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牛山
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ボディガード/牛山
とある都会のオフィス街。
無数にそびえたつビル群の中の1つ、周囲に溶け込むように特徴のない外観をした高層ビルが今回のお話の舞台。
このビルには多種多様な会社が入っている。
そのため人の出入りも多く、外部の人間とここで働く人間との区別はパッと見ただけではつかない。
入口にはセキュリティのためのゲートがあり、社員証をかざすことで通行が可能だ。
来客は受付に約束があることを名乗るか、社員があらかじめゲート付近に常駐しているガードマンに相手先の会社名や来社する人物の名などを伝えることで、ゲートを通ることが許されている。
このビルの警備を担っている警備員の一人に一際大柄な男がいた。
彼の名は牛山辰馬といい、警備会社特有のガタイの良い男性が多い中でも目立つ存在であった。
この仕事は基本的にトラブルがない限りは平和で退屈な仕事であった。
特に都会では人があふれているせいか、いちいち警備員の顔など覚えていないだろうし、用事がなければ関わらないものだろう。
ただ一人を除いては。
「牛山さん、おはようございます。」
慌ただしく出社するサラリーマンたちの群れから、一人の女性が挨拶をしてきた。
その女性は先月転職してこのビルの中の会社に入社した人物で、夢主という。
きっかけは面接時にこのビルのシステムが分からずに困惑していた夢主を、牛山が受付まで案内してやったことだった。
面接の帰りにも丁寧にお礼をしてくれて、その時も慣れない路線に戸惑っていたから電車の乗り換えまで教えてやったことは覚えている。
それから彼女は入社後も牛山に挨拶を欠かさずしてくれている。
夢主の見た目はどこにでも居そうなOLであったが、彼女はこの都会でやっていけるのかと牛山が心配になるほど人懐っこい性格であった。
誰かが物を落とせば追い付くまで必死で声をかけておいかけるし、疲れている様子の人がいれば心配そうに声をかける――そんな女性だった。
「おはよう。いってらっしゃい。今日も頑張ってな。」
牛山が挨拶を返すと、夢主は嬉しそうにニッコリと笑って会釈しながら、自分のオフィスへと向かっていた。
牛山にとって夢主の存在は、退屈な仕事で唯一の癒しであった。
ただ最近は、少しだけ夢主が疲れているように感じることがあった。
きっと入社して時間が経つにつれて、様々な仕事を任されるようになってきたからだろうと牛山は思っていた。
「おはようございます。」
今日もいつものように夢主に挨拶される。
「おはよう、今日は天気が良くて暖かいな。」
牛山は、差し込む朝日に照らされてキラキラと輝いているように見える夢主を目を細めて見つめる。
夢主もその視線に気が付いたようで、ビルの外を少しだけ眺めて微笑んだ。
「そうですね、牛山さんもお仕事頑張って下さい。」
「ありがとう。いってらっしゃい。」
朝はこんなにも爽やかな会話をしたというのに、夕方になり帰るときの夢主は少しだけ強張った表情をしていた。
思わず牛山から声をかけてしまった。
「嬢ちゃん、何かあったのか?」
「あ、牛山さん……お疲れ様です。」
何かで頭がいっぱいだったのか声をかけられて驚いた様子の夢主は、牛山を見つけると少しだけほっとした表情を見せた。
「じ、実は……」
夢主が話していくにつれて、牛山はだんだんと表情が険しくなった。
夢主が入社して少し経った頃、同じビルで別階の会社の人間からメールが届いたそうな。
はじめは口説くような内容のメールだったが、相手の男性とは面識がなく、そもそも会社用のメールアドレスがどこから漏れたのかと夢主は怯えていた。
全く無視もできずにお誘いのメールを断り続けていたが、徐々に攻撃的で過激な内容になり返事が遅いとメールで何通も威圧してくることもあった。
他にも、夢主のオフィスのある階のエレベーターやトイレ付近で待ち伏せされたり、外でランチをとろうとすると尾行されることがあったそうだ。
電車でも追いかけられたことがあり、たまらず途中下車したこともあったらしい。
ついに今日は「家まで行く」といった脅迫めいた内容で夢主も耐え切れなくなっていたとのこと。
牛山は上司や警察に相談したのかと聞いたが、夢主はもうその頃にはうっすらと涙を浮かべていた。
上司に相談しても、同じビルのことだから大事にしたくないようであまり真面目に受け取ってもらえず、警察は相談は聞いてくれたものの今のところ実害がなく、ビル内の出来事が多いため周囲をパトロールすることくらいしか現状では何もできないと断られたらしい。
牛山は、夢主の肩にぽん、と手を乗せると安心させるように落ち着いたトーンで言った。
「わかった。このビル内のことだから、俺の会社にも報告しておこう。あと、定期巡回を増やして夢主の会社の階の見回りも強化するよう訴える。」
夢主は少しだけ安堵した様子を見せた。
でも、まだまだその表情は硬く険しい。
そして時計をチラ、と見た牛山は続けた。
「今日はあと30分したら上がりなんだ。もし良かったら、待っててもらえないか?俺が家の前まで送る。」
その言葉を理解するのに少し間があき、遅れて驚いた夢主の目が見開かれた。
「えっ、でも……。」
困惑する夢主に牛山はフッと笑う。
「面接のとき話したと思うが、……確か××駅だったよな?実は俺も近いんだ。」
そう言われては夢主は断れずに小さく頷いた。
牛山が心配だから、と来客用にロビーにある椅子で夢主を待たせる。
30分間は何事もなく経過し、牛山は着替えるために一旦警備室に戻った。
「やめてください……!」
牛山が戻ってくるとほぼ同時に、ロビーに夢主の震える声が響いた。
夢主は一人の男に手を握られ、椅子から立たされ、引っ張られていた。
「なんでだよ!俺のこと好きなんだろう!?」
「ですからっ、私は貴方のこと知りませんし、好意も持っていません……!」
そんなやりとりを目の当たりにしながら、交代した同僚の警備員は怪訝そうな顔をして見守っているだけだ。
一瞬で状況を判断した牛山は早歩きで夢主の元へ駆け寄る。
ためらいもなく男の肩を掴んだ。
男の姿は見たことがある。
確かにこのビル内に勤めている者だが、普段はおとなしそうな印象の男だ。
挨拶などもってのほかで、声を聞いたのはこれが初めてだった。
「なんだよお前。」
男は急に肩を掴まれて不機嫌そうに振り返ったが、後ろに立っていた牛山が想像以上に大男であったことで少しだけ怯んだ。
しかし夢主の手を離す様子はない。
「う、牛山さん……。」
夢主がちょっとだけ安堵した様子を見せたことで、逆上した男は夢主の腕を強く握りしめた。
「痛っ」
夢主が小さく悲鳴を上げると、牛山はたまらず片手で夢主の腕を握りしめる男の手をつかむ。
そして男の指が折れそうなほど力を込めて無理矢理引き剥がした。
圧倒的な力の差があったことから、その作業は文字通り赤子の手をひねるようなものだった。
「い、いてぇ……てめ、なにしやがる。」
無理矢理引きはがした後は、夢主と男の間に身を置いて牛山は男を見下ろす。
男は怯みつつもなんとか牛山を睨む。
「俺はここの警備員だ。お前さん、どういうつもりか知らないが、この嬢ちゃんはお前のことを怖がっているんだ。もう付きまとうのはやめなさい。君の会社にも報告させてもらうからな。」
本来なら、殴りかかりたいのを抑えてなんとか冷静に牛山が言葉を絞り出す。
言葉こそ社会人として平凡なものだったが、牛山のその様子は鬼のごとく青筋を立てて怒りに震えていることから、非常に気迫があった。
男は本能的に殺されると察知したのか、息を飲むと何も言わずそのまま帰っていった。
「大丈夫だったか、夢主。」
解放された夢主は、プルプルと小刻みに震えていた。
牛山が声をかけると涙ぐんだ顔で牛山を見上げて、そのままギュウッと牛山に飛びついた。
普段であれば理性を吹き飛ばしかねないシチュエーションだったが、この状況下ではそんな気持ちになるわけもなく、牛山は夢主を受け止めると安心させるように頭を優しく撫でてやった。
その日は夢主が泣き止むまでそうしてあげて、落ち着いてからは騒動を見ていたであろう同僚に証言を頼み会社にも報告をした。
あの様子だともう男は接触してこないだろうが、念のため夢主を家の前まで送って、牛山も帰宅した。
次の日の朝。
「ぉ、ぉ、おはよう、ございます。」
いつもとは違った様子で夢主が牛山に挨拶をする。
耳まで真っ赤にした彼女は、緊張しているようだった。
「ああ、おはよう。今朝は大丈夫だったかい?」
牛山はそんな夢主の様子を不思議に思いつつも、もはや保護者のような気持ちで夢主を見ていた。
夢主はこくん、と頷いたが、何か言いづらそうにモジモジとしている。
牛山が不思議そうに見下ろすと、夢主は一旦目を閉じて深呼吸をした。
そして決心した様子で顔を上げる。
「お礼をさせてください。」
「お礼?ああそんなのいいんだよ、あれくらい仕事の一環だ。」
牛山がサラリと流すと、夢主は見上げた角度のまま固まってしまった。
次の瞬間には、眉を下げて今にも泣きだしそうな表情になった。
今度は牛山が挙動不審になる番だった。
「す、すまん。傷つけるつもりは……。」
夢主はムッとした表情を浮かべると、まるで駄々をこねる子供のように唇を尖らせた。
コロコロと表情を変える夢主に、もはや牛山は知らない間に虜になっていたようで、目が離せなかった。
「お礼させてください。」
「わ、わかったわかった。」
牛山がたじたじになっていると、夢主がフッと笑いだした。
そして牛山を見上げて少し恥ずかしそうに続ける。
「私にだって下心くらいあるんですよ?」
「!」
おわり。
【あとがき:ジェントルマンな牛山さん。】
とある都会のオフィス街。
無数にそびえたつビル群の中の1つ、周囲に溶け込むように特徴のない外観をした高層ビルが今回のお話の舞台。
このビルには多種多様な会社が入っている。
そのため人の出入りも多く、外部の人間とここで働く人間との区別はパッと見ただけではつかない。
入口にはセキュリティのためのゲートがあり、社員証をかざすことで通行が可能だ。
来客は受付に約束があることを名乗るか、社員があらかじめゲート付近に常駐しているガードマンに相手先の会社名や来社する人物の名などを伝えることで、ゲートを通ることが許されている。
このビルの警備を担っている警備員の一人に一際大柄な男がいた。
彼の名は牛山辰馬といい、警備会社特有のガタイの良い男性が多い中でも目立つ存在であった。
この仕事は基本的にトラブルがない限りは平和で退屈な仕事であった。
特に都会では人があふれているせいか、いちいち警備員の顔など覚えていないだろうし、用事がなければ関わらないものだろう。
ただ一人を除いては。
「牛山さん、おはようございます。」
慌ただしく出社するサラリーマンたちの群れから、一人の女性が挨拶をしてきた。
その女性は先月転職してこのビルの中の会社に入社した人物で、夢主という。
きっかけは面接時にこのビルのシステムが分からずに困惑していた夢主を、牛山が受付まで案内してやったことだった。
面接の帰りにも丁寧にお礼をしてくれて、その時も慣れない路線に戸惑っていたから電車の乗り換えまで教えてやったことは覚えている。
それから彼女は入社後も牛山に挨拶を欠かさずしてくれている。
夢主の見た目はどこにでも居そうなOLであったが、彼女はこの都会でやっていけるのかと牛山が心配になるほど人懐っこい性格であった。
誰かが物を落とせば追い付くまで必死で声をかけておいかけるし、疲れている様子の人がいれば心配そうに声をかける――そんな女性だった。
「おはよう。いってらっしゃい。今日も頑張ってな。」
牛山が挨拶を返すと、夢主は嬉しそうにニッコリと笑って会釈しながら、自分のオフィスへと向かっていた。
牛山にとって夢主の存在は、退屈な仕事で唯一の癒しであった。
ただ最近は、少しだけ夢主が疲れているように感じることがあった。
きっと入社して時間が経つにつれて、様々な仕事を任されるようになってきたからだろうと牛山は思っていた。
「おはようございます。」
今日もいつものように夢主に挨拶される。
「おはよう、今日は天気が良くて暖かいな。」
牛山は、差し込む朝日に照らされてキラキラと輝いているように見える夢主を目を細めて見つめる。
夢主もその視線に気が付いたようで、ビルの外を少しだけ眺めて微笑んだ。
「そうですね、牛山さんもお仕事頑張って下さい。」
「ありがとう。いってらっしゃい。」
朝はこんなにも爽やかな会話をしたというのに、夕方になり帰るときの夢主は少しだけ強張った表情をしていた。
思わず牛山から声をかけてしまった。
「嬢ちゃん、何かあったのか?」
「あ、牛山さん……お疲れ様です。」
何かで頭がいっぱいだったのか声をかけられて驚いた様子の夢主は、牛山を見つけると少しだけほっとした表情を見せた。
「じ、実は……」
夢主が話していくにつれて、牛山はだんだんと表情が険しくなった。
夢主が入社して少し経った頃、同じビルで別階の会社の人間からメールが届いたそうな。
はじめは口説くような内容のメールだったが、相手の男性とは面識がなく、そもそも会社用のメールアドレスがどこから漏れたのかと夢主は怯えていた。
全く無視もできずにお誘いのメールを断り続けていたが、徐々に攻撃的で過激な内容になり返事が遅いとメールで何通も威圧してくることもあった。
他にも、夢主のオフィスのある階のエレベーターやトイレ付近で待ち伏せされたり、外でランチをとろうとすると尾行されることがあったそうだ。
電車でも追いかけられたことがあり、たまらず途中下車したこともあったらしい。
ついに今日は「家まで行く」といった脅迫めいた内容で夢主も耐え切れなくなっていたとのこと。
牛山は上司や警察に相談したのかと聞いたが、夢主はもうその頃にはうっすらと涙を浮かべていた。
上司に相談しても、同じビルのことだから大事にしたくないようであまり真面目に受け取ってもらえず、警察は相談は聞いてくれたものの今のところ実害がなく、ビル内の出来事が多いため周囲をパトロールすることくらいしか現状では何もできないと断られたらしい。
牛山は、夢主の肩にぽん、と手を乗せると安心させるように落ち着いたトーンで言った。
「わかった。このビル内のことだから、俺の会社にも報告しておこう。あと、定期巡回を増やして夢主の会社の階の見回りも強化するよう訴える。」
夢主は少しだけ安堵した様子を見せた。
でも、まだまだその表情は硬く険しい。
そして時計をチラ、と見た牛山は続けた。
「今日はあと30分したら上がりなんだ。もし良かったら、待っててもらえないか?俺が家の前まで送る。」
その言葉を理解するのに少し間があき、遅れて驚いた夢主の目が見開かれた。
「えっ、でも……。」
困惑する夢主に牛山はフッと笑う。
「面接のとき話したと思うが、……確か××駅だったよな?実は俺も近いんだ。」
そう言われては夢主は断れずに小さく頷いた。
牛山が心配だから、と来客用にロビーにある椅子で夢主を待たせる。
30分間は何事もなく経過し、牛山は着替えるために一旦警備室に戻った。
「やめてください……!」
牛山が戻ってくるとほぼ同時に、ロビーに夢主の震える声が響いた。
夢主は一人の男に手を握られ、椅子から立たされ、引っ張られていた。
「なんでだよ!俺のこと好きなんだろう!?」
「ですからっ、私は貴方のこと知りませんし、好意も持っていません……!」
そんなやりとりを目の当たりにしながら、交代した同僚の警備員は怪訝そうな顔をして見守っているだけだ。
一瞬で状況を判断した牛山は早歩きで夢主の元へ駆け寄る。
ためらいもなく男の肩を掴んだ。
男の姿は見たことがある。
確かにこのビル内に勤めている者だが、普段はおとなしそうな印象の男だ。
挨拶などもってのほかで、声を聞いたのはこれが初めてだった。
「なんだよお前。」
男は急に肩を掴まれて不機嫌そうに振り返ったが、後ろに立っていた牛山が想像以上に大男であったことで少しだけ怯んだ。
しかし夢主の手を離す様子はない。
「う、牛山さん……。」
夢主がちょっとだけ安堵した様子を見せたことで、逆上した男は夢主の腕を強く握りしめた。
「痛っ」
夢主が小さく悲鳴を上げると、牛山はたまらず片手で夢主の腕を握りしめる男の手をつかむ。
そして男の指が折れそうなほど力を込めて無理矢理引き剥がした。
圧倒的な力の差があったことから、その作業は文字通り赤子の手をひねるようなものだった。
「い、いてぇ……てめ、なにしやがる。」
無理矢理引きはがした後は、夢主と男の間に身を置いて牛山は男を見下ろす。
男は怯みつつもなんとか牛山を睨む。
「俺はここの警備員だ。お前さん、どういうつもりか知らないが、この嬢ちゃんはお前のことを怖がっているんだ。もう付きまとうのはやめなさい。君の会社にも報告させてもらうからな。」
本来なら、殴りかかりたいのを抑えてなんとか冷静に牛山が言葉を絞り出す。
言葉こそ社会人として平凡なものだったが、牛山のその様子は鬼のごとく青筋を立てて怒りに震えていることから、非常に気迫があった。
男は本能的に殺されると察知したのか、息を飲むと何も言わずそのまま帰っていった。
「大丈夫だったか、夢主。」
解放された夢主は、プルプルと小刻みに震えていた。
牛山が声をかけると涙ぐんだ顔で牛山を見上げて、そのままギュウッと牛山に飛びついた。
普段であれば理性を吹き飛ばしかねないシチュエーションだったが、この状況下ではそんな気持ちになるわけもなく、牛山は夢主を受け止めると安心させるように頭を優しく撫でてやった。
その日は夢主が泣き止むまでそうしてあげて、落ち着いてからは騒動を見ていたであろう同僚に証言を頼み会社にも報告をした。
あの様子だともう男は接触してこないだろうが、念のため夢主を家の前まで送って、牛山も帰宅した。
次の日の朝。
「ぉ、ぉ、おはよう、ございます。」
いつもとは違った様子で夢主が牛山に挨拶をする。
耳まで真っ赤にした彼女は、緊張しているようだった。
「ああ、おはよう。今朝は大丈夫だったかい?」
牛山はそんな夢主の様子を不思議に思いつつも、もはや保護者のような気持ちで夢主を見ていた。
夢主はこくん、と頷いたが、何か言いづらそうにモジモジとしている。
牛山が不思議そうに見下ろすと、夢主は一旦目を閉じて深呼吸をした。
そして決心した様子で顔を上げる。
「お礼をさせてください。」
「お礼?ああそんなのいいんだよ、あれくらい仕事の一環だ。」
牛山がサラリと流すと、夢主は見上げた角度のまま固まってしまった。
次の瞬間には、眉を下げて今にも泣きだしそうな表情になった。
今度は牛山が挙動不審になる番だった。
「す、すまん。傷つけるつもりは……。」
夢主はムッとした表情を浮かべると、まるで駄々をこねる子供のように唇を尖らせた。
コロコロと表情を変える夢主に、もはや牛山は知らない間に虜になっていたようで、目が離せなかった。
「お礼させてください。」
「わ、わかったわかった。」
牛山がたじたじになっていると、夢主がフッと笑いだした。
そして牛山を見上げて少し恥ずかしそうに続ける。
「私にだって下心くらいあるんですよ?」
「!」
おわり。
【あとがき:ジェントルマンな牛山さん。】