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逆ハー・複数キャラ
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音楽の方向性の違い/ハーレム(実は尾形)
最近注目されている若手バンドが2つある。
一つは夢主という女性ボーカルを携えた4人組のロックバンド「ゴールデンカムイ」。
通称「金カム」で、このバンドのメンバーはとても個性的だ。
ボーカルの夢主は強めのハイトーンを得意としていて、ボーカルの外にもキーボードや打ち込みなども行い、更には作詞も行う。
抽象的で印象に残りやすい自由に捉えられる余白の多い言葉遊びが特徴だ。
ライブ中もダンスというよりは何かを表現しようとしているような動きをすることが多く、アドリブやその時のテンション次第で毎回振りが変わるため、コアなファンは振りだけでいつのライブかを語り合うほどになった。
見た目が美人でスタイルも良いのに鼻につかない。セクシーなドレスも、煌びやかなチャイナ服だろうか着物だろうが民族衣装も、なんでも着こなすことから彼女にはモデルとしての仕事のオファーも出てきている。
しかしMCでも余計に語ることがなく謎が多い。
プライベートが謎な彼女をアイドル視して多くの熱狂的な男性ファンがついている。
金カムのメンバーも個性的だ。
ギターは杉元佐一。
彼は顔に特徴的な傷があるが、人当たりの良さや愛嬌で女性ファンが付きつつある。
ギターのプレイスタイルとしてはとてもエネルギッシュで迫力があり、見る人を惹きつける魅力がある。
実は可愛いもの好きでペットのうさぎと戯れる写真をSNSにあげるうちに、うさぎ担当と呼ばれるようになった。
よくMCを夢主からパスされて、照れながらも元気いっぱい話しているため、一生懸命で可愛いとマダム世代からも人気が出てきた。
ベースは尾形百之助。
こちらも顎に不思議な傷があり、幼少期の縫い跡だそうだ。
髪の毛をツーブロックのオールバックにしていて、よくライブ中に撫でつけているのだがその姿が色っぽいと熱烈な女性ファンがついている。
彼はとても無口でライブ中も滅多に喋らない。しかしギターの杉元とはよく嫌味や喧嘩をしているため、二人はライバルだという噂が出てきている。
プレイスタイルも緻密で正確。表現の幅や技の多さから男のファンもついたという。
尾形がライブ中でもよくフードを被っていることから、尾形のファンはフード付きの服をこぞって着ているため一目瞭然だ。
ドラムは白石由竹。
丸坊主で一見モテそうにないが、本当に女性ファンが少ない。
とはいえどちらかというと愛されキャラなので、いつもライブで「俺の名前を呼んで!」と言い放ったのち、「野郎の声しかしねえ!」とキレるお決まりの茶番がある。
彼が一番バンドマンらしく、お金にだらしがなく酒やタバコも大好きだそうな。
プレイスタイルはどちらかというと杉元に近いものがあり、よくライブ中に盛り上がってきてしまうと杉元と白石でアドリブを挟んでしまい演奏終了後に尾形に怒られるという流れが出来上がっている。
一見凸凹なメンバーではあるが、彼らはバンド活動に対してはまじめで全員で曲を作っているそうな。
もう一つは鯉登という青年を筆頭に活動しているバンド「TSURUMI is GOD」だ。
通称「鶴神」で、こちらは若い女性からの人気が絶大だ。
バンド名の由来の鶴見については、どうやら全員がバンドを始めるきっかけになった恩師の名前らしいが詳細は不明。
一部ファンの間では、大物政治家として話題の鶴見篤四郎ではないかと噂されている。
ボーカルの鯉登音之進がとにかく多彩だ。
彼は作詞作況すべて行うだけではなく、ダンスやら舞踊やら何をやらせても卒なくこなす。
最近ではバラエティーやスポーツイベントなどにも呼ばれるほどの秀才っぷりを見せている。
鶴見を崇拝していて、鶴見関連の話題を出されると奇声しか発しなくなるため、業界人の間ではNGワードに「鶴見」が入った。
彼の声はライブではとてもしっとりしていて女性ファンをうっとりとさせるのだが、MCになるとテンションが上がっているせいで地元の薩摩弁が出てしまい誰も理解ができなくなる。
そのため、大体のライブではギターの月島が代わりに話すことになるという。
ギターの月島基は冷静沈着でとてもクールな男だ。
彼は鯉登と親睦が深いらしく、いつでも鯉登のフォローに回る。面倒見が良いことからファンからつけられたあだ名は「ママ」。
バンドのまとめ役でもあるため彼の気苦労を心配するファンの声も多い。
濃い面子の中で唯一まともそうな彼だが、結局月島も鶴見を崇拝する一人ではあるため、どこか一般人とはまた違ったオーラを纏っている。
ベースの宇佐美は月島の悩みの種の一つ。
このバンドの名前にある鶴見という人物を崇拝していて時折ライブ中でも上の空になる。
音楽センスはピカイチで実は楽譜が読めないという噂まであるが、実際「音楽はセンスだけでやっていける、やっていけないやつは無能」と語っていたこともあり他のバンドマンの多くを敵にまわしたこともあった。
彼の変人変態ぶりが一部の女性に大ウケしてしまって、コアなファンもついているがそれすら意に介さない大物である。
ドラムの二階堂浩平も変人だ。
元々は洋平という双子の兄弟と代わる代わるライブに出ていたらしく、その頃は二人共普通のドラマーだった。
交通事故で洋平を亡くしてから彼は変わってしまった。
同情の声も大きかったが、彼が狂ってしまってからというもの、音楽スタイルも独特のものになったため皮肉にも人気が出てきたという。
交通事故には浩平も巻き込まれていて片足は義足だが、歩行や演奏に何の不備も感じさせない。
それどころか義足にカスタネットやタンバリンを内蔵し、直接アンプに送るなど小技を効かせている。
ベースの宇佐美とは違う方向性で狂っているのに、音楽を通じたコミュニケーションは完璧でリズム隊二人の息が合うため、時折プロ顔負けの演奏を見せる。
そしてこの話題の2バンド。デビューも売れ出したのもほぼ同時。
お互いにお互いを意識せずにはいられないポジションにいる。
音楽だけではなく、実はプライベートでも付き合いがあった。
「む。」
「こんにちは。」
ここは、いつも2バンドが練習するスタジオ。
スタジオの前のソファがある広い空間が彼らのたまり場になっていた。
ちなみにスタジオの管理者は鯉登だ。
鯉登は家が裕福なため、自分のスタジオを持っている。
ある時突然スタジオを増設したかと思うとカムイのメンバーを呼び寄せて格安で貸し出すようになった。
そのスタジオに夢主が一番乗りでやってきた。
鯉登は嬉しそうに声をかけた。
「夢主ひとりか?」
「?尾形さんもいますよ。」
夢主の後ろからひょこ、と顔を出す尾形。
フードを深く被っていて表情が分かりにくいが、無表情のままスタジオ前にベースを置いて、ドカッと音を立ててソファに偉そうにふんぞり返る。
「貴様ァ……挨拶くらいしろ。」
鯉登が怒るも、尾形は表情を変えずその場で煙草に火をつけた。
「いつもすみませんね、鯉登さん。」
夢主が謝ると鯉登はパッと表情を明るくした。
「いいんだ夢主は好きに使ってくれ。何なら私の家でも貸し出すぞ。」
「はん、ボンボンが偉そうに……。」
「なんだとッ!?」
「こらこら二人共。」
このように、夢主に気がある鯉登が夢主を誘うと尾形が馬鹿にするのがいつもの流れ。
とはいえ夢主自身は気付いていないのか、困ったように曖昧に微笑むだけだった。
尾形の隣に座った夢主はタバコに火をつけて、はー…とため息をついた。
その後たまり場に杉元とベロベロの状態の白石がやってくる。
「ピューウッ♪夢主ちゃーん今日もかーわい♪」
ご機嫌の白石が夢主に飛びつく。
夢主はソファに足を組んで座り直すと白石を片腕で受け止める。
そして咥えていたタバコを、そのまま何のためらいもなくジュッと白石のおでこに押し付けた。
「アッつぁッ!!!!」
悲鳴を上げてゴロゴロッと地面に転がる白石。
鯉登はためらいもしなかった夢主に驚いている。
尾形はその様子をつまらなそうに横目で見ていた。
それを杉元があーあ、と呆れた様子で見下ろした。
夢主のソファの近くにギターを下ろしながら言う。
「夢主ちゃんごめんね、白石の家に行ったらもうこんなになっててさ……。」
「白石さんは何かあったの。」
夢主が冷静なトーンで問いかける。
杉元は頭を抱えた。
「なんか美人局に引っかかってお金巻きあげられちゃったんだって。」
「はは、あのガールズバンドね。」
夢主が乾いた笑いを零して次のタバコに手を伸ばす。
尾形が馬鹿にしたように言う。
「あのブスしかいない面子のどれが美人局するんだよ、どいつに手出したんだ?」
「こら尾形。」
杉元がたしなめるも、尾形はそうだろ、と当然のように言い放った。
杉元も杉元で、夢主ちゃんと比べたらブスだけど……と言いづらそうに呟く。
それを聞いていたのか後からやってきた二階堂と宇佐美が口を挟んだ。
「ブスの方が燃えるときもありますけどね。」
「えー?俺は嫌だなぁ、洋平もブスは嫌だと思う。」
夢主がこんにちは、と二人に声をかけると、二人は心底嬉しそうに笑った。
浩平が夢主の顔を見るなり叫ぶ。
「あああーやっぱり夢主は可愛いな!世の中の女はブスで目が腐る!」
「黙れよ。お前の顔で夢主の眼が腐るだろ。なー?夢主。」
浩平を馬鹿にし同意を求めて宇佐美が駆け寄ると、夢主はニッコリ笑ってタバコの火を宇佐美に向ける。
「炙ってあげるよ。その両頬のほくろ。」
「やったー!ああん、あつぅい!」
「あは、順調に狂ってますね、月島さん?」
夢主が宇佐美のほくろを炙りながら楽しそうに笑うと、そのままソファにのけぞるようにして後ろを見る。
夢主が視線をやった方向には、ドン引きした表情で月島がスタジオに入ってきたところだった。
月島は鯉登から頼まれたお使いだろうか、全員にドリンクを差し入れする。
夢主を厄介そうに月島は見る。
「貴女が来てからというもの、全員狂ってきたんですけど。」
「あは、私ってば、美人らしいからね。」
でしょ?と隣の尾形に夢主が同意を求める。
「あー……乳と脚は最高だな。」
「顔の話だってば!んもう。ちょっとトイレ。」
夢主がタバコを灰皿に投げ捨てて席を立ち、トイレへ行くのを無言で見送る男性陣。
奥へ入ったことを確認するとザッと全員で顔を寄せた。
杉元が息をひそめて全員に言う。
「なあ……抜け駆け禁止だかんな。」
「は、後れをとるのが怖いのか杉元ォ。」
尾形が挑発すると杉元はムッと眉をしかめる。
「俺、このやけどタトゥーにしようかな。」と白石が呟くと宇佐美がズルイッ!と叫ぶ。
鯉登は本気で夢主と結婚するためにはいくら積めばいいんだと月島に問いかけて、月島はそういうところですよと呆れた様子でたしなめる。
二階堂に至っては夢主の座っていたソファに顔を埋めてスーハーと深呼吸していて、それを尾形が自分のベースで容赦なくぶん殴っていた。
それにキレた二階堂を押さえようと鯉登が手を出し、尾形が煽り、杉元がキレ、白石と宇佐美が囃し立てる。
「何やってんの皆。」
トイレから戻ってきた夢主がドン引きした様子で呟く。
「夢主ちゃん、この中だと誰と付き合いたい!?」
杉元が強張った表情で問いかける。
全員が静まり返って息を飲み、夢主の返答を待つ。
夢主は、んー……と唸り顎に指を乗せてわざとらしく首を傾げる。
「っていうか、私尾形さんと付き合ってるんだよね。」
「「「「「「はあ!!??」」」」」」
全員が叫ぶ中、尾形は表情を変えない。
「あれ?言ってなかったっけ。」
夢主はきょとんとした後、あははっと笑い始めて誤魔化した。
涙を流した白石が夢主に縋りつく。
「夢主ちゃん……いつから……?」
「え?バンド組んですぐかな。」
「ほ、本当なの……?」
杉元も真っ青な顔をしている。
夢主は対照的にあっけらかんとしている。
「尾形さん皆に言ってなかったの?」
夢主が問いかけると尾形が勝ち誇ったように笑った。
「こいつらが浅ましく争う姿が見物だったからな。」
その言葉を聞いた途端、全員の堪忍袋の緒が切れた。
鯉登がぼそりと呟く。
「…………解散だ。」
「へ?」
夢主がきょとんとした表情を浮かべる。
聞き取れなかったのか耳を傾けた。
次いで杉元が叫んだ。
「解散だ!」
「うおおお解散してやるー!」
「解散だ解散だーー。」
全員がやけくそになって叫び始めた。
夢主は困惑しつつも、あーあと肩をすくめる。
尾形は呑気にははぁと笑っていて、相手にしていない。
「解散の理由はどうしますか。」
月島も実は夢主を好いていたのだろうか、声に元気がない。
夢主はもう面倒臭いと言わんばかりに顔をしかめた。
「じゃ、音楽の方向性の違いってことで。」
おわり。
最近注目されている若手バンドが2つある。
一つは夢主という女性ボーカルを携えた4人組のロックバンド「ゴールデンカムイ」。
通称「金カム」で、このバンドのメンバーはとても個性的だ。
ボーカルの夢主は強めのハイトーンを得意としていて、ボーカルの外にもキーボードや打ち込みなども行い、更には作詞も行う。
抽象的で印象に残りやすい自由に捉えられる余白の多い言葉遊びが特徴だ。
ライブ中もダンスというよりは何かを表現しようとしているような動きをすることが多く、アドリブやその時のテンション次第で毎回振りが変わるため、コアなファンは振りだけでいつのライブかを語り合うほどになった。
見た目が美人でスタイルも良いのに鼻につかない。セクシーなドレスも、煌びやかなチャイナ服だろうか着物だろうが民族衣装も、なんでも着こなすことから彼女にはモデルとしての仕事のオファーも出てきている。
しかしMCでも余計に語ることがなく謎が多い。
プライベートが謎な彼女をアイドル視して多くの熱狂的な男性ファンがついている。
金カムのメンバーも個性的だ。
ギターは杉元佐一。
彼は顔に特徴的な傷があるが、人当たりの良さや愛嬌で女性ファンが付きつつある。
ギターのプレイスタイルとしてはとてもエネルギッシュで迫力があり、見る人を惹きつける魅力がある。
実は可愛いもの好きでペットのうさぎと戯れる写真をSNSにあげるうちに、うさぎ担当と呼ばれるようになった。
よくMCを夢主からパスされて、照れながらも元気いっぱい話しているため、一生懸命で可愛いとマダム世代からも人気が出てきた。
ベースは尾形百之助。
こちらも顎に不思議な傷があり、幼少期の縫い跡だそうだ。
髪の毛をツーブロックのオールバックにしていて、よくライブ中に撫でつけているのだがその姿が色っぽいと熱烈な女性ファンがついている。
彼はとても無口でライブ中も滅多に喋らない。しかしギターの杉元とはよく嫌味や喧嘩をしているため、二人はライバルだという噂が出てきている。
プレイスタイルも緻密で正確。表現の幅や技の多さから男のファンもついたという。
尾形がライブ中でもよくフードを被っていることから、尾形のファンはフード付きの服をこぞって着ているため一目瞭然だ。
ドラムは白石由竹。
丸坊主で一見モテそうにないが、本当に女性ファンが少ない。
とはいえどちらかというと愛されキャラなので、いつもライブで「俺の名前を呼んで!」と言い放ったのち、「野郎の声しかしねえ!」とキレるお決まりの茶番がある。
彼が一番バンドマンらしく、お金にだらしがなく酒やタバコも大好きだそうな。
プレイスタイルはどちらかというと杉元に近いものがあり、よくライブ中に盛り上がってきてしまうと杉元と白石でアドリブを挟んでしまい演奏終了後に尾形に怒られるという流れが出来上がっている。
一見凸凹なメンバーではあるが、彼らはバンド活動に対してはまじめで全員で曲を作っているそうな。
もう一つは鯉登という青年を筆頭に活動しているバンド「TSURUMI is GOD」だ。
通称「鶴神」で、こちらは若い女性からの人気が絶大だ。
バンド名の由来の鶴見については、どうやら全員がバンドを始めるきっかけになった恩師の名前らしいが詳細は不明。
一部ファンの間では、大物政治家として話題の鶴見篤四郎ではないかと噂されている。
ボーカルの鯉登音之進がとにかく多彩だ。
彼は作詞作況すべて行うだけではなく、ダンスやら舞踊やら何をやらせても卒なくこなす。
最近ではバラエティーやスポーツイベントなどにも呼ばれるほどの秀才っぷりを見せている。
鶴見を崇拝していて、鶴見関連の話題を出されると奇声しか発しなくなるため、業界人の間ではNGワードに「鶴見」が入った。
彼の声はライブではとてもしっとりしていて女性ファンをうっとりとさせるのだが、MCになるとテンションが上がっているせいで地元の薩摩弁が出てしまい誰も理解ができなくなる。
そのため、大体のライブではギターの月島が代わりに話すことになるという。
ギターの月島基は冷静沈着でとてもクールな男だ。
彼は鯉登と親睦が深いらしく、いつでも鯉登のフォローに回る。面倒見が良いことからファンからつけられたあだ名は「ママ」。
バンドのまとめ役でもあるため彼の気苦労を心配するファンの声も多い。
濃い面子の中で唯一まともそうな彼だが、結局月島も鶴見を崇拝する一人ではあるため、どこか一般人とはまた違ったオーラを纏っている。
ベースの宇佐美は月島の悩みの種の一つ。
このバンドの名前にある鶴見という人物を崇拝していて時折ライブ中でも上の空になる。
音楽センスはピカイチで実は楽譜が読めないという噂まであるが、実際「音楽はセンスだけでやっていける、やっていけないやつは無能」と語っていたこともあり他のバンドマンの多くを敵にまわしたこともあった。
彼の変人変態ぶりが一部の女性に大ウケしてしまって、コアなファンもついているがそれすら意に介さない大物である。
ドラムの二階堂浩平も変人だ。
元々は洋平という双子の兄弟と代わる代わるライブに出ていたらしく、その頃は二人共普通のドラマーだった。
交通事故で洋平を亡くしてから彼は変わってしまった。
同情の声も大きかったが、彼が狂ってしまってからというもの、音楽スタイルも独特のものになったため皮肉にも人気が出てきたという。
交通事故には浩平も巻き込まれていて片足は義足だが、歩行や演奏に何の不備も感じさせない。
それどころか義足にカスタネットやタンバリンを内蔵し、直接アンプに送るなど小技を効かせている。
ベースの宇佐美とは違う方向性で狂っているのに、音楽を通じたコミュニケーションは完璧でリズム隊二人の息が合うため、時折プロ顔負けの演奏を見せる。
そしてこの話題の2バンド。デビューも売れ出したのもほぼ同時。
お互いにお互いを意識せずにはいられないポジションにいる。
音楽だけではなく、実はプライベートでも付き合いがあった。
「む。」
「こんにちは。」
ここは、いつも2バンドが練習するスタジオ。
スタジオの前のソファがある広い空間が彼らのたまり場になっていた。
ちなみにスタジオの管理者は鯉登だ。
鯉登は家が裕福なため、自分のスタジオを持っている。
ある時突然スタジオを増設したかと思うとカムイのメンバーを呼び寄せて格安で貸し出すようになった。
そのスタジオに夢主が一番乗りでやってきた。
鯉登は嬉しそうに声をかけた。
「夢主ひとりか?」
「?尾形さんもいますよ。」
夢主の後ろからひょこ、と顔を出す尾形。
フードを深く被っていて表情が分かりにくいが、無表情のままスタジオ前にベースを置いて、ドカッと音を立ててソファに偉そうにふんぞり返る。
「貴様ァ……挨拶くらいしろ。」
鯉登が怒るも、尾形は表情を変えずその場で煙草に火をつけた。
「いつもすみませんね、鯉登さん。」
夢主が謝ると鯉登はパッと表情を明るくした。
「いいんだ夢主は好きに使ってくれ。何なら私の家でも貸し出すぞ。」
「はん、ボンボンが偉そうに……。」
「なんだとッ!?」
「こらこら二人共。」
このように、夢主に気がある鯉登が夢主を誘うと尾形が馬鹿にするのがいつもの流れ。
とはいえ夢主自身は気付いていないのか、困ったように曖昧に微笑むだけだった。
尾形の隣に座った夢主はタバコに火をつけて、はー…とため息をついた。
その後たまり場に杉元とベロベロの状態の白石がやってくる。
「ピューウッ♪夢主ちゃーん今日もかーわい♪」
ご機嫌の白石が夢主に飛びつく。
夢主はソファに足を組んで座り直すと白石を片腕で受け止める。
そして咥えていたタバコを、そのまま何のためらいもなくジュッと白石のおでこに押し付けた。
「アッつぁッ!!!!」
悲鳴を上げてゴロゴロッと地面に転がる白石。
鯉登はためらいもしなかった夢主に驚いている。
尾形はその様子をつまらなそうに横目で見ていた。
それを杉元があーあ、と呆れた様子で見下ろした。
夢主のソファの近くにギターを下ろしながら言う。
「夢主ちゃんごめんね、白石の家に行ったらもうこんなになっててさ……。」
「白石さんは何かあったの。」
夢主が冷静なトーンで問いかける。
杉元は頭を抱えた。
「なんか美人局に引っかかってお金巻きあげられちゃったんだって。」
「はは、あのガールズバンドね。」
夢主が乾いた笑いを零して次のタバコに手を伸ばす。
尾形が馬鹿にしたように言う。
「あのブスしかいない面子のどれが美人局するんだよ、どいつに手出したんだ?」
「こら尾形。」
杉元がたしなめるも、尾形はそうだろ、と当然のように言い放った。
杉元も杉元で、夢主ちゃんと比べたらブスだけど……と言いづらそうに呟く。
それを聞いていたのか後からやってきた二階堂と宇佐美が口を挟んだ。
「ブスの方が燃えるときもありますけどね。」
「えー?俺は嫌だなぁ、洋平もブスは嫌だと思う。」
夢主がこんにちは、と二人に声をかけると、二人は心底嬉しそうに笑った。
浩平が夢主の顔を見るなり叫ぶ。
「あああーやっぱり夢主は可愛いな!世の中の女はブスで目が腐る!」
「黙れよ。お前の顔で夢主の眼が腐るだろ。なー?夢主。」
浩平を馬鹿にし同意を求めて宇佐美が駆け寄ると、夢主はニッコリ笑ってタバコの火を宇佐美に向ける。
「炙ってあげるよ。その両頬のほくろ。」
「やったー!ああん、あつぅい!」
「あは、順調に狂ってますね、月島さん?」
夢主が宇佐美のほくろを炙りながら楽しそうに笑うと、そのままソファにのけぞるようにして後ろを見る。
夢主が視線をやった方向には、ドン引きした表情で月島がスタジオに入ってきたところだった。
月島は鯉登から頼まれたお使いだろうか、全員にドリンクを差し入れする。
夢主を厄介そうに月島は見る。
「貴女が来てからというもの、全員狂ってきたんですけど。」
「あは、私ってば、美人らしいからね。」
でしょ?と隣の尾形に夢主が同意を求める。
「あー……乳と脚は最高だな。」
「顔の話だってば!んもう。ちょっとトイレ。」
夢主がタバコを灰皿に投げ捨てて席を立ち、トイレへ行くのを無言で見送る男性陣。
奥へ入ったことを確認するとザッと全員で顔を寄せた。
杉元が息をひそめて全員に言う。
「なあ……抜け駆け禁止だかんな。」
「は、後れをとるのが怖いのか杉元ォ。」
尾形が挑発すると杉元はムッと眉をしかめる。
「俺、このやけどタトゥーにしようかな。」と白石が呟くと宇佐美がズルイッ!と叫ぶ。
鯉登は本気で夢主と結婚するためにはいくら積めばいいんだと月島に問いかけて、月島はそういうところですよと呆れた様子でたしなめる。
二階堂に至っては夢主の座っていたソファに顔を埋めてスーハーと深呼吸していて、それを尾形が自分のベースで容赦なくぶん殴っていた。
それにキレた二階堂を押さえようと鯉登が手を出し、尾形が煽り、杉元がキレ、白石と宇佐美が囃し立てる。
「何やってんの皆。」
トイレから戻ってきた夢主がドン引きした様子で呟く。
「夢主ちゃん、この中だと誰と付き合いたい!?」
杉元が強張った表情で問いかける。
全員が静まり返って息を飲み、夢主の返答を待つ。
夢主は、んー……と唸り顎に指を乗せてわざとらしく首を傾げる。
「っていうか、私尾形さんと付き合ってるんだよね。」
「「「「「「はあ!!??」」」」」」
全員が叫ぶ中、尾形は表情を変えない。
「あれ?言ってなかったっけ。」
夢主はきょとんとした後、あははっと笑い始めて誤魔化した。
涙を流した白石が夢主に縋りつく。
「夢主ちゃん……いつから……?」
「え?バンド組んですぐかな。」
「ほ、本当なの……?」
杉元も真っ青な顔をしている。
夢主は対照的にあっけらかんとしている。
「尾形さん皆に言ってなかったの?」
夢主が問いかけると尾形が勝ち誇ったように笑った。
「こいつらが浅ましく争う姿が見物だったからな。」
その言葉を聞いた途端、全員の堪忍袋の緒が切れた。
鯉登がぼそりと呟く。
「…………解散だ。」
「へ?」
夢主がきょとんとした表情を浮かべる。
聞き取れなかったのか耳を傾けた。
次いで杉元が叫んだ。
「解散だ!」
「うおおお解散してやるー!」
「解散だ解散だーー。」
全員がやけくそになって叫び始めた。
夢主は困惑しつつも、あーあと肩をすくめる。
尾形は呑気にははぁと笑っていて、相手にしていない。
「解散の理由はどうしますか。」
月島も実は夢主を好いていたのだろうか、声に元気がない。
夢主はもう面倒臭いと言わんばかりに顔をしかめた。
「じゃ、音楽の方向性の違いってことで。」
おわり。