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鶴見
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酒と下戸/鶴見
私は夢主。大学2年生。
ただいまバイトの真っ最中。
私のバイト先は、小さな小料理屋。
チェーン店と比べるとやや割高だが、ほとんど居酒屋のようなものだ。
ほとんど通学路にあったので大学に通いながらバイトするにはうってつけの位置にあった。
やや割高なこともあって、客層は年配の方が多い。
それに、一緒に働く人も落ち着いた方が多いため、以前に友達に誘われて1回だけやったチェーン店バイトの時のようなセクハラやパワハラに悩まされることもなかった。
そんなある日のこと。
その日の営業もほとんど終わりに近づいた深夜。
唯一残っているお客様の1グループが、少し揉めている様子だった。
そのグループはスーツを着た男性4人組で、恐らく3人が顔見知りで1人が今日初めて出会ったかのような距離感だった。
なぜ3人と1人だと分かったかというと、先ほどから配膳に行くたびに一人の男性に執拗にお酒を3人が勧めていたからだった。
一人の男性は、しつこく言われても冷静にお酒が飲めないと何度も断っていた。
うちはアルコール以外にもソフトドリンクやノンアルコールも種類を豊富に取り揃えている。
アルコールしか選択肢が全くないわけでもないし、お酒が飲めない人でも楽しめるようにと料理もきちんとしたものをお出ししている。
それなのに、3人はその男性にアルコールを飲ませたくて仕方がなかったようだ。
「おねえさーん、この人にハイボールでも出してあげてよ。」
「ビールもいいなぁ。」
「いやいや、焼酎いっちゃおう。」
「いや、私は飲めませんので……。」
口々に色んなお酒をオーダーしている3人に、困ったように男性はそれらを止めようとしている。
それでも3人もお酒がまわっているせいか、まったく引かない。
どうしたものかと少し離れたテーブルを片付けるふりをしながら観察する。
ターゲットにされている男性は口ひげを生やしていて、背筋がピシッと伸びていて、座っていても大人の色気があふれていた。
涼し気な表情ではあるが、どこか眼光が鋭くビジネス関係でなければこの3人など全く気にも留めないであろう気品の高さがうかがえた。
それに対して3人組はというと、確かに背広は良いものを着ているようだと大学生の私でもわかった。
きっと時計やネクタイなどもそれなりのものなのだろう。
ただ、残念なことにゴテゴテのブランドマークを見せびらかすように身にまとっている彼らは、男性とは対照的に下品だとも感じてしまった。
食器を片付けて厨房に入ったとき、同じく片づけをしていた店主に私は相談した。
店主は明確に殴り合いのような問題があったときは間に入ってくれるのだが、やはり今回のようなただ揉めている程度だと難しいと顔をしかめた。
「じゃあ、私行っちゃっていいですか?」
私がそう聞くと店主は呆れた様子で「飲みたいだけでしょうが。まあいいか。やっちゃいな。」とGOサインが出たので、いまだに何をオーダーするかで押し問答しているテーブルへと向かった。
「お客さん、ちょっと飲みすぎちゃいました?お水はいかがですか?」
そういってにっこりと営業スマイルを構えたまま彼らに声をかける。
一応形だけお水のピッチャーを持って行った。
彼らは一瞬ハッとした様子を見せたものの、すぐにへらへらと笑いだした。
口々に1人の男性を責め立てる。
「ほらほら、鶴見さんが飲まないからお店の人にも心配されちゃったじゃない。」
「まいったよねえ、鶴見さんったらせっかくのビジネスの機会に、お酒を一杯も飲まないなんて。」
「こういう業界はさ、縁ってやつが大事なわけ。わかる?」
ほう、彼は鶴見というのか。
なんて、笑顔のまま私は内心でつぶやく。
もしこのまま飲めない人にお酒を飲ませて救急車沙汰になったりしたら、こちらとしても迷惑だ。
大体、このご時世に無理矢理飲ませるなんてありえない。
表面上はニコニコとしていたけれど、あまりに不愉快だったので私は隣のテーブルにあった椅子を1つ持ってきて座った。
「お?」と男性たちが不思議そうな顔をする。
「なに、おねーちゃんがお酌してくれるの?」なんて鼻の下を伸ばしたやつまでいた。
鶴見さんも少し驚いたように目を丸くしていた。
「お酒は楽しく飲むものですし、飲めない人も尊重されるべきです。」
そう冷静に言い放つと、彼らは少しムッとした様子を見せた。
今にも怒鳴られそうだったが、手のひらを彼らに向けて一旦静止させる。
「私と、飲み比べしませんか。私が勝ったらもうこの場はお開きで。彼にも飲ませないでください。負けたら私のこと好きにしてもらっていいですよ。」
私の発言が意外だったのだろう、全員が口をあけたままポカンとしている。
しかし、好きにしてくれて良いと言ったら3人はニヤニヤとこれまた下品な笑みを浮かべた。
「本当にいいの~?」
「3対1だし大丈夫なの?」
「俺たち、お酒強いよ~」
汚い笑みを浮かべて口々に言いつつ、もうやる気満々の様子の彼ら。
鶴見さんは申し訳なさそうにこちらを見た。
整った顔立ちでこちらをまっすぐと見つめられると少々目に毒だった。
「そこまでしてもらうのは悪いです。」
「いいんです、私はこういうときのために雇われているようなものなので。」
そう鶴見さんを落ち着かせて、私は今度は作り笑顔ではなくにっこりと笑いかけた。
「じゃあ、1人ずつお相手しますね。私なんでも飲めるので、皆様のお好きな酒で良いですよ。」
一人目、ふくよかなオジサン。
彼はビールが大好きなようで、厨房からやや気まずそうに出てきた店主にビールをオーダーした。
お店をもう閉店して新規の客が来ないようにしてあるため、仕事に余裕はあるようだ。
店主は呆れた様子ではあったがビールケースを奥から持ってきた。
15分後。
相手にペースを合わせて飲んでいたが、途中で相手の手が止まった。
私はそのまま続けざまに瓶ビールを1本飲んで、「まだ飲みますか?」と聞くとオジサンは悔しそうな顔をしつつパンパンになったお腹を撫でながら「もう無理……」と呟いてうなだれた。
意外と早く1人片付いたので、私はご機嫌だった。
ビールをケースで飲んだくらいでは身体には何の変化もない。
鶴見さんは驚きを通してやや引いている。
二人目、頭頂部の薄いオジサン。
彼は甘党らしい。梅酒をオーダーした。
店主は梅酒の種類があると説明しつつ、私の顔をチラッと見た後「全部お出しします。」と勝手に決めて大量の梅酒とロックグラスと氷を用意した。
売り上げになるし、全部飲んでねってことかしら。
甘い梅酒だけだとさすがに口の中がべたべたして辛かったが、途中1人目が残した数本の瓶ビールを飲んで復活した。
意外と梅酒も美味しいじゃないか!とゴクゴク飲んでいて、気付いたら向かいに座っていたオジサンは氷を口に入れたままうつぶせにテーブルに突っ伏していた。
ちょっと、終わったなら誰か声かけなさいよ。余計に飲みすぎちゃった。
やっと温まってきたかな?
三人目、最後のガリガリのオジサンは焼酎好きのようだ。
そういえば鶴見さんにも焼酎を執拗に勧めていた。
本当に詳しい人なら善意だったのかもしれないけど、飲めない人に飲ませるのはやはり許せない。
店主は相変わらず在庫処分とばかりに色々な種類の焼酎を持ってきた。
オジサンが「米焼酎は苦手なんだよなぁ」と呟いたので、「じゃあ私が米飲みますよ~」と答えると何故だかフンッと鼻で笑われた。
米焼酎が飲み終わって、オジサンを見ると意外にもオジサンは焼酎を何本か開けていた。
ほう、なかなか飲めるじゃないの。
途中お腹が減ってしまったので、店主にイカ焼きを頼むと店主は呆れたように厨房に行った。
何よ、売り上げに貢献してるのよ。
ムッとしてイカ焼きを食べながらオジサンと同じペースに合わせて焼酎を飲む。
美味しい美味しい。ここの料理、なんだかんだ美味しいのよね。
色んな料理を提供しているから、お酒を飲む人はもちろん、やっぱり飲まない人でも楽しめるようになってるのに。
楽しみ方を限定するのはよくないなあ、と少し考え込みながら飲み進めていると、いつのまにかオジサンより1本リードしてしまっていた。
1人目に倒したオジサンが少し復活してきたのか、私たちの勝負を見ながら「まじかよ…」と呟いていた。
2人目はまだ突っ伏している。息はあるみたいなので放置しちゃおう。
3人目が急にペースアップしたかと思うと、グビグビと飲んだグラスをドンッと机に置いてちょうど私の本数に追いついた。
顔を真っ赤にしたオジサンは目が座っていて、こちらを睨みつけるように「まだ飲むか?」と言っているようだった。
ふふふ、と思わず口から笑みがこぼれた。
私は口の空いていた焼酎の瓶を1本手に取ると、グラスに注ぐことなくそのままラッパ飲みした。
店主・1人目・鶴見さんの3人から「ええ……」とか「うわ」とか失礼な声があがった。
3人目のオジサンはガックリと肩を落として「負けました……。」と呟いた。
私は表情を替えずに次の瓶を振って見せた。
「じゃあ私の勝ちですね。鶴見さんの解放と、今後はお酒を飲めない人に無理に飲ませないでください。お酒は楽しく飲みましょう。」
3人は梅酒でつぶれた人を両脇に抱えながらお会計をして退店していった。
驚くことに私の分や鶴見さんの分までしっかりと払っていった。
アルバイトの小娘に負けたことが相当悔しかったんだろうなぁ……。
鶴見さんが片づけをしようとした私の前に立った。
私は慌てて頭を下げる。
「あ、……今日はすみません、お邪魔してしまって。その……お仕事の関係を潰しちゃいましたかね?」
私が今更ながらかなり出しゃばってしまったことを侘びると、鶴見さんはフッと笑った。
ああ、顔が良い。
「いいんです、そもそも彼らのような人とは縁を切っておきたかったので。今日は本当に助かりました。ありがとうございます。」
「そうですか……。お役に立てたなら良かったです。」
怒られはしないかと内心では少し怯えていたので、鶴見さんの様子にはほっとした。
鶴見さんはむしろ私を褒めてくれた。
「それにしても、今日の飲みっぷりは凄かったです。元々こんなに飲めるんですか?」
「はい、泥酔したことがないくらいザルなんです。」
そう答えると、鶴見さんが少し考えるような素振りを見せた。
え?何か変なこと言っちゃったかな?なんて焦っていると、鶴見さんが急に私の前に名刺を出した。
「えっと……?」
「見たところ、まだ学生さんですよね。君のやりたいことや夢があるなら尊重するが、もし進路に迷って就活するときはぜひうちに来てほしい。」
「え、え?」
意味が理解できず、とりあえず名刺を受け取る。
名刺の交換の仕方など知らないので、ぎこちなく両手で受け取ってそのまま固まってしまった。
鶴見さんはいつの間にか口調がかなりくだけている。
「貴女のような人を秘書にしたい。名前を聞いても良いかな?」
第一印象からして気品のある人だとは思っていたが、あまりにスマートで頭がくらくらしそうだった。
このくらくらはお酒のせいではない、彼のせいだと私は直感した。
「夢主……と、申します。」
「夢主くん、ぜひ私の秘書になって仕事をサポートしてほしい。」
困惑しつつ答えると、鶴見さんは嬉しそうに笑った。
ああ、ずるい。こんな紳士的な人の満面の笑みを見せられたらさすがに動揺する。
が、ふと思った。
流れがおかしい、これが一般企業の人も見に来るような大きな研究発表会の後だったならまだわかる。
居酒屋の飲み比べの後だから……つ、つまり……?
「……私に接待時の酒飲み要員になれと……?」
恐る恐る聞くと、鶴見さんは困ったように笑った。
まるで、するどいね、と言っているような表情だった。
「嫌かい?」
そんなの返事は決まっている。
「喜んで、やらせていただきます!!」
おわり。
【あとがき:鶴見さんの名刺を店主に見せて超驚かれる。(鶴見は財閥グループの御曹司というオチ)】
私は夢主。大学2年生。
ただいまバイトの真っ最中。
私のバイト先は、小さな小料理屋。
チェーン店と比べるとやや割高だが、ほとんど居酒屋のようなものだ。
ほとんど通学路にあったので大学に通いながらバイトするにはうってつけの位置にあった。
やや割高なこともあって、客層は年配の方が多い。
それに、一緒に働く人も落ち着いた方が多いため、以前に友達に誘われて1回だけやったチェーン店バイトの時のようなセクハラやパワハラに悩まされることもなかった。
そんなある日のこと。
その日の営業もほとんど終わりに近づいた深夜。
唯一残っているお客様の1グループが、少し揉めている様子だった。
そのグループはスーツを着た男性4人組で、恐らく3人が顔見知りで1人が今日初めて出会ったかのような距離感だった。
なぜ3人と1人だと分かったかというと、先ほどから配膳に行くたびに一人の男性に執拗にお酒を3人が勧めていたからだった。
一人の男性は、しつこく言われても冷静にお酒が飲めないと何度も断っていた。
うちはアルコール以外にもソフトドリンクやノンアルコールも種類を豊富に取り揃えている。
アルコールしか選択肢が全くないわけでもないし、お酒が飲めない人でも楽しめるようにと料理もきちんとしたものをお出ししている。
それなのに、3人はその男性にアルコールを飲ませたくて仕方がなかったようだ。
「おねえさーん、この人にハイボールでも出してあげてよ。」
「ビールもいいなぁ。」
「いやいや、焼酎いっちゃおう。」
「いや、私は飲めませんので……。」
口々に色んなお酒をオーダーしている3人に、困ったように男性はそれらを止めようとしている。
それでも3人もお酒がまわっているせいか、まったく引かない。
どうしたものかと少し離れたテーブルを片付けるふりをしながら観察する。
ターゲットにされている男性は口ひげを生やしていて、背筋がピシッと伸びていて、座っていても大人の色気があふれていた。
涼し気な表情ではあるが、どこか眼光が鋭くビジネス関係でなければこの3人など全く気にも留めないであろう気品の高さがうかがえた。
それに対して3人組はというと、確かに背広は良いものを着ているようだと大学生の私でもわかった。
きっと時計やネクタイなどもそれなりのものなのだろう。
ただ、残念なことにゴテゴテのブランドマークを見せびらかすように身にまとっている彼らは、男性とは対照的に下品だとも感じてしまった。
食器を片付けて厨房に入ったとき、同じく片づけをしていた店主に私は相談した。
店主は明確に殴り合いのような問題があったときは間に入ってくれるのだが、やはり今回のようなただ揉めている程度だと難しいと顔をしかめた。
「じゃあ、私行っちゃっていいですか?」
私がそう聞くと店主は呆れた様子で「飲みたいだけでしょうが。まあいいか。やっちゃいな。」とGOサインが出たので、いまだに何をオーダーするかで押し問答しているテーブルへと向かった。
「お客さん、ちょっと飲みすぎちゃいました?お水はいかがですか?」
そういってにっこりと営業スマイルを構えたまま彼らに声をかける。
一応形だけお水のピッチャーを持って行った。
彼らは一瞬ハッとした様子を見せたものの、すぐにへらへらと笑いだした。
口々に1人の男性を責め立てる。
「ほらほら、鶴見さんが飲まないからお店の人にも心配されちゃったじゃない。」
「まいったよねえ、鶴見さんったらせっかくのビジネスの機会に、お酒を一杯も飲まないなんて。」
「こういう業界はさ、縁ってやつが大事なわけ。わかる?」
ほう、彼は鶴見というのか。
なんて、笑顔のまま私は内心でつぶやく。
もしこのまま飲めない人にお酒を飲ませて救急車沙汰になったりしたら、こちらとしても迷惑だ。
大体、このご時世に無理矢理飲ませるなんてありえない。
表面上はニコニコとしていたけれど、あまりに不愉快だったので私は隣のテーブルにあった椅子を1つ持ってきて座った。
「お?」と男性たちが不思議そうな顔をする。
「なに、おねーちゃんがお酌してくれるの?」なんて鼻の下を伸ばしたやつまでいた。
鶴見さんも少し驚いたように目を丸くしていた。
「お酒は楽しく飲むものですし、飲めない人も尊重されるべきです。」
そう冷静に言い放つと、彼らは少しムッとした様子を見せた。
今にも怒鳴られそうだったが、手のひらを彼らに向けて一旦静止させる。
「私と、飲み比べしませんか。私が勝ったらもうこの場はお開きで。彼にも飲ませないでください。負けたら私のこと好きにしてもらっていいですよ。」
私の発言が意外だったのだろう、全員が口をあけたままポカンとしている。
しかし、好きにしてくれて良いと言ったら3人はニヤニヤとこれまた下品な笑みを浮かべた。
「本当にいいの~?」
「3対1だし大丈夫なの?」
「俺たち、お酒強いよ~」
汚い笑みを浮かべて口々に言いつつ、もうやる気満々の様子の彼ら。
鶴見さんは申し訳なさそうにこちらを見た。
整った顔立ちでこちらをまっすぐと見つめられると少々目に毒だった。
「そこまでしてもらうのは悪いです。」
「いいんです、私はこういうときのために雇われているようなものなので。」
そう鶴見さんを落ち着かせて、私は今度は作り笑顔ではなくにっこりと笑いかけた。
「じゃあ、1人ずつお相手しますね。私なんでも飲めるので、皆様のお好きな酒で良いですよ。」
一人目、ふくよかなオジサン。
彼はビールが大好きなようで、厨房からやや気まずそうに出てきた店主にビールをオーダーした。
お店をもう閉店して新規の客が来ないようにしてあるため、仕事に余裕はあるようだ。
店主は呆れた様子ではあったがビールケースを奥から持ってきた。
15分後。
相手にペースを合わせて飲んでいたが、途中で相手の手が止まった。
私はそのまま続けざまに瓶ビールを1本飲んで、「まだ飲みますか?」と聞くとオジサンは悔しそうな顔をしつつパンパンになったお腹を撫でながら「もう無理……」と呟いてうなだれた。
意外と早く1人片付いたので、私はご機嫌だった。
ビールをケースで飲んだくらいでは身体には何の変化もない。
鶴見さんは驚きを通してやや引いている。
二人目、頭頂部の薄いオジサン。
彼は甘党らしい。梅酒をオーダーした。
店主は梅酒の種類があると説明しつつ、私の顔をチラッと見た後「全部お出しします。」と勝手に決めて大量の梅酒とロックグラスと氷を用意した。
売り上げになるし、全部飲んでねってことかしら。
甘い梅酒だけだとさすがに口の中がべたべたして辛かったが、途中1人目が残した数本の瓶ビールを飲んで復活した。
意外と梅酒も美味しいじゃないか!とゴクゴク飲んでいて、気付いたら向かいに座っていたオジサンは氷を口に入れたままうつぶせにテーブルに突っ伏していた。
ちょっと、終わったなら誰か声かけなさいよ。余計に飲みすぎちゃった。
やっと温まってきたかな?
三人目、最後のガリガリのオジサンは焼酎好きのようだ。
そういえば鶴見さんにも焼酎を執拗に勧めていた。
本当に詳しい人なら善意だったのかもしれないけど、飲めない人に飲ませるのはやはり許せない。
店主は相変わらず在庫処分とばかりに色々な種類の焼酎を持ってきた。
オジサンが「米焼酎は苦手なんだよなぁ」と呟いたので、「じゃあ私が米飲みますよ~」と答えると何故だかフンッと鼻で笑われた。
米焼酎が飲み終わって、オジサンを見ると意外にもオジサンは焼酎を何本か開けていた。
ほう、なかなか飲めるじゃないの。
途中お腹が減ってしまったので、店主にイカ焼きを頼むと店主は呆れたように厨房に行った。
何よ、売り上げに貢献してるのよ。
ムッとしてイカ焼きを食べながらオジサンと同じペースに合わせて焼酎を飲む。
美味しい美味しい。ここの料理、なんだかんだ美味しいのよね。
色んな料理を提供しているから、お酒を飲む人はもちろん、やっぱり飲まない人でも楽しめるようになってるのに。
楽しみ方を限定するのはよくないなあ、と少し考え込みながら飲み進めていると、いつのまにかオジサンより1本リードしてしまっていた。
1人目に倒したオジサンが少し復活してきたのか、私たちの勝負を見ながら「まじかよ…」と呟いていた。
2人目はまだ突っ伏している。息はあるみたいなので放置しちゃおう。
3人目が急にペースアップしたかと思うと、グビグビと飲んだグラスをドンッと机に置いてちょうど私の本数に追いついた。
顔を真っ赤にしたオジサンは目が座っていて、こちらを睨みつけるように「まだ飲むか?」と言っているようだった。
ふふふ、と思わず口から笑みがこぼれた。
私は口の空いていた焼酎の瓶を1本手に取ると、グラスに注ぐことなくそのままラッパ飲みした。
店主・1人目・鶴見さんの3人から「ええ……」とか「うわ」とか失礼な声があがった。
3人目のオジサンはガックリと肩を落として「負けました……。」と呟いた。
私は表情を替えずに次の瓶を振って見せた。
「じゃあ私の勝ちですね。鶴見さんの解放と、今後はお酒を飲めない人に無理に飲ませないでください。お酒は楽しく飲みましょう。」
3人は梅酒でつぶれた人を両脇に抱えながらお会計をして退店していった。
驚くことに私の分や鶴見さんの分までしっかりと払っていった。
アルバイトの小娘に負けたことが相当悔しかったんだろうなぁ……。
鶴見さんが片づけをしようとした私の前に立った。
私は慌てて頭を下げる。
「あ、……今日はすみません、お邪魔してしまって。その……お仕事の関係を潰しちゃいましたかね?」
私が今更ながらかなり出しゃばってしまったことを侘びると、鶴見さんはフッと笑った。
ああ、顔が良い。
「いいんです、そもそも彼らのような人とは縁を切っておきたかったので。今日は本当に助かりました。ありがとうございます。」
「そうですか……。お役に立てたなら良かったです。」
怒られはしないかと内心では少し怯えていたので、鶴見さんの様子にはほっとした。
鶴見さんはむしろ私を褒めてくれた。
「それにしても、今日の飲みっぷりは凄かったです。元々こんなに飲めるんですか?」
「はい、泥酔したことがないくらいザルなんです。」
そう答えると、鶴見さんが少し考えるような素振りを見せた。
え?何か変なこと言っちゃったかな?なんて焦っていると、鶴見さんが急に私の前に名刺を出した。
「えっと……?」
「見たところ、まだ学生さんですよね。君のやりたいことや夢があるなら尊重するが、もし進路に迷って就活するときはぜひうちに来てほしい。」
「え、え?」
意味が理解できず、とりあえず名刺を受け取る。
名刺の交換の仕方など知らないので、ぎこちなく両手で受け取ってそのまま固まってしまった。
鶴見さんはいつの間にか口調がかなりくだけている。
「貴女のような人を秘書にしたい。名前を聞いても良いかな?」
第一印象からして気品のある人だとは思っていたが、あまりにスマートで頭がくらくらしそうだった。
このくらくらはお酒のせいではない、彼のせいだと私は直感した。
「夢主……と、申します。」
「夢主くん、ぜひ私の秘書になって仕事をサポートしてほしい。」
困惑しつつ答えると、鶴見さんは嬉しそうに笑った。
ああ、ずるい。こんな紳士的な人の満面の笑みを見せられたらさすがに動揺する。
が、ふと思った。
流れがおかしい、これが一般企業の人も見に来るような大きな研究発表会の後だったならまだわかる。
居酒屋の飲み比べの後だから……つ、つまり……?
「……私に接待時の酒飲み要員になれと……?」
恐る恐る聞くと、鶴見さんは困ったように笑った。
まるで、するどいね、と言っているような表情だった。
「嫌かい?」
そんなの返事は決まっている。
「喜んで、やらせていただきます!!」
おわり。
【あとがき:鶴見さんの名刺を店主に見せて超驚かれる。(鶴見は財閥グループの御曹司というオチ)】