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有坂閣下
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引き渡し/有坂閣下
第七師団で捕獲されたトリップ夢主は鶴見中尉に連れられて東京までやってきた。
今、夢主の目の前には立派な髭を蓄えた初老の男性がいる。
「誰ですか?この人」
夢主が怪訝そうな顔を浮かべたまま横にいる鶴見に問う。鶴見は夢主の方へ視線だけやると厳しい口調で答えた。
「言葉遣いに気をつけたまえ、こちらは陸軍の東京砲兵工廠の提理を務める有坂閣下だ」
東京砲兵工廠と言われても、イマイチピンときていない様子の夢主。町工場の工場長レベルかと侮っていて、紹介を受けても夢主はぺこりとお辞儀する程度だった。初老の男性はそんな無礼な態度の夢主に気を悪くした様子もなく、むしろ元気いっぱいにおおよそ相対している距離に適さない爆音の声量で挨拶をしてきた。
「キミが夢主くんかね!!遠路遥々ご苦労様!」
(声でか)
夢主が思わず顔をしかめるも、鶴見は慣れているのか挨拶もそこそこに有坂に話しかける。
「本当によろしかったんですか?」
「ああ!ちょうど女性の小さい手が必要だったんでね!助かるよ!」
有坂は夢主が胸の前で握っている両手をじっと見ながら答えた。その様子に思わず夢主は「手を引きちぎられて殺されるのではないか」と怯えた。鶴見はそんな夢主の様子に気づくことなく、早々に北海道へと戻ろうとしていた。夢主の頭をぽん、と撫でるとそのまま来た道を戻って行ってしまった。
「では私は旭川に戻る。達者でな夢主くん」
「ひぇ……行かないで鶴見中尉……」
夢主は半泣きで鶴見の背中を見送った。
鶴見を見送ったあと、有坂は「さて!」と相変わらずの声量で言い出した。この後の流れを夢主は何も知らされていない。殺されるのではないかとビビりまくっている夢主は、ぶるぶると震えながら有坂を怯えた眼差しで見上げる。夢主の様子がおかしいことに気がついた有坂は不思議そうに首を傾げた。
「……?なんでそんなに怯えているんだい?」
「た、た、食べないでぇ」
夢主がガタガタと震えながら答えると、有坂は目を真ん丸くして閉口した。そして「ぷっ」と噴き出し、その後高らかに笑い声をあげた。
「アッハッハ!食べないよ!私は武器開発をしていてね!精密な器具を取り扱う時に、女性の手が必要だったんだよ!手伝ってもらえるかい?お給金は出すよ!」
「なぁんだ……そうだったんですか」
夢主はほっとした表情を浮かべ、ようやく事態を飲み込めたようだった。
~数年後~
鶴見が有坂の私邸を訪れた。
「有坂閣下!ご無沙汰しております!夢主くんは元気にやってますか?」
有坂は自分で茶を淹れると鶴見の座るテーブルセットの前に湯飲みを差し出した。
「あぁ!夢主くんは私の妻にしたよ!」
「?」
有坂の言葉を一瞬理解できなかった鶴見であるが、さすがに情報将校ともあればポーカーフェイスもお手の物である。一旦飲み込んだフリをして、有坂に話を合わせて続けた。
「……そうですか!それはよかった!今でも二人で武器開発を?」
鶴見の向かいに腰を下ろしながら有坂は質問に答える。
「毎日二人で工廠と射撃場を往復しているよ!それから、後で気が付いたんだがね、彼女には狙撃の才能がある!訓練を重ねたらキミの隊の狙撃手より良い腕前かもしれないな!」
鶴見は目を輝かせた。夢主は突然現れた素性がわからない女であるからと初めから戦力扱いしていなかったが、そんな才能があるのならまた師団に戻ってきてもらうのも悪くないかと一瞬の間に考えた。そのことを有坂に冗談交じりに言ってみる。
「それは素晴らしい!一度第七師団に来て一緒に戦ってもらいたい!」
「それはだめだ!」
ピシャリ、と言い切られて鶴見は驚いた様子で固まる。有坂はずず、と茶をすすり一息つくと、ガハハと笑って続けた。
「私は彼女がいないと耐えられないからね!悪いが、たとえ国のためでも夢主くんを差し出すことはないよ!」
鶴見は頭の中で(一体有坂閣下に何があったんだ?)と困惑する。武器開発のことしか頭にないような有坂が、こんなにも人間に執着するのは初めてのことだった。有坂はそんな鶴見の様子を知ってか知らずか、鶴見を指さすと鋭い視線を向けた。
「鶴見くん、分かっているだろうがもし彼女を連れだそうとするなら、私の開発した速射砲と機関銃、歩兵銃など最新式の武器の第七師団への供給はなくなると思ってくれたまえ。銃なくては、キミの目的は達成できないだろう?」
有坂のトレードマークとも言える大声ではなく、ドスの効いた低音を響かせていた。普段有坂の明るく天真爛漫な姿しか見ていない鶴見は、内心で(これは敵に回すべき相手ではないな)と瞬時に結論をづける。カッと目を見開くと、鶴見は拍手をしながら白旗を上げた。
「……参りました閣下!これからも二人でお幸せに!」
鶴見の言葉にようやく安心したらしい有坂がいつもの笑みを浮かべた。
「ありがとう!新しい兵器が出来たら電報を送るよ!」
鶴見が私邸を去ってからほどなくして、家事を終えた夢主が有坂の部屋に入ってきた。
夢主はテーブルに置かれた二つの湯飲みを見て問いかけた。
「あれ?どなたかいらしてたんですか?」
有坂はあっけらかんと笑って見せた。
「あぁ、鶴見くんが来ていたんだ。もう戻られたよ!相変わらず忙しい男みたいだね!」
それを聞いて夢主は残念そうにつぶやく。
「ご挨拶くらいしたかったなぁ」
しかし有坂はそんな夢主のそばに来ると、そっと肩を抱いて冗談めいたことを叫んだ。
「万が一にでも鶴見くんがキミに興味を持ったら私は内戦を起こしてしまいかねないからね!」
「あはは~またまたぁ」
くすくすと肩を揺らしてどこか嬉しそうに笑う夢主の横顔を見つめながら、有坂は「心底惚れてしまったなぁ」と愛おしそうに小さな声で呟いた。
おわり
第七師団で捕獲されたトリップ夢主は鶴見中尉に連れられて東京までやってきた。
今、夢主の目の前には立派な髭を蓄えた初老の男性がいる。
「誰ですか?この人」
夢主が怪訝そうな顔を浮かべたまま横にいる鶴見に問う。鶴見は夢主の方へ視線だけやると厳しい口調で答えた。
「言葉遣いに気をつけたまえ、こちらは陸軍の東京砲兵工廠の提理を務める有坂閣下だ」
東京砲兵工廠と言われても、イマイチピンときていない様子の夢主。町工場の工場長レベルかと侮っていて、紹介を受けても夢主はぺこりとお辞儀する程度だった。初老の男性はそんな無礼な態度の夢主に気を悪くした様子もなく、むしろ元気いっぱいにおおよそ相対している距離に適さない爆音の声量で挨拶をしてきた。
「キミが夢主くんかね!!遠路遥々ご苦労様!」
(声でか)
夢主が思わず顔をしかめるも、鶴見は慣れているのか挨拶もそこそこに有坂に話しかける。
「本当によろしかったんですか?」
「ああ!ちょうど女性の小さい手が必要だったんでね!助かるよ!」
有坂は夢主が胸の前で握っている両手をじっと見ながら答えた。その様子に思わず夢主は「手を引きちぎられて殺されるのではないか」と怯えた。鶴見はそんな夢主の様子に気づくことなく、早々に北海道へと戻ろうとしていた。夢主の頭をぽん、と撫でるとそのまま来た道を戻って行ってしまった。
「では私は旭川に戻る。達者でな夢主くん」
「ひぇ……行かないで鶴見中尉……」
夢主は半泣きで鶴見の背中を見送った。
鶴見を見送ったあと、有坂は「さて!」と相変わらずの声量で言い出した。この後の流れを夢主は何も知らされていない。殺されるのではないかとビビりまくっている夢主は、ぶるぶると震えながら有坂を怯えた眼差しで見上げる。夢主の様子がおかしいことに気がついた有坂は不思議そうに首を傾げた。
「……?なんでそんなに怯えているんだい?」
「た、た、食べないでぇ」
夢主がガタガタと震えながら答えると、有坂は目を真ん丸くして閉口した。そして「ぷっ」と噴き出し、その後高らかに笑い声をあげた。
「アッハッハ!食べないよ!私は武器開発をしていてね!精密な器具を取り扱う時に、女性の手が必要だったんだよ!手伝ってもらえるかい?お給金は出すよ!」
「なぁんだ……そうだったんですか」
夢主はほっとした表情を浮かべ、ようやく事態を飲み込めたようだった。
~数年後~
鶴見が有坂の私邸を訪れた。
「有坂閣下!ご無沙汰しております!夢主くんは元気にやってますか?」
有坂は自分で茶を淹れると鶴見の座るテーブルセットの前に湯飲みを差し出した。
「あぁ!夢主くんは私の妻にしたよ!」
「?」
有坂の言葉を一瞬理解できなかった鶴見であるが、さすがに情報将校ともあればポーカーフェイスもお手の物である。一旦飲み込んだフリをして、有坂に話を合わせて続けた。
「……そうですか!それはよかった!今でも二人で武器開発を?」
鶴見の向かいに腰を下ろしながら有坂は質問に答える。
「毎日二人で工廠と射撃場を往復しているよ!それから、後で気が付いたんだがね、彼女には狙撃の才能がある!訓練を重ねたらキミの隊の狙撃手より良い腕前かもしれないな!」
鶴見は目を輝かせた。夢主は突然現れた素性がわからない女であるからと初めから戦力扱いしていなかったが、そんな才能があるのならまた師団に戻ってきてもらうのも悪くないかと一瞬の間に考えた。そのことを有坂に冗談交じりに言ってみる。
「それは素晴らしい!一度第七師団に来て一緒に戦ってもらいたい!」
「それはだめだ!」
ピシャリ、と言い切られて鶴見は驚いた様子で固まる。有坂はずず、と茶をすすり一息つくと、ガハハと笑って続けた。
「私は彼女がいないと耐えられないからね!悪いが、たとえ国のためでも夢主くんを差し出すことはないよ!」
鶴見は頭の中で(一体有坂閣下に何があったんだ?)と困惑する。武器開発のことしか頭にないような有坂が、こんなにも人間に執着するのは初めてのことだった。有坂はそんな鶴見の様子を知ってか知らずか、鶴見を指さすと鋭い視線を向けた。
「鶴見くん、分かっているだろうがもし彼女を連れだそうとするなら、私の開発した速射砲と機関銃、歩兵銃など最新式の武器の第七師団への供給はなくなると思ってくれたまえ。銃なくては、キミの目的は達成できないだろう?」
有坂のトレードマークとも言える大声ではなく、ドスの効いた低音を響かせていた。普段有坂の明るく天真爛漫な姿しか見ていない鶴見は、内心で(これは敵に回すべき相手ではないな)と瞬時に結論をづける。カッと目を見開くと、鶴見は拍手をしながら白旗を上げた。
「……参りました閣下!これからも二人でお幸せに!」
鶴見の言葉にようやく安心したらしい有坂がいつもの笑みを浮かべた。
「ありがとう!新しい兵器が出来たら電報を送るよ!」
鶴見が私邸を去ってからほどなくして、家事を終えた夢主が有坂の部屋に入ってきた。
夢主はテーブルに置かれた二つの湯飲みを見て問いかけた。
「あれ?どなたかいらしてたんですか?」
有坂はあっけらかんと笑って見せた。
「あぁ、鶴見くんが来ていたんだ。もう戻られたよ!相変わらず忙しい男みたいだね!」
それを聞いて夢主は残念そうにつぶやく。
「ご挨拶くらいしたかったなぁ」
しかし有坂はそんな夢主のそばに来ると、そっと肩を抱いて冗談めいたことを叫んだ。
「万が一にでも鶴見くんがキミに興味を持ったら私は内戦を起こしてしまいかねないからね!」
「あはは~またまたぁ」
くすくすと肩を揺らしてどこか嬉しそうに笑う夢主の横顔を見つめながら、有坂は「心底惚れてしまったなぁ」と愛おしそうに小さな声で呟いた。
おわり