコールを注文する。
チラリと横を見れば、尾形くんがいつもの会社の飲み会ではスーツを着崩しているところなど見たことないのに、ネクタイはゆるゆるだし、腕まくりもしているし、顔は赤く染まっていて時々気だるそうため息もついている。それがとんでもない色気を放っていることに彼は気づいていないのだろうか。
私はドキドキせずにはいられなかった。いやいや、見惚れている場合じゃない。気を引き締めろ自分。せっかく慕ってくれる後輩ができたんだ。後輩が酔いつぶれないようにしっかりサポートしなくては。
「ね、ねえ……尾形くん」
「なんですか先輩」
尾形くんの眼がとろん、としている。理性が負けそうになる。
「……ちょっと飲みすぎだよ」
「……」
尾形くんは私の顔をチラ、と見た後、またアルコールを煽る。
「どうしちゃったの、何か悩みでもあるの?」
心配して私が尾形くんの肩に手を置くと、彼は私の手を掴んで机の上に下ろした。
「あっ……ご、ごめん」
不用意に身体に触れてしまったことに驚いて手を引っ込めようとしたが、強い力で握られているため動かせない。
「へ」
隣を見ると、なぜか泣き出しそうな顔でこちらを見ている尾形くんがいた。
「手、握ってて良いですか」
「な、何言って……」
急な言葉に理解が追い付かない。しかし雰囲気に流されるわけにはいかない。会社の先輩と後輩なのだ。私はなけなしの理性を総動員して酔っ払いの戯言として流してあげることにした。
「あ、あはは、だめだよ。こういうのは普通好きな人とするものだよ」
尾形くんはカウンターに半ば突っ伏すような体勢のまま、こちらを上目遣いに見つめて言った。手は握られたまま。
「好きでもない相手をわざわざサシ飲みに誘わないですよ」
「そ、それって……」
「好きですけど……先輩のこと」
その瞬間、ぶわっと自分でもわかるくらい体温が上がるのを感じた。
目の前にいる男は本当にいつもの後輩か?私は驚愕と動揺と、その中に確かに喜びの感情を見出して戸惑った。
もしかして今日ずっと様子がおかしかったのって、告白したかったから?さっきのお店もこのお店も、背伸びして色々調べてくれたのだろうか。そんなことを考えていたら少し愛おしく思ってしまった。
私が何も言えずにいると、二人の前にあったグラスからカランと氷が融ける音が響いた。
おわり