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土方
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Bar/土方
都会の中でも、繁華街から一本路地を入った場所。
少しばかり古ぼけた印象で、年季の入ったアンティークデザインの扉がそのBarの目印だ。
早朝にモーニングとして数時間、昼間に一度店をしめてその後は夜から深夜までの営業をしている。
そのバーのマスターは、スラッとした長身で姿勢の良い「土方」という名の老人だった。
土方は老人といっても明らかに目に活力があり、まだまだ若いものには負けないという強い意志を感じる生命力の強い男だった。
白銀の長髪を後ろに流し、髭をたくわえ普段からパリッとアイロンのかけられたシャツとストライプのズボン、胸元にはスカーフと常に決まった格好をしていた。
Barの内装は全体的に明治時代をモチーフにしており、落ち着いた暖色の電球によって薄暗いながらも温かみのある印象を抱く店になっていた。
カウンター内にはずらりと多種多様なアルコールのボトルが並んでいるが、一角だけ異様ともとれる空間があった。
無数のアルコールボトルの中に一か所だけぽっかりとボトルが置かれていない場所があり、そこには土方の愛刀「和泉守兼定」が鎮座していた。
通常のBarではまず見かけないその空間の異質さから、客から見せてほしいと言われても、絶対に他人には触らせない大切な愛刀であった。
土方はそれを毎日欠かさず手入れをしていた。
早朝、カランカランと店の扉が開く音がした。
土方がそちらへと視線をやると、元気よく女性が入ってきた。
「おはようございます、遅くなってすみません!土方さんっ!」
「おはよう、夢主。」
汗だくの女子がカウンターに入ると、土方は優しく微笑んだ。
この娘は去年からこのBarでアルバイトしている大学生の「夢主」であった。
ワイシャツにスラックスというシンプルでフォーマルさも感じる服装でありながら、場違いなほどに汗をかいていた。
土方がグラスに水を入れて夢主に差し出す。
「今日はいい天気だが、そんなに暑かったかね?」
夢主はそのグラスを受け取り、一気に飲み干した。
そしてエプロンを身にまといながら恥ずかしそうに笑った。
「実はダイエットのために、一駅歩いてきちゃいました。そしたら開かずの踏切にやられまして……。」
「そもそも夢主は太ってなどいないと思うがな。むしろもう少し食べた方がいいと思うぞ。」
土方が目を細めて笑うと、夢主は照れ臭そうにしながら仕事場につき、手慣れた手つきで客に提供する材料の下準備を行う。
この店の甘いデザート全般の作成は彼女が担っているのだ。
二人のやりとりを聞いていたカウンターに座っている店の常連が、思わず口を挟んだ。
「土方さん、それは最近ではセクハラになりかねません。」
常連の「永倉」は、ほぼ毎朝このBarに来ては土方と昔話をするのが日課になっていた。
近所で剣道を教えているとのことで、よく朝稽古後に店に来てはコーヒーを飲んでいた。
「おお、そうなのか夢主。」
指摘されて若干驚いたような様子を見せる土方。
夢主はブンブンと首を振った。
「い、いや土方さんなら全然……相手によるんですよ、セクハラっていうのは。」
「だそうだぞ、永倉。」
どこか勝ち誇ったような表情で土方が永倉に言うと、永倉はつるつるの頭を撫でて唸った。
「む……、難しい話ですな。」
老人二人がハハハと笑い声をあげる。
夢主は少し気恥ずかしい思いをした。
何故なら、夢主はこの親どころか祖父ともとれる歳の差の男性、土方に憧れのような……恋心に近い感情を抱いていたのだ。
歳の差があることで迷うのは何も年上側だけではない。
自分から言っても相手にされないだろうと思い、恋心を隠して働いている。
が、永倉にはバレバレなのだろう、ことあるごとに意味深な笑みを浮かべていた。
一通り夢主に気まずい思いをさせたところで、永倉が話し始めた。
「そういえば、今朝の朝刊で見たんだがここ最近このあたりでは強盗が多いようですぞ。」
「ああ、それは何度か聞いてる。」
土方は店のカウンターに置かれた新聞へと視線をやって頷いた。
「金目当てではあるだろうが、繁華街ではスナックで働く女性も襲われたりしているようだ。」
「え、物騒ですね……。」
少し不安そうな表情を浮かべた夢主に土方がぽん、と頭に手を置いて笑った。
「夢主はこの店にいる限りはこの土方が守るから安心するがいい。」
「は、はいぃ……。」
照れて何も言えなくなった夢主を見て、永倉がまたニヤニヤと含み笑いしていた。
そんなこんなでいつも通りの常連客の相手をして、簡単に調理場を片付けた夢主はそのまま大学へ向かう。
「では、行ってきます。夕方は5限まであるので多分遅くなるかと思います。」
「気を付けていってきなさい。」
早朝バイトを終え、夢主は近くの大学の講義に向かう。
土方は夢主にまかないとして昼食代わりになるよう軽食を渡し、夢主を見送った。
昼間は土方はBarの二階にあたる居住で休みを取る。
時間があれば買い出しや掃除なども行うため、しばしの休憩であった。
再び夜の営業が始まった頃、繁華街に近いとはいえ1軒目からこのBarに来る客は少ない。
混雑するまで数時間の猶予があるため、土方はひとりで切り盛りしていた。
しばらくしてほろ酔い状態の常連客がぽつぽつと来店する中、いつも元気に出迎えている夢主がいないことで露骨にがっかりとする客が多くなった。
遅くはなると夢主が言っていたが、それでもいつもならとっくに夢主が来る時間だ。
土方はさすがにいつもよりもずっと遅い出勤であることが気がかりであった。
心配になったが店をそのままにするわけにもいかない。
土方がやや困っていると、ギギッと軋んだ音を立ててカウンター奥の普段はあまり使わない裏口の扉が開いた。
土方が驚いてそちらを見ると、途中で転んだのだろうか泥だらけでボロボロの夢主がいた。
「夢主、何があった!?」
「ひ、土方さんっ……助けて。」
夢主は土方を見て安堵したのか涙をぽろぽろと流しながらカウンター内の床に座り込んでしまった。
「が、学校終わってお店に行こうとしたら、知らない男の人たちに最初はスカウトされて、無視してもついてきて、断ってたらお金出せって、追いかけられて……っ。それで、私、なんとか遠回りしてここに……。」
途切れ途切れになりながらも夢主はここにたどりつくまでの様子を話す。
土方は黙ったままそっと夢主の頭を撫でる。
そして小さく呟いた。
「よくも夢主に……。」
いつも冷静沈着な土方が明らかに動揺し、怒っている様子を見た常連客が「なんだなんだ?」と興味深そうに立ち上がる。
そんな中で突然、Barの入口の扉が乱暴な音を立てて開いた。
ナイフのようなものを持って顔をマスクやサングラスで隠した若者が数人入ってきた。
店の備品や椅子を蹴り飛ばしながら男たちは暴れる。
「金を出せ!!」「さっき女がここに来ただろ!?」「隠れてんのはわかってんだよ!」
口々に物騒なことを叫ぶ強盗たちに、常連客はややパニックになりながらも流れるように店の奥側に逃げる。
それに対して土方は静かに立ち上がると、カウンター内の愛刀を手にして強盗たちの目の前に立ちはだかった。
「じいさん金出せや。」「な、なんだこいつ。」「女も出せ!」
殺気だつ土方に若干気圧された強盗たちだったが、ナイフを構えるとそれぞれ一斉に土方に向かってナイフを振りかざす。
土方が刀を構えた数秒後、静寂が店内を包み込んだ。
客たちが恐る恐るそちらの様子を窺うと「あっ」と誰かが声を上げた。
強盗たちは全員腹部や喉などを押さえて蹲っていた。
しかし彼らは出血はしておらず、土方が鞘に納めたままの刀で打撃を与えたことが分かった。
ほんの一瞬の間に土方は複数人の強盗たちを取り押さえ、一番威勢の良かったリーダー格の若者の頭を掴んで持ち上げると顔を近付けて言い放つ。
「次に夢主に近づいたら、息の根を止めてやる。二度と顔を見せるな。」
常連客が通報をしていたようで、遅れて警察がやってきて強盗犯たちは連れていかれた
土方や夢主も聞き取りをされたが客たちの証言もあり、正当防衛として処理された。
さすがに今日は営業はできない状態であったため、客には謝罪してまた後日来てもらうことになった。
お代は良いと土方が言っても、皆それぞれカウンターにお金を置いて帰っていったところから、土方の人望が伺える。
土方が椅子や食器が散乱した店内を片付けようしていると、夢主が掃除道具を持って立っていた。
「夢主……今日は帰って良いと言ったじゃないか。」
土方が驚いてそう口にするも、ぎゅっと箒を握って離さなかった。
「いいんです。ご迷惑をおかけしてしまったので。」
「夢主は被害者なのだぞ。」
「それでもです。」
夢主がきっぱりと答えると、どちらからともなく二人は片づけを始める。
会話もなく、ただ掃除をする音だけが鳴っていた。
「……怖い思いをさせてしまったかな。」
土方にそう問いかけられて、夢主は少し気まずそうに笑いながらも首を横に振った。
そして考え込むような仕草を見せてから、話し出す。
「……土方さんって、本当にお強いんですね。私、あんな状況なのに感動しちゃいました。」
「はは、感動か。それはまた嬉しいことを言ってくれる。いつでも頼ってくれたまえよ。」
明るく笑う土方に、夢主は緊張した面持ちで向き直った。
「あの、土方さん。」
「何かね。」
夢主の改まった様子に土方も掃除の手を止めて夢主へ向く。
「わ、私……土方さんが好きなんです。ここで働き始める前に一度だけお店にお客として来たときから。」
土方は少し驚いた様子であったが何も言わずに夢主を見つめる。
夢主は緊張と恥ずかしさからか顔を赤らめながら続けた。
「尊敬もしていますが、恋愛の意味で、好きなんです……。だから、その……。」
夢主が言い淀んだところで、土方が夢主の腕を掴んで引き寄せた。
土方は優しく夢主を抱き留めておきながら対照的に力強く続ける。
「皆まで言う必要はない。この土方、これからは店の中だけではなく外でも夢主を守ると約束しよう。」
「嬉しい……。」
そう呟くように言った夢主は土方の背中にぎゅっと手を回して抱き着いた。
店内の温かみのある薄暗い電灯の元で、二人はしばらくそうして抱き合った。
それからの二人は歳の差カップルとして、常連客公認の状態でBarで働き続けた。
常連客の一部は明らかに大失恋しているものもいたが、それでも皆祝福してくれた。
前にも増して明るく幸せそうに笑う看板娘の夢主と、格好良く歳を重ねたダンディーな店主が出迎えてくれるBarは、知る人ぞ知る満足感の高い温かいBarとなったとさ。
おわり。
【あとがき:イケオジ最高~~~】
都会の中でも、繁華街から一本路地を入った場所。
少しばかり古ぼけた印象で、年季の入ったアンティークデザインの扉がそのBarの目印だ。
早朝にモーニングとして数時間、昼間に一度店をしめてその後は夜から深夜までの営業をしている。
そのバーのマスターは、スラッとした長身で姿勢の良い「土方」という名の老人だった。
土方は老人といっても明らかに目に活力があり、まだまだ若いものには負けないという強い意志を感じる生命力の強い男だった。
白銀の長髪を後ろに流し、髭をたくわえ普段からパリッとアイロンのかけられたシャツとストライプのズボン、胸元にはスカーフと常に決まった格好をしていた。
Barの内装は全体的に明治時代をモチーフにしており、落ち着いた暖色の電球によって薄暗いながらも温かみのある印象を抱く店になっていた。
カウンター内にはずらりと多種多様なアルコールのボトルが並んでいるが、一角だけ異様ともとれる空間があった。
無数のアルコールボトルの中に一か所だけぽっかりとボトルが置かれていない場所があり、そこには土方の愛刀「和泉守兼定」が鎮座していた。
通常のBarではまず見かけないその空間の異質さから、客から見せてほしいと言われても、絶対に他人には触らせない大切な愛刀であった。
土方はそれを毎日欠かさず手入れをしていた。
早朝、カランカランと店の扉が開く音がした。
土方がそちらへと視線をやると、元気よく女性が入ってきた。
「おはようございます、遅くなってすみません!土方さんっ!」
「おはよう、夢主。」
汗だくの女子がカウンターに入ると、土方は優しく微笑んだ。
この娘は去年からこのBarでアルバイトしている大学生の「夢主」であった。
ワイシャツにスラックスというシンプルでフォーマルさも感じる服装でありながら、場違いなほどに汗をかいていた。
土方がグラスに水を入れて夢主に差し出す。
「今日はいい天気だが、そんなに暑かったかね?」
夢主はそのグラスを受け取り、一気に飲み干した。
そしてエプロンを身にまといながら恥ずかしそうに笑った。
「実はダイエットのために、一駅歩いてきちゃいました。そしたら開かずの踏切にやられまして……。」
「そもそも夢主は太ってなどいないと思うがな。むしろもう少し食べた方がいいと思うぞ。」
土方が目を細めて笑うと、夢主は照れ臭そうにしながら仕事場につき、手慣れた手つきで客に提供する材料の下準備を行う。
この店の甘いデザート全般の作成は彼女が担っているのだ。
二人のやりとりを聞いていたカウンターに座っている店の常連が、思わず口を挟んだ。
「土方さん、それは最近ではセクハラになりかねません。」
常連の「永倉」は、ほぼ毎朝このBarに来ては土方と昔話をするのが日課になっていた。
近所で剣道を教えているとのことで、よく朝稽古後に店に来てはコーヒーを飲んでいた。
「おお、そうなのか夢主。」
指摘されて若干驚いたような様子を見せる土方。
夢主はブンブンと首を振った。
「い、いや土方さんなら全然……相手によるんですよ、セクハラっていうのは。」
「だそうだぞ、永倉。」
どこか勝ち誇ったような表情で土方が永倉に言うと、永倉はつるつるの頭を撫でて唸った。
「む……、難しい話ですな。」
老人二人がハハハと笑い声をあげる。
夢主は少し気恥ずかしい思いをした。
何故なら、夢主はこの親どころか祖父ともとれる歳の差の男性、土方に憧れのような……恋心に近い感情を抱いていたのだ。
歳の差があることで迷うのは何も年上側だけではない。
自分から言っても相手にされないだろうと思い、恋心を隠して働いている。
が、永倉にはバレバレなのだろう、ことあるごとに意味深な笑みを浮かべていた。
一通り夢主に気まずい思いをさせたところで、永倉が話し始めた。
「そういえば、今朝の朝刊で見たんだがここ最近このあたりでは強盗が多いようですぞ。」
「ああ、それは何度か聞いてる。」
土方は店のカウンターに置かれた新聞へと視線をやって頷いた。
「金目当てではあるだろうが、繁華街ではスナックで働く女性も襲われたりしているようだ。」
「え、物騒ですね……。」
少し不安そうな表情を浮かべた夢主に土方がぽん、と頭に手を置いて笑った。
「夢主はこの店にいる限りはこの土方が守るから安心するがいい。」
「は、はいぃ……。」
照れて何も言えなくなった夢主を見て、永倉がまたニヤニヤと含み笑いしていた。
そんなこんなでいつも通りの常連客の相手をして、簡単に調理場を片付けた夢主はそのまま大学へ向かう。
「では、行ってきます。夕方は5限まであるので多分遅くなるかと思います。」
「気を付けていってきなさい。」
早朝バイトを終え、夢主は近くの大学の講義に向かう。
土方は夢主にまかないとして昼食代わりになるよう軽食を渡し、夢主を見送った。
昼間は土方はBarの二階にあたる居住で休みを取る。
時間があれば買い出しや掃除なども行うため、しばしの休憩であった。
再び夜の営業が始まった頃、繁華街に近いとはいえ1軒目からこのBarに来る客は少ない。
混雑するまで数時間の猶予があるため、土方はひとりで切り盛りしていた。
しばらくしてほろ酔い状態の常連客がぽつぽつと来店する中、いつも元気に出迎えている夢主がいないことで露骨にがっかりとする客が多くなった。
遅くはなると夢主が言っていたが、それでもいつもならとっくに夢主が来る時間だ。
土方はさすがにいつもよりもずっと遅い出勤であることが気がかりであった。
心配になったが店をそのままにするわけにもいかない。
土方がやや困っていると、ギギッと軋んだ音を立ててカウンター奥の普段はあまり使わない裏口の扉が開いた。
土方が驚いてそちらを見ると、途中で転んだのだろうか泥だらけでボロボロの夢主がいた。
「夢主、何があった!?」
「ひ、土方さんっ……助けて。」
夢主は土方を見て安堵したのか涙をぽろぽろと流しながらカウンター内の床に座り込んでしまった。
「が、学校終わってお店に行こうとしたら、知らない男の人たちに最初はスカウトされて、無視してもついてきて、断ってたらお金出せって、追いかけられて……っ。それで、私、なんとか遠回りしてここに……。」
途切れ途切れになりながらも夢主はここにたどりつくまでの様子を話す。
土方は黙ったままそっと夢主の頭を撫でる。
そして小さく呟いた。
「よくも夢主に……。」
いつも冷静沈着な土方が明らかに動揺し、怒っている様子を見た常連客が「なんだなんだ?」と興味深そうに立ち上がる。
そんな中で突然、Barの入口の扉が乱暴な音を立てて開いた。
ナイフのようなものを持って顔をマスクやサングラスで隠した若者が数人入ってきた。
店の備品や椅子を蹴り飛ばしながら男たちは暴れる。
「金を出せ!!」「さっき女がここに来ただろ!?」「隠れてんのはわかってんだよ!」
口々に物騒なことを叫ぶ強盗たちに、常連客はややパニックになりながらも流れるように店の奥側に逃げる。
それに対して土方は静かに立ち上がると、カウンター内の愛刀を手にして強盗たちの目の前に立ちはだかった。
「じいさん金出せや。」「な、なんだこいつ。」「女も出せ!」
殺気だつ土方に若干気圧された強盗たちだったが、ナイフを構えるとそれぞれ一斉に土方に向かってナイフを振りかざす。
土方が刀を構えた数秒後、静寂が店内を包み込んだ。
客たちが恐る恐るそちらの様子を窺うと「あっ」と誰かが声を上げた。
強盗たちは全員腹部や喉などを押さえて蹲っていた。
しかし彼らは出血はしておらず、土方が鞘に納めたままの刀で打撃を与えたことが分かった。
ほんの一瞬の間に土方は複数人の強盗たちを取り押さえ、一番威勢の良かったリーダー格の若者の頭を掴んで持ち上げると顔を近付けて言い放つ。
「次に夢主に近づいたら、息の根を止めてやる。二度と顔を見せるな。」
常連客が通報をしていたようで、遅れて警察がやってきて強盗犯たちは連れていかれた
土方や夢主も聞き取りをされたが客たちの証言もあり、正当防衛として処理された。
さすがに今日は営業はできない状態であったため、客には謝罪してまた後日来てもらうことになった。
お代は良いと土方が言っても、皆それぞれカウンターにお金を置いて帰っていったところから、土方の人望が伺える。
土方が椅子や食器が散乱した店内を片付けようしていると、夢主が掃除道具を持って立っていた。
「夢主……今日は帰って良いと言ったじゃないか。」
土方が驚いてそう口にするも、ぎゅっと箒を握って離さなかった。
「いいんです。ご迷惑をおかけしてしまったので。」
「夢主は被害者なのだぞ。」
「それでもです。」
夢主がきっぱりと答えると、どちらからともなく二人は片づけを始める。
会話もなく、ただ掃除をする音だけが鳴っていた。
「……怖い思いをさせてしまったかな。」
土方にそう問いかけられて、夢主は少し気まずそうに笑いながらも首を横に振った。
そして考え込むような仕草を見せてから、話し出す。
「……土方さんって、本当にお強いんですね。私、あんな状況なのに感動しちゃいました。」
「はは、感動か。それはまた嬉しいことを言ってくれる。いつでも頼ってくれたまえよ。」
明るく笑う土方に、夢主は緊張した面持ちで向き直った。
「あの、土方さん。」
「何かね。」
夢主の改まった様子に土方も掃除の手を止めて夢主へ向く。
「わ、私……土方さんが好きなんです。ここで働き始める前に一度だけお店にお客として来たときから。」
土方は少し驚いた様子であったが何も言わずに夢主を見つめる。
夢主は緊張と恥ずかしさからか顔を赤らめながら続けた。
「尊敬もしていますが、恋愛の意味で、好きなんです……。だから、その……。」
夢主が言い淀んだところで、土方が夢主の腕を掴んで引き寄せた。
土方は優しく夢主を抱き留めておきながら対照的に力強く続ける。
「皆まで言う必要はない。この土方、これからは店の中だけではなく外でも夢主を守ると約束しよう。」
「嬉しい……。」
そう呟くように言った夢主は土方の背中にぎゅっと手を回して抱き着いた。
店内の温かみのある薄暗い電灯の元で、二人はしばらくそうして抱き合った。
それからの二人は歳の差カップルとして、常連客公認の状態でBarで働き続けた。
常連客の一部は明らかに大失恋しているものもいたが、それでも皆祝福してくれた。
前にも増して明るく幸せそうに笑う看板娘の夢主と、格好良く歳を重ねたダンディーな店主が出迎えてくれるBarは、知る人ぞ知る満足感の高い温かいBarとなったとさ。
おわり。
【あとがき:イケオジ最高~~~】