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尾形
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Beautiful Things/尾形
夢主と知り合って数年が経つ。
それまでの俺の人生は散々だった。とある会社のお偉いさんと愛人の間の子供として生まれた俺は愛を知らずに生きてきた。母親は病んでいたので放置され、遺伝子上の父親は俺を忌々しく思っていることを知っていた。誰にも望まれずに生まれた俺の幼少期は暗く寂しい記憶しかない。
夢主と出会うまでの俺の人生は、例えるなら冷たくて寒い冬そのものだった。
夢主と出会ってからは、すべてが順調だ。
母親とも和解できたと思う。もちろん過去の辛かった記憶をすべて無かったことにはできないが、受け入れることを覚えた。夢主は母親と仲良くやってくれている。まるでこちらが本当の親子のように見えるくらいに。
驚くことに、疎遠だった父親とも夢主はうまくやってくれた。
たまたま夢主の親戚に父親と面識のある者がいただけだが。ただそれだけの伝手で夢主は父親と繋がりを持ち、気に入られ、俺と父親の仲を「絶縁状態」から未だよそよそしいが「息子と認めている」というところまで持って行った。
それだけではなく、父親と正妻の間の子供、俺の異母兄弟にあたるエリートな弟とも仲良くやっているらしい。俺とは違い捻くれることなく真っ直ぐに育った弟が父親と夢主の仲を取り持っている部分もあるのだろうと思う。
愚かなことに、俺は夢主が関係性を築くまでの過程で両親に望まれて生まれた正反対の弟に嫉妬して、夢主を何度も突き放した。俺を除いた父親・母親・弟・夢主が家族になれば良いと思ったんだ。
それでも夢主はどんなに酷い言葉を俺が吐こうが、負けなかった。
俺の考えなんかお見通しと言わんばかりに、俺に変わらず愛情を注ぎ続けた。そして同時進行で両親と弟との繋がりを取り持っていた。相当なストレスだっただろうに、全くそんな素振りは見せなかった。
情けないことに、俺はその間ただ黙々と仕事をこなし、家では夢主に当たり散らすことしかしていなかった。
それでも夢主はやり遂げた。
俺は、ついに家族の全員とほとんど和解状態に持ち込まれた時に「しぶとい女だな」と憎まれ口を叩いて敗北宣言をした。
そうして俺たちは入籍した。
そういうわけで俺の最近の人生は、夢主からすべてを与えられたといっても過言ではない。
未だこんな結末を望んでいたとは認めたくはないが、心の奥底にあった諦めきれない希望を夢主が掬い上げてくれた。
夢主が揃えた家具、夢主が俺のために用意した温かい飯、珈琲の香りに囲まれて過ごしていると、時々こんなに幸せで良いのかと不思議な気持ちになる。
夢主が料理をしているときの横顔、本を読んでいるときのゆっくりとした呼吸、映画や音楽に感動したときの透き通った涙、俺を怒るときの表情ですら愛おしい。
正直なところ、何年経っても他人から与えられることに慣れない。
いつか突然それらが誰かに奪われてしまわないかと、取り上げられないかと、不安になる。
だから俺は一番失いたくないものを閉じ込めるように、毎晩その小さな身体を抱きしめる。いなくならないでくれ。奪わないでくれ。そう心の中で願いながら。
おわり
夢主と知り合って数年が経つ。
それまでの俺の人生は散々だった。とある会社のお偉いさんと愛人の間の子供として生まれた俺は愛を知らずに生きてきた。母親は病んでいたので放置され、遺伝子上の父親は俺を忌々しく思っていることを知っていた。誰にも望まれずに生まれた俺の幼少期は暗く寂しい記憶しかない。
夢主と出会うまでの俺の人生は、例えるなら冷たくて寒い冬そのものだった。
夢主と出会ってからは、すべてが順調だ。
母親とも和解できたと思う。もちろん過去の辛かった記憶をすべて無かったことにはできないが、受け入れることを覚えた。夢主は母親と仲良くやってくれている。まるでこちらが本当の親子のように見えるくらいに。
驚くことに、疎遠だった父親とも夢主はうまくやってくれた。
たまたま夢主の親戚に父親と面識のある者がいただけだが。ただそれだけの伝手で夢主は父親と繋がりを持ち、気に入られ、俺と父親の仲を「絶縁状態」から未だよそよそしいが「息子と認めている」というところまで持って行った。
それだけではなく、父親と正妻の間の子供、俺の異母兄弟にあたるエリートな弟とも仲良くやっているらしい。俺とは違い捻くれることなく真っ直ぐに育った弟が父親と夢主の仲を取り持っている部分もあるのだろうと思う。
愚かなことに、俺は夢主が関係性を築くまでの過程で両親に望まれて生まれた正反対の弟に嫉妬して、夢主を何度も突き放した。俺を除いた父親・母親・弟・夢主が家族になれば良いと思ったんだ。
それでも夢主はどんなに酷い言葉を俺が吐こうが、負けなかった。
俺の考えなんかお見通しと言わんばかりに、俺に変わらず愛情を注ぎ続けた。そして同時進行で両親と弟との繋がりを取り持っていた。相当なストレスだっただろうに、全くそんな素振りは見せなかった。
情けないことに、俺はその間ただ黙々と仕事をこなし、家では夢主に当たり散らすことしかしていなかった。
それでも夢主はやり遂げた。
俺は、ついに家族の全員とほとんど和解状態に持ち込まれた時に「しぶとい女だな」と憎まれ口を叩いて敗北宣言をした。
そうして俺たちは入籍した。
そういうわけで俺の最近の人生は、夢主からすべてを与えられたといっても過言ではない。
未だこんな結末を望んでいたとは認めたくはないが、心の奥底にあった諦めきれない希望を夢主が掬い上げてくれた。
夢主が揃えた家具、夢主が俺のために用意した温かい飯、珈琲の香りに囲まれて過ごしていると、時々こんなに幸せで良いのかと不思議な気持ちになる。
夢主が料理をしているときの横顔、本を読んでいるときのゆっくりとした呼吸、映画や音楽に感動したときの透き通った涙、俺を怒るときの表情ですら愛おしい。
正直なところ、何年経っても他人から与えられることに慣れない。
いつか突然それらが誰かに奪われてしまわないかと、取り上げられないかと、不安になる。
だから俺は一番失いたくないものを閉じ込めるように、毎晩その小さな身体を抱きしめる。いなくならないでくれ。奪わないでくれ。そう心の中で願いながら。
おわり