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白石
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クラスのお調子者と良い子/白石
私立カムイ高校の放課後。
ここ、2年B組で一人の生徒が声を上げた。
「あー帰りたくねー!」
叫び声をあげた生徒の名は「白石」といい、坊主頭が特徴的な活発な男子生徒だ。
「俺と遊びに行くっしょ~?」
白石に問いかけられた男子生徒が声をあげる。
「あ、やべ悪い白石。今日は遊びいけねえわ。」
「杉元ォ!?なんでだ!?」
白石は心底残念そうにブーイングまでして見せる。
杉元と呼ばれた男子生徒は爽やかな好青年で、拝むようなポーズをとって白石に謝罪する。
「今日、親戚の子が来るんだよ。俺と遊ぶって聞かないみたいでさぁ。」
「あ~明日子ちゃんだっけ?杉元にめっちゃ懐いてるんだって?俺も会ってみたいなぁ。」
「お前は絶対だめ。下心見せるだろ。」
「そんなぁ。」
「また今度な。じゃっ」
杉元は爽やかに笑って、帰っていった。
白石は友人が捕まえられなかったことにしょんぼりとしながら、今度は前方の席に座っていてずっと居眠りをしていた生徒に声をかける。
「尾形ちゃん起きて?俺と遊ぼ?」
「……。」
尾形と声をかけられた生徒は、机につっぷしたまま動かない。
こりゃだめだ、と呟いた白石はまた寂しそうな表情を浮かべる。
白石は続いて廊下を通りかかった大柄な生徒に声をかける。
「あー!谷垣待って待って!ねえ源次郎ちゃんヒマでしょ!?遊んで遊んで!」
まるでしっぽを振る犬のように大柄な生徒に絡んだ白石だったが、「谷垣」「源次郎ちゃん」と呼ばれた生徒は困ったような表情を浮かべた。
「すまん、今日は留学生の……「私が先約ですので、すみません。」
ひょこ、と谷垣の後ろから留学生のインカラマッが顔を出した。
インカラマッは谷垣の家にホームステイしているらしい。
彼女は谷垣にぴったりと寄り添って笑っている。
「リア充……!ウワーッ!そうやってみんな幸せになっていくんだこの野郎~!」
ぽかぽかと谷垣を殴って涙目になりながら教室に戻ってきた白石。
「俺はもう孤独死するしかないんだァ。」
自分の席に突っ伏して、白石は呟く。
今までのやり取りを聞いていた後ろの方の席に座っていた少女が1人、くす、と笑った。
放課後の教室にはもうほとんど人がいなくて、クラスのほとんどは帰路につくか部活へと向かっていた。
そんな中、後方の席にいたその少女は日直の仕事である日誌を書いていた。
白石は少女の笑い声に気付くとガバッ!と起き上がった。
「夢主ちゃん!遊ぼう!」
あまりに必死な様子に夢主は驚きつつも今度は声を上げて笑った。
「あは、白石くん、そんなに誰かと遊びたいの?」
白石はルンルンとしたステップで夢主の席に近づく。
「うん!もうすっごーく遊びたい!特に夢主ちゃんと!」
「ふふ、いいよ。じゃあ日直の手伝いしてくれる?」
「するするーぅ!」
夢主が日誌を書き終えると、白石と一緒に提出物を職員室まで運んだ。
廊下を一緒に歩いていると、顔の広い白石は何人もの生徒に捕まった。
周りの生徒からは一様に夢主と一緒にいることを凄く驚かれた。
というのも、実は同じクラスでありながら夢主と白石はほとんど接触がなかった。
白石は誰とでも仲良くなれる陽キャタイプであったが、夢主は落ち着いていて大人しいタイプの女子。
白石のまわりにはいつも杉元や谷垣など濃い男性陣が多く、また夢主の周りにも同系統の控えめな女子生徒が集まりがちであった。
特にお互いを嫌うわけでもなかったが、接点はほとんどなかったのだ。
それに白石グループはかなりやんちゃで、優等生な夢主たちには絡みづらく引いてしまっていたようだ。
クラスいや、学校1のお調子者とクラス1の優等生といった組み合わせに、放課後の騒がしい廊下がさらにいつも以上に騒がしくなった。
白石はその注目すら心地よいのか「俺にも春がきたってことよ☆」などと調子に乗っていた。
夢主は特に慌ても否定もせず、クスクスと楽しそうに笑いながら一緒に職員室に向かった。
職員室に入って担任の月島先生に日誌とそれぞれ提出物を渡す。
その組み合わせに「!?」と明らかに驚いた様子を見せた月島。
堅物で有名な担任が驚いているのを見て、白石は思わず声をあげる。
「月島ちゃんひっでぇ!俺だって夢主ちゃんと話すよ!」
「いや……すまない。その、夢主、お前脅されてたりしないか?」
いつもの仏頂面で月島は眉間にしわを寄せ、真剣な顔で夢主に問う。
間髪入れずに白石がツッコミをいれる。
「なんてことを言うの月島ちゃん……!脅してなんかないよ!ねえ!?」
夢主に同意を求める白石だったが、夢主はふふふと含みをもたせて笑うだけだった。
月島には少し誤解されたままだったが、無事に日直の仕事を終えて二人は一度教室に戻った。
教室にはさすがにもう誰もいなかった。
「でさぁ、夢主ちゃん、本当に俺と遊んでくれるの?」
少し言いづらそうに白石は問う。
夢主は荷物をまとめて、こくん、と頷いた。
「もちろん。白石くん、帰りたくないんでしょ?」
「天使だぁぁ。」
「で、どこに行くの?」
荷物を持った夢主は白石に問いかけながら、早々に歩き出していた。
白石は、俺の行きたいところでいいの?と言いつつ、雑にリュックを背負って夢主を追いかけた。
「じゃあ、今日は俺のいつもの放課後をご紹介~なんちゃって。」
「ほんとに?楽しみ。」
白石は駐輪場から自転車を持ってくると、夢主の荷物を前カゴにのせた。
学校から少し離れるまでは白石が自転車を押して、その隣を夢主が歩いたが、生徒たちが見えなくなってから白石は夢主に自転車の後ろに乗ってと促す。
優等生の夢主は少し困惑した様子を見せた。
「え、いいの?」
「どうせ怒られるのは俺だけでしょ。」
ふふん、と得意げに笑う。
怒られてもいいのか、と少し驚きつつも夢主は自転車の荷台に横向きに座った。
「二人乗り……初めてなの。」
夢主が不安そうに言いながらぎゅ、と白石の腰を掴むと白石がカアアッと耳まで真っ赤にした。
「ま、任せて!俺が命に代えてでも夢主ちゃんのことは守るから!」
赤面していることを誤魔化すようにいつもより大きい声で白石は叫ぶ。
夢主はそんな白石に気付く余裕もないのか、必死に白石にしがみついていた。
二人乗りをしている間は全くといっていいほど会話はなかったが、ゲームセンターや洋服屋・フードコートなどもあるショッピングセンターに到着した。
夢主は自転車から降りると、やっと地上に足をつけたことでほっとした表情を浮かべていた。
白石は二人分の荷物を持って、さあ行こう!と元気よく歩き出す。
夢主は慌ててその後ろをついて行った。
まずはゲームセンター。
はじめは夢主の興味を示した可愛らしいマスコットをクレーンゲームで獲ろうとしたが、ぜんぜん採れなかった。
結局気休めにやったクレーンにあった、防犯ブザー機能のついたストラップしかとれず、落ち込む白石を夢主が励ましていた。
夢主が試しに防犯ブザーを一瞬鳴らすとけたたましい音が出て、慌てて警告音を止めたが警備員がこちらに来ようとしていたので二人で謝罪をしたりもした。
他には、一緒に対戦ゲームをやったり、白石の強い強い希望で半ば押し切るようにしてプリクラも撮った。
そのあとは場所を移動して、普段はそこまでファッションを気にしていなかった白石に夢主がコーディネートをしてあげたり、流行りの本や漫画などを一緒に見たりと、楽しい時を過ごした。
少し遊び疲れたところでフードコートにあるクレープを二人で食べて小休憩することに。
「白石くんって、毎日こんなにパワフルに遊んでるのかぁ……凄いね。いいなぁ。」
「ぜ、全然!凄くはないよ。予想つくと思うけど、俺いつも馬鹿なことばっかりやってるんだよね。楽しいけどさ。……でもここ、たまに面倒臭いのにも絡まれたりするから気を付けないと。夢主ちゃんは一人で遊び歩いたりしないだろうから大丈夫だろうけど。」
「面倒臭い?」
夢主が首を傾げていると、白石はポリ、と頭を掻く。
「あー……ここ、他校も結構くるからさぁ。あんまり治安良くはないんだよね……うわ。」
白石が少し言いづらそうに答えながら視線を遠くに移すと、明らかに嫌そうな顔をした。
夢主が不思議そうに振り返ると、そこには他校の生徒たちが集団でこちらに向かってきていた。
他校には素行不良者が多いことで有名でな学校があり、案の定その集団のまわりからは一般客たちが逃げるように去っていって、道が開いていた。
いかにも不良、といった感じに制服を着崩して髪を染めている集団に、夢主の顔が強張る。
白石はガタッと音をたてながら慌てて立ち上がると、夢主の背後に回ってその集団と夢主の間に入る。
「久しぶりだなァ白石。」
不良集団の中の1人が白石に話しかけると、白石は顔を引きつらせながらも笑った。
「は、会いたくなかったわ。」
「今日はデートですか白石さんよぉ?」
「まじか、可愛い子じゃーん?」
「こんなちんちくりんよりこっちでお兄さんたちと遊ばなーい?」
白石が背後に夢主を隠したにもかかわらず、集団は目ざとく夢主の存在に気付くと口々に顔をニヤつかせながら夢主に話しかける。
夢主は顔を強張らせた状態で硬直していた。
リーダー格のような男が白石の肩を掴むと、「ちょっとこっちこいよ。この前の借りを返してやるからよォ。」と低い声で脅す。
白石はへら、と笑って「あれは杉元と尾形がやったんじゃんか」と反論するが、男は「どっちでもいいわ!」と白石を怒鳴りつける。
その声に夢主がビクッと肩を震わせると、取り巻きたちはその反応に喜んだのか奇声を上げる。
「なーに慣れてないの?」「超かわいいじゃん。」「ほらほら、こっちおいでよ。」などと言葉をかけられてついに男たちは夢主を無理矢理立たせて連れて行こうとする。
それを見た白石はたまらず叫んだ。
「やめろ!」
「あ?」
白石の声に肩を掴んでいた男が眉間に皺を寄せる。
白石は男の手をバッと振り払って頭を下げた。
「俺が行くから!その子は解放してあげてくれ。お願いだ。」
「……お前ら、行くぞ。女は置いていけ。」
白石が普段頭を下げることなどないのだろう、リーダー格の男は機嫌を良くしたのか白石の頭を乱暴に掴んで引きずっていった。
取り巻きもそれに従い、そのまま夢主だけが残されようとしていた。
「し、白石くんっ!」
解放された夢主が叫ぶも、白石はへらりと笑って手を振るだけだった。
白石が建物の外に連れていかれるのを、黙って見ていることしかできない夢主。
このままではきっと乱暴されてしまう。
しかし自分一人では何もできないし、大人に助けを求めるしかない。
夢主は自分のカバンと白石の残していった荷物も持って、不良集団の後を追った。
建物の影で白石は羽交い締めにされてすでに何発も殴られているのか、顔に痣ができていた。
集団の中にはバッドなどの凶器を持っている者もいて、大けがになりかねない。
夢主は震える足を無理矢理動かして建物からバッと飛び出した。
「やめなさい!」
集団がこっちを向いた瞬間に、夢主は手に持っていた先ほどゲームセンターで獲れた防犯ブザーを鳴らす。
おもちゃの景品とは思えないほど大きな音が響き渡る。
けたたましい警告音が鳴ったことで、一般客がこちらを見に来た。
「助けて!友達が乱暴されているの!」
夢主の叫び声に建物の影とはいっても出入口から割と近いところだったこともあり、警備員も駆け付けた。
「君たち!何をしているんだ!」
「やべー逃げろ!」
警備員が叫ぶと、集団は一斉に逃げ出した。
夢主は解放された白石に駆け寄る。
「白石くんっ……!」
「夢主ちゃん……逃げて、良かったのに。」
ずる、と地面に座り込んだ白石は口の端が切れているのか話しにくそうにしつつも、心配させないようにか夢主に笑いかけた。
「そんなことできるわけない。私を守って……私のせいで、ごめんなさい。」
ぽろぽろと涙を流す夢主に、白石はへらっと笑った。
「ううん、夢主ちゃんのせいじゃない、巻き込んでごめん。」
その後は警備員が更に駆けつけて警察を呼ぶまでの事態に発展した。
集団は全員逃げてしまっていたが、防犯カメラなどの映像と目撃者からやはり悪名高い学校の生徒であることが分かった。
2人の学校にも連絡が行ってしまったようで、手当てを受けたあとに白石は担任の月島からこってりと説教を受けた。
夢主が白石は何もしてないし、自分を守ったのだと訴えると月島は少し意外そうな顔をして説教をやめた。
月島が家まで送ろうと言ったが、白石は自転車があるからと断り、夢主も首を横に振った。
月島に見送られてショッピングモールから出た二人は帰路につく。
夕焼けの日差しで黄金色に光る道を二人は無言で並んで歩き、しばらくの間沈黙が流れた。
夢主が少し話しづらそうに話しかけた。
「……大事になっちゃったね。」
「本当にごめん。怖い思いさせて。俺みたいな不良が、夢主ちゃんとつるんじゃいけなかったんだ。」
白石は悲しそうにつぶやく。
夢主は、そんな白石に笑いかけた。
その手には先ほど使った防犯ブザー。
「この防犯ブザー、すごいよね。あんなに大きな音が出るなんて。」
「……。」
白石は明るく笑う夢主に少し驚いた様子を見せる。
夢主は構わず続けた。
「私、親や教師に認められる良い子でいたくて頑張ってきたけど、本当の良い子ってなんだろうってずっと考えてたんだ。それが今日分かったの。」
「夢主ちゃん……。」
夢主の真剣な言葉に、白石は思わず足を止める。
夢主もつられて立ち止まり、穏やかに笑った。
「本当の良い子はきっと白石くんみたいに誰かを守ったり助けることができる人だって。だからね、白石くんは良い子だよ。」
夢主がそう言い終わると同時に、白石がたまらなくなったのか自転車を放り投げて夢主を抱きしめる。
「わっ?」
夢主は驚いたのか、少しよろめきながらも身を強張らせた。
しかし白石はおかまいなしに半ば夢主にしがみつくようにして、叫んだ。
「ありがとう夢主ちゃん!」
夢主は少し困ったように笑い、白石の背中に手をまわす。
優しく背中を撫でてあげながら、夢主は続けた。
「私もね、今日は白石くんを助けられて初めて良い子になれた気がしたんだよ。こちらこそありがとう。……これからも、一緒に遊んでくれる?」
穏やかな問いかけに、白石は嬉しそうに笑った。
ぎゅっと夢主を抱きしめる腕に力をこめながら、高らかに宣言した。
「もちろん!どこへでも連れて行くよ!何があっても、命に代えてでも守るから!」
「……命に代えちゃだめ。ちゃんと隣にいて。」
「ハイッ!」
従順な白石にくすくすと楽しそうに笑う夢主。
その後2人は仲良く手をつないで帰宅した。
親や教師からは改めて厳重注意を受けた2人であったが、明らかに他校の生徒から絡まれていることが分かったためか、ほとんどお咎めはなかった。
翌日はトラブルを起こしたせいもあったが、主に2人が手を繋いで登校したために一躍話題の中心になった。
夢主という高嶺の花を射止めた白石は調子に乗りまくっていたが、夢主はそれを微笑ましく見守っていた。
他校の生徒は警察沙汰になったことで以前よりはおとなしくなり、クラスの陽キャグループと大人しい陰キャグループの隔たりもなくなり、平和に暮らしたとさ。
めでたしめでたし。
【あとがき:今って二人乗りだめなんでしたっけ……。フィクションはセーフ?】
私立カムイ高校の放課後。
ここ、2年B組で一人の生徒が声を上げた。
「あー帰りたくねー!」
叫び声をあげた生徒の名は「白石」といい、坊主頭が特徴的な活発な男子生徒だ。
「俺と遊びに行くっしょ~?」
白石に問いかけられた男子生徒が声をあげる。
「あ、やべ悪い白石。今日は遊びいけねえわ。」
「杉元ォ!?なんでだ!?」
白石は心底残念そうにブーイングまでして見せる。
杉元と呼ばれた男子生徒は爽やかな好青年で、拝むようなポーズをとって白石に謝罪する。
「今日、親戚の子が来るんだよ。俺と遊ぶって聞かないみたいでさぁ。」
「あ~明日子ちゃんだっけ?杉元にめっちゃ懐いてるんだって?俺も会ってみたいなぁ。」
「お前は絶対だめ。下心見せるだろ。」
「そんなぁ。」
「また今度な。じゃっ」
杉元は爽やかに笑って、帰っていった。
白石は友人が捕まえられなかったことにしょんぼりとしながら、今度は前方の席に座っていてずっと居眠りをしていた生徒に声をかける。
「尾形ちゃん起きて?俺と遊ぼ?」
「……。」
尾形と声をかけられた生徒は、机につっぷしたまま動かない。
こりゃだめだ、と呟いた白石はまた寂しそうな表情を浮かべる。
白石は続いて廊下を通りかかった大柄な生徒に声をかける。
「あー!谷垣待って待って!ねえ源次郎ちゃんヒマでしょ!?遊んで遊んで!」
まるでしっぽを振る犬のように大柄な生徒に絡んだ白石だったが、「谷垣」「源次郎ちゃん」と呼ばれた生徒は困ったような表情を浮かべた。
「すまん、今日は留学生の……「私が先約ですので、すみません。」
ひょこ、と谷垣の後ろから留学生のインカラマッが顔を出した。
インカラマッは谷垣の家にホームステイしているらしい。
彼女は谷垣にぴったりと寄り添って笑っている。
「リア充……!ウワーッ!そうやってみんな幸せになっていくんだこの野郎~!」
ぽかぽかと谷垣を殴って涙目になりながら教室に戻ってきた白石。
「俺はもう孤独死するしかないんだァ。」
自分の席に突っ伏して、白石は呟く。
今までのやり取りを聞いていた後ろの方の席に座っていた少女が1人、くす、と笑った。
放課後の教室にはもうほとんど人がいなくて、クラスのほとんどは帰路につくか部活へと向かっていた。
そんな中、後方の席にいたその少女は日直の仕事である日誌を書いていた。
白石は少女の笑い声に気付くとガバッ!と起き上がった。
「夢主ちゃん!遊ぼう!」
あまりに必死な様子に夢主は驚きつつも今度は声を上げて笑った。
「あは、白石くん、そんなに誰かと遊びたいの?」
白石はルンルンとしたステップで夢主の席に近づく。
「うん!もうすっごーく遊びたい!特に夢主ちゃんと!」
「ふふ、いいよ。じゃあ日直の手伝いしてくれる?」
「するするーぅ!」
夢主が日誌を書き終えると、白石と一緒に提出物を職員室まで運んだ。
廊下を一緒に歩いていると、顔の広い白石は何人もの生徒に捕まった。
周りの生徒からは一様に夢主と一緒にいることを凄く驚かれた。
というのも、実は同じクラスでありながら夢主と白石はほとんど接触がなかった。
白石は誰とでも仲良くなれる陽キャタイプであったが、夢主は落ち着いていて大人しいタイプの女子。
白石のまわりにはいつも杉元や谷垣など濃い男性陣が多く、また夢主の周りにも同系統の控えめな女子生徒が集まりがちであった。
特にお互いを嫌うわけでもなかったが、接点はほとんどなかったのだ。
それに白石グループはかなりやんちゃで、優等生な夢主たちには絡みづらく引いてしまっていたようだ。
クラスいや、学校1のお調子者とクラス1の優等生といった組み合わせに、放課後の騒がしい廊下がさらにいつも以上に騒がしくなった。
白石はその注目すら心地よいのか「俺にも春がきたってことよ☆」などと調子に乗っていた。
夢主は特に慌ても否定もせず、クスクスと楽しそうに笑いながら一緒に職員室に向かった。
職員室に入って担任の月島先生に日誌とそれぞれ提出物を渡す。
その組み合わせに「!?」と明らかに驚いた様子を見せた月島。
堅物で有名な担任が驚いているのを見て、白石は思わず声をあげる。
「月島ちゃんひっでぇ!俺だって夢主ちゃんと話すよ!」
「いや……すまない。その、夢主、お前脅されてたりしないか?」
いつもの仏頂面で月島は眉間にしわを寄せ、真剣な顔で夢主に問う。
間髪入れずに白石がツッコミをいれる。
「なんてことを言うの月島ちゃん……!脅してなんかないよ!ねえ!?」
夢主に同意を求める白石だったが、夢主はふふふと含みをもたせて笑うだけだった。
月島には少し誤解されたままだったが、無事に日直の仕事を終えて二人は一度教室に戻った。
教室にはさすがにもう誰もいなかった。
「でさぁ、夢主ちゃん、本当に俺と遊んでくれるの?」
少し言いづらそうに白石は問う。
夢主は荷物をまとめて、こくん、と頷いた。
「もちろん。白石くん、帰りたくないんでしょ?」
「天使だぁぁ。」
「で、どこに行くの?」
荷物を持った夢主は白石に問いかけながら、早々に歩き出していた。
白石は、俺の行きたいところでいいの?と言いつつ、雑にリュックを背負って夢主を追いかけた。
「じゃあ、今日は俺のいつもの放課後をご紹介~なんちゃって。」
「ほんとに?楽しみ。」
白石は駐輪場から自転車を持ってくると、夢主の荷物を前カゴにのせた。
学校から少し離れるまでは白石が自転車を押して、その隣を夢主が歩いたが、生徒たちが見えなくなってから白石は夢主に自転車の後ろに乗ってと促す。
優等生の夢主は少し困惑した様子を見せた。
「え、いいの?」
「どうせ怒られるのは俺だけでしょ。」
ふふん、と得意げに笑う。
怒られてもいいのか、と少し驚きつつも夢主は自転車の荷台に横向きに座った。
「二人乗り……初めてなの。」
夢主が不安そうに言いながらぎゅ、と白石の腰を掴むと白石がカアアッと耳まで真っ赤にした。
「ま、任せて!俺が命に代えてでも夢主ちゃんのことは守るから!」
赤面していることを誤魔化すようにいつもより大きい声で白石は叫ぶ。
夢主はそんな白石に気付く余裕もないのか、必死に白石にしがみついていた。
二人乗りをしている間は全くといっていいほど会話はなかったが、ゲームセンターや洋服屋・フードコートなどもあるショッピングセンターに到着した。
夢主は自転車から降りると、やっと地上に足をつけたことでほっとした表情を浮かべていた。
白石は二人分の荷物を持って、さあ行こう!と元気よく歩き出す。
夢主は慌ててその後ろをついて行った。
まずはゲームセンター。
はじめは夢主の興味を示した可愛らしいマスコットをクレーンゲームで獲ろうとしたが、ぜんぜん採れなかった。
結局気休めにやったクレーンにあった、防犯ブザー機能のついたストラップしかとれず、落ち込む白石を夢主が励ましていた。
夢主が試しに防犯ブザーを一瞬鳴らすとけたたましい音が出て、慌てて警告音を止めたが警備員がこちらに来ようとしていたので二人で謝罪をしたりもした。
他には、一緒に対戦ゲームをやったり、白石の強い強い希望で半ば押し切るようにしてプリクラも撮った。
そのあとは場所を移動して、普段はそこまでファッションを気にしていなかった白石に夢主がコーディネートをしてあげたり、流行りの本や漫画などを一緒に見たりと、楽しい時を過ごした。
少し遊び疲れたところでフードコートにあるクレープを二人で食べて小休憩することに。
「白石くんって、毎日こんなにパワフルに遊んでるのかぁ……凄いね。いいなぁ。」
「ぜ、全然!凄くはないよ。予想つくと思うけど、俺いつも馬鹿なことばっかりやってるんだよね。楽しいけどさ。……でもここ、たまに面倒臭いのにも絡まれたりするから気を付けないと。夢主ちゃんは一人で遊び歩いたりしないだろうから大丈夫だろうけど。」
「面倒臭い?」
夢主が首を傾げていると、白石はポリ、と頭を掻く。
「あー……ここ、他校も結構くるからさぁ。あんまり治安良くはないんだよね……うわ。」
白石が少し言いづらそうに答えながら視線を遠くに移すと、明らかに嫌そうな顔をした。
夢主が不思議そうに振り返ると、そこには他校の生徒たちが集団でこちらに向かってきていた。
他校には素行不良者が多いことで有名でな学校があり、案の定その集団のまわりからは一般客たちが逃げるように去っていって、道が開いていた。
いかにも不良、といった感じに制服を着崩して髪を染めている集団に、夢主の顔が強張る。
白石はガタッと音をたてながら慌てて立ち上がると、夢主の背後に回ってその集団と夢主の間に入る。
「久しぶりだなァ白石。」
不良集団の中の1人が白石に話しかけると、白石は顔を引きつらせながらも笑った。
「は、会いたくなかったわ。」
「今日はデートですか白石さんよぉ?」
「まじか、可愛い子じゃーん?」
「こんなちんちくりんよりこっちでお兄さんたちと遊ばなーい?」
白石が背後に夢主を隠したにもかかわらず、集団は目ざとく夢主の存在に気付くと口々に顔をニヤつかせながら夢主に話しかける。
夢主は顔を強張らせた状態で硬直していた。
リーダー格のような男が白石の肩を掴むと、「ちょっとこっちこいよ。この前の借りを返してやるからよォ。」と低い声で脅す。
白石はへら、と笑って「あれは杉元と尾形がやったんじゃんか」と反論するが、男は「どっちでもいいわ!」と白石を怒鳴りつける。
その声に夢主がビクッと肩を震わせると、取り巻きたちはその反応に喜んだのか奇声を上げる。
「なーに慣れてないの?」「超かわいいじゃん。」「ほらほら、こっちおいでよ。」などと言葉をかけられてついに男たちは夢主を無理矢理立たせて連れて行こうとする。
それを見た白石はたまらず叫んだ。
「やめろ!」
「あ?」
白石の声に肩を掴んでいた男が眉間に皺を寄せる。
白石は男の手をバッと振り払って頭を下げた。
「俺が行くから!その子は解放してあげてくれ。お願いだ。」
「……お前ら、行くぞ。女は置いていけ。」
白石が普段頭を下げることなどないのだろう、リーダー格の男は機嫌を良くしたのか白石の頭を乱暴に掴んで引きずっていった。
取り巻きもそれに従い、そのまま夢主だけが残されようとしていた。
「し、白石くんっ!」
解放された夢主が叫ぶも、白石はへらりと笑って手を振るだけだった。
白石が建物の外に連れていかれるのを、黙って見ていることしかできない夢主。
このままではきっと乱暴されてしまう。
しかし自分一人では何もできないし、大人に助けを求めるしかない。
夢主は自分のカバンと白石の残していった荷物も持って、不良集団の後を追った。
建物の影で白石は羽交い締めにされてすでに何発も殴られているのか、顔に痣ができていた。
集団の中にはバッドなどの凶器を持っている者もいて、大けがになりかねない。
夢主は震える足を無理矢理動かして建物からバッと飛び出した。
「やめなさい!」
集団がこっちを向いた瞬間に、夢主は手に持っていた先ほどゲームセンターで獲れた防犯ブザーを鳴らす。
おもちゃの景品とは思えないほど大きな音が響き渡る。
けたたましい警告音が鳴ったことで、一般客がこちらを見に来た。
「助けて!友達が乱暴されているの!」
夢主の叫び声に建物の影とはいっても出入口から割と近いところだったこともあり、警備員も駆け付けた。
「君たち!何をしているんだ!」
「やべー逃げろ!」
警備員が叫ぶと、集団は一斉に逃げ出した。
夢主は解放された白石に駆け寄る。
「白石くんっ……!」
「夢主ちゃん……逃げて、良かったのに。」
ずる、と地面に座り込んだ白石は口の端が切れているのか話しにくそうにしつつも、心配させないようにか夢主に笑いかけた。
「そんなことできるわけない。私を守って……私のせいで、ごめんなさい。」
ぽろぽろと涙を流す夢主に、白石はへらっと笑った。
「ううん、夢主ちゃんのせいじゃない、巻き込んでごめん。」
その後は警備員が更に駆けつけて警察を呼ぶまでの事態に発展した。
集団は全員逃げてしまっていたが、防犯カメラなどの映像と目撃者からやはり悪名高い学校の生徒であることが分かった。
2人の学校にも連絡が行ってしまったようで、手当てを受けたあとに白石は担任の月島からこってりと説教を受けた。
夢主が白石は何もしてないし、自分を守ったのだと訴えると月島は少し意外そうな顔をして説教をやめた。
月島が家まで送ろうと言ったが、白石は自転車があるからと断り、夢主も首を横に振った。
月島に見送られてショッピングモールから出た二人は帰路につく。
夕焼けの日差しで黄金色に光る道を二人は無言で並んで歩き、しばらくの間沈黙が流れた。
夢主が少し話しづらそうに話しかけた。
「……大事になっちゃったね。」
「本当にごめん。怖い思いさせて。俺みたいな不良が、夢主ちゃんとつるんじゃいけなかったんだ。」
白石は悲しそうにつぶやく。
夢主は、そんな白石に笑いかけた。
その手には先ほど使った防犯ブザー。
「この防犯ブザー、すごいよね。あんなに大きな音が出るなんて。」
「……。」
白石は明るく笑う夢主に少し驚いた様子を見せる。
夢主は構わず続けた。
「私、親や教師に認められる良い子でいたくて頑張ってきたけど、本当の良い子ってなんだろうってずっと考えてたんだ。それが今日分かったの。」
「夢主ちゃん……。」
夢主の真剣な言葉に、白石は思わず足を止める。
夢主もつられて立ち止まり、穏やかに笑った。
「本当の良い子はきっと白石くんみたいに誰かを守ったり助けることができる人だって。だからね、白石くんは良い子だよ。」
夢主がそう言い終わると同時に、白石がたまらなくなったのか自転車を放り投げて夢主を抱きしめる。
「わっ?」
夢主は驚いたのか、少しよろめきながらも身を強張らせた。
しかし白石はおかまいなしに半ば夢主にしがみつくようにして、叫んだ。
「ありがとう夢主ちゃん!」
夢主は少し困ったように笑い、白石の背中に手をまわす。
優しく背中を撫でてあげながら、夢主は続けた。
「私もね、今日は白石くんを助けられて初めて良い子になれた気がしたんだよ。こちらこそありがとう。……これからも、一緒に遊んでくれる?」
穏やかな問いかけに、白石は嬉しそうに笑った。
ぎゅっと夢主を抱きしめる腕に力をこめながら、高らかに宣言した。
「もちろん!どこへでも連れて行くよ!何があっても、命に代えてでも守るから!」
「……命に代えちゃだめ。ちゃんと隣にいて。」
「ハイッ!」
従順な白石にくすくすと楽しそうに笑う夢主。
その後2人は仲良く手をつないで帰宅した。
親や教師からは改めて厳重注意を受けた2人であったが、明らかに他校の生徒から絡まれていることが分かったためか、ほとんどお咎めはなかった。
翌日はトラブルを起こしたせいもあったが、主に2人が手を繋いで登校したために一躍話題の中心になった。
夢主という高嶺の花を射止めた白石は調子に乗りまくっていたが、夢主はそれを微笑ましく見守っていた。
他校の生徒は警察沙汰になったことで以前よりはおとなしくなり、クラスの陽キャグループと大人しい陰キャグループの隔たりもなくなり、平和に暮らしたとさ。
めでたしめでたし。
【あとがき:今って二人乗りだめなんでしたっけ……。フィクションはセーフ?】