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逆ハー・複数キャラ
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夏だ!海に行こう!/逆ハー?
「あついあついあつい~!」
とある大学のキャンパス内、中庭にあるわずかな日陰で夢主という女子大生が叫ぶ。
「本当に暑いよねぇ、毎年毎年最高気温更新してるもんね。」
うだるような暑さの中、夢主の隣に座った青年が爽やかな笑顔で返事をする。
その青年は顔に特徴的な傷があるが、その傷を感じさせないくらいに整った顔立ちと爽やかさから多くの人から好印象を抱かれているであろう容姿だった。
「杉元くんはなんで夏でもそんなに爽やかなの。」
夢主は今時の女子大生らしく、ブリーチを繰り返しもはや白銀に近い色のロングヘアーをポニーテールにして、上はノースリーブで下はショートパンツ姿で、健康的かつスタイルの良さを惜しげもなく見せつけているような格好だった。
彼女は見た目だけではなく中身も元気で活発、素直で愛嬌のある性格から、友人も多く学校内では男女問わず人気者だった。
杉元と一緒に夢主が中庭のベンチでダラけていると、後ろからヒヤッとしたものが二人の首筋に押し付けられた。
「ひっ!」「うわぁ!」
二人が同時に悲鳴を上げて振り返ると、後ろにはコーラの缶を両手に持った坊主頭の男子学生がケラケラ笑っていた。
「なにすんだよぉシライシ。」
杉元が少し不満そうに言うと、白石と呼ばれた男は先ほど押し付けたコーラを二人に渡す。
「さっきパチンコで勝ったからおすそわけ~!」
上機嫌で答えると、白石も二人の隣に腰をかけた。
「ありがとう白石くん。」
「今日も夢主ちゃんかーわいッ!」
「だぁーっ!暑いからひっつかないで!」
バシッバシッと乾いた音をたてて夢主が白石を払いのける。
杉元がそんな二人を見ながらケラケラと笑う。
そして汗をぬぐいながら問いかける。
「それにしても、なんでうちの学校クーラーつけないんだろうね。」
「ついてるぞ、図書室と授業をやっている教室だけな。」
「お前ら少しは掲示板とか見ろ。」
白石と夢主が答えるよりも先に、後ろから2人分の声が聞こえた。
3人が振り返ると、そこには学園一のお坊ちゃまの鯉登とその幼馴染の月島がいた。
「お~2人ともお疲れ。」
夢主が手をふると嬉しそうに鯉登が駆け出す。
それを横にいた月島が無表情で止める。
「む、何故止める月島ァ。」
「暑苦しいのに抱き着いたら怒られますよ。」
「だ、抱き着こうなどとは……!」
動揺する鯉登に対し、白石がニタッと笑った。
「ちなみに、抱き着くとこうなるんだよぉ鯉登ちゃぁん。」
そういって白石が見せたほっぺたには夢主にぶたれたであろう綺麗な紅葉形が咲いていた。
そんなしょうもない話をしている最中、ふと夢主が呟いた。
「……海に行きたーい。」
それを聞いた全員が一瞬静まりかえって、バッと一斉に夢主を見た。
「え、な、なに……?」
夢主が驚いていると、次の瞬間全員がワッと盛り上がった。
「それだそれ!」「行こうよ!海!」「ナイスだ!」「いいですね!」
夢主はほっとした表情を浮かべつつ、続ける。
「じゃあみんなで行きましょうかね、海!……尾形くんも、行くでしょ?」
そうおもむろに夢主が頭上を仰ぐと、中庭にある唯一の大木であり今夢主たちがいる小さな木陰を作っている木の上から、尾形と呼ばれた男子学生がまるで猫のようにぬっと顔を出した。
夢主以外の全員が唖然とした表情で見上げる中、尾形がずるずると木から降りてくる。
地上に降り立った尾形は無表情で答えた。
「……行く。」
一行はその話をした週末、杉元の家に集合した。
学校一のお坊ちゃまの鯉登家の方が広いのだが、鯉登は実家を離れてセキュリティの強固な高級マンションに一人暮らしをしているため学生がぞろぞろと集うとつまみ出される可能性もあった。
結局一番セキュリティの甘い杉元の安アパートに集まったのだった。
安アパートなことに加え、防犯意識の低い杉元がカギをかけていないことは親しい友人間では周知の事実であった。
そのため続々と今日海に行くメンバーが杉元の家に入ってきていた。
「みんなおはよー!いい天気だねッ!」
夢主が入ってくると先に家にいた杉元・白石・尾形は、楽しみをこらえきれない様子の夢主を一目見ようと次々に顔を出した。
夢主は気合十分に髪型をアップアレンジをしてお団子にまとめ、サングラスや浮き輪などの小物もしっかりと装備していた。
「おはよう、夢主ちゃん。」
「水着は!?水着はまだなの!?」
「……。」
それぞれがリアクションをする中、夢主は慣れた様子で家に上がってローテーブルを囲んだ。
「水着はね~Tシャツの下に着てきたよん。」
律儀に白石のセクハラに答える夢主。
実際夢主のTシャツの襟からビキニの黒い首紐だけが見えていた。
白石だけではなく、杉元や尾形も思わず黙ってその首元を凝視する。
夢主は全く気にせず「しっかし暑いねー…」などと呑気に呟いている。
「あれ、鯉登くんと月島くんは?まだ?」
夢主がきょろきょろとしながら見渡す。
杉元が「レンタカーを借りてるから…」と答えている途中、外から早朝だと言うのに大きく車のクラクションが鳴った。
窓際にいた尾形がガラッと杉元家のベランダへ続く窓をあけると、そこには大型のバンがアパートの前にいた。
月島が運転しているようだったが、助手席に乗った鯉登が横から思いっきりクラクションを鳴らしている。
何度も鳴らされるクラクションに、月島が慌てて止めているが構わず鯉登が早く来い!と急かすようなジェスチャーをしてもう一発クラクションを鳴らす。
どうやら楽しみすぎて鯉登がはしゃいでいるようだった。
「やばいやばい、怒られないうちに出よう!」
杉元は大家や他の住民に怒られる前に、と慌てて荷物をひっさげて出掛ける準備をする。
夢主もそれに続き立ち上がり、尾形と白石はどっちが夢主の荷物を持ってあげるかで無言の小競り合いをしていた。
3列シートの大型のバンに乗り込むことに。
運転は月島・助手席に鯉登・2列目には杉元と白石・3列目には尾形と夢主となった。
杉元と白石が比較的広い2列目に夢主を座らせるつもりでその隣を争っている間に、黙って尾形が夢主の手を引いて3列目に乗り込んでしまったため、強引に決まった席順だった。
杉元と白石は最初のうちこそ不満げな顔をしていたものの、走り出すとすぐにテンションマックスで海へと向かった。
尾形は車に乗り込んで早々にうたた寝をしていたが、夢主は気にすることなく前の座席の2人と話して過ごしていた。
「海だぁ!」
海辺に降り立った夢主は両手を広げて嬉しそうにはしゃぐ。
夏の暑さも海の前では無関係だと言わんばかりに楽しそうに走っている。
そんな夢主を海を見るフリをして凝視する一行。
夢主は早く早く!とそんな一行を急かし、男性陣は慌てて荷物を用意することになった。
鯉登がご自慢の財力でそろえたキャンプ道具を駆使し、テントやパラソルなどが設置されていく。
男たちが組み立てや準備をしている中、夢主は早々に着ていた服を脱ぎ捨ててセクシーな黒いビキニ姿ではしゃいでいる。
男たちは時折そんな夢主を見てはたまらん!と言わんばかりに目を細めていた。
誰からともなく「可愛い…」と呟いては全員で頷き合った。
夢主が背中に日焼け止めが届かない!といえば全員で塗ろうとして乱闘になったり(争いに不参加だった月島に塗ってもらった)、持参したビーチボールや浮き輪が膨らまない!といえばまだ膨らんでもいないボールの奪い合いになったり(全員で順番にやった)と小さなトラブルはあったが順調に準備が整った。
落ち着いたところでようやく全員で海に入る。
海の冷たさが気持ちよく、水をかけあったりビーチボールをパスし合ってはしゃいだ。
今ばかりは夏の暑さも心地よく、開放的な気分で全員が楽しんだ。
一通り遊び終えたので浜辺にあがり軽食をとって、のんびりと砂浜で過ごす。
「あ、そうだ忘れてた。」
夢主はそう呟いて自分の荷物をごそごそと漁る。
横で寝転がっていた杉元がサングラスをずらしながら「どうしたのー?」と問いかけると、夢主は大したことではないとばかりに「ううん、ちょっと連絡するだけ。」とスマホをいじる。
簡単にメッセージを送ると、すぐにスマホを戻してまた先ほどのようにのんびりと過ごした。
すいか割りやビーチバレー、白石を砂浜に埋めたりなど、思いつく限りの様々な遊びを繰り返した彼ら。
やがて陽が落ちてきて、夢主たちのいるビーチを赤く染める。
「楽しかったねぇ。」
夢主はパラソルの下で少し疲れつつも満足そうな様子でつぶやく。
その横顔は夕日による赤と影のコントラストで切なさも感じられるほど非常に色っぽいものだったため、誰かがごくん…と生唾を飲み込む音が聞こえてくるほどだった。
すすす…と白石が夢主に少しばかり身を寄せて話しかけた。
「あ、あのさ。夢主ちゃん。」
「ん?なに?」
波を見つめたまま、夢主は聞き返す。
白石は言いづらそうにンン、と咳払いをしてからつづけた。
白石が何を言うか他の男性陣は予想がついているのか、心なしか真剣な表情で夢主の顔を見つめていた。
「……そ、その、夢主ちゃんはさ、こ、この中だと……誰がいいとか、ある?」
「へ?何の話?」
夢主がきょとん、とした表情で白石の方を振り返る。
しばしの沈黙。
そのムードと緊張感に夢主の口からどんな返答が来るのかと全員が固唾をのんで見守る。
しかし一同の期待に反して、夢主の視線は白石からやや後方へと動き、すぐにパッと表情が明るくなる。
夢主の口からは全員が予想外である言葉が飛び出した。
「あっ!パパー!」
そう明るくハッキリと叫んだ夢主は、言葉とほぼ同時に立ち上がり嬉しそうに駆け出す。
男性陣もその挙動に驚いて、また「パパ」という言葉に混乱しつつも夢主が目指す方向を視線で追う。
夢主が向かっている先にいたのは、遠くから見てもオーラと気品のあるスーツ姿の1人の男性だった。
男性の後ろには高級外車と思われる大きな黒塗りの車が停めてあった。
男性は顔にやや特徴的な傷があり、変わった素材の額当てのようなもので傷を覆っているが、額当てが気にならないくらいスマートで紳士的な雰囲気を漂わせていた。
そう、そこに立っていたのは、彼らが通う大学の学長である「鶴見」という男だった。
「パパ」という言葉の意味を全員がやっと理解した瞬間だった。
唯一、月島だけが動揺の程度が低く、スッと立ち上がって夢主の後を追って行った。
混乱と動揺を隠せない男性陣を置いてけぼりにして、夢主は鶴見に抱き着くとさも当然のように腕にしがみついた。
「パパ!迎えにきてくれてありがとう。」
「ははは、いいんだよ。いつでも呼びなさい。」
そんな会話をしながら夢主と腕を組んで高そうなスーツや革靴が汚れることも気にせず砂浜に降り立つ鶴見。
遅れて夢主のもとへ行った月島が、ペコリと慣れた様子で鶴見に挨拶をしていた。
そのほかの男性一同はビックリした様子で立ち上がることもままならない。
月島を後ろに控えて、鶴見と夢主が男性陣の元まで歩いてくると、ようやく他の男性陣もよろよろと立ち上がった。
「夢主ちゃん、学長の娘だったの!?」
白石が叫ぶように聞くと、夢主はへへへ…とバツが悪そうに笑うも鶴見は対照的にハハハと高らかに笑う。
「娘がいつもお世話になっているね。娘にはあんまり外で鶴見とは名乗らせず、むしろ便宜上妻側の旧姓を名乗ってもらっているんだ。」
「そうゆうこと、ごめんね今まで内緒にしてて。」
夢主が少し気まずそうに謝ったが、一同は何も言えないでいた。
鶴見はそんな彼らに向かってつづけた。
「今日は友達とここで遊んでいると聞いてね、仕事で近くを通ったから寄ってみたんだ。それに、仲が良いなら隠し続けるのも良くないと思ったからね。」
「月島は知ってたのか……!?」
呆然とした様子の鯉登に、月島が「すみません……」と小さく呟くように言う。
それを鶴見は制して、前に出た。
「鯉登さんとこのご子息だね?パーティや会合ではキミのお父様にはよくしてもらっているよ。月島君は私がやっている研究の手伝いをしてくれていてね。月島君には事情を話した上で、秘密にしてもらっていたんだ。」
どおりで月島はいつも夢主を積極的に口説きにいかないわけだ…と誰もが頭の中で答え合わせをしていた。
「じゃっ、そういうわけだから、帰りは私パパと帰るね!今日はありがと~!また学校でね♪」
夢主は鶴見の腕にくっついたままヒラリと手を振る。
鶴見も夢主の手荷物を持ってあげると、紳士的にエスコートしながら車まで戻っていった。
それだけで絵になるような美男美女の親子の後ろ姿を呆然と見送ることしかできなかった男性陣。
月島だけが真面目な表情で二人の姿が見えなくなるまで綺麗な角度でお辞儀をして見送っていた。
突然、誰からともなく叫び出す。
「くそー!やってられるか!」「敵うわけねーじゃんあんなの!」「手ごわいな…」「チッ」
それぞれがやってらんねーと言わんばかりに海に貝殻や小石を投げ込む。
ボチャンボチャンと鈍い音を立てながら波がさざめき、悲しき猿と化した男共の後ろ姿を月島だけが険しい表情で見つめていたとさ。
めでたしめでたし。
おわり。
【あとがき:父親がイケメンだと娘は恋愛に苦労しそう…笑】
「あついあついあつい~!」
とある大学のキャンパス内、中庭にあるわずかな日陰で夢主という女子大生が叫ぶ。
「本当に暑いよねぇ、毎年毎年最高気温更新してるもんね。」
うだるような暑さの中、夢主の隣に座った青年が爽やかな笑顔で返事をする。
その青年は顔に特徴的な傷があるが、その傷を感じさせないくらいに整った顔立ちと爽やかさから多くの人から好印象を抱かれているであろう容姿だった。
「杉元くんはなんで夏でもそんなに爽やかなの。」
夢主は今時の女子大生らしく、ブリーチを繰り返しもはや白銀に近い色のロングヘアーをポニーテールにして、上はノースリーブで下はショートパンツ姿で、健康的かつスタイルの良さを惜しげもなく見せつけているような格好だった。
彼女は見た目だけではなく中身も元気で活発、素直で愛嬌のある性格から、友人も多く学校内では男女問わず人気者だった。
杉元と一緒に夢主が中庭のベンチでダラけていると、後ろからヒヤッとしたものが二人の首筋に押し付けられた。
「ひっ!」「うわぁ!」
二人が同時に悲鳴を上げて振り返ると、後ろにはコーラの缶を両手に持った坊主頭の男子学生がケラケラ笑っていた。
「なにすんだよぉシライシ。」
杉元が少し不満そうに言うと、白石と呼ばれた男は先ほど押し付けたコーラを二人に渡す。
「さっきパチンコで勝ったからおすそわけ~!」
上機嫌で答えると、白石も二人の隣に腰をかけた。
「ありがとう白石くん。」
「今日も夢主ちゃんかーわいッ!」
「だぁーっ!暑いからひっつかないで!」
バシッバシッと乾いた音をたてて夢主が白石を払いのける。
杉元がそんな二人を見ながらケラケラと笑う。
そして汗をぬぐいながら問いかける。
「それにしても、なんでうちの学校クーラーつけないんだろうね。」
「ついてるぞ、図書室と授業をやっている教室だけな。」
「お前ら少しは掲示板とか見ろ。」
白石と夢主が答えるよりも先に、後ろから2人分の声が聞こえた。
3人が振り返ると、そこには学園一のお坊ちゃまの鯉登とその幼馴染の月島がいた。
「お~2人ともお疲れ。」
夢主が手をふると嬉しそうに鯉登が駆け出す。
それを横にいた月島が無表情で止める。
「む、何故止める月島ァ。」
「暑苦しいのに抱き着いたら怒られますよ。」
「だ、抱き着こうなどとは……!」
動揺する鯉登に対し、白石がニタッと笑った。
「ちなみに、抱き着くとこうなるんだよぉ鯉登ちゃぁん。」
そういって白石が見せたほっぺたには夢主にぶたれたであろう綺麗な紅葉形が咲いていた。
そんなしょうもない話をしている最中、ふと夢主が呟いた。
「……海に行きたーい。」
それを聞いた全員が一瞬静まりかえって、バッと一斉に夢主を見た。
「え、な、なに……?」
夢主が驚いていると、次の瞬間全員がワッと盛り上がった。
「それだそれ!」「行こうよ!海!」「ナイスだ!」「いいですね!」
夢主はほっとした表情を浮かべつつ、続ける。
「じゃあみんなで行きましょうかね、海!……尾形くんも、行くでしょ?」
そうおもむろに夢主が頭上を仰ぐと、中庭にある唯一の大木であり今夢主たちがいる小さな木陰を作っている木の上から、尾形と呼ばれた男子学生がまるで猫のようにぬっと顔を出した。
夢主以外の全員が唖然とした表情で見上げる中、尾形がずるずると木から降りてくる。
地上に降り立った尾形は無表情で答えた。
「……行く。」
一行はその話をした週末、杉元の家に集合した。
学校一のお坊ちゃまの鯉登家の方が広いのだが、鯉登は実家を離れてセキュリティの強固な高級マンションに一人暮らしをしているため学生がぞろぞろと集うとつまみ出される可能性もあった。
結局一番セキュリティの甘い杉元の安アパートに集まったのだった。
安アパートなことに加え、防犯意識の低い杉元がカギをかけていないことは親しい友人間では周知の事実であった。
そのため続々と今日海に行くメンバーが杉元の家に入ってきていた。
「みんなおはよー!いい天気だねッ!」
夢主が入ってくると先に家にいた杉元・白石・尾形は、楽しみをこらえきれない様子の夢主を一目見ようと次々に顔を出した。
夢主は気合十分に髪型をアップアレンジをしてお団子にまとめ、サングラスや浮き輪などの小物もしっかりと装備していた。
「おはよう、夢主ちゃん。」
「水着は!?水着はまだなの!?」
「……。」
それぞれがリアクションをする中、夢主は慣れた様子で家に上がってローテーブルを囲んだ。
「水着はね~Tシャツの下に着てきたよん。」
律儀に白石のセクハラに答える夢主。
実際夢主のTシャツの襟からビキニの黒い首紐だけが見えていた。
白石だけではなく、杉元や尾形も思わず黙ってその首元を凝視する。
夢主は全く気にせず「しっかし暑いねー…」などと呑気に呟いている。
「あれ、鯉登くんと月島くんは?まだ?」
夢主がきょろきょろとしながら見渡す。
杉元が「レンタカーを借りてるから…」と答えている途中、外から早朝だと言うのに大きく車のクラクションが鳴った。
窓際にいた尾形がガラッと杉元家のベランダへ続く窓をあけると、そこには大型のバンがアパートの前にいた。
月島が運転しているようだったが、助手席に乗った鯉登が横から思いっきりクラクションを鳴らしている。
何度も鳴らされるクラクションに、月島が慌てて止めているが構わず鯉登が早く来い!と急かすようなジェスチャーをしてもう一発クラクションを鳴らす。
どうやら楽しみすぎて鯉登がはしゃいでいるようだった。
「やばいやばい、怒られないうちに出よう!」
杉元は大家や他の住民に怒られる前に、と慌てて荷物をひっさげて出掛ける準備をする。
夢主もそれに続き立ち上がり、尾形と白石はどっちが夢主の荷物を持ってあげるかで無言の小競り合いをしていた。
3列シートの大型のバンに乗り込むことに。
運転は月島・助手席に鯉登・2列目には杉元と白石・3列目には尾形と夢主となった。
杉元と白石が比較的広い2列目に夢主を座らせるつもりでその隣を争っている間に、黙って尾形が夢主の手を引いて3列目に乗り込んでしまったため、強引に決まった席順だった。
杉元と白石は最初のうちこそ不満げな顔をしていたものの、走り出すとすぐにテンションマックスで海へと向かった。
尾形は車に乗り込んで早々にうたた寝をしていたが、夢主は気にすることなく前の座席の2人と話して過ごしていた。
「海だぁ!」
海辺に降り立った夢主は両手を広げて嬉しそうにはしゃぐ。
夏の暑さも海の前では無関係だと言わんばかりに楽しそうに走っている。
そんな夢主を海を見るフリをして凝視する一行。
夢主は早く早く!とそんな一行を急かし、男性陣は慌てて荷物を用意することになった。
鯉登がご自慢の財力でそろえたキャンプ道具を駆使し、テントやパラソルなどが設置されていく。
男たちが組み立てや準備をしている中、夢主は早々に着ていた服を脱ぎ捨ててセクシーな黒いビキニ姿ではしゃいでいる。
男たちは時折そんな夢主を見てはたまらん!と言わんばかりに目を細めていた。
誰からともなく「可愛い…」と呟いては全員で頷き合った。
夢主が背中に日焼け止めが届かない!といえば全員で塗ろうとして乱闘になったり(争いに不参加だった月島に塗ってもらった)、持参したビーチボールや浮き輪が膨らまない!といえばまだ膨らんでもいないボールの奪い合いになったり(全員で順番にやった)と小さなトラブルはあったが順調に準備が整った。
落ち着いたところでようやく全員で海に入る。
海の冷たさが気持ちよく、水をかけあったりビーチボールをパスし合ってはしゃいだ。
今ばかりは夏の暑さも心地よく、開放的な気分で全員が楽しんだ。
一通り遊び終えたので浜辺にあがり軽食をとって、のんびりと砂浜で過ごす。
「あ、そうだ忘れてた。」
夢主はそう呟いて自分の荷物をごそごそと漁る。
横で寝転がっていた杉元がサングラスをずらしながら「どうしたのー?」と問いかけると、夢主は大したことではないとばかりに「ううん、ちょっと連絡するだけ。」とスマホをいじる。
簡単にメッセージを送ると、すぐにスマホを戻してまた先ほどのようにのんびりと過ごした。
すいか割りやビーチバレー、白石を砂浜に埋めたりなど、思いつく限りの様々な遊びを繰り返した彼ら。
やがて陽が落ちてきて、夢主たちのいるビーチを赤く染める。
「楽しかったねぇ。」
夢主はパラソルの下で少し疲れつつも満足そうな様子でつぶやく。
その横顔は夕日による赤と影のコントラストで切なさも感じられるほど非常に色っぽいものだったため、誰かがごくん…と生唾を飲み込む音が聞こえてくるほどだった。
すすす…と白石が夢主に少しばかり身を寄せて話しかけた。
「あ、あのさ。夢主ちゃん。」
「ん?なに?」
波を見つめたまま、夢主は聞き返す。
白石は言いづらそうにンン、と咳払いをしてからつづけた。
白石が何を言うか他の男性陣は予想がついているのか、心なしか真剣な表情で夢主の顔を見つめていた。
「……そ、その、夢主ちゃんはさ、こ、この中だと……誰がいいとか、ある?」
「へ?何の話?」
夢主がきょとん、とした表情で白石の方を振り返る。
しばしの沈黙。
そのムードと緊張感に夢主の口からどんな返答が来るのかと全員が固唾をのんで見守る。
しかし一同の期待に反して、夢主の視線は白石からやや後方へと動き、すぐにパッと表情が明るくなる。
夢主の口からは全員が予想外である言葉が飛び出した。
「あっ!パパー!」
そう明るくハッキリと叫んだ夢主は、言葉とほぼ同時に立ち上がり嬉しそうに駆け出す。
男性陣もその挙動に驚いて、また「パパ」という言葉に混乱しつつも夢主が目指す方向を視線で追う。
夢主が向かっている先にいたのは、遠くから見てもオーラと気品のあるスーツ姿の1人の男性だった。
男性の後ろには高級外車と思われる大きな黒塗りの車が停めてあった。
男性は顔にやや特徴的な傷があり、変わった素材の額当てのようなもので傷を覆っているが、額当てが気にならないくらいスマートで紳士的な雰囲気を漂わせていた。
そう、そこに立っていたのは、彼らが通う大学の学長である「鶴見」という男だった。
「パパ」という言葉の意味を全員がやっと理解した瞬間だった。
唯一、月島だけが動揺の程度が低く、スッと立ち上がって夢主の後を追って行った。
混乱と動揺を隠せない男性陣を置いてけぼりにして、夢主は鶴見に抱き着くとさも当然のように腕にしがみついた。
「パパ!迎えにきてくれてありがとう。」
「ははは、いいんだよ。いつでも呼びなさい。」
そんな会話をしながら夢主と腕を組んで高そうなスーツや革靴が汚れることも気にせず砂浜に降り立つ鶴見。
遅れて夢主のもとへ行った月島が、ペコリと慣れた様子で鶴見に挨拶をしていた。
そのほかの男性一同はビックリした様子で立ち上がることもままならない。
月島を後ろに控えて、鶴見と夢主が男性陣の元まで歩いてくると、ようやく他の男性陣もよろよろと立ち上がった。
「夢主ちゃん、学長の娘だったの!?」
白石が叫ぶように聞くと、夢主はへへへ…とバツが悪そうに笑うも鶴見は対照的にハハハと高らかに笑う。
「娘がいつもお世話になっているね。娘にはあんまり外で鶴見とは名乗らせず、むしろ便宜上妻側の旧姓を名乗ってもらっているんだ。」
「そうゆうこと、ごめんね今まで内緒にしてて。」
夢主が少し気まずそうに謝ったが、一同は何も言えないでいた。
鶴見はそんな彼らに向かってつづけた。
「今日は友達とここで遊んでいると聞いてね、仕事で近くを通ったから寄ってみたんだ。それに、仲が良いなら隠し続けるのも良くないと思ったからね。」
「月島は知ってたのか……!?」
呆然とした様子の鯉登に、月島が「すみません……」と小さく呟くように言う。
それを鶴見は制して、前に出た。
「鯉登さんとこのご子息だね?パーティや会合ではキミのお父様にはよくしてもらっているよ。月島君は私がやっている研究の手伝いをしてくれていてね。月島君には事情を話した上で、秘密にしてもらっていたんだ。」
どおりで月島はいつも夢主を積極的に口説きにいかないわけだ…と誰もが頭の中で答え合わせをしていた。
「じゃっ、そういうわけだから、帰りは私パパと帰るね!今日はありがと~!また学校でね♪」
夢主は鶴見の腕にくっついたままヒラリと手を振る。
鶴見も夢主の手荷物を持ってあげると、紳士的にエスコートしながら車まで戻っていった。
それだけで絵になるような美男美女の親子の後ろ姿を呆然と見送ることしかできなかった男性陣。
月島だけが真面目な表情で二人の姿が見えなくなるまで綺麗な角度でお辞儀をして見送っていた。
突然、誰からともなく叫び出す。
「くそー!やってられるか!」「敵うわけねーじゃんあんなの!」「手ごわいな…」「チッ」
それぞれがやってらんねーと言わんばかりに海に貝殻や小石を投げ込む。
ボチャンボチャンと鈍い音を立てながら波がさざめき、悲しき猿と化した男共の後ろ姿を月島だけが険しい表情で見つめていたとさ。
めでたしめでたし。
おわり。
【あとがき:父親がイケメンだと娘は恋愛に苦労しそう…笑】